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獣みたいに
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ギルド内でベステルタを待つ間、シャールちゃんとお話ししようと思ったんだけど、彼女はいなかった。残念、お仕事だろうか。まあお仕事なんだろうけど、彼女ちょっとハブられていたみたいだしね。仕事があるのはいいことだ。いいこと、だよね?
他の冒険者と話そうとしても全然こっちを見てくれないし無視するので手持ちぶさただった。パーティー名「亜人の星」とさっきの模擬戦のせいだろうな。まったく、総出で新人冒険者を村八分とか、それがお前らのやり方か、って感じだよ。
「ごめんね、待った?」
めんごめんご、と舌を出しててへぺろしながらベステルタが戻ってきた。あざとい。右手をポケットに突っ込んで、左手で首筋を掻いている。それ、イケメンがやる仕草だけどな。ラミアルカとベステルタは亜人二大イケメンだな。前者は男寄り、後者は女寄り。どっちもかっこいい。
「ううん。用はいいの?」
「ええ、問題無いわ」
問題無い、って何か問題があるか確認してきたのか? ……いや、詮索するのは止めておこう。もし僕のためだとしたら聞くだけ野暮だし。
「ならよかった。お腹空いたしご飯にしようか?」
「そうね。どこで食べる?」
「ブラガさんの遠吠え亭でもいいけど……普通に買い食いする?」
読解もいけるようになった僕の言語理解スキルの出番だぜ。
「それもいいわね」
ということでそこら辺のお店でテイクアウトすることにした。
ていうかこういう会話良いな……。カップルみたいだ。僕はそういう青春ほとんど無かったからね。心に活力が湧いてくるよ。ていうか僕たちはカップルなのか? 関係性を言葉で表しづらいな。繁殖相手? 交尾相手? つがい? 身も蓋も無いな。
・買い食い風景
「あ! ケイ、これなんていいんじゃない? このふわふわの生地に肉が挟まったやつ! 食べてみない?」
「あーサンドイッチかな。いや、ナンドッグだこれ。もぐもぐ……おっ、意外とピリ辛だ」
「わー、ほんとだ、少し辛いわね。でもケイが作った……なんだっけ? ああ、マサラフライか。あれより辛くはないわね。味もシンプル」
「そうだね。良くも悪くも塩味だから。でもこうやって軽くつまむには良さそうだ」
「ケイ、これなんてどうかしら?」
「ふむ、なになに……。『モリゲッコーの串焼き』? 『精力抜群、絶倫快調』だって? 昼から一体何食わせるつもりだよ」
「あら、やっぱりそうなのね。繁り力高そうな匂いがしたのよ」
「繁り力ってなんだ……、むぐっ! ち、ちょっとまだお金払ってないんだからだめだよ。ああ、すみませんすみません。払います」
「ふうん、カリカリして悪くないわ。味はそこまでしないけど」
「たぶん恋人同士が景気付けに食べるもんじゃないかなあ」
「たくさん食べるわよ」
「うわー! ケイ、見てよこれ!」
「うっわ……なにこれ。『ガンシープの脳味噌包み焼き』? ベステルタ、ちょっと攻めすぎでしょ」
「いいじゃない、とっても冒険的だわ!」
「僕は食べないからね……はい、買ったよ。どんな感じ?」
「はむ。……うわぁ、なにかしら。少し苦いんだけど、まったりしていて脂肪の甘味が凄い。香辛料も効いていて美味しいわよ」
「うーん……ごめん、まだちょっと勇気出ないなぁ」
そんなこんなでしばらくは街をぶらついて食べまくっていた。この前はプテュエラと買い食いしたからね。今日はベステルタと一緒だ。
