浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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犬も歩けば現行犯に当たる

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「この間稽古しているときも大変でしたよ」
水芭(みずば)が調理中に、傘目(かさめ)はその話をする。
「何が大変だったんですか?」
「川沿いでみんなで稽古をしていたら、学生が落とし物を見つけてね」
それが鏡だったのだが。
「拾い上げようとしたので、触るなっていって止めました」
「呪具とかだったんですか?」
「あれ?知りません、人魚の落とし物というやつですよ」
「人魚の落とし物、川に?」
「人魚は川にだって現れるとまあ、いいますが、古い記載には淡水で生きるともあります」
「話は戻しましょう、人が落としたものかもしれませんが、そういうわけで川、水辺に落ちている鏡と櫛には気を付けるように習ったりするものです、実際今回は人魚の落とし物だったようで、KCJの職員さんが、サメを連れてきて、割ってから回収してましたから」
「その落とし物はどのような効果が?」
「それこそ、見栄とかそういうのですね、それらが大変に強くなるとされています、ちょっと前に見合いをした先輩がいたといいましたが、見合いの際にアンチエイジングマッサージを教えてもらい、毎日やるようにっていわれたら、そりゃあもう生真面目にやるわけですが」
朝晩かかさずやっています。
「人魚の鏡に自分の顔を写すと、ずっと鏡を見てしまう、ある人は美しくなければならぬといきなり言い出して、顔のマッサージをしはじめたが、その人の場合はただのイメージでマッサージをしているのであって、実際に効果があるとか、そういうのはどうでもよくなってしまっているのです」
「それは怖いですね」
「今、水芭さんと話しているような感じで、色々と聞いたことはありますが、あれは酷いものです、そこまで気になることなんだろうか?とこっちは思ってしまう、本人からすると気になる悩みなんでしょうがね、途中で止められない、止まらないから、それこそ最後まで行ってしまうというやつです」
「あの辺のものはうちでは扱えませんが、それでも無縁とは行きませんから、手順にそって対応はします、が、やはり気味が悪いものだと思いますね」
「例えば何が、いえ、お仕事の話ですから、言えないのならば言えなくてもいいのですが

「櫛ですね」
「それは…また」
「どうも男が、適当な言葉で女に渡したものを、女性の方は本気にするわけですよ」
「それはありふれた悲劇というか」
「はい、のめり込みました、のめり込んで、のめり込んで、それでも愛を貫こうとして、冷めましたからね」
「それは嫌な恋愛だ」
「私も人を好きになったことはありますが、あれは最悪だった」
「えっ?水芭さんって人を好きになることあるんですか?」
「ひどくないですか?その言い方」
「いや、なんかこう…人間と距離を置いているところがあるというか、寄せ付けないところはありますね」
「経歴が経歴だけに、こっちは世間話をしているつもりでも、しーんとなるので、話がはずまないんですよね」
「ここで見る限りではそういうのを感じさせませんが」
「ここは実家のような、実家を知りませんが、実家というものがあったら、こんなものなのでしょう」
「そういうところなんでしょうかね」
「何がです?」
「先日あなたに絡んできたという人の話」
「たくさんいますから、誰のことだか」
「そいつ、水芭さんに実力で負けたら、すぐにおとなしくなったっていう」
「あああいつですか、最近は治安もあまりよろしくありませんから、犬も歩けばじゃないです」
「犬も歩けば現行犯に当たるって、嫌な世の中だな」
「荒れればそうなります」
「あまりよくはないですよ」
「わかってます」
「わかってますか」
「俺はこういう人なんで」
「知ってはいますがね、ここにさらっと絡んでいく、瀬旭(せきょく)さんのすごさよ」
「あの人は気にしないので」
「本当にしないからな、えっ?何この人っていうところがある」
「俺か、覆木(おおうき)さんが呆れていることなんてたくさんあるんですが、事務所には無くてはならない人ですから」
「でしょうね、あの人が動くと、物事が締まるところがある、一番槍ができる人は貴重だ

「先生もでしょうが、普通の人が危険と感じる、その感覚が麻痺ではないですが、独特になっていくと思いますが、そんな自分でも、あの二人は別格ですよ」
「そりゃあそうでしょうよ、あの二人は未だに張り合っているんだから、絶対にあいつには負けたくないそんな勝負をし続けているんで、他の人が入り込む隙間がないぐらい、独特なんですよ」
「たまに本気で張り合って、射撃場行くと大変なんですよね」
お互いが納得しないので、長丁場になる。
「うわ、それは大変そう」
「ギャラリーは盛り上がるんですが、止めれないんですよ、でも今はミツさんがいるから止めれる」
「螺殻(らがら)さんは強すぎる」
「後は先生にも感謝はしています」
「俺?」
「はい」
「なんで?」
「瀬旭さんも覆木さんもああ見えて、話しかけられるのが好きなんだけども、ちゃんと話してくれる人って少ないらしくて」
俺の方が腕は上だしなんて絡まれることとか、反発されることが多く、会話になることが少ない。
「そういうバランスをbarに来るお客さんと話して取ってはいたりはするんですが、それでも取りきれてない時があるし、そこはね、ミツさんじゃダメなんですよ、ミツさんの前だとあの二人は格好つける」
「ああ、それっぽい」
「でしょ、なんかこう、頑張りすぎるんですよ、ミツさんがいなくなってから、俺にねえどうする?とか聞いてくるんで、だから話しかけてくださいお願いします」
そこで水芭はカツ丼を出した、このカツ丼を食べるということは了承したということではあるが…
「そんなことしなくても俺は結構話しているんだけどもね」
「会話は上手いと思いますが、それは元からですか?」
「どうなんだろうな、友達は多い方ではないけども、でも会話って基本でしょ、会話ができるならば剣を振るうことは少なくなるだろうし」
「そこは難しいもんですね」
「じゃあ、カツ丼はいただきます、そうだな、会話は大事です、仕事でも会議とか、段取りとか説明するためには言葉を、会話を必要としますからね」
「それは確かに」
「必要最低限以外の部分の会話になると、これが難しい、相手に少し興味を持ってもらわなければならないから」
モグモグ
「俺は善人じゃありません、気のきいたことをいつも思い付くものじゃない、それでも誰かと誰かを繋げる必要があるのならば、喜んで道化をしますよ」
「カツ丼はおかわりがありますから、よろしければ是非に」
「ちょっとチョロくありませんか?きっと水芭さんの中で俺への好感度がすんごい上がったのはわかりましたが」
「いえいえそんなことは」
「言いたいことあったら、本人に言った方がいいですよ、まだ言える関係でしょ?」
「そうはね、思ってはいるんですけどもね」
「確かに突拍子もない返しをされたら困るかもしれませんが、ただ距離が、いや距離だかじゃないか、わかってないからああなだけ」
「だといいですね、こうして話してみると…私もストレス溜まっているのがよくわかりますよ」
「俺とかは修行するんですがね、そうならないように、精神統一とか、そちらはないんですか?」
「やったことないですね」
「他の流派でもいいので、そういうのを学ぶといいかもしれませんね、いくらかマシになるそれだけでもアリでしょう」
「もしかして先生も何か今のままじゃいけない危機感はあります?」
「ちょっとね、対応できなかったらがよぎると、やっぱり考えちゃいますよね」
カツ丼はおかわりしました、美味しかったデフ。

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