【完結】どいつもこいつもかかって来やがれ5th season

pino

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4章 文化祭

※ でも俺もうあんな思いするの嫌です

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 ※空side

 貴哉と喧嘩した。
 貴哉に避けられた。
 貴哉に拒否られた。
 
 貴哉は俺じゃなくて桐原さんを選んだ。

 打ち上げの二次会のカラオケでは俺は歌わずにただ椅子に座って一条さんの隣にいた。
 打ち上げからずっと一緒にいるけど、さっきとは打って変わって一条さんは難しい顔をしていた。
 多分貴哉の事を考えてるんだと思う。

 打ち上げで貴哉と言い合いになって喧嘩してから何とかしてくれようとしてるのは分かった。
 それでも桐原さんが跳ね除けて今俺と一条さんは賑やかな中、端っこでポツンとただ座っているだけだった。

 はぁ、つまんな~。
 何がつまんないって桐原さんの態度だよ。
 あんな見せ付けるようにキスなんかしやがって。
 他の奴らは喜んでたけど、俺からしたら洒落にならねぇよ。

 絶対俺がいるからだろ。
 さも俺のものだと言わんばかりに敵意剥き出しにしやがって。


「空くん。今穴が開いてると思うんだよね」

「はい?靴下の話ですか?」


 ずっと黙って考え込んでいた一条さんが唐突に穴がどうとか言い出した。


「違うよ。いーくんだよ。多分今がチャンスだ」

「どこがですか?あんなに引っ付いてるじゃないですか。てか俺もう帰りますよ」


 どう見ても二人はずっと一緒にいて、どうせ俺が行っても桐原さんにムカつく事言われて追い返されるだけだ。


「待って。最後に貴ちゃんと話して行きなよ」

「だから貴哉には桐原さんがベッタリでしょうが」

「見てみなよ」


 一条さんの視線の先には桐原さんが頭を抱えて一人で座っていた。あれ?貴哉は?
 さっきまで二人で話してたじゃん。


「さっき貴ちゃんだけ部屋から出て行ったんだよ。トイレじゃない?でも様子が変だったんだ。元気ない感じ。それにいーくんも」

「……でも俺もうあんな思いするの嫌です」

「そっか。なら無理にとは言わないよ。ただこのままいーくんといたら貴ちゃんが貴ちゃんじゃなくなる気がしてさ」


 一条さんが言う事は分かる。
 俺から見ても桐原さんはおかしくなっている。
 前から独占欲は強い人だと思っていたけど、あんな風に人前でわざといちゃついたりなんてしなかったし、俺と貴哉が話すのだって許してくれてたんだ。

 あの貴哉が今の桐原さんといられるとは思えない。我慢してるんだろうけど、もし貴哉も嫌がっていないなら俺はもう貴哉に声を掛ける勇気はない。


「分かりました。もう帰りますけど、トイレにいるか寄ってみます」

「うん。今日はありがとう。またね空くん」


 一条さんを残して俺は立ち上がって、ドアの方じゃなくて桐原さんの元へ向かう。
 一人でボーッとしている桐原さんの前に立つと、気付いたようでチラッと見られた。
 

「桐原さん、俺帰ります」

「そうか。気を付けて帰れよ」

「最後に貴哉と話がしたいんです。いいですか?」

「……いいよ。あいつならトイレにいる」

「…………」


 あっさり許可が出て思わず固まってしまった。
 一条さんが言うように二人に何かあったのか?
 そんな俺に桐原さんは睨むように見て来た。
 機嫌悪いなー。


「なんだよ?」

「いや、それじゃあ失礼します」

「おう」


 桐原さんは最後までそんな感じだった。
 さっきまでの感じなら絶対に許可してくれなかったのに。

 俺はそんな桐原さんに違和感を感じながらも嫌な予感がしたので少し急いでトイレへ向かった。

 トイレのドアを開けると確かに人の気配はあった。俺が中を覗く直前に何かが奥の個室に入ったような?
 もしかして貴哉か?
 だとしたら何で隠れるんだ?

 俺は誰もいないトイレの中を進んで奥の個室の前まで来て中を確かめる。

 いた。貴哉だ。
 トイレの壁に背中を付ける形で右手で口元を押さえている貴哉が目に入って俺は驚いた。
 
 泣いてる?


「貴哉?」

「そ、らっ!」


 俺が声を掛けると、貴哉の目から大粒の涙が溢れ出した。
 まさかの光景に一瞬どうしたらいいのか分からなかったけど、俺は貴哉に近付いて様子を見る事にした。


「どうしたんだ?何で泣いてるんだよ?」

「俺っ……わかんなっ……ううっ」

「ちょ、とりあえず落ち着こ?」


 溢れる涙を一生懸命に拭きながら、貴哉が喋ろうとしていたけど、まるで分からなかったからとりあえず背中をさすってやった。

 桐原さんの態度もおかしかったし、喧嘩でもしたのか。さっきまであんなにイチャイチャしてたのに何が原因で?

 俺はもう諦めて帰ろうと思ってたから、急展開に戸惑っていた。

 とにかく貴哉が心配だ。
 このままにはしておけない。
 落ち着いたら話を聞こう。

 俺は貴哉が泣き止むまでずっと背中を撫でてあげた。

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