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2章 球技大会
あのクソ生意気なお前が泣くぐらいの事だ
しおりを挟む花壇にいる渡辺の所へ行くと、しゃがんで何かをしていた所、俺に気付いて顔を上げた。
どうやら草むしりをしていたらしいな。
「よう、久しぶりだな」
「秋山~。そう言えば久しぶりだな。てかちゃんと学校来てるのか?」
「水曜から来てるよ」
「あ、謹慎くらってたんだっけ?ご苦労様」
ニシシと意地悪そうに笑って言われた。
渡辺はこういう奴だ。いつもマイペースでいい加減な所がある。ボラ部でも仕事っていう仕事は全て副部長だった風間に任せっきり。気付けばいつもこうして庭いじりをしている男だ。
手袋を外して少しずり落ちたメガネを掛け直しながら立ち上がった。
背は高く、見た目は普通なんだよな。
ただ何を考えているのか読めない男だ。
「今日はこの辺にすっかぁ。てかお前部活は?サボりか?」
「いや、これから行くとこ」
「ふーん。頑張ってんだな!偉いぞ秋山~」
渡辺は笑顔で俺にそう言った。
部活は頑張ってると思う。学校も朝はダルいけど、遅刻もしないで頑張ってる……
でも俺はこんな風に誰かに偉いなんて言われる人間なんかじゃねぇよ。
少なくとも今の俺は。
「泣く程嫌なのに頑張ってるもんな~」
「……え」
「目ぇ腫れてんぞ。何があったかは知らねぇけど、あのクソ生意気なお前が泣くぐらいの事だ。それでも部活に行こうとしてるのは頑張ってるんじゃねぇの?」
「渡辺……」
「ちょ、お前ってば俺の事呼び捨てで呼んでたの?まぁいいけどよ。でもさ、たまにはサボってもいいんじゃね?元々頑張るのとか向いてねぇんだから、俺も同じ人間だから気持ち分かるのよ」
「…………」
「本当は俺、部活なんかやりたく無かったんだ。でも葵のヤローが無理矢理作りやがって……やっと抜けられてせいせいしてるとこ!」
「じゃあ何でボラ部の部長になったんだ?」
「だから葵が勝手に決めたんだって。裕一まで巻き込んでな。裕一がやる気出してたから合わせてただけだ。ボランティアなんて興味ねぇよ、面倒くせぇ」
渡辺とはこういう人間だ。まるで自分を見ているようで変な感じもするけど、話してると楽だ。
「葵とはガキの頃から一緒にいるんだけどよ、あと元演劇部の詩音もな。ほらあの二人っていつも目立ってるだろ?何かに対して一生懸命だし、立派な夢もある。でも俺はその逆。地味だし、何に対してもやる気ねぇし、夢も何にもねぇ。そんで見かねた葵が、お前もたまには人の役に立ってみろってボランティア部なんて頭のおかしい集まりを作った訳。そしたらどこから引っ張って来たのか一個下のスーパースターの三人まで連れて来やがって。あー肩身が狭かったぜ~」
「すげぇ暴露だな」
一通り言い切ってため息を吐いてる渡辺は、現役だった頃でもここまでじゃなかったから、正直驚いた。
次に渡辺は薄く笑って言った。
「おう!もう俺はボラ部とは関係ねぇからな。でもよ、こうして引退してみると思う事もある」
「何だよ?」
「そんな面倒くせぇ集まりも悪く無かったなってさ」
「…………」
「裕一がいたからってのがデケェけど、なんだかんだ楽しかったよお前達といるの。俺はほとんど何もしてねぇけどさ、それでも集まってくれてたお前らには感謝してる。本当、ありがとうな」
「渡辺……」
「だからお前も嫌な事があっても、泣きたい事があってもまた笑え。そしてボラ部に顔出しな!あとコレ大事な事だけど、たまにはサボれ!サボると思うんだよ。またあのアホ面共に会いてぇなって」
「はは!あんた、引退してからの方が部長らしい事言ってんじゃねぇか」
きっとこれは渡辺なりに励ましてくれてるんだと分かり、俺は自然と笑えた。
ああ、渡辺の言う通りだぜ。今の俺が正にそうだ。
俺は早く演劇部部室へ行きたくなった。
「渡辺!そろそろ俺行くわ!ありがとうな!」
「おう行って来い」
きっと茜が心配してると思う。
あいつは俺の事大好きだからな。今日は紘夢と桃山は来てるかな?紘夢はともかく桃山は自分の部活行けよ。それと、今は詩音もいるはずだ。あとは仲良くなった裏方達とも馬鹿な話をしたい。
そして伊織は……
もし向こうが微妙な反応したなら怒らずにそっとしておこう。今は演劇部として文化祭で成功させる為に。
俺は一度トイレに寄って顔を洗ってから行く事にした。
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