95 / 160
学園編
閑話・それは甘美な沼
しおりを挟む(アビントン侯爵令嬢視点)
わたくしはパトリシア。アビントン侯爵家の次女にございます。我がアビントン侯爵家は代々『王家の影』を務めさせて頂き、例に漏れずわたくしも王妃殿下の専属としてお仕えしております。表向きは学生として王立学園に通い、『主人公』と『攻略対象者』と呼ばれる者たちの監視を任されております。余談ですが『攻略対象者』の1人、ギャリー・グローヴスはわたくしの婚約者でございますが、婚約を白紙にする寸前でございます。『げえむ』が無事に終わり、『主人公』がグローヴス様を選ばなければ、婚約の継続も白紙もわたくしの判断、と陛下からお言葉を頂いていたのですが……無理ですわ、無理。わたくし、夫でも恋人でも下半身に脳がついているような男はお断りですわ。
本日の報告をするべく、王宮を進み、父が勤務する第三秘書室へと向かう。そこから狭い壁の裏の通路を進み、王妃殿下の元へと参じました。
「(王妃殿下、わたくしです)」
「まあ、パトリシア。待っていましたよ、お入りなさい」
壁をココ、コッ…と決められた波長で叩くと壁がズレて扉になる。王妃殿下の考えた魔道具です。
「本日のご報告に参りました」
「いつもありがとう。……その…おふたりは恙無く…?」
「はい、いつも通り、仲睦まじく」
「まぁ…っ」
少女のように目を潤ませる王妃殿下は、とても三十路を越えたとは思えない愛らしさだ。
「それでそれで?!今日のおふたりはどうだったのかしらっ」
「それが……」
わたくしはきゅっと眉根を寄せる。
「王妃殿下……わたくし…わたくしは………甘美な罪を知ってしまいました…!」
「あらっ…まあ?まあまあまあ!パトリシア!貴女、とうとう目覚めたのですね…!」
「か…完敗にございます……まさか、まさかあのような……」
わたくしは甘く見ていた。プレンダーガスト侯爵の毒を。物心つくまえから『影』として生きていけるように育てられた。なにものにも動かされない、冷静な心。あらゆる誘惑にも耐えてみせた。恋になど落ちぬようにと、世界中の美男美女と言葉を交わし、耐性を付けてきた。それが、まさか ーーー
「まさか…っ!あのような甘美な世界があろうとは……!!」
「腐腐腐腐腐腐……知ってしまったのねパトリシア……さあ、見せてちょうだい。貴女の見た楽園を。真実を!」
「……はい…」
わたくしは胸元のブローチを操作した。これはその時の情景を嘘偽りなく記録する魔道具だ。『すくりーん』と呼ばれる白い垂れ幕にあの講義室での情景が映し出される。
「まっ……まあっ!?…ふぁっ!?……あ、あ………ああっ!ま!?むっほぅ!」
王妃殿下がおかしな声を上げ、涙と鼻水でその顔をぐしゃぐしゃにしながら跪いた。……あ。鼻血も出てるわ…。わたくしは王妃殿下にそっとハンカチを差し出した。
「と、と、と…東野様…っ!えっろぉぉぉおおおおお!!メチャエロォォォオオオオオ!!婚約指輪にチュッとか……あざと可愛エロ!!ンッホォォオァァァ!勃ってる!!あれ絶対ティグレきゅんガン勃ちだわエロすぎわろたああああああぁぁぁ!!ウッヒョオオオオオオオオオオ祭りじゃわっしょおおおおおおおおおおぉぉぉいいいい!!」
ああ…王妃殿下が何をおっしゃっているのかわかりませんが、きっとそう……とても尊い事なのでしょう。
1,943
お気に入りに追加
2,537
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる