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天国と地獄、どちらがお望みですか?
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コンコン
「どーぞ」
「お邪魔します」
「水芭じゃねえか、お前は相変わらず男前だな」
某病院特別室。
「死にぞこなったっていうけども、元気だな」
「お前もいたのかよ、瀬旭、まあ、助かっただけマシだな」
そういって自分の無くなった部分、足を見せる。
「こいつは…ひどいな」
「まあ、潮時ってやつだ、だからよ、今までの借りも兼ねて返そうと思って呼んだのよ、なんだ…二人か、新人の娘さんがいるとか聞いたんだが」
「こういう話にはまだ参加させられません」
「大事にされているね、まっいいや、死神はいつ来るかわかんねえし、借りを返さないとあいつは何度も助けてやったのに、全然返せねえケチ臭い奴とか思われても嫌だしな」
「そうだな、そういう話してただろうな」
「お~怖いね、じゃあ、俺の武勇伝でも」
「そういうのは結構です、出来れば情報関係のツテを中心に」
「ああ、そうだったな、あいつ本当にアホだな、でもアホすぎてラッキーだったというか、もしも冗談半分でやらなかった場合」
「そりゃあ、こっちも真剣に対応するよ」
「無言で先輩方撃ちますね」
「だよな、そういう意味では本当になんであんなバカなことを冗談でしたのかわからないよ、命取りになることを自分からするやつは長生きできないし」
「あの話広まってるから、その上でもうしませんとか、信じてるとかいう人がいればなんとかなるよ」
「そんなに簡単じゃねーよ、知ってるだろうよ、まあ、でもお前らも娘持った気持ちはわかった見てえだしな、ほら、俺も娘いるし」
そういう話は本来はしない、危険だからだ。最後ということもあって、そんな話も出てくるのだ。
「そん時娘がかかった病気の薬は、海外だと承認されているが、日本だと後数年、結局五年かかっちまうんだ、その間に発作や悪化しなければ生きていける、そんな賭けをしなければならなかったが、ある日急にだ、悪化した、その時思ったのさ、俺が少し前に決断していれば良かったんだと、そうすりゃあこうはならないんじゃないかとね」
パーティー入団の一時金を先に妻子に渡して、この男は危険と隣り合わせの世界に戻っていった。
「娘さんは?」
「今は元気よ、あれから二回ぐらい危ないところがあった、そういう意味では俺がこっちに来たことは意味があったんだと思う、ただこっちで俺も暴れまくったりしているから、もう娘に会う気はないが」
会えば危険に晒されるだろう生き方を代わりにしたのだ。
「お前らみたいに綺麗に生きることは普通はできない、なんで相変わらずそういう生き方出来るんだ?不思議だよ」
「それは頑張っているからだよ」
「答えになってねえよ、水芭は?」
「俺に聞きますか?俺の生まれ育ち知ってるでしょ?」
「そうね、水芭は最初にそれ聞いたときドン引きしたけどもね、綺麗なお顔に生まれて良かったねって」
「どーも」
「心のない返事だね、やだやだ、恐ろしくストイックだからな、お前ら、大金が前にあっても心が動かないとかって、金持ち…の生まれでもないんだよな」
「一般家庭出身だって知ってるでしょうに」
「それがわからないんだよ、なんで一般家庭出身の奴等が何故ってね、まだ金持ちのボンボンの方が理解できる」
「最初はそれは思いました、お金持ちの気まぐれかなって」
水芭がまだ若い頃、大役を任せてきました。
「それはあると思う、承認欲求の高いやつらならばまだしも、なんで自分なのかは」
「えっ?そんなに変なことしてた?」
「してますよ、自覚はないんですか?」
「そこまでは…」
「最近だとミツさんを連れてきたし」
「ミツはあのままあそこにいると、揉めるは見えていたから一時避難的なものはあったんだよ」
しかし、河川管理部長のヒロシはそのまま出向から移籍に切り替えるつもりなのは、水芭は知ってる。
「相変わらずとんでもない引きの強さだな」
「そうは言っても思った以上に疲れるんだぜ」
「疲れるの顔に出さないじゃないですか」
「出してたら、あっ、あっちも辛いんだなって思ってその手を緩めないでしょ、そういうこ怖いから、こう…キリッとしてるんだ」
「本当にこいつら好き勝手生きてやがる、水芭も見習ったらどうだ」
「先輩方は先輩方、私は私ですから」
「これでもやり手だから、引退しても実業家としてやっていけるんじゃないか?」
「引退する気はありませんし、なんで実業家?今の事務所の運用を自分がやめて持っていくとかはありませんよ、その場合、今の日本でうちと同水準で稼げるところ何てありませんから、やめませんよ」
「しっかりしてんな」
「そうなんだよ、助かってる」
「そろそろ時間もあるな…それじゃあ俺の懇意にしていた情報屋、信頼している奴等の話をするか」
こういった情報網というのは、特定の人間しか関わらないようにしているので、一人でも抜ける、変わる、いなくなるとそれだけで収入が激減するリスクはある。
「こいつは良心的な払いを、出来ればマメにしてやってくれ、そうすると喜ぶ」
「わかりました」
「逆にこの女は金に、どのぐらい最初に金出せる?」
「用件にもよりますが」
「出来れば俺からの手切れ金持ってきた辺りで、話しかけるのがいいとは思うんだ、金にうるさいことは知ってるからな」
「相場としては?」
「そうだな、いつもはこれで、だいたい年だとこのぐらい払ってるから」
「わかりました、そのぐらいならばいけます、代わりに仕事をすぐに頼みますが」
「それでいいんじゃない?働きぶりが大したことなければ次はないぐらいはわかってるだろうし」
カチカチ
何故か時計の針の音が大きく聞こえるような気がする。
「なあ」
「なんだよ、交渉できないやつは下がってろよ」
「お前、狙われているだろう、さっきは冗談で死神っていってたけども」
「まあ、そのぐらいは汚い仕事をしてきたってことさ」
「どうする?俺らに依頼とかする?」
「それこそ冗談じゃない、散々言い争ってたお前に守られるだなんて、痒くなるね、どっちにしろ俺は引退、安全のためにこっちの世界とは十年以上は連絡を取らないことになるだろうからさ」
「でもお気持ちが変わったらいつでも」
そういって水芭は連絡先を渡してきた。
「本当に水芭が育って良かったな、他のところろくに人を育てなかったから」
「それは俺の誇りだよ」
「そうか、その言葉あいつらに聞かせてやりたいわ、息巻いてそんなやり方がこれから通用するとは思いませんって言ってたやつらにな」
「あの人たちは、見栄を張れたらなんでも良かったんだよ」
「ああ、いうね、逆に一人でも育っていたら今頃もっとひどいものになっていただろうよ、やっぱりこの世界は腕が全てでなくちゃいけねえ、これからますますお前の親父ギャグは冴えまくると思うが、クソジジイになるまで現役張っててほしいね」
「本当に今日のお前は…まあ、怪我人にいうことはないだろうな、またな」
「先に墓場で待ってるぜ」
「うるせーよ、お前も長生きしろよ」
チッチッチッ
時計の針の音がやけにうるさい。
コンコン
「どーぞ」
「失礼します」
「…」
「どうかしました」
「声聞いてびっくりした、姿見たらやっぱりびっくりした」
「よく言われます」
「みんなに死んだと思われていたから、そんな男がやってきたら、病床の人間はビックリするだろう」
「今はこの仕事をしています」
「病院のどこにいた?」
「それは秘密です」
「瀬旭と水芭は?」
「遠くからですがお見かけしました、相変わらずですね、あのお二人は」
「直接仕事したことはなかったんだっけ?」
「ありませんよ、後任という形ではありましたが、あいさつ程度ですね」
「しかし、どうしてここまで差がついたかね、水芭よりもお前が期待されていただろうに」
「期待が重かったわけではないが、全部一度リセットしたくなったんですよね」
「それを聞いたら嘆き悲しむ人間は何人いるんだろうさ」
「まあ、どうでもいいってことですよ、では天国と地獄、どちらがお望みですか?」
「そりゃあ、もちろん決まってる」
「お疲れ!」
「そっちはどうでしたか?」
「紹介された情報屋は明日以降連絡を取りたいとは思います」
「水芭さんお帰りなさい、フルーツカットはできました、茹で玉子もです」
ミツはいつとのスーツではなく、制服ではあるが、シャツとベストというbarカウンターに似合うものを身に付けている。
「見せて、うん、よくできてる」
このbarは事務所に併設されているのだが、最近はミツが目当てだと思われる来客が増えた。
下手に何もさせないと、目の届かない場所で何かが起きてはいけないので、仕事をこうして覚えてもらっているのだ。
barを開店させる前に身内での話し合い。
「その情報屋にあいさつは、私とミツさんで行きますから」
「そうして頂戴」
「俺らってほら、人気者だからね、向こうは確実に顔を知ってるわけだから、俺らの名刺を持ってる人間をどう扱うのか見たいじゃない」
情報屋の人格テストも兼ねているらしい。
「当たり前だけども、俺らの名前出す前に横柄な態度を取ったらそこで切り上げてね」
「いいんですか?」
「いいの、いいの、実際に仕事頼む前にそういう人となりを知ることっていうのは大事なのよ」
「後、このbarもね、多少は俺らの情報を渡す役割があるんだ、全く情報がないとそれこそ過激な手段をとってくるからさ」
「情報っていうものはそういうものなのさ」
珍しいところで珍しい人間と会う。
「どうしてここに?」
古平良からするとお前の担当こっちじゃないじゃんという男がいた。
「仕事で、水芭さんとこ」
この時間だとbarを使うんだろう。
「後、新人さんを実際に見に」
「螺殻さんのことか!」
「えっ?もう会ったの?」
「ああ、まあな」
その反応が面白かったので。
「可愛いならお話ししてみたいなって」
「お、お前…」
これはちょっと本気で惚れているのではないか?
「どこがいいの?」
「優しさ、その微笑みで俺は一日の疲れを癒せる」
「ふ~ん、じゃあ行くわ」
「俺も連れていけよ」
「酒は飲めるだろうが、あんまりbarとか行かないじゃんか、今までそこに行ったことはあるの?」
「ない」
「じゃあ、諦めろって」
「すまない、連れていってくれ」
どうしようかなって思いましたが。
「ごめんな、仕事の話があるから」
容赦なく切り捨てました。
barを外から利用する客用の扉を開ける。
「いらっしゃいませ」
おっ、確かに可愛いし、オヤジどもに好かれそうなタイプだな。
「予約して…」
「ああ、こっちだ」
先に水芭から声をかけられる。
「今日はなんですか、貸しきりですか?」
「仕事は先に済ませてしまいたい、ミツさんも上に」
「わかりました」
ソファーにかけながら話を始める。
「それで俺にその情報屋の裏を取ってほしいってやつですね」
「ああ、こっちが掴んでない、ネガティブな要素を見つけたら追加報酬だ」
「相変わらず金払いがいいですね」
「そういうのは出し惜しみしない方場合もある」
こういうのは、出しても仕事をしない奴はいるという意味である。
「はいはい、わかりましたよ、では今、段取りつけますから、その間このルームには誰も入れないでくださいよ」
「わかってる、じゃあ注文は?」
「まだ時間が早いのでディーゼルとポテト類のおつまみください」
「かしこまりました」
ディーゼルはビールとコーラのカクテルである。
ポテト類はなんでも良さそうだが、ビールに合わせてジャーマンポテトでいいだろう。
「ミツさん、これを」
「わかりました」
ミツがそれを提供するために階段を上がると、さっきまで談笑してた顔とは違い、真剣な顔つきしてた男がそこにはいた。
「ディーゼルとジャーマンポテトです」
「ああ、そこに置いて、後これチップね」
そういってメモの切れ端を渡してくれた。
「そっと水芭さんに渡すように」
「…わかりました、あの他に何かありますか?お水でもお持ちしましょうか」
「ここはbarだからさ、まあ、でもその気持ちだけはありがたく頂戴するよ」
そう言われてから、ミツは普段通りの顔をがんばってしながら階段でおりたが、水芭にはどうしたのかな?とバレている。
スッ~
ミツはメモの切れ端をカウンター内に置いた。
切れ端に目を通すと、水芭は一度見ただけでは信じられなかった。
『収穫は二時間前に行われた』
「水芭さん、顔色が悪いのではありませんか?」
「まあ、ちょっとね、人生色々あるんだよ」
そういうと階段から男が降りてきた。
「御馳走様」
そういって現金とメモを置いていった。
「また何か?」
「いや、こっちは仕事に関係ない」
近いうちにまた来ます、今度は仕事関係なく、散尾(さんお)
しばらく仕事をしてきた散尾が、ミツに向かってこんなメッセージを残していたのは驚愕といっていい。
(何か、ミツさんに彼らを惹き付けるものがある?う~ん)
確かに頑張り屋さんでもあるし、そばにいると安心は出来る、そのうち後ろも任せることは出来るかもしれないが、先輩として守り甲斐も教え甲斐もあるんだよな。
(謎だ…まあ、先輩方も何も反応してないならば問題はないだろう)
そこで水芭は思考を切り上げた。
しかし、この後、古平良ともう一人ミツと同年代の同業者が、彼女を気になるなという挙動をしたとき。
(ミツさん、うちにいなかったら、サークラの姫になってた可能性があったのか)
ここはお父さんとパパと水芭がいてくれたことを感謝しよう。
きっちりと言いつけを守ってるからこそ、険悪な空気にはならず上手く言ってるのだ。
「今、なんかいたな」
この事務所にとってミツに何かあるというのは考えられないことではないが、少なくとも情報を抜こうとした奴等が、何人かいて、それらはミツに好意を持っている古平良達にしばらかれた。お互い良いところ見せようと牽制しているので、あれはそのままにしておいた方がいい、抜け駆けしようとしたら、その時動けばいいのだから。
(ミツさんで一人戦力が増強したと思ったら、あの三人で10人ぐらいの働きしてる)
水芭も男性なので、好きな子に良いところを見せたいという気持ちはわかるが、それにしてもだ、あまり恋に慣れていない男の入れこみようというのは、見ているぶんにはかなり滑稽といえた。
「どーぞ」
「お邪魔します」
「水芭じゃねえか、お前は相変わらず男前だな」
某病院特別室。
「死にぞこなったっていうけども、元気だな」
「お前もいたのかよ、瀬旭、まあ、助かっただけマシだな」
そういって自分の無くなった部分、足を見せる。
「こいつは…ひどいな」
「まあ、潮時ってやつだ、だからよ、今までの借りも兼ねて返そうと思って呼んだのよ、なんだ…二人か、新人の娘さんがいるとか聞いたんだが」
「こういう話にはまだ参加させられません」
「大事にされているね、まっいいや、死神はいつ来るかわかんねえし、借りを返さないとあいつは何度も助けてやったのに、全然返せねえケチ臭い奴とか思われても嫌だしな」
「そうだな、そういう話してただろうな」
「お~怖いね、じゃあ、俺の武勇伝でも」
「そういうのは結構です、出来れば情報関係のツテを中心に」
「ああ、そうだったな、あいつ本当にアホだな、でもアホすぎてラッキーだったというか、もしも冗談半分でやらなかった場合」
「そりゃあ、こっちも真剣に対応するよ」
「無言で先輩方撃ちますね」
「だよな、そういう意味では本当になんであんなバカなことを冗談でしたのかわからないよ、命取りになることを自分からするやつは長生きできないし」
「あの話広まってるから、その上でもうしませんとか、信じてるとかいう人がいればなんとかなるよ」
「そんなに簡単じゃねーよ、知ってるだろうよ、まあ、でもお前らも娘持った気持ちはわかった見てえだしな、ほら、俺も娘いるし」
そういう話は本来はしない、危険だからだ。最後ということもあって、そんな話も出てくるのだ。