露店の食べ物を見るたびに、はしゃぐベステルタが微笑ましくて暖かい気持ちになった。見た目はライダースーツ着こなしたグラサンの高身長筋肉スーパーモデルなんだけどね。いや、ハイパーモデルか。ポケットに手を突っ込むのがお気に入りみたいだ。めっちゃ様になっている。街行く人々が老若男女問わず、めっちゃ振り返っていたもんね。さっきまで女の子の顔をすりおろしていたとは思えないよ。
一通り食べ終わって、いったんギルドの方に顔出したけど、まだ誰もいなかった。ちょうどギルド職員が通ったので時間を聞いてみたら「まだ、ご飯ゆっくり食べるくらいの時間ありますよー」とのことだった。じゃああと一時間くらい? けっこうのんびりだ。まだ時間ありそうだな。どうすっか。
「まだ時間あるみたいだけど、どうしよっか。適当にうろつく?」
「うーん、それもいいけど……」
ベステルタはきょろきょろと周りを見渡し、「あ、あそこならちょうどよさそうね」と薄暗い裏路地に僕を引っ張り込んだ。
(手、柔らかいなぁ)
それで怪獣ムカデぶっ叩いたりするんだからよくわからん。やっぱ筋肉には柔軟性が大事なのかもな。繁っている時もベステルタ柔らかくてふんわりしているし……。
さらに少し歩くと、人気が少なく、物陰の多い狭い小路に差し掛かる。
「ちょ、なに、どうしたの。何か面白いものでもあった?」
「ふふ、これから面白くなるのよ」
ちろり、と真っ赤な舌を出してにやりと笑う。これは良くない表情をしているな。この表情の彼女は大概、僕の発想の斜め上のことをする。
すると、ちょっと先から人の気配が三つほど現れた。僕たちの行く手を塞ぐ形だ。
「おいおい、別嬪さんたち見せつけてくれるじゃあねえか」
「そんなとっぽいあんちゃん放っておいて、俺たちとしっぽりずっぽしやろうぜえ?」
「ぐへへ、ずっぽしずっぽし」
物陰から千鳥足の酔漢が現れた。無精ひげに、下卑た視線、だらしない口元。うーん、酔っぱらっているな。しかも、よりにもよってベステルタをナンパするなんて。命知らずにもほどがある。昼間から飲むのは止めよう。
「邪魔」
シュンッ。
彼女の右手がブレたかと思うと、次の瞬間、何事も無くポケットにしまわれていた。なんだ?
「かふっ」
「ぎょほっ」
「あゃばっ」
どさどさどさ、と地に倒れ伏す三人。腹を押さえ、オロロロと飲んでいたものを吐き散らかしている。
「ふーん、まあまあね」
彼女は右手をぐーぱーして何かを確かめていた。
「え? 三人に攻撃したの?」
「ええ。ほら、ジオス教徒になったスラムの男がいたでしょ? ケイといい勝負していたやつ。彼は服の袖で技の起こりを隠していたじゃない? ちょっと試したくなったのよ」
拳法使いフェイさんのことだ。
「それで服のポケットから拳抜いて攻撃したってこと?」
「そうよ。不意打ちにはいいかもしれないわ。でもまだ軽いわね。もう少し研究しないと」
うきうきのベステルタ。技を試せてとっても楽しそうだ。
いや……。それ、あれだよ。「居合拳」ってやつだよ。実際にあるのか知らないけど、本とか漫画で読んだことあるよ。発想と思い付きとセンスで即実戦レベルとか、この子の格闘センスどうなってんだよ。フェイさんに技教えてもらったらやばいことになるんじゃないか?
「か、かっこよかったよ」
「うふふ……ありがとう」
そう言ってぎゅっと抱きしめてくれた。むほほ。暴乳が僕を包む。ばっいん、ばっいんだ。
「これが面白いこと?」
それなら納得だ。この三人には同情を禁じ得ないけど。まだ地面で苦しんでいる。
「そうだけど……それだけじゃないわ」
彼女は蠱惑的な表情を浮かべ、僕の使徒棒をさすさすしてきた。え、こ、ここでですか? お外ですか?
「まだ時間あるし一回くらいする時間あると思うの。串焼き食べたせいか火照ってきちゃった」
ライダースーツを亜人っぱいの半ばまで下ろし、誘ってくる。見えそうで見えない……。むしゃぶりつきたい。理性が一瞬で飛んだ。
「わかったよ、でも場所どうするの?」
「こいつらが隠れていた路地の先がたぶん袋小路だから、そこですればいいわよ。物音がしないし。あ、周りは浄化してね?」
ベステルタ・イヤー、なんて高性能なの。
でも、誰も見張っていない中で繁るのはちょっと勇気要るな。
あ、そうだ。
「すみません、大丈夫ですか?」
這いつくばる酔っ払いあんちゃんたちに声をかける。
「……これが大丈夫に見えるか、ごほごほっ!」
「骨いったこれ骨いったわ」
「いでぇぇよぉおお……」
ですよねー。一般人がベステルパンチ喰らったら普通立てないよ。そうとう手加減されたみたいだけど。
「まあ、酔っぱらって絡んだこっちも悪かったけどよ……」
お、このダメージの少なさそうな人はいくらか理性があるな。交渉開始だ。
「彼女とっても気が荒くてね。しかもEランク相当の冒険者だから強いんだよ」
ラーズさんお墨付きだし間違いではないはずだ。
「Eランク!? マジかよ……。それなら命があっただけでめっけもんだな……」
あいつら頭おかしい……とぶつぶつ呟く。ラーズさんも相当だったけどやっぱ上位組は頭おかしいのか。
「うんうん。それで悪いんだけど、僕たちこの先でしばらく繁るからここで見張っておいてくれないかな? なに、お昼ご飯を食べるくらいの短い時間だからさ」
「冗談じゃねえ。俺たちも悪かったが、そっちの獣人のせいであばらが痛えんだ。やってられるかよ。ていうか繁るってなんだ」
吐き捨てるように言う男。まぁそうなるな。
「こっちも悪かったと思っているよ。だから謝礼金代わりに一人当たり銀貨二枚払うよ。それでどうかな?」
合計二万ソルンのお金をじゃらつかせると男は目の色を変えた。
「二万! 一日働いたってそんな稼げねえのにいいのか? 立っているだけだろ?」
あ、ちょっと怪しまれている。流石に虫が良すぎたか。よし、ここは怪我の功名狙いでいくか。
「まあそれはついでかな。あと、僕たちの名前を友達や知り合いに広めておいて欲しいんだよ。もちろん良い噂をね」
「良い噂? おいおい、あんたらやべえのか? 俺は犯罪はやらないぞ」
おおー、意外とちゃんとしている。なのに、なんでこんなとこで飲んだくれているんだよ……。まぁ人にはいろいろあるか。そんなこと言ったら僕なんて電車乗ってたら、いつの間にか亜人と繁殖しているんだし。
「僕たちも犯罪はやらないよ。ただパーティー名が目立ってしまってね。『亜人の星』って言うんだ。さっき初心者講習で派手にやらかしたからギルドで訊けばわかるよ」
「亜人だって? 正気かよ」
心底残念そうな目で見てくる男。うるさいやい。
「はー、あんたら訳わかんないやつらだな。分かったぜ。噂は適当に広めておいてやるけど、期待すんなよ?」
「もちろん。さらっと褒めたり話題にしてくれるだけでいいよ」
良かった。なんとか話がまとまりそうだ。まずは亜人が話題に上るところが重要なんだ。
「それならだいぶ割の良い仕事だぜ。へへっ。あ、ここで見張っておくんだよな。言っておくけどこの先何も無いぜ? ぼろっちぃ長椅子があるくらいだ。ていうか繁るってなんなんだ?」
「それは知らない方が身のためさ」
知ったが最後、人間が経験できない快楽地獄に身を投じることになるかもしれないからね。
じゃらじゃら、と銀貨を手渡した。
「ま、それもそうだわな。うひー! 臨時収入だぜ! おい、酒買って来い!」
男がうずくまる他の奴らに言った。おいおい、また酒かよ。これで仕事手につかないとかは無しだぞ。
「ちゃんと仕事してね? さもないと……」
ベステルタに目くばせすると、彼女はハッ、として頷いた。口元がニヤニヤしている。落ちていた酒瓶を足で器用に蹴り上げると、
「シッ」
しゅばばばばっ!
