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26:逆エイプリルフール

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「先輩、先輩! ついに新元号が発表されましたね」
「『令和』だな。『安』は全く関係なかったようだ」
「そうですね。でも、これで新年号のツイッター騒ぎも収まりますね。それより、今日はエイプリルフール! 嘘をついていい日です!」
「……話題の変わりようが早いな」
「そんなもんですよ。バイトテロの話題も今ではなかったみたいに沈静化されてますし」
「嘆かわしい事だな」
「相変わらず真面目ですよね。それは美徳かもしれませんが、逆に言えば融通が利かなくて、柔軟性がないカルメルタザイト級の石頭で、言われたことしか出来ない機械のような……いや、機械はミスしませんが、先輩はミスしますからそれ以下の存在ですよね~。それと、先輩。いい加減に空気を読んでください。携帯型の空気清浄機、お貸しいたしましょうか~?」
「伊藤、お前……喧嘩売ってるんだな」
「違います~。嘘ですから~。今日はエイプリルフールですよ。ただの嘘です。まさか、先輩。嘘を真に受けるワケじゃないですよね~? そんなことをしたら、自分は石頭だって認めているようなものですよ~。ユーモアないんですか~? あっ、これも嘘ですから怒っちゃいやですよ~」
「……伊藤」
「なんっすか、先輩。今日はアイスクリーム屋『青氷』で新年号のお祝いイベントで半額セールなんですよ。『ダブルチョコレートチップチーズケーキ』が私を待っているので」
「今日は『逆エイプリルフールの日』だって知っているか?」
「『逆エイプリルフールの日』?」
「ああっ。今年は嘘をついてはいけない年……なんだ」
「……」
「……」
「いや、おかしいでしょ! なんですか、それは! 逆のエイプリルフールなんてありっすか! しかも、オチが読めてしまう展開に、私は抗議をしたいのですが!」
「エイプリルフールの起源を知っているか?」
「確か……フランスが起源でしたっけ? 昔のフランスは新年が4月1日で、その日を祝って祭りを開催していたんです。でも、1564年にフランス国王シャルル9世が1月1日を新年とするグレゴリオ暦を採用しちゃったわけですよ。勝手に新年を決めちゃった国王に反発した人々が4月1日を『嘘の新年』として馬鹿騒ぎをするようになったのが起源じゃなかったでしたっけ?」
「正解だ。この話には続きがあってな、勝手にバカ騒ぎして反抗する人々に激怒した国王は、その人々を次々に処刑したんだ。その中に13才の少女もいた」
「酷い話ですね。女の子に手を上げるなんて、許せません!」
「全くだ。だが、国王の振る舞いに人々は激怒し、『嘘の新年』の祭りを止めるどころか、盛大に祝うようになったんだ。この凶行を忘れないようにするために」
「反骨精神ですね。私も見習いたいです。理不尽には断固反抗します!」
「ただ、処刑された13才の少女にちなんで13年に1度、ウソをついてはいけないという『逆エイプリルフールの日』が作られたわけだ。哀悼の意がこもっているのだろう」
「へえ、そうなんですか。えっ、ま、まさか……」
「そうだ。1564年から13年ごとだから……」
「今年が『逆エイプリルフールの日』!」
「そうだ。嘘はついちゃ……いけないんだ」
「……」
「……」
「わ、私はこれで!」
「待て。今年は『逆エイプリルフールの日』だから、嘘じゃないんだよな? さっきの暴言は」
「いや! 嘘ですから! それくらい、察してくださいよ!」
「そうか、嘘か……」
「そうです、嘘です! 先輩の事、尊敬していますから! 敬愛している先輩に暴言なんて吐きませんから! 女の子に暴力はいけませんから!」
「だが、先輩に嘘をつくとは許せんな。教育が必要だ。教育は暴力ではないよな、伊藤?」
「しょ、しょええええええええ~~~~~! 体罰反対! 虐待です! 虐待防止条例、知らないんですか!」
「条例は来年の4月1日施行予定だ。残念だったな。言っておくが、俺は今から伊藤の顔をそっと撫でるだけだ。体罰でも虐待でもない」
「そ、それって、もしかして……アイアンクローですか~!」
「正解だ」
「嘘だ!」
「嘘じゃない!」
「ぎゃあああああああああああああああああああ!」
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