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第22話『村を守れ!』
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「……冗談だろ。大国でも
相手にするつもりか!?」
皇位継承権を持つ第二皇女達が
率いる軍勢が波のように押し寄せる。
その数、5千を超える。
彼らが進軍を進める足音だけで、
魔獣たちですら逃げ出し、
今やこの平原には魔獣一匹もいない。
事前にサトシが派遣した偵察用
ゴーレムによって、村への進軍は
把握していたため、
サトシは戦闘経験のない、
ミミや子供達そして
村の住人は村に待機させていた。
「第一皇女フレイヤを殺す事が
目的、それなのにこの
数の軍勢は明らかにやり過ぎだ」
サトシは、偵察用に派遣した
ゴーレムから得た敵の情報を
頭の中で整理する。
第二皇女たちが引き連れている。
軍勢は以下のとおりだ。
=================
・第二皇女ミーゴ(皇位継承権2位)
・第三皇女クゥズ(皇位継承権3位)
・第四皇女カッス(皇位継承権4位)
・皇女護衛兵《インペリアルガード》(伝説級武具所持《レジェンダリーアイテムホルダー》)・・・12名
・狂戦士《バーサーカー》(前頭葉切除済み)・・・58名
・弓兵《アーチャー》・・・478名
・剣奴隷《スレイヴァー》(外すと爆発する首輪付き)・・・2378 名
・歩兵《ソルジャー》(剣と軽装を装備)・・・1380名
・炸裂兵《ボマー》 (全身に爆薬を所持。薬漬け)・・・276名
・魔術師《キャスター》(ファイア・ボール詠唱可)・・・568 名
・重騎兵《キャバリー》(大型ランス装備・戦馬騎乗)・・・680名
・竜騎兵《ドラグナー》(投擲槍装備・ワイバーン騎乗)・・・368名
・性奴隷《セクスレイヴ》(外すと爆発する首輪付き)・・・868名
・衛生兵《メディック》(ポーション所持)・・・13名
・記録兵《レコーダー》(ペンと紙所持)・・・・36名
=================
一国を余裕で落とせるだけの
明らかな過剰戦力。
しかも皇女が率いる軍勢は
明らかに正規の軍ではない。
奴隷兵や身体改造を施された狂戦士。
いずれもこの世界においても
禁忌の存在である。
「明らかに正規の軍じゃないな……
あいつら国でも落とすつもりか?」
サトシは一人だだっ広い平原に立つ。
サトシがここで一人立っているのは、
意地を張っているからではない。
逆である。この数の敵を相手に、
いざ戦闘になった際に村の住人や
子供たちを守りながら戦う事が
あまりに困難か理解した上での
判断である。
サトシは目の前の5千の軍勢
相手に交戦の意志なし、
対話を求めると意志表示をする
青旗を掲げる。
「あんたがこのちんけな
村の長かしらあ?」
この紅い甲冑をまとった女は、
この大軍勢の指揮をとる
第二皇女ミーゴである。
「ああ。俺がこの村の長だ」
「第一皇女フレイヤ、
ここにいるんでしょ?
おとなしく差し出せば
あんたのちっぽけな村には
手出しをしないでいてあげるわぁ?」
「無駄足だったな。この村には
第一皇女殿下はきていない」
「あらぁ。隠しても無駄ですわぁ?
フレイヤがここに居るのは
バレバレなんですわぁ」
(おかしい……。何故、奴は
第一皇女がこの村に居る
と確信している。ハッタリか?)
