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第2章 シャウラ村編

第31話 魔の森の開拓

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 翌朝、朝食を村の人が作ってくれて、何人かの村人も一緒に食堂で食べる。昨日魔の森から帰って来たばかりだ、村人が気を遣ってくれているのだろう。

「昨日、奥地の泉まで旅してきたんだ、今日はゆっくり休め。食事の用意などは俺達でやるよ」
「ありがとう。だが俺達にはまだやらないといけないことがある」
「そうね次は、私達4人が住む家を建てないとね」

 今いる寄合所の部屋は大広間に簡単な間仕切りを設けて、ベッドを置いただけの部屋だ。災害時の避難場所のようなものだな。

「それなら俺達に任せろ。村の中に空いている場所はいくらでもある。どこにするか言ってくれたら、俺達が建ててやるよ」

 アイシャ達とも話し合って、住む場所はもう決めてある。

「川向こうに家を建てようと思う」
「ええっ! 川向こうは魔の森だぞ。そんな危険な場所はやめておけ」
「もうすぐ川の毒も完全に消えるはずだ。川向こうとはいえ魔獣どもが川に近づいてくる。いつまたこの村が襲われるかもしれん」

 西側の魔の森と村は川を挟んで向かい合わせになっている。川が綺麗になれば水を飲みに魔獣も集まってくるだろう。いつまた村が襲われるとも限らん。

「俺達は川向こうの魔の森を切り開くつもりだ。樹木を伐り平原にする。俺達が増えた分、作物も作らんとならんからな」
「だからと言ってあんたらを川向こうにやる訳にはいかない。あんたらの食料ぐらい、俺達で何とかしてやるよ。魔の森は危険だ、止めた方がいい」

 この村は自給自足だ。ずっと村民の世話になる訳にはいかないからな。アイシャが言っていた安心して暮らせる場所を俺達の手で造る。

「だから森を切り開き、その先に壁を作るつもりだ。壁と言っても木の柵になるが、魔獣が入って来れない大きな柵だ」
「魔の森を切り開く……そんな事、本当にできるのか」
「少し時間はかかるだろうが、村が襲われないような壁を作ってやるよ」

 町にあるような城壁という訳にはいかないが、大きな木の杭を打って村の周りに壁を築く事はできる。その材料はいくらでもあるからな。

「俺達の事まで考えて言ってくれているのか……分かった俺達も協力しよう。村長には俺の方から話しておくよ」
「そう言ってもらえるのはありがたい。よろしく頼む」


 今日は1日休みを取って、寄合所でゆっくりとする。昼過ぎには村に隣接する魔の森を切り開く計画を聞きたいと、村長を始め村人達が寄合所に集まってきた。

「魔の森を切り開くなど俺達には到底無理だが、その手伝いはさせてくれ」
「家が建つまでは、ここの寄合所を使ってくれていいからね。食事は私らで作るから気兼ねなく何でも言っておくれ」

 村民達は計画を聞き、自分達にできる事はすると言ってくれた。

「これは村のためにもなる事じゃ。わしらも助けてもらってばかりでは申し訳ない。村を上げてあんたらの手助けをさせてくれ。村の皆、頼んだぞ」

 村長以下、村の人達が俺達の家造りや森の開拓に賛同してくれる。
 早速、明日から森の木を伐りに行く予定だ。危険だから先ずは俺達だけでするが、その後は村人にも協力してもらおう。


「ユヅキ。この森全部焼き払ってもいいんだよね」
「全部という訳にはいかんが、魔獣を森の奥に追うように焼いていこう」

 大火災になるとパニックになった魔獣が森から溢れ出てくる可能性がある。まずは森の中に入って、森の奥まで燃え広がらないように防火帯を作る。

「ここから川に沿って平行に木を伐っていこう。カリンも頼むな」
「ええ。4本ぐらいの幅で、一列に伐り倒せばいいかしら」

 アイシャとチセに魔獣の警戒をしてもらい、俺の剣とカリンの魔法で木を伐り倒して何も無い空間を作る。
 カリンも気兼ねなく魔法が使えると喜んで木を伐り、俺も超音波振動を起動させた剣でスパスパと倒していく。
 今度は俺とカリンが魔獣の警戒をして、チセとアイシャで倒した木を移動させてもらう。

