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行ってきます!
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結局のところ、この事態は…
「俺たちがずっと現役で行く、行けちゃうって言うことがもたらしたわけだよ」
覆木(おおうき)は助手席の螺殻(らがら)ミツにそう呟く、こんな時にこぼす言葉は弱音とも言える。
「この業界、組合も色んなところがあって、どこもそんな感じで、人手不足ってやつさ」
ちょっと今日はいつもと違うのは、ミツの服装が凛凛しいというところだろうか。
「教えてこなかったわけじゃない、ついてこれるかは別として」
「それは水芭(みずば)さんぐらいハッキリと言えるタイプじゃないと無理なんじゃないですか?」
「それプラス、自分のやり方で追いかけてくるような、そういう感じ」
「理想が高すぎると、何事も上手く行かないってことですね」
「そうだね」
シリアスな話をするところが、思わず笑ってしまった。螺殻ミツと話していると、こういうことが時々起きる。
そしてだ…
「だからこそ、俺らは欲が出てしまったのかもしれない」
「欲ですか?」
「ああ、ミツは俺やの瀬旭(せきょく)の教えたことをよく守ってくれるし、この間ね、言われたんだよね」
螺殻さんはそっちの事務所に迎えられて、本当に良かったと思う。
「そんなことあったんですね、なんかその、嬉しいです」
「この間、お使いにいってもらったところから言われた、そして初めて、今まで自分に教えてくれた人たちが、なんで覚えてくれたらそれで嬉しいのかやっとわかったんだよな、俺はひどいやつだよ、その嬉しさがわかったのに、教えてくれた人たちの中にはもう会えない人もいるんだから」
「大丈夫じゃないですかね」
「なんでそう思うの?」
「その技は、覆木さんにも受け継がれているし、私も引き継いでいるか、いくんじゃないのかなって、だから大丈夫かなって」
「大事にしてくれる?」
「それはもちろん!知ってます?」
「何が?」
「教えてくれたことは、ふとしたことで、あぁ、今、私は危なかったんだな、守られていたんだなと感じることができる…それは幸せではないかと思うんです」
「幸せか…」
「はい!」
「ミツ」
「なんですか?」
「これから試験を受ける前の前哨戦として下山を一人でしてもらうわけだけどもさ」
「はい」
「さっきまで、やりたくないなら、やめてもいいよって考えだった」
「そうなんですか?ええっと頼りないとか?」
「いや、辛いから、寒いのもわかるから、そんなことを経験してほしくないって思ってた」
「まあ、誰でも苦しいのも寒いのは嫌ですよ」
「麓で、三人で待ってる」
「じゃあ、行ってきます」
そういってミツは車から降りていった。
姿が見えなくなると、バックミラーにサメの姿が現れて、追いかけるように消え。
「やっぱりあの子すごいわ、俺の不安、気にしてたことみんな吹き飛ばした…」
「ん?今のミツかな?」
「何をいっているんですか?今頃山頂近くですよ」
「ほら、ワープとか身に付けてきちゃいましたっていって」
「出来るわけないでしょ!」
瀬旭と水芭である。
トントン
水芭は調理を始めた。
「なんですか?まだ出来上がりませんよ」
「料理楽しい?」
「楽しいですよ、それにミツさんが帰ってきたら、あたたかいものを食べてもらいたいじゃないですか」
「だからキッチン付きを借りてくださいっていったのね」
「はい」
「最近さ、そういうの隠さなくなったね、いや、いいんだよ、でもお前にしては本当に珍しいかなって思ってるよ」
「そういえば組合の話なんですけども」
「露骨に話そらされたが、ああ、それはいっておかなきゃならないか」
「結局何だったんですか?」
「近くにいたが、ドーンって音がしてさ」
この説明で抜けているものがある、それまで微妙な関係にある人と久しぶりに顔を合わせて、たどたどしくも話している最中にドーン!という音がして、現場に向かうよりも居合わせた人の安全を確保してから向かったのである。
「駆けつけたときには終わってたんだ、でもな、気に入らないからって組合を襲撃するのは好きじゃない話さ」
「正直ですね」
「はい」
「守ってもらえるとは思いませんでした」
襲撃により、所々破損が目立つ組合のビル。
今回の襲撃は幹部を狙ったものとされるが、その狙われた幹部の一人は、会議室に警備と共にいるなかで襲われた。
「守るのが私の仕事ですから」
「それはそうですが、ほら、あなたが守るのは敵が多い人間ですよ」
「存じております」
「でもあなたのおかげで助かりました、そこはありがとうございます」
警備は不思議な顔をした。
理由は警備は自分が撃退したわけではなかったからだ。
(あの時…)
会議室にバン!と踏み込まれ、警備が幹部の盾になるために体を張り、ターゲットの一人を見つけたのか連絡しようとした時に。
警備の隠し持っていた刃物、それこそスーツの下に潜ませていたそれを、幹部は勝手に抜いて、それを投げつけて、その間に警備は取っ捕まえ、拘束した。
「私は何もしてない気が?」
もう一度考えたがやっぱりだめだった。
「ただ上手く行ったから良かったですが、もうやらないでくださいね」
「現場にでなくなってしばらく立ちますからね、本当に上手く行って良かったな」
そこにワラワラっと他の警備や調査をしたい人たちがやってきて。
「後は我々にお任せください」
と、警備の担当から解放されるとき。
