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2章 文化祭までのいろいろ

こいつら本当に年上かよ

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 俺は今目の前にいる恋人に複雑な感情を抱いていた。
 目の前で紘夢とイチャつかれ、二人にムカつくような事をされて、見事に俺はキレた。
 でも俺はキレて一人で歩いてる途中で、気付いたんだ。多分あれは紘夢が思い付いた遊びだ。じゃなきゃあの二人が俺がいるのにあんな事しねぇ。特に伊織はな。
 きっと伊織も我慢の限界で紘夢の口車に乗せられたんだろ。

 やっと分かったよ。伊織の気持ちが。


「おいおい、やめてくれ。俺は平気だ。貴哉は貴哉の好きにしてくれれば……」


 伊織はそう言うけど、本当は嫌なんだろ?
 分かるんだよ。だって、俺と伊織は似てるから。
 そうやってまた我慢して、自分の限界にすら気付かないでいやがる。
 俺が良い例だ。伊織より気が短ぇからな俺は。


「良くねぇんだって!そうやって甘やかすから俺はこんな風に自分勝手にキレるんじゃねぇか!」

「…………」


 またすぐ感情的になって大きな声が出ちまった。
 伊織は困ったように笑っていた。
 俺は自分の気の短さにもどかしくなって俯いた。


「あ、悪い。またキレちまった」

「いや、俺が否定したからだろ。聞くよ。貴哉の話。言って?」


 伊織はそんな俺を叱るでもなく、落ち着いた様子で笑っていてくれた。
 また甘やかすのかよ。
 でもさ、さっきはああ言ったけど、伊織に甘やかされんの好きなんだわ。
 だから俺は自分が思ってる事を伊織に話せた。


「お前言ってたよな。俺の事、やっと手に入ったって。でもさ、手に入っても俺がこんなだから辛かっただろ。さっきお前らにハメられてやっと分かったわお前の辛さ。俺だったらとっくに無理だわ。伊織みてぇに、相手の事考えようとか思えねぇ。もういいやってなっちゃうんだ」


 俺は伊織みたいに、俺はずっと変わらず側にいるからお前の好きにしろなんて言えない。
 ムカつくもんはムカつくし、嫌なもんは嫌だ。

 そこは俺と伊織が似てない所。


「もういいやって思っても待っててくれたじゃん?それってまだ無理じゃないって事じゃねぇの?俺の事考えてくれてんじゃん♡」

「あ……これは……」


 伊織に言われて今自分が帰らずにカフェのテラス席でアイスコーヒー飲みながら残ったたこ焼き食ってたのを思い出す。
 
 伊織の気持ちに気付いたら足が止まって喉乾いたからここに座っていたんだ。
 伊織とまた会いたいって思ったから。


「正直帰ったと思ったから驚いた。電車だったら追いつかないしお前んちまで行くつもりだった。でもこんなに近くにいてくれてすげぇ嬉しい♡」

「伊織……お前が見付けてくれて良かった」

「何度も言うけど、俺は追うのが好きなんだ。どんなに貴哉が逃げても俺は必ず探し出して捕まえてやる♡」

「はは、そうだったな」


 俺はずっと笑って俺の話を聞いてくれた伊織の事が愛おしくなって笑うと、伊織は立ち上がって俺の手を引いた。
 

「貴哉、俺んちに行こう」

「……うんっ」


 そのまま俺の手をギュッと握ったまま車通りのある道へ向かう。伊織は少し急いでるようで、それに追い付くのがやっとだった。う、足の長さが違ぇの実感するぜ……
 そして当たり前かのように慣れた感じでタクシーを拾ってそれに乗り込み真っ先に自分家を指定していた。

 車内では特に会話は少なく、それでもお互い手は握ったまま。今の俺達はそれだけでも十分だった。

 途中で紘夢からメッセージが届いてそれを読んでみた。
『貴ちゃーん。さっきは意地悪してごめんね?でも貴ちゃんなら許してくれるよね♪ネタバラシをすると、俺といーくんで貴ちゃんをヤキモキさせようってわざと貴ちゃんが嫌だなと思うような態度を取っていたんだ。だからいーくんとも仲直りしてくれたら嬉しいな♪いーくんは途中で笑い堪えたり貴ちゃん愛で上手く出来てなかったみたいだけど、俺は楽しかったよ~♡それじゃあ良い休日を~』
 って言う文面と、写メが一枚。さっき伊織が撮ってくれた俺と紘夢が花畑の前で並んで写ってるやつだった。
 俺はピースしながら変な方向向いてさも不機嫌そうな顔してて、紘夢は満面の笑顔。今思えばこの時の紘夢は訳が分からず捻くれる俺を見て楽しんでたんだろうなと分かる。

 こいつら本当に年上かよとおかしくなって笑えた。

 そして隣にいる伊織の肩に頭を乗せて俺は思う。
 あんなに怒っていたのが不思議なぐらいに今は心が落ち着いてる。

 本当に好きな奴といるってこんな感じなんだなきっと。

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