119 / 160
偽神編
閑話・特等席から見る景色 1
しおりを挟む(アンティエーヌ視点)
「覚えとけ。お前は俺のものだ」
リオ様がティグレ様にそうおっしゃいました。
なんてこと…!
あまりのことにわたくしの体温が急上昇し、目の前が涙で歪みます。
なんという……なんという感情でしょう。嬉しくて。恥ずかしくて。叫び出してしまいそうな幸福感…!!挑むような、勝ち誇るようなリオ様に、ティグレ様のお顔が一瞬ですが縋るように歪みました。
もっ…萌え…!これが『萌え』でございますね、王妃殿下!!
わたくしは心の師を思い出し、神に感謝の祈りを捧げます。ありがとうございます神様!ありがとうございます世界!!
わたくしがリオ様と出会ったのは15歳の時。何があったかは存じ上げておりませんでしたが、リオ様はとても怒っておいででした。そうして騎士団長に瀕死の重傷を負わせては笑顔で「治してくれ」とおっしゃい……延々とそれが続きました。静かな怒りに燃えるリオ様はそれはそれは恐ろしく、けれど今まで目にしてきた何よりも美しい少年でした。後に聞いたのは、あれは『騎士団の性根を正す稽古』らしいです。そのお稽古が終わり、騎士団長様も騎士団の隊長格の方々もとても澄んだ目をして神殿へ喜捨をくださいました。
『お稽古』が終わり、リオ様は年相応の幼さで笑い、侍従の少年に食事の給仕をされていました。
キュン…!とわたくしの心が跳ね上がりました。
えっ……な、なんでしょう、これ…。神殿でわたくしの世話をしてくださる側仕えにそれとなく聞いてみると、「それは恋でございますよ!」と頬を染めて祝福されました。
……これが、恋…?
確かに書物で見たように、リオ様を思い出すと鼓動が速くなります。侍従の少年に向けた笑顔を思い出すと、何故か恥ずかしくなって走り出したくなります。わたくし、あの笑顔を守りたい。ずっと見ていたい。
わたくし、リオ様のお嫁さんになりたい……!
そう、お嫁さんです。お嫁さんは、そのお方の一番近くにいることにできる地位です。リオ様のお嫁さんになりたい、と言うと、『神殿のお父様』の神官長はうれしそうに、でも困ったような顔をして。『公爵家のお父様』は「まだ嫁にはやらぬ」と臍を曲げてしまわれました。
そんなことはできない。ええ、わかっています。わたくしは第一王子殿下の『婚約者』。18歳になれば白紙になる契約ですが、それからすぐに…というわけにはまいりません。わたくしの『説得』に当たったのは、同じ女性の王妃殿下でした。けれど、王妃殿下は何度かわたくしに聞き取りをした後に嬉しそうに鼻息を荒くして
「アンティエーヌ、貴女には才能があるわ!」
そうおっしゃったのです。
才能?なんのことでしょう?なんの『才能』なのでしょう?
1,043
お気に入りに追加
2,537
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!
ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。
婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。
「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」
「「「は?」」」
「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」
前代未聞の出来事。
王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。
これでハッピーエンド。
一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。
その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。
対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。
タイトル変更しました。
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる