浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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サンタみたいな考えしますね

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「季尾(きび)さん、実はこういう仕事の話が来ているんだが」
なんでもだ、あの観抜(かんぬき)サクラコの事件に触れるにはなるが、その時彼女に向けて作ったものについて、それこそサクラコさんと何回か共演し、相手役として有名な俳優さんからものなのだが。
「断った方がいいと思うんだけども」
「でもどっかで話したい自分もいたりはするんだけども、それがね、なかなかうまく行かないのよね、今は私はそんな状態で、時間がかかってますが、その時が来たらと伝えてくれると、さすがに今の私は出し惜しみじゃなくて、聞かれてもあ~とか、う~とかしか言えないわ」
「わかった」
そして私は迷ってしまう、改めて話を聞かせてもらえないかというのは、意外だったからだ。
それに相手に対して、なんといえばいいのかもある。
飾らぬ言葉なのか、それとも孔雀の羽をまとえばいいのか、その真ん中ぐらいなのか。
(あ~ダメだ)
こういうときは気分転換に限る、いつもは歩かないような道を行き、コンビニのコーヒーが美味しそうだったから衝動のままに買う。
この先に公園があったから、とりあえずそこで休憩をしよう。
すると部活なのだろうか?胴着のみなさんがランニングをしており、歩いている私を追い越していった。
公園に行くと彼らはまだ走っており、ちょうどいい座る場所を探していると、川沿いの階段があったので、そこに腰を落ち着かせた。
(手合わせ始めるぞ)
すると先程の胴着の人たちが二人一組を作り出した。
そばにいた人たちも、大声で稽古をする彼らを見学し始めてる。
(こういうのもちゃんと見たことがないな)
初めて見るものはインスピレーションに繋がることが多い、スランプの際は積極的に新しいこと、やったことがないことを経験するは、前にファンから質問をもらったときに答えていたことだ。
(ん?)
そしてその稽古で気になった人が一人いる。
(やっぱりそうか)
その人は竹刀を相手に叩く音が他の人よりもかなり小さい。
(なんで小さいんだろう)
余計な力がかからない?
相手を見切ってるから?
素人の私にはそんな理由だろうか。
「お嬢さん、おもしろいもの見てるね、あの人はて、今日来てる人の中で一番腕がいいんだよ、あの音が聞こえてきたもんだからね、こうして見に来ちゃったんだが、いつ聞いてもいいものだ」
この近所にお住まいの方だろうか、しかし、すごいな、ファンがいるとは思わなかった。
「音が小さいのはね、相手に怪我をさせたくないからもあるんだ、パシーンって他の人は叩くけども、あれってね、思った以上に痛いそうだから」
「なるほど」
 「その加減と、指導の上手さが相手に伝わってくれればいいんだがね」
 「伝わってないんですか?」
 「ないね、ほら、特にこの組み合わせだ、どっちもいいところが消えているけども、立ち会いは綺麗には見える、でもダメだ、面白くがない戦いだ、やっぱりファンだからね、すごいものが見たいんだよ」
 おじさんは長年のファンらしい。
 「お嬢さんなら、何が二人の悪いところだと思う?」
 「えっ?あのうまい人は妥協しちゃってる、相手の人は過信しちゃってるから、接待みたいになってません?」
 「…」
 「的はずれなこといってごめんなさい」
 「いや、よく見てるなって、そうなんだよな、もっとやればできるのに、どこかで、手を抜いているわけではないけども、いつの間にか、初めて見たときと比べたら色褪せた感じはするよ」
 「色褪せたですか」
 なんだろう、それは私の心に痛い。
 「ファンの勝手かもしれないが、応援して良かったと思わせてほしい、見たか、あれが私が応援しているすごい剣士なんだってね!おおっと、時間だ、今日は予防接種なんで、ここで失礼するよ」
 「楽しいお話ありがとうございました」
 私の本気、ファンのみんなはいつも見ていたいって思ってくれるかな、思ってくれたらいいな。
 
近くの駐車場に予防接種会場は作られていた。
「すいません、こちらは人間の方ではなく」
「いえ、この方は人ではありませんよ」
プス
予防接種をすると同時に、川魔法『人間のおっさんになる』は解けて、サメの姿に戻った。


KCJ戦闘職許可申請試験第二週。

「この課題はこなさなくても、合否に関係ありません」
いわゆる腕試しである。
たまにKCJはこんなことをするんだよなと傘目(かさめ)は思う。
前はサンタだった、今回もサンタなのだろうか?
試験の解答速報の担当でもあるので、この手のものは必ず受けていた。
「初めまして、傘目さん」
「どうも初めまして」
「ここに来てくださる時点で、傘目さんは合格なのですが、こうしておけば確認のために受けてくれるんじゃないかなってことで」
「それでここでは何をするんです?」
「そりゃあもう倒れるまで戦いましょうよ」
「サンタみたいな考え方してますね」
「よく言われますが、私、剣士なんですよ」
細身の剣を見せてきた。
「治せる怪我ぐらいならばいいですよね」
「わかりました」


「そこからどのぐらい戦ってたんですか?」
「もつれたりすると、仕切り直して、150試合でキリがいいから、ここでやめましょうって話で終わりました」
「…」
「最初お話をいただいたときは、実力はあるけども、どうも覇気がない、欲がないと聞いてましたが、ちゃんとあの人、欲はありましたよ」
男の前髪が眉より上にまっすぐ揃えられているのは、傘目に切られたからだ。
「お仕事ということで、向こうの特技を全部対策したつもりでもこれでしたし、本気を出させるまではいけましたから、私としては悪くない内容でしたよ」
「あれ?でも意欲の低下が見受けられるという話はどうなんですか?」
「本気は出させましたけども、それで意欲の低下の改善が見られるかって言うと、そんなに簡単ではない。一番いいのは己で気づかないと、今回みたいに気づかされるとね、不甲斐ない自分が嫌になったりするもんですから、そうなると焦ってろくでもないことに繋がる」
「でも嬉しそうにいいますね」
「すごい剣士であるのは間違いありませんから、あそこまでになるのも選ばれしものなんで、どうにか殻は破ってほしいんですが、そうでなくても偉大であったは変わらないということで」
(失敗するって思ってるみたいだ)
何人も有望株を見ては来たが、花開かないという絶望も味わいすぎた。
そんな似た者同士だからこそぶつけられることになる。

傘目を蝕むものが妥協だとしたら、彼を蝕むのは逃避であった。
だから二人とも剣には熱がない。

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