浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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ただ何となく欲しい

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ひどい顔をしていたらしく。
「なんだよ、元気ないな」
瀬旭(せきょく)さんが話しかけてきた。
「あっ、どうも」
「最近顔を見せてないじゃないか、忙しかったのか」
「忙しいと言えば忙しいですね、はい」
「なんだよ、それ~」
と砕けた感じの後に。
「うちに来なさい」
「はい」
真面目に言われたので返事をしてしまった。
「ただいま」
「あっ、お帰りなさい、っと久しぶりですね」
「お久しぶりです」
水芭(みずば)に一礼すると。
「なんかゾンビみたいな感じで歩いてた、暑かったのもあって連れてきた」
ゾンビっぽく手を前に、でもそれはキョンシーだと思う。
「冷たい麦茶でもいかがでしょうか」
「すいません」
「何があったの?」
「色々ですかね、本当に色々…」
「んなに、暗い顔しないでくれよ」
「そうなんですがね」
「そうだよ、うちの事務所が仕事を頼むぐらいなんだよ、自信を持って!」
「そう言われると、悪い気はしませんが」
ここで冷たい麦茶が置かれる。
「どうしたのさ」
また真面目なトーンだ。
「これからどうしていけばと」
「仕事の話でいいんだよね、これが彼氏彼女の問題でも聞くけどもさ、でもそれだと向こうの気持ちもこっち向いてないと無理だし」
「大丈夫です、仕事です」
「そっか、俺じゃ話聞くだけだが、ここには水芭がいるわけだからさ」
「他人任せじゃないですか」
「任せた方が上手く回るのならば任せた方がいい」
「そういう考えはあります」
「でしょ?」
「でもそればっかりでも困るんですよね」
「わかってる、わかってるって、そこはバランスだよーね!」
「明るく言ってもごまかせませんから」
「ここは本当に仲がいいですね」
「それはね、大事なことだし、嫌いなやつと組むのはね、でも覆木(おおうき)さんみたいな最初はこいつなんなんだろうなって思いながらも、組んでみたらしっくりいく、そんなパターンもあるから」
「羨ましい」
「えっ?悩みは人間関係ですか?」
「人間関係と言えば人間関係ですかね、問題がある、ただそれを解決する人間が…という意味では人間関係」
「うわ…それって最悪じゃないの」
「瀬旭さんみたいに、水芭さんに任せたとしても、水芭さんが何か言ったらやり方変えるでしょ、それがね、あんまりないところで」
「それは支えなくないですね」
水芭の笑顔が怖かった。
「ちょっとさっき話してきたというか、多少の契約結んだ人がこんな感じの笑顔というか、本人は笑顔なんだけども、場が凍りつくって」
「あっ、それは俺もやる奴」
「瀬旭さんの場合は寒さと紙一重なんですよ」
「えっ」
「こういう奴ですね。瀬旭さんが寒いところは見たことはないんで、なんともですが」
「結構頑張っていいことは言おうとしているんですがね」
「お前、今日はズバズバ来ない」
「ストレスが溜まっているんですかね」
(話は全然進まないが、これはこれでおもしろくなってきたな~)
「ヒドイんじゃないの」
「それなら普段から気を付けてくださいよ」
「…もしかして水芭さん、普段は瀬旭さん話を聞かないから、ここで言い聞かせようとしてます?」
「最近はミツさんがいるおかげで、前よりずっと楽」
「やっぱり父としては変な姿は見せられなくて」
(父親代りを勤めてるは誇張ではなかったのか)
ため息をついた。
「どうしましたか?」
「呆れちゃった?」
「いえ、ずいぶんと悩みすぎていたなって、こうして誰かに話してみれば、悩んでいたものをわかりやすく説明するじゃないですか、そこで自分でもわかったかなと」
一つの案件を多人数で解決するときに、どうしても短時間で言葉を伝えあって、理解するという能力が必要になってくるし、組めば組むほど、その能力は上達するものである。
「今、自分が抱えている問題
こうして誰かに伝えるっていうことも出来ない…し…その依頼人が不満漏らしているの聞きまして」
「ああ、それはダメだね」
「ええ、そのままじゃ何が起きてくるかわかりませんよ」
「ですよね、それがね、怖い」
「それでどういう選択が頭の中にチラついているのさ」
「退くか、残るかですかね」
「退くですか、その言い方は正しくはありませんよ。攻めるの間違えでしょ?」
「そういう鼓舞の仕方するのは水芭らしいね」
「こういうときは暗くなりがちなんですよ、そんでもってこっちが勝てると思っていても覆される」
「そこはあるからな、俺は面白くなっちゃうけども」
「それは少数派です」
「そう?」
「水芭さんの、言う通りですよ、世の中の人間はね、瀬旭さんみたいにはね、いかないんですから、普通の銃器で吸血鬼討ち取りましたって話聞きましたよ、あの他のみなさんが吸血鬼武装している中でその話が聞こえてきたとき、えっ?なんでっていう、空気」
「瀬旭さんと覆木さんのそばでは、日課ではありませんが、よくありますね」
「その水芭さんのメンタルも普通の人はないから」
「でしょうね、恐れや嫉妬なんかはよくあるかな」
「怖くなんてないのにな」
「そうですね、やっぱり根がいい人だと思うんですよ」
「もっとね、誉めて!」
「上げたら、ちゃんと下げください、それができるのでしたら、誉めてもいいです」
