浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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菫蝶

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濃い緑が美しい季節に、花びらのような羽を持つ蝶が飛んでいく。
「これからそれを見に行くんだけども、決して追いかけないことだ、注意には出ても、実物をきちんと観察すること」
瀬旭(せきょく)の運転しながらの注意に。
「はい、わかりました」
助手席の螺殻(らがら)ミツは返事をした。
これから見に行く蝶は『菫蝶』という、まんまなのだが、羽が菫によく似ているが、菫と勘違いして近づく虫を痺れさせる鱗粉を持っている。
生体はよくわかってはいないが、おそらく上位存在ではないかと思っている、人が近づくとわざと足場の悪いところを飛ぶ知能があり、初夏の黄泉路、などの別名があるぐらいだ。
途中、休憩を取る。
「ちょっとトイレ」
「私はおみやげ物でも見てますね」
シーズンオフのおみやげ物屋兼食堂、瀬旭がトイレに行って戻ってくると、こっちを見ている奴がいる。
「野菜コンソメざる蕎麦お待たせいたしました」
そいつが注文したものができたらしく、提供口から戻ってくると。
「少しお話いいかな?」
瀬旭の方から話しかけた。
「そうですね、でもお連れの方は?」
「メッセージ送った、でも手短にするね、君さ、同業者だよね、組合で見たことある顔だし」
「そうです、そうです、でも会釈するぐらいですね」
「何の用よ?うちの奴になんかしたら許さないからな」
「それはないです、すいません、食べながらでもん」
「ああ、いいよ、じゃあ、なんで俺の前に現れたの?」
ズルズル食べていたのが一瞬止まってから、すすりきった後に。
「小遣い稼ぎですかね、幹部系の奴等がこの辺でなんでか動いているからって」
「お前も仲間じゃないのか?」
「中立ですよ、だってあいつらって、権力握ったら、本性出してくる奴じゃないですか」
「だから俺らは嫌いなんだよ、というか、お前そんなことここでいっていいの?陰口叩いている奴は嫌われちゃうよ」
「他じゃいいませんよ、この辺りならば大丈夫って自信はあるから、瀬旭さんとこうして話せていますしね」
「話していることを見られるのも不味いの?」
「中立的にね、どうしても人間関係があるから、そうなるしかないのですが、出来れば、最悪あいつらにはこれ以上調子にはのってほしくないなって思ってますよ」
パチンと指を鳴らすような動きをした。
「何をしたのさ、嫌な感じはしなかったから、そのままにしたけども、あまりいい感想は抱けないよ」
「本当はそちらに恩でも売って小遣い稼ぎかなって思ってましたけども、いいやって、とりあえずこれで安全な山道のルートは確保したかなって」
「そんなことして大丈夫なわけ?」
「菫蝶が飛び交うシーズンがこの山にとっては大事だってわかってないのが悪いってことにしますよ、そんな中で見知らぬ人たちがね、山歩きの訓練かな、そんな目的で入山されちゃうと、蝶が逃げるか、狂暴になってしまうから、だからその手前で止めましたってことで」
「なるほどね」
「その理由で止まればよし、踏み越えてきたら中立派といえども安泰とは言えないという話になるんで、悪い話ではないですよ、これから山の中に行くならば目印を置いておきますし、道から外れても花の一つや二つを咲かせて元の道に戻れるようにしておきますよ」
「ありがとうね、あっ、良ければうちのbarに来てよ、もちろんこっそり入れるようにはしておくから」
「それってあの飯が超絶にうまいとされる、水芭(みずば)さんがいる?」
「それ以外に誰がいるのよ」
「覆木(おおうき)さんのカレーも美味しいと聞きますし」
「食べること好きなの?」
「…」
間があってから。
「外食類好きなんですが、この仕事してから、どうしてもね、縁遠くなってしまったんですよね」
この人の能力からして、おそらく得意な、何かあっても山中になるので、どうしても人里から離れてしまうのだろう。
「ではご招待されたときにでも今日起きたことをまとめて報告、それを手土産にしますよ」
そういったところ。
「今日でもいいよ」と覆木から返事が来た。
「本日はお招きいただいてありがとうございます」
「こっちの席は他のお客さんとは合わないし、今日はお休みというか、仕込みの日でね」
いい匂いが漂ってくる。
「うちの常連たちが連休中にお土産と称して、各地の生鮮食品を送ってそれを受け取りながら、賄いにしていくって奴よ」
「これが賄いですか?」
「そうだよ、水芭!」
水芭が飲み物とメニューを持ってきてくれる。
「今は何を作ってたの?」
「焼き芋ですね」
「焼き芋?それはまた珍しいね」
「ここからスウィートポテトを作るので」
これから真中が来るので、おそらくサメくん用に今日は焼き芋を持たせるのだろうか?