小指の爪で輪切りにした。
「ひぃい」
男が腰を抜かす。
「うふふ」
ご機嫌アゲアゲなベステルタはさらに輪切りにした酒瓶を、空中でS字にキャッチした。
静寂の後、彼女が手を開くと。
「さ、酒瓶が」
酒瓶が割れずにボールみたくぺちゃんこになっていた。うーん、握力いくつなんだよ。そんなんでこすられたら僕の使徒棒破裂するんだが。
「こうなっちゃうから気を付けてね」
忠告しておく。
「わ、わかった。あんたらが戻るまで酒は止めとく」
こくこく、と頷く男。よしよし、これなら大丈夫か。
「ケイ、いつでもいいわよ?」
袋小路はお世辞にも綺麗とは言えなかったけど、浄化したら引くほどきれいになってしまった。これ、後で騒ぎにならないかな……。おんぼろの長椅子がぴっかぴかのイ〇アにでも売ってそうな品になっている。まぁ、そこに手をついて彼女が誘っている訳なんだけど。
ふりふり。
ぷりぷり。
ライダースーツのお尻の部分がぱっくり割れている。おいおい、ゴドーさん、あんた天才だよ。中には糸を引く蜜壺、艶めかしく濃い香りがむわっと立ち込める。
「獣みたいに激しくね?」
くっ、我慢できん。犬の散歩in野外だぜ。ベステルタの声を抑えている感じがめちゃくちゃ興奮した。
他の冒険者と話そうとしても全然こっちを見てくれないし無視するので手持ちぶさただった。パーティー名「亜人の星」とさっきの模擬戦のせいだろうな。まったく、総出で新人冒険者を村八分とか、それがお前らのやり方か、って感じだよ。
「ごめんね、待った?」
めんごめんご、と舌を出しててへぺろしながらベステルタが戻ってきた。あざとい。右手をポケットに突っ込んで、左手で首筋を掻いている。それ、イケメンがやる仕草だけどな。ラミアルカとベステルタは亜人二大イケメンだな。前者は男寄り、後者は女寄り。どっちもかっこいい。
「ううん。用はいいの?」
「ええ、問題無いわ」
問題無い、って何か問題があるか確認してきたのか? ……いや、詮索するのは止めておこう。もし僕のためだとしたら聞くだけ野暮だし。
「ならよかった。お腹空いたしご飯にしようか?」
「そうね。どこで食べる?」
「ブラガさんの遠吠え亭でもいいけど……普通に買い食いする?」
読解もいけるようになった僕の言語理解スキルの出番だぜ。
「それもいいわね」
ということでそこら辺のお店でテイクアウトすることにした。
ていうかこういう会話良いな……。カップルみたいだ。僕はそういう青春ほとんど無かったからね。心に活力が湧いてくるよ。ていうか僕たちはカップルなのか? 関係性を言葉で表しづらいな。繁殖相手? 交尾相手? つがい? 身も蓋も無いな。
・買い食い風景
「あ! ケイ、これなんていいんじゃない? このふわふわの生地に肉が挟まったやつ! 食べてみない?」
「あーサンドイッチかな。いや、ナンドッグだこれ。もぐもぐ……おっ、意外とピリ辛だ」
「わー、ほんとだ、少し辛いわね。でもケイが作った……なんだっけ? ああ、マサラフライか。あれより辛くはないわね。味もシンプル」
「そうだね。良くも悪くも塩味だから。でもこうやって軽くつまむには良さそうだ」
「ケイ、これなんてどうかしら?」
「ふむ、なになに……。『モリゲッコーの串焼き』? 『精力抜群、絶倫快調』だって? 昼から一体何食わせるつもりだよ」
「あら、やっぱりそうなのね。繁り力高そうな匂いがしたのよ」
「繁り力ってなんだ……、むぐっ! ち、ちょっとまだお金払ってないんだからだめだよ。ああ、すみませんすみません。払います」
「ふうん、カリカリして悪くないわ。味はそこまでしないけど」
「たぶん恋人同士が景気付けに食べるもんじゃないかなあ」
「たくさん食べるわよ」
「うわー! ケイ、見てよこれ!」
「うっわ……なにこれ。『ガンシープの脳味噌包み焼き』? ベステルタ、ちょっと攻めすぎでしょ」
「いいじゃない、とっても冒険的だわ!」
「僕は食べないからね……はい、買ったよ。どんな感じ?」
「はむ。……うわぁ、なにかしら。少し苦いんだけど、まったりしていて脂肪の甘味が凄い。香辛料も効いていて美味しいわよ」
