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偽神編
解放?するわけねえだろ
しおりを挟む「ティグレ…!可哀想!どうして……」
おん?
クソビッチが目を潤ませた。芝居掛かったそれに周りの男どもはいたく感激しているようだ。同時に魔力反応感知。種類『魅了』。それも濃厚な、絡みつくような精神操作系の魔力。
「リオ様!ひどいです!!どうして!?どうしてですか!ティグレはこんなに苦しんでいるんですよ!」
「……は?」
なにを……言い出しやがった、この、糞女は……?
「嘘の証言をさせるなんて!!ティグレをこんなに苦しめて!」
グゥ…っと腹の奥から不快なものが迫り上げてくる。クソビッチがティグレに抱き付き、脂肪を押し当てる。
「可哀想…!」
布越しにティグレの肌を這う汚らしい指。綺麗なティグレに、その汚物に塗れた指、が……
「もうティグレを解放してください!そんなにアンティエーヌさんが大事なんですか!!愛のない婚約で縛って!嘘を言わせて!自分は浮気して!!こんなの…!こんなの、ティグレがかわいそ 」
「黙れ!!」
「ひっ…!?」
「………っ!?」
「…………」
思わず、だ。思わず感情的に叫んでいた。威圧の魔力も瞬間だが抑え切れなかった。腹にグツグツ煮え滾るのは、ぶつけて発散できなかった怒り。
「………はぁ…」
落ち着け、俺。ゆっくりと息を吐き出す。
そうだ、落ち着け。偽神戯はいつだってそうじゃないか。奴らはいつだってこっちの感情を逆撫でしてくる。感情を揺らして、汚い爪で掻き毟って。ゲームを引っ掻き回して。無遠慮に心の奥底まで踏み込んで来ようとする。
それが今回、喧嘩別れしたばかりのティグレだっただけだ。それだけのこと。
「リオ様…」
アンティエーヌがそっと俺の腕に触れた。精神安定の魔力を感知。ありがたい。……ティグレの冷め切るどころか『無』の表情で挫けそうになるけど。
踏ん張れ、俺。そうだ、今日帰ったらリサに風呂を入れてもらおう。長風呂して、そんで、辛子の効いた、ハムが分厚いハムサンドを作ってもらおう。ほら、目の前にご褒美だ。頑張れるだろう?
『リオ』
ティグレとの思い出が過ぎる。
そうだった。そうだよなァ。思い出すよなぁ。仕方ねえじゃねぇか。俺を一番に甘やかしてくれてたのはティグレだ。
グッと奥歯を噛み締める。
仕方ねえよ。だって諦め切れねぇもんなァ!
「ティグレ」
『無』のティグレの 猫睛石が一瞬だけ揺れる。
「ティグレ、俺は、お前を手放さないからな」
「!?」
「解放?するわけねえだろ。お前は俺が拾った『猫』だ。たかが一度目の脱走くらいで諦める訳ねえだろ。他所で美味い飯食ってたって、お前はまだうちの『猫』なんだ。まだ首輪は付いてる。お前がどこまで遠くに逃げたって、どこまでも追いかけてとっ捕まえて、連れて帰る」
ティグレが泣きそうにくしゃっと顔を歪めた。
うん、我ながらドン引きだ。でもさあ、諦めてくれよティグレ。俺は貪欲で我儘なんだ。こうと決めたら曲げない偏屈者なんだ。
「覚えとけ。お前は俺のものだ。そこのクソビッチにも糞餓鬼どもにも、ましてや偽神やぽっと出の男になんか渡さない」
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