「そん時娘がかかった病気の薬は、海外だと承認されているが、日本だと後数年、結局五年かかっちまうんだ、その間に発作や悪化しなければ生きていける、そんな賭けをしなければならなかったが、ある日急にだ、悪化した、その時思ったのさ、俺が少し前に決断していれば良かったんだと、そうすりゃあこうはならないんじゃないかとね」
パーティー入団の一時金を先に妻子に渡して、この男は危険と隣り合わせの世界に戻っていった。
「娘さんは?」
「今は元気よ、あれから二回ぐらい危ないところがあった、そういう意味では俺がこっちに来たことは意味があったんだと思う、ただこっちで俺も暴れまくったりしているから、もう娘に会う気はないが」
会えば危険に晒されるだろう生き方を代わりにしたのだ。
「お前らみたいに綺麗に生きることは普通はできない、なんで相変わらずそういう生き方出来るんだ?不思議だよ」
「それは頑張っているからだよ」
「答えになってねえよ、水芭は?」
「俺に聞きますか?俺の生まれ育ち知ってるでしょ?」
「そうね、水芭は最初にそれ聞いたときドン引きしたけどもね、綺麗なお顔に生まれて良かったねって」
「どーも」
「心のない返事だね、やだやだ、恐ろしくストイックだからな、お前ら、大金が前にあっても心が動かないとかって、金持ち…の生まれでもないんだよな」
「一般家庭出身だって知ってるでしょうに」
「それがわからないんだよ、なんで一般家庭出身の奴等が何故ってね、まだ金持ちのボンボンの方が理解できる」
「最初はそれは思いました、お金持ちの気まぐれかなって」
水芭がまだ若い頃、大役を任せてきました。
「それはあると思う、承認欲求の高いやつらならばまだしも、なんで自分なのかは」
「えっ?そんなに変なことしてた?」
「してますよ、自覚はないんですか?」
「そこまでは…」
「最近だとミツさんを連れてきたし」
「ミツはあのままあそこにいると、揉めるは見えていたから一時避難的なものはあったんだよ」
しかし、河川管理部長のヒロシはそのまま出向から移籍に切り替えるつもりなのは、水芭は知ってる。
「相変わらずとんでもない引きの強さだな」
「そうは言っても思った以上に疲れるんだぜ」
「疲れるの顔に出さないじゃないですか」
「出してたら、あっ、あっちも辛いんだなって思ってその手を緩めないでしょ、そういうこ怖いから、こう…キリッとしてるんだ」
「本当にこいつら好き勝手生きてやがる、水芭も見習ったらどうだ」
「先輩方は先輩方、私は私ですから」
「これでもやり手だから、引退しても実業家としてやっていけるんじゃないか?」
「引退する気はありませんし、なんで実業家?今の事務所の運用を自分がやめて持っていくとかはありませんよ、その場合、今の日本でうちと同水準で稼げるところ何てありませんから、やめませんよ」
「しっかりしてんな」
「そうなんだよ、助かってる」
「そろそろ時間もあるな…それじゃあ俺の懇意にしていた情報屋、信頼している奴等の話をするか」
こういった情報網というのは、特定の人間しか関わらないようにしているので、一人でも抜ける、変わる、いなくなるとそれだけで収入が激減するリスクはある。
「こいつは良心的な払いを、出来ればマメにしてやってくれ、そうすると喜ぶ」
「わかりました」
「逆にこの女は金に、どのぐらい最初に金出せる?」
「用件にもよりますが」
「出来れば俺からの手切れ金持ってきた辺りで、話しかけるのがいいとは思うんだ、金にうるさいことは知ってるからな」
「相場としては?」
「そうだな、いつもはこれで、だいたい年だとこのぐらい払ってるから」
「わかりました、そのぐらいならばいけます、代わりに仕事をすぐに頼みますが」
「それでいいんじゃない?働きぶりが大したことなければ次はないぐらいはわかってるだろうし」
カチカチ
何故か時計の針の音が大きく聞こえるような気がする。
「なあ」
「なんだよ、交渉できないやつは下がってろよ」
「お前、狙われているだろう、さっきは冗談で死神っていってたけども」
「まあ、そのぐらいは汚い仕事をしてきたってことさ」