「うーん……ごめん、まだちょっと勇気出ないなぁ」
そんなこんなでしばらくは街をぶらついて食べまくっていた。この前はプテュエラと買い食いしたからね。今日はベステルタと一緒だ。
露店の食べ物を見るたびに、はしゃぐベステルタが微笑ましくて暖かい気持ちになった。見た目はライダースーツ着こなしたグラサンの高身長筋肉スーパーモデルなんだけどね。いや、ハイパーモデルか。ポケットに手を突っ込むのがお気に入りみたいだ。めっちゃ様になっている。街行く人々が老若男女問わず、めっちゃ振り返っていたもんね。さっきまで女の子の顔をすりおろしていたとは思えないよ。
一通り食べ終わって、いったんギルドの方に顔出したけど、まだ誰もいなかった。ちょうどギルド職員が通ったので時間を聞いてみたら「まだ、ご飯ゆっくり食べるくらいの時間ありますよー」とのことだった。じゃああと一時間くらい? けっこうのんびりだ。まだ時間ありそうだな。どうすっか。
「まだ時間あるみたいだけど、どうしよっか。適当にうろつく?」
「うーん、それもいいけど……」
ベステルタはきょろきょろと周りを見渡し、「あ、あそこならちょうどよさそうね」と薄暗い裏路地に僕を引っ張り込んだ。
(手、柔らかいなぁ)
それで怪獣ムカデぶっ叩いたりするんだからよくわからん。やっぱ筋肉には柔軟性が大事なのかもな。繁っている時もベステルタ柔らかくてふんわりしているし……。
さらに少し歩くと、人気が少なく、物陰の多い狭い小路に差し掛かる。
「ちょ、なに、どうしたの。何か面白いものでもあった?」
「ふふ、これから面白くなるのよ」
ちろり、と真っ赤な舌を出してにやりと笑う。これは良くない表情をしているな。この表情の彼女は大概、僕の発想の斜め上のことをする。
すると、ちょっと先から人の気配が三つほど現れた。僕たちの行く手を塞ぐ形だ。
「おいおい、別嬪さんたち見せつけてくれるじゃあねえか」
「そんなとっぽいあんちゃん放っておいて、俺たちとしっぽりずっぽしやろうぜえ?」
「ぐへへ、ずっぽしずっぽし」
物陰から千鳥足の酔漢が現れた。無精ひげに、下卑た視線、だらしない口元。うーん、酔っぱらっているな。しかも、よりにもよってベステルタをナンパするなんて。命知らずにもほどがある。昼間から飲むのは止めよう。
「邪魔」
シュンッ。
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「かふっ」
「ぎょほっ」
「あゃばっ」
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「ふーん、まあまあね」
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「ええ。ほら、ジオス教徒になったスラムの男がいたでしょ? ケイといい勝負していたやつ。彼は服の袖で技の起こりを隠していたじゃない? ちょっと試したくなったのよ」
拳法使いフェイさんのことだ。
「それで服のポケットから拳抜いて攻撃したってこと?」
「そうよ。不意打ちにはいいかもしれないわ。でもまだ軽いわね。もう少し研究しないと」
うきうきのベステルタ。技を試せてとっても楽しそうだ。
いや……。それ、あれだよ。「居合拳」ってやつだよ。実際にあるのか知らないけど、本とか漫画で読んだことあるよ。発想と思い付きとセンスで即実戦レベルとか、この子の格闘センスどうなってんだよ。フェイさんに技教えてもらったらやばいことになるんじゃないか?
「か、かっこよかったよ」
「うふふ……ありがとう」
そう言ってぎゅっと抱きしめてくれた。むほほ。暴乳が僕を包む。ばっいん、ばっいんだ。
「これが面白いこと?」
それなら納得だ。この三人には同情を禁じ得ないけど。まだ地面で苦しんでいる。
「そうだけど……それだけじゃないわ」
彼女は蠱惑的な表情を浮かべ、僕の使徒棒をさすさすしてきた。え、こ、ここでですか? お外ですか?
「まだ時間あるし一回くらいする時間あると思うの。串焼き食べたせいか火照ってきちゃった」
ライダースーツを亜人っぱいの半ばまで下ろし、誘ってくる。見えそうで見えない……。むしゃぶりつきたい。理性が一瞬で飛んだ。
「わかったよ、でも場所どうするの?」
「こいつらが隠れていた路地の先がたぶん袋小路だから、そこですればいいわよ。物音がしないし。あ、周りは浄化してね?」
ベステルタ・イヤー、なんて高性能なの。
でも、誰も見張っていない中で繁るのはちょっと勇気要るな。
あ、そうだ。
「すみません、大丈夫ですか?」
這いつくばる酔っ払いあんちゃんたちに声をかける。
「……これが大丈夫に見えるか、ごほごほっ!」
「骨いったこれ骨いったわ」
「いでぇぇよぉおお……」
ですよねー。一般人がベステルパンチ喰らったら普通立てないよ。そうとう手加減されたみたいだけど。
「まあ、酔っぱらって絡んだこっちも悪かったけどよ……」
お、このダメージの少なさそうな人はいくらか理性があるな。交渉開始だ。
「彼女とっても気が荒くてね。しかもEランク相当の冒険者だから強いんだよ」
ラーズさんお墨付きだし間違いではないはずだ。
「Eランク!? マジかよ……。それなら命があっただけでめっけもんだな……」
あいつら頭おかしい……とぶつぶつ呟く。ラーズさんも相当だったけどやっぱ上位組は頭おかしいのか。
「うんうん。それで悪いんだけど、僕たちこの先でしばらく繁るからここで見張っておいてくれないかな? なに、お昼ご飯を食べるくらいの短い時間だからさ」
「冗談じゃねえ。俺たちも悪かったが、そっちの獣人のせいであばらが痛えんだ。やってられるかよ。ていうか繁るってなんだ」
吐き捨てるように言う男。まぁそうなるな。
「こっちも悪かったと思っているよ。だから謝礼金代わりに一人当たり銀貨二枚払うよ。それでどうかな?」
合計二万ソルンのお金をじゃらつかせると男は目の色を変えた。
「二万! 一日働いたってそんな稼げねえのにいいのか? 立っているだけだろ?」
あ、ちょっと怪しまれている。流石に虫が良すぎたか。よし、ここは怪我の功名狙いでいくか。
「まあそれはついでかな。あと、僕たちの名前を友達や知り合いに広めておいて欲しいんだよ。もちろん良い噂をね」
「良い噂? おいおい、あんたらやべえのか? 俺は犯罪はやらないぞ」
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「僕たちも犯罪はやらないよ。ただパーティー名が目立ってしまってね。『亜人の星』って言うんだ。さっき初心者講習で派手にやらかしたからギルドで訊けばわかるよ」
「亜人だって? 正気かよ」
心底残念そうな目で見てくる男。うるさいやい。
「はー、あんたら訳わかんないやつらだな。分かったぜ。噂は適当に広めておいてやるけど、期待すんなよ?」
「もちろん。さらっと褒めたり話題にしてくれるだけでいいよ」
良かった。なんとか話がまとまりそうだ。まずは亜人が話題に上るところが重要なんだ。
「それならだいぶ割の良い仕事だぜ。へへっ。あ、ここで見張っておくんだよな。言っておくけどこの先何も無いぜ? ぼろっちぃ長椅子があるくらいだ。ていうか繁るってなんなんだ?」
「それは知らない方が身のためさ」
知ったが最後、人間が経験できない快楽地獄に身を投じることになるかもしれないからね。
じゃらじゃら、と銀貨を手渡した。
「ま、それもそうだわな。うひー! 臨時収入だぜ! おい、酒買って来い!」
男がうずくまる他の奴らに言った。おいおい、また酒かよ。これで仕事手につかないとかは無しだぞ。
「ちゃんと仕事してね? さもないと……」
ベステルタに目くばせすると、彼女はハッ、として頷いた。口元がニヤニヤしている。落ちていた酒瓶を足で器用に蹴り上げると、
「シッ」
しゅばばばばっ!
小指の爪で輪切りにした。
「ひぃい」
男が腰を抜かす。
「うふふ」
ご機嫌アゲアゲなベステルタはさらに輪切りにした酒瓶を、空中でS字にキャッチした。
静寂の後、彼女が手を開くと。
「さ、酒瓶が」
酒瓶が割れずにボールみたくぺちゃんこになっていた。うーん、握力いくつなんだよ。そんなんでこすられたら僕の使徒棒破裂するんだが。
「こうなっちゃうから気を付けてね」
忠告しておく。
「わ、わかった。あんたらが戻るまで酒は止めとく」
こくこく、と頷く男。よしよし、これなら大丈夫か。
「ケイ、いつでもいいわよ?」
袋小路はお世辞にも綺麗とは言えなかったけど、浄化したら引くほどきれいになってしまった。これ、後で騒ぎにならないかな……。おんぼろの長椅子がぴっかぴかのイ〇アにでも売ってそうな品になっている。まぁ、そこに手をついて彼女が誘っている訳なんだけど。
ふりふり。
ぷりぷり。
ライダースーツのお尻の部分がぱっくり割れている。おいおい、ゴドーさん、あんた天才だよ。中には糸を引く蜜壺、艶めかしく濃い香りがむわっと立ち込める。
「獣みたいに激しくね?」
くっ、我慢できん。犬の散歩in野外だぜ。ベステルタの声を抑えている感じがめちゃくちゃ興奮した。
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