「だから明日はクッキーになります」
「?」
繋がりが料理が好きでなければわからないだろう。
「スウィートポテトで卵黄使うと、卵白が余るので、それでクッキーをいつも作るんですよ」
なので明日の賄いはメレンゲのクッキーと決まってるようなものだ。
「そんなわけで焼き芋をおすすめしますよ」
「おすすめする理由としては?」
覆木が質問すると。
「今の時期、美味しいさつまいもを保管するのはとても難しいんです、さつまいもが美味しい管理する温度って決まってて、今の室温ならば暑すぎる、冷蔵庫ならば寒すぎるんですよ、でも先ほど届けられたさつまいもは、その管理に問題なし、オーブンでじっくりと焼き上げられたさつまいもは、黄金色の輝きです」
「ではそれで」
「はい、後は嫌いなもの教えてくれたら、それ以外のもので適当にご用意しておきますよ」
「よろしくお願いします」
「もしかして君さ、食べることが好き?」
「好きか嫌いかっていわれると、そりゃあ好きですけど」
この言い方はとんでもなく好きな奴だろうというのがわかる、食べることは好きだが、奥手タイプ。
「まずこちらから、これ今回の報酬と、良ければ定期的にこうやってご飯食べれるようにしようか?」
「え~、あ~、う~」
「でも困っちゃうか、そういう付き合いがうちとできちゃうと、中立っては言えなくなっちゃうものね」
「こっちも好きで中立守っているわけじゃないんですけどもね、恩があるところがね、権威が、威光がってタイプで、今の幹部も好きではない、本当はうちが座りたいっていうね、だから気持ちとしては、あいつらはニコニコしているけども、ニコニコしているだけで裏では何を考えているかわからねえぞって思っているんだけども、愛想はいいから」
どうか力を貸してもらえませんかね、そうなったら百人力なんですが、やっぱり今の時代に伝統の重みって軽く考えている人が多くって、その部分はどうしても私には難しいので、そちらをお願いできないかと。
「っていう話したみたいなんですが、あれはこれからもっと権力もったら、話と違うじゃないかっていうところまで首根っこ捕まえて、力を削ぎお年に来るか、美味しい権力にズブズブにするとか、その始まりだと個人的には思ってますよ」
「さすがにそんな奴はいないんじゃないかな」
ここで覆木のそのコメントに。
(この人はこの人で人をまとめあげるのは下手なのかもしれないな、人を信じちゃってて…それも悪くはないけども、なんかわかったな、あっちがこの事務所を苦手な理由、あいつが特に覆木さんを嫌いな理由)
裏切ったとしても正論で、正攻法で乗り切ろうとするのが、反吐が出るといった具合か。
「どうしたの?」
「みなさんと話せて良かったかなと、人から聞いた話と、実際はやはり違うんだなって」
「噂より男前でしょ」
「それは間違いなく、えっ?でもそれって自分でいうんですか?」
「だいたいみんなそういって笑ったりするのさ」
確かに和やかな空気にはなる。
「覆木さんたちは今のままでいいです」
「君はどうするの?」
「う~ん、ソロで組合所属しているのと年齢で、新人教育の義務も免除に近いぐらいですからね」
「個人的な話からすると、君のリミットはそれが切れる前に、組合に支払っても問題ない資金を用意するか、新人を自前で育てるかだね」
「やっぱりあれ、各組合員を削ぎに来てますよね」
「新人いないところには斡旋します、この子に教えてくれたら、支払いの免除しますってね」
「えっ?あいつ、本当にろくでもねえこと考えているし、それにノル奴いるんですか?」
「あんまりいないが、人間ってさ、そうなってみると、今までをどうにかして残そうとするからね、今のうちからそういっておいて、何人かでも組合員達の技術や人脈を引きつげれたらお釣りが出そうとか思ってそう」
「そのぐらいでも、成功扱いって、どれぐらいの絵を描いているんですか?」
「とりあえず、俺と瀬旭と水芭にはいてほしくないって感じなのは間違いないよ」
「バカなの」
「理想としてはそうでしょうよ」
「戦力で代わるものがいないのに…それともお三人に代わる戦力を幹部で確保しようとしているとか?」
「そういう試みは今までに何度かあったな」
「えっ?」
頭の中ぐるぐる回して。
「それ確実にどれか一個でも上手くいったら、状況ががらっと変わるような危ない状態ではないですか?」
「そうだね」
「…外面だけ中立にします」
「あっ、いいの?それで」
「だってそこまで情報つかんでませんでしたもん、つかんでないってことは…あいつら確実にこっちを潰しに来る準備はしたている、ただ方法はわからないけども、どうにかこうにかできてしまえているってことですからね、なら話は別というやつですよ」
「冷や飯食いは嫌ってことね」
「冷やで食べることで美味しさがよりよくわかるものもある、が、個人的にはそうなったら嫌だから、掛け捨ての保険みたいなもんですよ、何も起こらなければ無駄になるだろうが、何かが起きれば頼りになるって、ああ、後日までに私が個人的にこちらに渡せるものをリストにしてきますから、それでお時間いただければなとは思います」
「具体的には何が出せるの?」
「今ならこちらの時期より少し遅い旬を迎えた山菜とか、蕎麦も花が咲いたら収穫ができますし、食材はそういうのと、戦力としての私ですかね、私の得意とする環境ならば集団も相手にできますし、探索もいけますよ」
そういって窓際を飾る花、まだ咲いてない蕾に合図を送るとパチンと弾けるように開花した。
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