「管理されてる」
「そうなのよ、まっ、あんまり調子が良くてもね、ダメなことはある、そういうことが必要なこともあるから、覆木に堅苦しいことを任せたりはしていますが」
「覆木さんは…」
甦る今までの仕事の記憶。
「あちこちに顔を出しているからか、知ってる人は多いかなって、それこそ、覆木さんのところと仕事をしているんですか?あそこにはいつもお世話になっていてっていう挨拶から始まって、仕事の話になるとかは何回かありましたかね」
「そういう事も考えて、今日もあちこちですよ」
「ミツの顔も覚えてもらわなきゃならないし、声をかけられても覆木ならば冷静に対処するだろうな、俺ならば許さないけども」
「お父さんだからですか?」
「そうだよ」
「トーンが冷ややかになりますからね、君はうちの子に何か用があるのかな?って」
「銃構えているときでさえ、そんなトーンにならないのに」
「子供になんかあったら、そりゃあ親はそうなるもんなんだ」
(設定ではなかったんだ)
きちんと大事なお嬢さんを守ってはいます。
「でもね、最近言われて腹立ったことがあって」
「あれですか…」
「何があったんですか?」
「新人さんは男の方が良かったんじゃないかってさ」
「そこで瀬旭さんと覆木さんも怒ってましたけどもね」
「水芭だって怒ってたじゃない」
「そりゃあね」
「螺殻(らがら)さんでしたっけ、前職でもしっかり勤めあげてきたし、銃や訓練も問題ないならば、なんでそんなこと言うんですかね」
「知らないよ、でもあれは、ミツには言えない話なんだよな」
「ですね」
「難癖つけたいだけなのでは?」
「それでもショックだ、あれで男だったらなって言葉が自然に出てたとき、本当にお前は何を見てるんだよってさ…自力でKCJの戦闘許可証も取ったんだし、もう文句はつけさせないけども、悔しいっていうか」
「ええ、あれ取れたんですか、それはすごい。いや、実は、学生時代とか取得できたらって思ったんですよね」
「それははじめて聞いた」
「言いにくいですよ、ただなんとなく欲しい、あれがあれば、ほら、いろんなものが変わるから」
「ああ、それは…」
「今だと転職目的で試験受ける人がいますからね」
「そういうことです、で、説明会に行ったんですよね、そしたら合格者の実力見たら、これは試験受けたら怪我するなってことで、でもまあ、変な話で、今こうしてこの世界にいますが、…ああ、それで、その時に説明会で話をしてたのが、前にこのbarに来たときに見かけた、カウンターで水芭さんとしゃべっていた人でしたよ、唐揚げすんごい注文してた」
「その人はサメの話はしてた?」
「してませんが?」
「それでは傘目(かさめ)先生ですか、世の中は狭いですね」
サメの話をしてたら真中(ただなか) らしい。
「その二人がうちで唐揚げとか大量注文してるからな」
「そういえばここお持ち帰りも始めたりしたんですよね」
「初めてはいるけども、あんまり注文されないよ、barで適当に楽しむっていうのが一番の売りだから」
「ゆっくり気にしないで外食できることが、こっちの世界の人間ができなくなっちゃうことでもありますから」
「迎え撃てればいいんだけども」
「嫌ですよ、寝る前に、あいつら来ないかなって警戒しながら寝るの、自分一人でではないけども、やっていくならばどうしとも自分の命を任せられる人がいないといけないし、この事務所が絡んでいると、その辺は心配しなくてもいいんだけどもな」
「きな臭くなりそうなの」
「なりそう」
「何があったんです?」
「えらい人が有用な人を外した」
「うわ~」
「その後、起用された人の名前を依頼人が知らなかった」
「引き継ぎはなかったんでしょうか?」
「たぶんない、ないから…これどっかで問題出るんじゃないかなって思ってますよ」
「問題は出るね」
「出ますね、ただどのタイミングまでは…が読めない」
「そうなんですよ、退くにしても準備が間に合うのかって、残るとなると…」
「もう心は決まってるじゃん、退くならばこっそり手伝うからさ」
「そうすると揉めません?」
「かもね」
「まっ、やるなら本当にこっそりでお願いします、正直うちとしても協力できる人間を失うのは怖いですし」
「なんだろう、今、多重債務者の気持ちがわかったかもしれない」
「なんでさ」
「出来ればこんなことはしたくないが、それではたぶん地獄まで舗装された道を歩くことになる、だからこそ、回避、助かるために、あちこちに小さい契約をしていってって感じなので」
「うちは取り立てとかないから」
「ないとは思いますが、こちらがそちらの事務所の協力関係である、下請けぐらいならばあまり目立ちませんが、実際は対等であるとわかるとね、やりにくい部分もあるんですよね」
「どういうところがです?」
「助けが来たら一体どういう関係なのか不思議に思われて、調査や説明を求められるかもしれない」
「ああ、それは厄介だ」
「この人たちは、そういうのを見捨ててはおけないんですよって言ったとしても、信じてはくれないでしょうよ」
「可哀想な人たちだ」
「そう…ですね。瀬旭さん、水芭さん、依頼してもいいですか?」
「どういう話で?」
「問題が解決する間、安全に話し合う場所の提供、もしくは紹介」
「あっ、それでしたら」
「問題ないですね」
「やっぱりそういうのもあるんですね」
「まあね」
その日からbarが休日に訪れる客が増えたが…つまりはそういうことだ。
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