【完結】どいつもこいつもかかって来やがれ5th season

pino

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4章 文化祭

Tシャツも汚しちまったぜ

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 演劇部での俺の出番終了後、裏で衣装を着たまま椅子に座っていた。

 これで俺の任務は終わった。
 多分、練習通りに出来たと思う。
 いや、失敗してたとしても今日はその場で怒られる事がないから分からないんだ。

 とりあえず、俺は出番が終わったからただ椅子に座ってボーッとしていた。


「おつー」

「……雉岡か」


 声を掛けられて振り向くと、雉岡がニコニコ笑顔でそこにいた。
 

「良かったよ秋山。今までで一番良いんじゃね?」

「そうか?自分じゃ分からねぇや」

「お前は本当に良くやってるよ。俺だったら途中で辞めてるもん」

「仕方ないだろー。やらなきゃ夏休みも来なかったし、進級も出来ねぇんだもん」

「だから、それが凄いんだって。何かの為に頑張れるって中々出来ないぞ?」

「…………」


 俺は退学になんてなったら母ちゃんに怒られるから、ただそれが嫌でやっていただけだ。
 それなのに、それを褒められて何となく不思議な気持ちになった。

 
「分かってない顔してんな。演技だけじゃねぇ、お前には感謝してるよ。演劇部に来てくれてありがとう」

「雉岡……」


 淡々と喋る雉岡のベロに付いてるピアスが気になったけど、俺は雉岡にお礼を言われて何故か涙が出そうになった。
 
 俺は自分で言うのもなんだけど、周りより面倒くさがりだと思う。朝早く起きるのも面倒くさいし、勉強も面倒くさい。説教されるのも面倒くさい、やりたくないのにやらなきゃいけないのが面倒くさい。

 そんな俺なのに、ありがとうって言われて今まで我慢していたものが溢れ出した気がした。

 気付いたら俺の目からはポロポロ涙が溢れていて、泣きたくもないのに何故か泣いていた。

 そんな俺に雉岡は慌て出した。

 
「あ、秋山!?頼むからここで泣くな!お前を泣かしたら怒る奴ここにはいっぱいいるんだから!」

「だって、俺っ……自分でも頑張ってるって思ってたからっ……誰かに頑張ってるって言ってもらえて……あと、ありがとうって言われてっ頑張って良かったってっ」


 まるでガキみてぇな事しか言えなかった。
 でも、思ってる事を伝えたかった。
 ただの泣き虫じゃねぇよって知ってもらいたくて。

 俺は面倒だけど、自分なりに頑張ったつもりだった。
 初め俺は演劇部に歓迎されてなかったんだ。
 だけど、俺自身の為にやってやるって割り切ってやって来た。初めの頃の茜とは睨み合ってたし、桃山にも目付けられそうになったし、七海にも甲高い声でいちゃもんつけられたし、バーベキューん時には犬飼達に嫌な事もされたし、後半なんかは茜にボロクソに怒られたりもした。
 
 それでもそんな奴らともいろいろあって、こうして普通に話せるようになって、仲良くしてくれて……

 あ、そうか、俺は自分一人で頑張れたんじゃないんだ。みんながいてくれたからここまでやって来れたんだ。


「うわぁん!雉岡ぁ!俺っみんなの事大好きぃ!」

「馬鹿!大声出すんじゃねぇ!」

「何だ!?何があったんだ!?」


 感極まって声に出して泣いてると、一生懸命木の板で出来た背景を運んでいたトモが心配して近寄って来た。
 トモもそうだよ!こいつにはバーベキューん時に乳首舐められたけど、今では友達になれたんだ!すげぇキモかったけどな!

 俺はトモに飛び付いて、トモの着ていたTシャツで涙と鼻水を拭いた。
 なっち並みにガタイの良いトモは、俺にしがみつかれてフルフル震えて今まで聞いた事のないような低い声を出した。


「貴哉を泣かしたのは吉乃か?」

「待て待て!俺は褒めてお礼言っただけだ!秋山!泣いてないでちゃんと説明しろ!」

「許さねぇ……いくら吉乃でも貴哉を泣かす奴は許さねぇ!」

「辞めろトモ!ここで暴れんな!おいお前ら!トモを取り押さえろ!」


 トモは俺を身に付けたまま雉岡に近付いて行こうとする。慌てる雉岡は周りにいた数人に声を掛けてトモと止めさせようとしていた。
 
 少し落ち着いた俺はさすがにこのままじゃまだ本番やってる表に支障が出ると思ってトモを止める事にした。


「トモ、雉岡の言う通りだ。俺、感動して泣いてただけだから暴れんな」

「そうなのか?吉乃にいじめられたんじゃねぇのか?」

「俺が雉岡なんかにいじめられるかよ」

「はい。俺なんかがいじめませんよ~」


 俺の声を聞いてトモの動きが止まった。そしてそのまま俺をジーッと見てくるトモ。
 あ、俺からトモに抱き付いたのって初めてじゃね?いつもトモから突進されてたけど、こうして引っ付くの初じゃん。
 何となく気まずくてそーっと離れると、トモは寂しそうな顔をした。


「あー、いきなり飛び付いて悪かったな。Tシャツも汚しちまったぜ」

「全然いいんだ!この秋山の汗と涙とよだれが付いたTシャツも洗わないでおかずにする!約束する!むしろありがとう!」

「よだれは付けてねぇよ!キモい事言ってんじゃねぇよ!そして余計な事に使わねぇでちゃんと洗濯しろ!」

「二人共マジで黙って!二之宮に怒られるから!」


 いつものトモにあらかた突っ込みを入れて、雉岡に怒られて俺とトモはやっと大人しくなった。
 茜は怖ぇからな。
 ここからは大人しくしてよう。

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