悪役令嬢の末路

終わりと始まりは灰色の雨とともに

　魔女の家を包み込んでいた炎は、ベラドンナが魔法で雨を降らせたため、綺麗さっぱり消えた。
　しかし、家は全焼。残ったのは焼け焦げた家だったもの。

　ベラドンナの魔法に唖然としていた人々は我に返ったように彼女に向き直り、剣を構えた。

　その瞬間、ベラドンナは硬直の魔法をかける。
　凍りついたように固まった人々の間をすり抜け、ベラドンナは赤子を抱え、燃えた家に近づき、立ち止まった。
　


　「リィナ、カルロス…」

　ベラドンナの涙は結晶と化し、地面を転がる。
　そこでベラドンナは気づいた。

　「森のあちこちにある結晶は、あなたの涙だったのね。あなたの、嘆きだったのね…」


　ここは、あなたの嘆きの森。



　ベラドンナは魔法をかけた。

　全てのものに忘却の魔法を。そして、森を護る盾を。

　ベラドンナは腕に抱いた赤子を抱きしめた。

　「私があなたを守ってみせる。…………必ず」
　守れなかった者たちに代わり、今度こそ。



　リィナ、あなたが安らかに眠れるように。
　この子が健やかに育つように。

　私が、すべて守る。

　赤子を抱えたベラドンナの背中は小さくも、決意に満ちていた。


＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　「婆様！それで、それで⁉︎」
　「私は森に結界を張って、限られたものしか入れないようにした。何百年も前の話だから領主はもうポックリ逝ってるさ。あぁ、そうだ。リィナとカルロスが亡くなった後、いきなり木にリィナが管理していたポータルの門番に任命されたのは予想外だったねぇ。寝耳に水ってもんだ。あの時は苦労したよ」
　「へーえ。それじゃ、婆様が死んじゃったら、誰かがポータルの門番を継がなきゃならないってこと？」
　「そうさね、だが、私もまだまだ長生きするから、当分は心配ないさ」
　「あーよかった！ポータルの点検とか面倒臭そうだし、」
　「アイシアナ！」

　その瞬間アイシアナが椅子から飛び上がったのは言うまでもない。