浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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戻りたくないから襲ったのよ

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「なんでいってくれなかったの?」
瀬旭(せきょく)から、そして傘目(かさめ)は。
「すいません」
「怒ってるわけでもないんだよな、気づいた点があったらいってほしかったわけよ」
傘目は黙って聞いている。
(これは根が深い問題かな)
「こういうときは、だいたい覆木(おおうき)に任せているところがあったからな、あっ、そうか、聞き方か」
う~んと考えたあと。
「ミツの動き、ちょっと無茶してるところがあってね、先生の目から見てどう思いますか?って」
「無茶、早くみなさんに追い付きたいという、背伸びはしているんだとは思いますが、そういう意味では、俺も覚えがありますからね」
過去の自分に重ねているようではあった。
「傘目先生も素直な人だ」
「そうですか?わりと毒舌ですよ」
そこでニッと笑う。
「君のそれ、そのせいで、本来持っている可能性を潰しているよ」
瀬旭もニッと笑い、傘目の顔は戻る。
「あくまで俺目線だけどもね」
「出来ればお聞かせ願いますか?」
「体力と技巧が飛び抜けているから、難なくこなしているだけであって、自分はこうだと思った動きをするとき、戸惑うんだもん、それでやめる癖があるでしょ、最初はスランプかなとか思っていたけどもさ、何だかんだでPTAのお仕事を旧校舎でしてるわけでしょ、それでわかったの、今まで誰かにそれを言われたことは?」
「ありません」
「そっか」
ため息。
「あの~」
「ちょっと反省中なところがあってね、気分的に」
「それは…」
螺殻(らがら)ミツが急なお仕事が入りましたので、お休みになりますの連絡とおそらく関係はあるのだろう。
「もしかして落ち込んでます?」
「まぁね」
「そうですか、落ち込むことは誰でもあると思いますよ」
「そりゃあそうだよ、そうじゃないやつは滅多にいない」
「俺は走ったり、素振りをしたりします」
「剣士らしい気分転換だ」
「でもそれは危ういとも言われてます」
「ああ、それは、俺らも同じだな、当たり前のように剣士や銃器等を使ってきた場合、怪我や病気などでそれらが使用できなくなった場合、焦って治るために何をするかわからないからって言うね」
「そうなんですよ、たぶん、今、これ失ったら、堕ちるかなって」
「重い話だな」
「そういう人と交戦の経験は?」
「あるよ」
「軽く返事されちゃった」
「誰かがやらなきゃならないから、俺がやるのっていう話」
「格好いい話だな」
「話だけはね、そういうのも必要でしょう」
「美談に憧れて、努力するか」
「努力は、結果でるまで長いからね」
「瀬旭さんは天才肌だと思ってました、努力の話が出来ないのかと」
「会話は基本だよ」
「基本ができてない人はたくさんいますよ」
「それは困ったもんだね」
「はい、少しでもどうにかならないかと、先生やってます」
「俺は先生まではできないし、うちのミツもお世話になってるけども、現状はかなり厳しいものなんだね」
「そうですね、呪われたりしていますと、気持ち悪いって平気で言われますから、それが家族や教師や友人から言われたら、まいってしまう」
「ミツ休んだときの仕事ね、子供が訪ねてきたんだけども、途中でお腹が空きすぎて餓鬼になってしまったよ」
「それは…」
「あれは参る、水芭の方が参ってるから、顔には出せないけども、水芭に助けてほしいとたまに訪ねてくることがあって、今回のがそれだ」
「水芭さんもそういうの顔に出しませんよね」
「出さないね、もっと出してほしいけども、君たちへの差し入れを大量にするのはそこもあるみたい」
「いつもごちそうさまです」
「今まで食べた中では何が美味しかった?」
「そうですね、チャーハンですかね」
「ああ、こんがり焼き目ついた、まあ、傘目先生はがっつりした好きそうだし」
(ここで実は違いますって言えない)
今も不動の一位がミツが作ったキャベツのチャーハンである。
「それで、提案その一なんだけども、一回俺らに合わせるのやめて、傘目先生の全力で、もちろん体力使い果たしてはいけないから、ペース守って動いてくれないかな」
「善処します」
「俺ら四人だと、全員後ろからの銃撃のスピードは違うんでさ、合わせると四人分覚えなきゃいけないじゃん」
「それでもいいですが」
「余裕がある後ろが合わせた方が絶対にいいよ」
するとそこにだ。
「何か来ましたね」
「来たね」
パン
挨拶代わりに瀬旭は天井を射つと。
「ちょっとなんで撃つのよ」
「不法侵入だよ」
「それぐらい多目に見なさいよ」
「そうやって許すとね、君たち好き勝手するでしょ」
「もう!ああ、あなたたちね、探す手間が省けたわ」
「ニューバンが探しているってそれこそろくなことがない」
「そうそう」
「私の彼氏があなたたちが邪魔だなって言ってたの」
急に自分の世界に入る。
「じゃあ、私がなんとかしてきたら、デートしてくれる?って聞いたら、okもらったの」
「それ、本当に彼氏?」
「はっ?」
「そんなことしないとデートにならないって、彼女ではないんじゃない」
「そんなこと、そんなことはないよ」
ビキビキと空間が唸る。
「きっと今頃、その彼、本当の彼女と一緒にいるぜ」
「許さない」
声が変わった、見た目可憐な少女だが、中身はかなり年上の女性といったところか。
衝撃派が腹をたてた、傘目、瀬旭の順に飛んでくるが、このぐらいなら瀬旭は前に出てからでも避けられるし。
「はい、あげる」
傘目はニューバン用の、非殺傷筒を投げる。
カッ!
これは人間にはなんか明るくなったで済むが、ニューバンにとっては。
「何これ、痛、痛いよぉ!!!」
全身に激しい筋肉痛のような反応を起こさせる。
「じゃあ、まずは一発ね」
パン
瀬旭が撃ち込むと、生命は傷からあふれでる。
「一人でも襲ったら、もう戻れないって教えてもらわなかった?」
「戻りたくないから襲ったのよ」
パシュ
その時、傘目の剣は三日月のような切っ先で動いた。
「ニューバンって、生活に不満があるやつを仲間に加えたりするんですか?」
「例はないわけではないけどもさ、俺らってまともにやってもかなわないから、数揃えに仲間増やしているんじゃない?」
「そう考えると、わかりますね、ただこれ考えたやつの性格はすんごい悪い」
「でも人当たりとかいいから気づかれないんだぜ」
「ありうる」
なんて笑っていた。

まだ彼らは笑えるのだ。
「じゃあ、報告書ですね」
「これさえなければな」
「主にこちらが作りますから、瀬旭さんは聞いたことに答えてくれれば」
「えっ?何、スリーサイズと好きな食べ物とか?スリーサイズは事務所的にNGっていうか」
「何いってるんですか、でもせっかくだから聞いておきますか、瀬旭さんたち、ミツさんもですが、なんかありました?」
「なんかって何よ」
「いや、なんかこう、まあ、こうしたニューバンとか対策もあるから、準備してるのかなって思ってたんですがね、それとも若干違う気が、気のせいならすいません」
そういって報告書の、自分の氏名、そして連絡先を書き記しているときに。
「後継者とか考えてる」
「えっ?引退するんですか?」
「引退はしないよ、組合がさ、人手不足だから、新人を組合に所属している個人や団体は育てることって決まったんだけとも、その話は知らない?」
「それでなんですね」
「育てないところは、新人さんを育てるためにお金を払わなければならないってことで、俺らはたまたまミツが来てくれたから、払わなくてもいいんだけどもさ、元々は払うつもりでいたの」
「うらやましい制度ですね」
「ただ覆木が急にミツが来たこともあって、新人としては育てるが、組合からのお金は見合わせて、様子をみるってことにして、うちぐらいじゃないかな、そうしたの、そしたらやっぱり揉め種になってきたりしてるわけよ」
「不公平さですか?多額の資金の使い道とか」
「そういう混ざってるって感じ。本当に運がいいのは俺らは、そういうのが決まる選挙日が1ヶ月切ってたときにミツが来たわけよ、それで完全に新人さんってわけじゃないでしょ、前職できちんとトレーニング積んでるから」
対象としては新人であり、そのトレーニング費用がメインであった。
「だからいわれたよ、あっ、そうか、お前らのところは、そういうのいらないもんなって、そこで納得はされたから、揉め事には、組合にはいるけども、茅の外になってる、実際に新人育てるところなんか、予定と大幅に違って大変なんじゃないかな」
「最初にそれらの問題を想定してなかったんですか?」
「意外とね、俺らの業界は力押しで何とかしようとするところがある」
「脳筋だと俺は負けませんよ」
「ああ、そうだね、傘目先生みたいな人がいたら、何も言い返せないね」
剣の腕は文句のつけようがない。
人の話を聞いて答えることができる。
書類仕事にも慣れていた。
「なんで傘目先生みたいな人が大手とかに所属しないで、フリーでいるのさ」
「なんででしょうね、結構自分でも行けると思ってたんですがね、いけませんでしたね」
そのぐらい傘目はもったいない。
「今度飲みに行こうよ、あっ、合コン好き?」
「合コンですか、そういうの瀬旭行ったりするんですか?」
「付き合いで」
「付き合いか…それは面白くないやつですね」
「そうなんだよね、でもいろんな子と話せたりするのはおもしろいかな」
「これだからモテる人間は」
「そう?」
「そうですよ、そこまでマメに生きてられないですよ」
「傘目先生はマメな方だと思うんだけどもな」
「それは仕事だからですよ、そうじゃないなら稽古か、寝てます」
「なんか普通の剣士っぽいね」
「普通の剣士ですよ、何をいってるんですか」
「十分、君は逸脱してるのに」
「そういうのはあまり好きではありません、人が特別な目で見るときって、いいことがあまりないじゃないですか」
「でも抑えてるのもいいことではないさ、ミツが可愛いのはわかるけども」
「なっ」
「俺らみたいな生き方してると、ミツを嫌いな人っていないと思うから、しょうがないさ」
「そ、そうですね」
たぶん瀬旭はわかってない、傘目からするとこの問題の方が心の奥の方を惑わせていた。



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