「ああ、今日の残業の申請忘れないでくださいね、危険手当てもですよ」
どうも肝の太さ、質そのものがこの幹部は違うのだけはよくわかるのだった。
「俺たちがずっと現役で行く、行けちゃうって言うことがもたらしたわけだよ」
覆木(おおうき)は助手席の螺殻(らがら)ミツにそう呟く、こんな時にこぼす言葉は弱音とも言える。
「この業界、組合も色んなところがあって、どこもそんな感じで、人手不足ってやつさ」
ちょっと今日はいつもと違うのは、ミツの服装が凛凛しいというところだろうか。
「教えてこなかったわけじゃない、ついてこれるかは別として」
「それは水芭(みずば)さんぐらいハッキリと言えるタイプじゃないと無理なんじゃないですか?」
「それプラス、自分のやり方で追いかけてくるような、そういう感じ」
「理想が高すぎると、何事も上手く行かないってことですね」
「そうだね」
シリアスな話をするところが、思わず笑ってしまった。螺殻ミツと話していると、こういうことが時々起きる。
そしてだ…
「だからこそ、俺らは欲が出てしまったのかもしれない」
「欲ですか?」
「ああ、ミツは俺やの瀬旭(せきょく)の教えたことをよく守ってくれるし、この間ね、言われたんだよね」
螺殻さんはそっちの事務所に迎えられて、本当に良かったと思う。
「そんなことあったんですね、なんかその、嬉しいです」
「この間、お使いにいってもらったところから言われた、そして初めて、今まで自分に教えてくれた人たちが、なんで覚えてくれたらそれで嬉しいのかやっとわかったんだよな、俺はひどいやつだよ、その嬉しさがわかったのに、教えてくれた人たちの中にはもう会えない人もいるんだから」
「大丈夫じゃないですかね」
「なんでそう思うの?」
「その技は、覆木さんにも受け継がれているし、私も引き継いでいるか、いくんじゃないのかなって、だから大丈夫かなって」
「大事にしてくれる?」
「それはもちろん!知ってます?」
「何が?」
「教えてくれたことは、ふとしたことで、あぁ、今、私は危なかったんだな、守られていたんだなと感じることができる…それは幸せではないかと思うんです」
「幸せか…」
「はい!」
「ミツ」
「なんですか?」
「これから試験を受ける前の前哨戦として下山を一人でしてもらうわけだけどもさ」
「はい」
「さっきまで、やりたくないなら、やめてもいいよって考えだった」
「そうなんですか?ええっと頼りないとか?」
「いや、辛いから、寒いのもわかるから、そんなことを経験してほしくないって思ってた」
「まあ、誰でも苦しいのも寒いのは嫌ですよ」
「麓で、三人で待ってる」
「じゃあ、行ってきます」
そういってミツは車から降りていった。
姿が見えなくなると、バックミラーにサメの姿が現れて、追いかけるように消え。
「やっぱりあの子すごいわ、俺の不安、気にしてたことみんな吹き飛ばした…」
「ん?今のミツかな?」
「何をいっているんですか?今頃山頂近くですよ」
「ほら、ワープとか身に付けてきちゃいましたっていって」
「出来るわけないでしょ!」
瀬旭と水芭である。
トントン
水芭は調理を始めた。
「なんですか?まだ出来上がりませんよ」
「料理楽しい?」
「楽しいですよ、それにミツさんが帰ってきたら、あたたかいものを食べてもらいたいじゃないですか」
「だからキッチン付きを借りてくださいっていったのね」
「はい」
「最近さ、そういうの隠さなくなったね、いや、いいんだよ、でもお前にしては本当に珍しいかなって思ってるよ」
「そういえば組合の話なんですけども」
「露骨に話そらされたが、ああ、それはいっておかなきゃならないか」
「結局何だったんですか?」
「近くにいたが、ドーンって音がしてさ」
この説明で抜けているものがある、それまで微妙な関係にある人と久しぶりに顔を合わせて、たどたどしくも話している最中にドーン!という音がして、現場に向かうよりも居合わせた人の安全を確保してから向かったのである。
「駆けつけたときには終わってたんだ、でもな、気に入らないからって組合を襲撃するのは好きじゃない話さ」
「正直ですね」
「はい」
「守ってもらえるとは思いませんでした」
襲撃により、所々破損が目立つ組合のビル。
今回の襲撃は幹部を狙ったものとされるが、その狙われた幹部の一人は、会議室に警備と共にいるなかで襲われた。
「守るのが私の仕事ですから」
「それはそうですが、ほら、あなたが守るのは敵が多い人間ですよ」
「存じております」
「でもあなたのおかげで助かりました、そこはありがとうございます」
警備は不思議な顔をした。
理由は警備は自分が撃退したわけではなかったからだ。
(あの時…)
会議室にバン!と踏み込まれ、警備が幹部の盾になるために体を張り、ターゲットの一人を見つけたのか連絡しようとした時に。
警備の隠し持っていた刃物、それこそスーツの下に潜ませていたそれを、幹部は勝手に抜いて、それを投げつけて、その間に警備は取っ捕まえ、拘束した。
「私は何もしてない気が?」
もう一度考えたがやっぱりだめだった。
「ただ上手く行ったから良かったですが、もうやらないでくださいね」
「現場にでなくなってしばらく立ちますからね、本当に上手く行って良かったな」
そこにワラワラっと他の警備や調査をしたい人たちがやってきて。
「後は我々にお任せください」
と、警備の担当から解放されるとき。
「ああ、今日の残業の申請忘れないでくださいね、危険手当てもですよ」
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