「随分と不思議そうな顔を
しているわねぇ。理由は簡単よ。
フレイヤが身につけている指輪。
あれに事前に細工をさせてもらったの。
あの指輪から定期的にフレイヤの
位置を送らせるようにしていたのよ」
「……っ!」
「だからぁ、フレイヤがここに居るのは
隠せないわあ……。第二皇女である
私相手に偽証をした時点で、死罪は
免れないのだけどぉ、せめて苦しんで
殺されたくなければ、とっとと
フレイヤを寄越すがいいわぁ」
「――断る」
「へえ……。そう。面白いわぁ。
連れてきたこの有象無象の雑兵共の
兵站《食糧等》を維持するのも大変だったのよ。
あなた達の村がどこまでヤレルのかは
分からないけどぉ。適度に間引いて
くれるとむしろ助かるわぁ……。
逆らった事を今頃後悔しても遅くってよ?」
サトシは深呼吸して
大声で応える。
「そっくりその言葉をお返しするぜ。
この村を攻めた事を後悔する
のはお前だ。――クソビッチ」
「フン……。言ったわね。
ならば戦争よ。――剣奴隷、
あの村を蹂躙せよ」
第二皇女のミーゴが叫ぶ。
2000を超える剣奴隷の
軍勢が歩みを進める。
剣奴隷の頬はコケ、全身から
汚物の臭いを放っている。
その姿はまるで生ける屍。
剣奴隷という名ではあるが、
剣を持たずに代わりにクワ
のような身近な獲物を持つ
ものがほとんどだ。
剣を持っているものも
刃が欠けたナマクラである。
(もし、この数を通したら
村が飲まれる。まずは足止めだ)
「"広域《スケール》" "広域《スケール》" "沼地《スワム》"」
サトシが地面に触れると、
地面は銀色に光り輝く。
そしてあたり一面は沼地と化す。
土属性スキルによる超広範囲の沼地化。
剣奴隷たちは村へ向けて
一直線に進軍してきた
剣奴隷達がぬかるみに足を
とらわれ、歩みを止める。
(これで、陸路からの
侵入は防げるか?!)
第二皇女ミーゴは、
沼地に足をとられている
剣奴隷たちを一瞥すると
剣を振り上げ、
他の部隊に指示をする。
「弓兵。剣奴隷たちを射殺せ。
奴らの死骸を足場とする」
沼地にはまった剣奴隷たちの
頭上に弓兵達が放った矢が
突き刺さる。
頭上を襲う矢の豪雨から
逃げ出そうとした剣奴隷達は首輪に
仕掛けられた爆発して死亡。
(自軍の兵を使い捨てに?!)
サトシも冒険者のときに何度か
修羅場をくぐったことがあるものの
いずれも相手は魔獣であった。
クエストで盗賊などを殺傷する
ことはあるものの殺しのプロではない。
「歩兵隊! 剣奴隷たちが作った
"足場"を踏みしめ前へ進め!」
ぬかるみにはまっている
剣奴隷達を足場にして
歩兵達が村へ歩みを進める。
(くっ……。こいつらをまるごと
土の中に引きずりこむことは可能だ。
だが、それでは虐殺だ)
後ろには守るべき村。
そして、前方には数千を
超える兵が歩みを進める。
(クソ……。やるしかないのか)
サトシは、村を守るために
一つの決断をしようとする。
「フッ。さすがの豪傑サトシも
人族相手との戦いには
不慣れと見える」
「……魔王ユミル?」
「そう、人族の天敵であり
魔族の王、魔王ユミル。
その我が助成しよう」
「すまない。……この状況で
無理を言うつもりはない
だが……っ」
サトシが言葉を言い切る
前に魔王ユミルは応える。
「心得た。我も虐殺は趣味
ではないのでな。
フッ……。思えば人族との
争いも随分と久しぶりよ」
ユミルは第二皇女ミーゴに
向かって宣言する。
「我は、人族の天敵、魔族の王ユミル
愚かな貴様にも、我の恐ろしさは
理解ができるだろう?」
「フン。魔王ユミル。知っているわぁ。
その面構え本物の魔王ねぇ。
こんな辺境まで逃げ延びていたとは
堕ちたわねぇ。王が死んだ
今となっては伝承に従って勇者に
魔王を討伐させるなんっていう
まどろっこしいことをさせる必要もない。
ここでついでに殺してあげるわぁ」
「フン。吠えたな――人間。
今のは我の最終警告だったのだがな。
ならばこの戦いを持って、
我の――魔王の恐ろしさを知るがいい!」
第二皇女ミーゴにそう
宣言するやいなや
魔王は両腕を頭上に掲げ
詠唱を開始する。
「猛き竜の咆哮よ喰らえ 大地も海も空さえも!」
魔王が詠唱を遂げると、
夜の帳に覆われ。
超巨大な六芒星の魔法陣が
中空に展開される。
その魔法陣の規模はユンヤン
兄弟がサトシに放った
『終焉萌す日蝕』の10倍。
超規模の究極魔法である。
魔法陣からまるで
竜の咆哮のように激しい
音が響き渡り、無数の
稲光が歩兵達に降り注ぐ。
「フッ……。殺傷せずに戦う
というのはかくも難しいものよな。
我も、随分と甘くなったものだ」
数千を超える目標物に向かって
放たれた超広範囲攻撃魔法。
皇女が仕掛けた兵のうちの
3分の一は超規模魔法に
よって戦闘不能に追い込まれた。
サトシは第二皇女のミーゴを
睨み、叫ぶ。
「これでわかっただろ!