「どうする?俺らに依頼とかする?」
「それこそ冗談じゃない、散々言い争ってたお前に守られるだなんて、痒くなるね、どっちにしろ俺は引退、安全のためにこっちの世界とは十年以上は連絡を取らないことになるだろうからさ」
「でもお気持ちが変わったらいつでも」
そういって水芭は連絡先を渡してきた。
「本当に水芭が育って良かったな、他のところろくに人を育てなかったから」
「それは俺の誇りだよ」
「そうか、その言葉あいつらに聞かせてやりたいわ、息巻いてそんなやり方がこれから通用するとは思いませんって言ってたやつらにな」
「あの人たちは、見栄を張れたらなんでも良かったんだよ」
「ああ、いうね、逆に一人でも育っていたら今頃もっとひどいものになっていただろうよ、やっぱりこの世界は腕が全てでなくちゃいけねえ、これからますますお前の親父ギャグは冴えまくると思うが、クソジジイになるまで現役張っててほしいね」
「本当に今日のお前は…まあ、怪我人にいうことはないだろうな、またな」
「先に墓場で待ってるぜ」
「うるせーよ、お前も長生きしろよ」
チッチッチッ
時計の針の音がやけにうるさい。
コンコン
「どーぞ」
「失礼します」
「…」
「どうかしました」
「声聞いてびっくりした、姿見たらやっぱりびっくりした」
「よく言われます」
「みんなに死んだと思われていたから、そんな男がやってきたら、病床の人間はビックリするだろう」
「今はこの仕事をしています」
「病院のどこにいた?」
「それは秘密です」
「瀬旭と水芭は?」
「遠くからですがお見かけしました、相変わらずですね、あのお二人は」
「直接仕事したことはなかったんだっけ?」
「ありませんよ、後任という形ではありましたが、あいさつ程度ですね」
「しかし、どうしてここまで差がついたかね、水芭よりもお前が期待されていただろうに」
「期待が重かったわけではないが、全部一度リセットしたくなったんですよね」
「それを聞いたら嘆き悲しむ人間は何人いるんだろうさ」
「まあ、どうでもいいってことですよ、では天国と地獄、どちらがお望みですか?」
「そりゃあ、もちろん決まってる」
「お疲れ!」
「そっちはどうでしたか?」
「紹介された情報屋は明日以降連絡を取りたいとは思います」
「水芭さんお帰りなさい、フルーツカットはできました、茹で玉子もです」
ミツはいつとのスーツではなく、制服ではあるが、シャツとベストというbarカウンターに似合うものを身に付けている。
「見せて、うん、よくできてる」
このbarは事務所に併設されているのだが、最近はミツが目当てだと思われる来客が増えた。
下手に何もさせないと、目の届かない場所で何かが起きてはいけないので、仕事をこうして覚えてもらっているのだ。
barを開店させる前に身内での話し合い。
「その情報屋にあいさつは、私とミツさんで行きますから」
「そうして頂戴」
「俺らってほら、人気者だからね、向こうは確実に顔を知ってるわけだから、俺らの名刺を持ってる人間をどう扱うのか見たいじゃない」
情報屋の人格テストも兼ねているらしい。
「当たり前だけども、俺らの名前出す前に横柄な態度を取ったらそこで切り上げてね」
「いいんですか?」
「いいの、いいの、実際に仕事頼む前にそういう人となりを知ることっていうのは大事なのよ」
「後、このbarもね、多少は俺らの情報を渡す役割があるんだ、全く情報がないとそれこそ過激な手段をとってくるからさ」
「情報っていうものはそういうものなのさ」
珍しいところで珍しい人間と会う。
「どうしてここに?」
古平良からするとお前の担当こっちじゃないじゃんという男がいた。
「仕事で、水芭さんとこ」
この時間だとbarを使うんだろう。
「後、新人さんを実際に見に」
「螺殻さんのことか!」
「えっ?もう会ったの?」
「ああ、まあな」
その反応が面白かったので。
「可愛いならお話ししてみたいなって」
「お、お前…」
これはちょっと本気で惚れているのではないか?
「どこがいいの?」
「優しさ、その微笑みで俺は一日の疲れを癒せる」
「ふ~ん、じゃあ行くわ」
「俺も連れていけよ」
「酒は飲めるだろうが、あんまりbarとか行かないじゃんか、今までそこに行ったことはあるの?」
「ない」
「じゃあ、諦めろって」
「すまない、連れていってくれ」
どうしようかなって思いましたが。
「ごめんな、仕事の話があるから」
容赦なく切り捨てました。
barを外から利用する客用の扉を開ける。
「いらっしゃいませ」
おっ、確かに可愛いし、オヤジどもに好かれそうなタイプだな。
「予約して…」
「ああ、こっちだ」
先に水芭から声をかけられる。
「今日はなんですか、貸しきりですか?」
「仕事は先に済ませてしまいたい、ミツさんも上に」
「わかりました」
ソファーにかけながら話を始める。
「それで俺にその情報屋の裏を取ってほしいってやつですね」
「ああ、こっちが掴んでない、ネガティブな要素を見つけたら追加報酬だ」
「相変わらず金払いがいいですね」
「そういうのは出し惜しみしない方場合もある」
こういうのは、出しても仕事をしない奴はいるという意味である。
「はいはい、わかりましたよ、では今、段取りつけますから、その間このルームには誰も入れないでくださいよ」
「わかってる、じゃあ注文は?」
「まだ時間が早いのでディーゼルとポテト類のおつまみください」
「かしこまりました」
ディーゼルはビールとコーラのカクテルである。
ポテト類はなんでも良さそうだが、ビールに合わせてジャーマンポテトでいいだろう。
「ミツさん、これを」
「わかりました」
ミツがそれを提供するために階段を上がると、さっきまで談笑してた顔とは違い、真剣な顔つきしてた男がそこにはいた。
「ディーゼルとジャーマンポテトです」
「ああ、そこに置いて、後これチップね」
そういってメモの切れ端を渡してくれた。
「そっと水芭さんに渡すように」
「…わかりました、あの他に何かありますか?お水でもお持ちしましょうか」
「ここはbarだからさ、まあ、でもその気持ちだけはありがたく頂戴するよ」
そう言われてから、ミツは普段通りの顔をがんばってしながら階段でおりたが、水芭にはどうしたのかな?とバレている。
スッ~
ミツはメモの切れ端をカウンター内に置いた。
切れ端に目を通すと、水芭は一度見ただけでは信じられなかった。
『収穫は二時間前に行われた』
「水芭さん、顔色が悪いのではありませんか?」
「まあ、ちょっとね、人生色々あるんだよ」
そういうと階段から男が降りてきた。
「御馳走様」
そういって現金とメモを置いていった。
「また何か?」
「いや、こっちは仕事に関係ない」
近いうちにまた来ます、今度は仕事関係なく、散尾(さんお)
しばらく仕事をしてきた散尾が、ミツに向かってこんなメッセージを残していたのは驚愕といっていい。
(何か、ミツさんに彼らを惹き付けるものがある?う~ん)
確かに頑張り屋さんでもあるし、そばにいると安心は出来る、そのうち後ろも任せることは出来るかもしれないが、先輩として守り甲斐も教え甲斐もあるんだよな。
(謎だ…まあ、先輩方も何も反応してないならば問題はないだろう)
そこで水芭は思考を切り上げた。
しかし、この後、古平良ともう一人ミツと同年代の同業者が、彼女を気になるなという挙動をしたとき。
(ミツさん、うちにいなかったら、サークラの姫になってた可能性があったのか)
ここはお父さんとパパと水芭がいてくれたことを感謝しよう。
きっちりと言いつけを守ってるからこそ、険悪な空気にはならず上手く言ってるのだ。
「今、なんかいたな」
この事務所にとってミツに何かあるというのは考えられないことではないが、少なくとも情報を抜こうとした奴等が、何人かいて、それらはミツに好意を持っている古平良達にしばらかれた。お互い良いところ見せようと牽制しているので、あれはそのままにしておいた方がいい、抜け駆けしようとしたら、その時動けばいいのだから。
(ミツさんで一人戦力が増強したと思ったら、あの三人で10人ぐらいの働きしてる)
水芭も男性なので、好きな子に良いところを見せたいという気持ちはわかるが、それにしてもだ、あまり恋に慣れていない男の入れこみようというのは、見ているぶんにはかなり滑稽といえた。
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