浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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職人の血を騒がせる人

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「ローコーンさーん」
「なんです、あの徹夜明けみたいな声は」
シャンプー応援隊の一人が傑に聞くと。
「ああ、いつも来てくれるお客さんで」
「どうしました、また限界まで働きましたか?」
「またやっちゃった!」
「懲りないっすね」
「でもこの忙しさには蹴りをつけたから、俺の仕事は終わったんでさ、しばらくベストフレンドと浜薔薇の往復を楽しみたいところだよ」
「シャンプーはいつものでいいですか?」
「うん、ベタつきさっぱり、髪艶で」
「ベタつきさっぱり、髪艶入ります」
「えっ?…さんきゅ」
ノリがファーストフードであるが、まだ応援隊の一人はノリについていけない。
(やっちゃった)
(のっちゃった、悪いことしたな)
お客と蘆根は悪ノリしたと反省した。
「ええっとですね、私の髪はですね、この店に来るとやること決まってまして、クレンジングで余計なものを落としてもらって、七草ドロップのトリートメントで仕上げてもらうんです」
「髪質的にこれが綺麗に仕上がるから、他のシャンプーも試してみたんだけどもな、これを越えるのがなくて、廃盤になるまで、これを家でも使ってくれているんだ」
「でも家だと、お湯でじっくりここみたいに洗うとかはやれないですよ、ザパーしゃかしゃかになっちゃう」
「そこはやはりお店ですからね」
話してみると気さくな人だとわかる。
なるほど確かに蘆根が見つけた通り、このお客さんの柔らかい髪だと、クレンジングとシャンプー、トリートメントの相性はこのラインナップが一番いいように思える。
(しかし、この組み合わせ見つけるためにどのぐらい通ったんだろう)

答え いっぱい。

そして次はシェービング。
タモツが奥からでてきた。
「血行悪くなってるな、働きすぎだよ」
「でもですね、こんなに働いているから、健康診断引っ掛かると言われながらも今年もパスしてますから」
「体壊してない程度の忙しさならばいいかもしれねえがよ」
顔のマッサージ、次々に作られる変顔、これで血行を良くしていく。
次の準備のため、蒸しタオルを巻かれると、そこで初めてさっきまでとは違う、リラックスしたような顔になった。
忙しすぎて自分ではブレーキが踏みにくくなっているために、浜薔薇に頼むんだ。
店に通うようになってから、前にそんなことを口にしていた。
何が楽しくてそんなに働くんだと言われているような人間が、自分の嗜好を見せる場所が浜薔薇であった。
細かい産毛が生えている。
それをヒアルロン酸入りのミルクを塗布した後に剃っていく。
(次に来たときはパックだな)
おそらく次は明日来るので、肌に負担がないような構成で仕上げていく。
(耳の方もずいぶんと貯まっているじゃないか)
かき出すよりも崩すという動作が多くなりそうな耳を、まずは穴刀で剃りあげていく。
竹の耳かきで掃除すると無理な力がかかる垢だが、色ときれいだし、どうも若い。
(棚機ん所行ってきたな)
ベストフレンドの湯です、ベストフレンドフレンドの湯をどうかお願い致します。
こちらのお湯で体を洗い流すと、垢が浮き上がり、洗いやすくなる泉質をしている。
そのせいか、耳の中がお湯に浸かっていたわけではないのに、物凄く垢がかき出せるので、あそこに行ってきたなとわかるのであった。
「敵はこのお店に来る前に耳かきをしたくなった自分の心です」
「まあ、こんだけ出りゃ耳も痒くなるわな」
この後皮脂汚れを落とす液体を綿棒につけて、耳の中を拭き取るが、穴刀で毛も剃られていたために、短い毛が次々と綿棒に絡まる。
最後にマッサージとなったが。
「明日も来ますから予約お願いします」
疲れをとるためにはお金もそうだが、体力もいる。
浜薔薇に来ているお客さんで、そのための体調管理をしている人たちは少数派になるのだが、このお客さんが一番厳格に管理していた。
「ん~、やっぱりここは違うね」
しかも蘆根たちの腕を見抜く目も持ってるので。
(職人の血を騒がせる人なんだな)
表情は変わらないタモツと蘆根であるが、あれは喜んでいると傑はいう。
(どの辺が?)
応援隊にはわからなかったが、お客さんが帰った後の掃除、その際に明日は休みなのかぐらいウキウキしている二人が見れた。
(なるほど、これか)
職人さんたちは頑固でわかりにくいですが、もしも身近におられましたら、マメに誉めましょう、その時の返事からはわからないぐらい喜んでくれます。


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