「師匠。こっち側の燃やす方に移動させればいいんですよね」
「ああ、頼む。木のない部分を作ってくれたらいい」

 チセは手で、アイシャは馬を使って木を移動してもらう。少し移動させるだけなのであまり時間をかけずにできた。
 大きな音を立てているから、魔獣も警戒してこちらに近づいて来ないな。

「これで大丈夫だ。川まで戻ろう」

 俺達は川を渡って村側の対岸まで移動する。

「よし、カリン火をつけよう」
「フレイムストーム!」

 高火力の火魔法で森に火を放つ。キイエにも手伝ってもらって、何ヵ所かに着火し火災が森に広がっていく。
 その燃え広がる様子を眺め、カリンが薄ら笑いを浮かべる。カリン止めろ、怖いぞ。

 風向きから煙が森の奥に向かっているが、この程度なら獣も魔獣も逃げられるだろう。火も防火帯で止まっているようだし、もし燃え広がってもここからカリンが水魔法で消火できる。

「今日の所はこんなものか」

 まだ森はくすぶっているが、予定通りの範囲の森を焼き尽くした。もう夕方だ、寄合所に戻ろう。食堂では村の人が食事を用意してくれていた。

「やはり、あんた達はすごいな。森をあんなにも焼いちまうなんて」
「私の実力なら、あの森全部を焼き尽くすこともできるんだけどね」

 カリン、それは止めてくれ。スタンピードが起きちまうだろうが。

「それより、一晩監視してくれるんだって。すまないな」
「まだ燻ぶっているみたいだしな。風向きが変わって燃え広がるかもしれんからな」

 村は石造りの家だから、火の粉が飛んでくるぐらいは大丈夫だが、大規模な森林火災になると消火しきれなくなる。

「なにかあったら、すぐ俺達を起こしてくれるか」

 翌朝まで、燃やした森に異変はなかったようだ。朝食を摂った後、今日も川向こうの魔の森を切り開く。今日からは腕に覚えのある村人も数人連れて森に入り防火帯を作る。
 河原近くでは広くなり作業できるようになったので、伐採した樹木を運び出し材木にするため枝を落としたり乾燥させたりする。その作業は他の村人達がやってくれる。

「昨日より作る防火帯は長くなるが、みんな頑張ってくれ」

 これで昨日の倍の土地が平地となるだろう。
 ここに住んでいた獣や魔獣には申し訳ないが、奥地に移動してもらおう。

「じゃあ、燃やすわよ」
「ああ、カリン頼む」


 その翌日も翌々日も森を切り開くが、範囲が広くなると防火帯も長くなる。今日は防火帯を作るだけで夕方近くになってしまった。
 少し奥地に入って来たせいか、魔獣に会うこともあったがアイシャとチセで倒してくれたようだ。
 今日もよく働いた。連日の力仕事になるが、切り開かれていく森が目に見えて分かる。前世には無かった充実感だ。

「明日この部分を燃やせば予定の範囲は終わるな」
「まあ、まあの広さじゃない。畑にする場所も充分ありそうね」
「そうだな。まずは森と村との距離をとる事が肝心だ。畑とかは壁を作った後になるな」
「ユヅキさん。木を燃やした灰って畑の肥料になるんじゃないの。先に土に混ぜた方がいいと思うわ」

 木の魔物を燃やした時も、村人がそんな事を言っていたな。

「俺は農業の事は全く分からんからな。村長と相談してみるか」

 今日はまだ時間があるし、村長の家に行ってみる。
 村長に話すと、農業をしている村人と寄合所で話をすることになった。

「なるほどな。森を焼いたところを畑にするつもりなら、灰が風で飛ばされる前に土に混ぜた方がいいな」
「ただ混ぜるだけで大丈夫なのか」
「手のひら以上の深さの土と混ぜて、できれば水を撒いた方がいいな。あれだけの広さとなると大変だぞ」

 土を掘り起こして灰と混ぜ、水を掛けるのか……。

「カリン。魔法でできるか?」
「土属性の魔法でできると思うけど、浅い沼を作る感じかしら」

 だが土地は広大だ。カリンひとりでは荷が重いな。

「明日、森の奥を燃やすんだよな。村人総出で手前からやっていこう。時間はかかるが何とかなるだろう」
「すまないな。苦労をかける」
「何を言っている。あれだけ広い土地を手に入れられるんだ。みんな喜んでやってくれるさ」
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