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4章 文化祭
茜、お疲れ様!
しおりを挟む店の中に戻ると、みんなは帰る支度をし出していた。そして待っていたかのように、詩音が茜を見付けて寄って来た。
「二之宮くん~。そろそろお開きにする事になったんだけど、最後に挨拶しようか?」
「あ、はい」
俺は二人の横を通って、犬飼の所へ向かう。
俺に気付いた犬飼は機嫌が良さそうだった。
「おい犬飼」
「何ー?」
「茜から聞いたぞ。この後二人で過ごすんだろ?」
「そうなんだよ~♡多分脈あり♡」
「それさ、絶対他の奴には言うんじゃねぇぞ。どこでバレるか分からねぇからな」
「でも二次会組には話して協力してもらうつもりだぞ?」
「ダメだ。そんな事が桃山にバレでもしたら茜が辛い思いするだろ。言っておくけど、俺はお前を応援するんじゃねぇ。茜を応援してんだ。茜を幸せに出来る奴なら相手は桃山でもお前でも良いと思ってるんだ。だから、茜を手に入れたければ今付き合ってる桃山には絶対バレないようにしろ」
「本当お前って生意気~。でも茜ちゃんの一番の理解者は秋山だって分かるからその言い付け守ってやる。俺は先に帰る事にしてどこかで茜ちゃんと合流するわ」
犬飼は嫌な顔をせずに俺の言う事を聞きながら笑っていた。
良かった。俺の思いが伝わったみてぇだな。
犬飼は桃山と違って頭が良い分聞き分けも良いし、良い事や悪い事も分かった上で動いてると思うんだ。その点桃山はそんな境目も無いぐらいに自分の思うままに行動する奴だ。茜が嫌だと思ってもな。
そういう面では安定してるのは犬飼なんだ。
後は茜がどっちを選ぶかだけ。
一番大切なのは茜の気持ちだからな。
どちらにせよ茜を傷付けやがったら俺がどっちもボコボコにしてやるけどな!
犬飼と話してたら詩音や茜の話が始まった。
「みんなー注目~!今日は本当にご苦労様でした♪僕はもう引退しているから、ほとんどみんなに任せっきりだったけど、とても良くやってくれたと思っているよ。これからも新しい演劇部として盛り上げて行ってくれる事を祈って僕はここで正式に引退します。今までありがとうございました」
詩音らしいかっこいい挨拶に、啜り泣く声がちらほら聞こえて来た。茜もだけど、詩音に憧れて演劇部に入った奴もいるからな。
そして詩音の後に前に出たのは茜だ。
詩音同様、茜も今日で退部するからな。
「えっと……私事で恐縮ですが……俺は今日で演劇部を辞めます。一部の人には話してある事で、次の副部長は小平が務めてくれます。演劇部での経験は俺にとってかけがえのない大切な物となりました。これからも皆さんの発展を祈って……あの……俺の自分勝手な行動言動で大きな迷惑をかけてすみませんでした!思い返すと自分でももっとやり方があったんじゃないかって反省してます。今日まで一緒に過ごしてくれてありがとう……本当に申し訳ありませんでしたっ」
初めはありきたりな挨拶だったけど、途中から茜の表情が険しくなって、最後には腰を折って深々とみんなに向かって頭を下げていた。
静まり返る店内で、先に行動を起こしたのは演劇部顧問のマモルだった。
マモルは豪快に一人で拍手をし出してカウンター席から立ち上がり、店の人に合図を送っていた。
「薗田も二之宮もお疲れ様!二人共大役を良くやってくれたな!俺達もお前らのこれからを応援しているぞ!」
マモルの言葉に店内は拍手の音でいっぱいになった。もちろん俺も拍手した。
「二之宮くん、謝る事なんかないよ。君は自分を曲げずにやり遂げたんだから。そんな君を副部長に選んだのは紛れもない僕だ。君が謝るのなら僕もみんなに謝らなければいけなくなるだろう?」
「そんな、薗田さんは……」
「ほら、みんなの顔を見てごらん。今では二之宮くんの今までを恨んでいる人なんていないよ。二之宮くんがいなくなる事が寂しくて悔しくて仕方ない人ばかりなんだよ」
「みんな……」
詩音の言う通りだ。今ここにはうるさいのがいなくなって嬉しいなんて奴はいないだろ。
みんなが笑顔でいるのは、詩音が笑顔で見送ろうと声を掛けたからだ。
拍手が鳴り止む前に店の人が大きな花束を二つ持ってマモルに渡していた。
「ワオ~!これは僕も知らなかったな~!」
「御影先生……」
マモルは花束を両手にしっかり持って詩音と茜の前まで歩いて行く。
そして詩音には真っ赤な薔薇が入った赤と白系の花束を、茜には黄色いひまわりが入ったオレンジ系の花束をそれぞれ渡した。
「ほいお疲れさんっ♪」
「御影先生、素敵な花束をありがとうございます♪」
「あ、ありがとうございます!」
三人のやり取りにまた拍手が大きくなった。
へへ、茜の奴泣きそうな顔してやんの。
初めて俺が茜と顔を合わせた時とは別人みたいだぜ。
茜、お疲れ様!
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