こちら側には貴様の軍勢と
戦うのに十分な兵力がある。
今すぐ、兵を引けっ!!」
兵の3割の喪失は地球の定義に
あてはめるのであれば
『全滅』を意味する。
即時の撤退か、白旗を
あげるそれが常識である。
だが、――ここは異世界である。
地球の常識などは通用しない。
「フン。もとより代わりの効く
使い捨ての雑兵共だわぁ。
兵たちを維持するコストを
考えたらむしろ間引いてくれた
あなた達に感謝したいくらいよ」
皇女護衛兵《インペリアルガード》の一人が、
第二皇女ミーゴに進言する。
「謹啓、謹んで申し上げるっ!
我軍の損害は甚大、三割以上が
戦闘不能。これ以上この戦線を
維持するのは困難也やっ!
更に魔王の出現は完全な想定外。
一旦兵を引き、戦線を整え
再度進軍すべきと申し上げる」
――ザシュッ
第二皇女ミーゴは無言で剣を振るう。
地面に忠臣の首がゴロリと転がる。
皇女の部隊はシンと静まり返る。
「何を怯えている……っ!!!
ここに来るまでに費やした
時間、兵站、労力、金、
それらを考えれば、いまここで
退く選択などありえぬと知れっ!」
(クソッ……。ガチャで10万
突っ込んで引くに引けなく
なった時の俺みたいな
台詞をいいやがってっ!!)
第二皇女ミーゴが血塗れの
剣をまるで指揮棒のように
振るい指示を出す。
「狂戦士部隊を檻から放てッ!」
鉄の檻の中に収監されていた
狂戦士が檻から解き放たれる。
何らかの身体強化が施されて
いるのか狂戦士達の体は
全員2メートルを超え、
全身が筋肉で覆われ、
その表皮を覆う血管が
ミミズのようにのたうち回っている。
「GARAAAAAAH!!」
狂戦士たちが
奇声をあげながら村に
向かって波のように襲いかかる。
「パパ。ここは僕に任せて」
「ユドラ! お前は危険だから
家でママといっしょに
居ろっていっただろう!
これは遊びじゃないんだ!」
サトシが初めて子供に
向かって激昂する。
「ママを守りたいのはパパだけじゃない。
僕は村もママもセフィも守るっ!」
サトシが次の言葉をかける前に
ユドラはダッと駆ける。
ユドラと狂戦士の身長差は
1メートルを超える。
体重に至っては100キロ差。
小学生3年生の男子がアメフト
選手に挑むが如き無謀。
――だが、ユドラは
ただの子供ではない。
ユドルは両手のひらを
パンッとあわせる。
すると手のひらから
木剣が出現。
「ユドラ、無理はするなよ」
「もちろんだよパパ」
そう言うや否やぬかるんだ
沼地をものともせず
まるで整備された道の
ように駆ける。
目の前には2メートル
大の巨腕の狂戦士が一人。
「GARAAAAAAH!!!」
狂戦士は巨大な鉄の棍棒を
振るうもユドルはこれを
余裕をもって軽々と回避する。
「虚空残滅閃《シームレス・ブレイズ》ッ!」
上下左右から同時に
四つの斬撃が繰り出され、
最後の刺突はミゾオチに突き刺さる。
どれも狙った急所に直撃。
これが木剣でなければ確実に
即死の攻撃である。
「GRAAAAAAHHH!!!」
狂戦士が雄叫びをあげる。
左右の両肩、両足の
太ももの骨を完璧に粉砕。
そして最後の腹部への刺突
により内臓も損傷。
虚空残滅閃《シームレス・ブレイズ》
一撃目が当たれば残りの
四連撃は自動的に当たる
――回避不能の五連撃。
「……えっ?!」
狂戦士は肩の骨を砕かれ、
機能しなくなったその自分の
腕をまるでムチのように横薙ぎに振るう。
「"土壁"《ウオール》」
狂戦士の巨腕がユドラに届く前に
サトシが"土壁"《ウオール》で攻撃を防ぐ。
「パパ……」
「ユドラ。本当に冒険者を目指したい
のであれば、いかなる相手に
対しても決して油断をするな。
何が起こるか分からないそれが戦場だ」
「分かったよパパ。
僕も……本気を出すよ」
ユドラは両足底から大地のマナを
吸い上げ、身体能力超強化を
付与する。
「活殺地獄踏《ヘブンリー・アーツ》」
ユドラが両足で地面を踏みしめると
ユドラの周りが薄緑色に光る。
前方から駆けてくる8体の
狂戦士を木の根でが絡みとり、
狂戦士たちの体を完全に拘束する。
「天界極光閃《シームレス・ヘル》っ!」
ユドラは腰を落とし、
剣を右肩に置き構える。
柄の先端が敵を見据える
ような形になる。
そして木剣に緑色の
オーラが灯る。
次の刹那――。
ユドラが木剣を袈裟斬りに
振るうと、獅子の咆哮が
大気を震わせる。
木剣から放たれた
無数の斬撃が狂戦士達の全身の
関節部位のみを徹底的に破壊する。
先程の過ちから学び、
いかにすれば人間が完全に
物理的に動けなるかという
ことを計算にいれた上での
斬撃である。
「GIRYYYIIII………」
木の根で体を完全に拘束し、
相手の自由を奪った状態で
一方的に斬撃によって殴打する、
活殺地獄踏《ヘブンリー・アーツ》・破砕天極閃《シームレス・ヘル》
「――――」
ユドラは気を緩めずに残心。
確実に狂戦士たちが動けなくなり、
意識を失ったのを確認するのであった。
====================
・第二皇女ミーゴ(皇位継承権2位)・・1名
・第三皇女クゥズ(皇位継承権3位)・・1名
・第四皇女カッス(皇位継承権4位)・・1名
・皇女護衛兵《インペリアルガード》(伝説級武具所持《レジェンダリーアイテムホルダー》)・・11名(-1名)
・狂戦士《バーサーカー》(前頭葉切除)・・49名(-9名)
・弓兵《アーチャー》・・・478名
・剣奴隷《スレイヴァー》(爆発する首輪)・・・0 名(-2378名)
・歩兵《ソルジャー》(剣と軽装)・・・0名(-1380名)
・炸裂兵《ボマー》 (全身に爆薬。薬漬け)・・・276名
・魔術師《キャスター》(ファイア・ボール詠唱可)・・・568 名
・重騎兵《キャバリー》(大型ランス装備・戦馬騎乗)・・・680名
・竜騎兵《ドラグナー》(投擲槍装備・ワイバーン騎乗)・・・568名
・性奴隷《セクスレイヴ》(外すと爆発する首輪付き)・・・868名
・衛生兵《メディック》(ポーション所持)・・・13名
・記録兵《レコーダー》(ペンと紙所持)・・・・36名
※カッコ内人数は戦闘不能数または死亡者数
相手にするつもりか!?」
皇位継承権を持つ第二皇女達が
率いる軍勢が波のように押し寄せる。
その数、5千を超える。
彼らが進軍を進める足音だけで、
魔獣たちですら逃げ出し、
今やこの平原には魔獣一匹もいない。
事前にサトシが派遣した偵察用
ゴーレムによって、村への進軍は
把握していたため、
サトシは戦闘経験のない、
ミミや子供達そして
村の住人は村に待機させていた。
「第一皇女フレイヤを殺す事が
目的、それなのにこの
数の軍勢は明らかにやり過ぎだ」
サトシは、偵察用に派遣した
ゴーレムから得た敵の情報を
頭の中で整理する。
第二皇女たちが引き連れている。
軍勢は以下のとおりだ。
=================
・第二皇女ミーゴ(皇位継承権2位)
・第三皇女クゥズ(皇位継承権3位)
・第四皇女カッス(皇位継承権4位)
・皇女護衛兵《インペリアルガード》(伝説級武具所持《レジェンダリーアイテムホルダー》)・・・12名
・狂戦士《バーサーカー》(前頭葉切除済み)・・・58名
・弓兵《アーチャー》・・・478名
・剣奴隷《スレイヴァー》(外すと爆発する首輪付き)・・・2378 名
・歩兵《ソルジャー》(剣と軽装を装備)・・・1380名
・炸裂兵《ボマー》 (全身に爆薬を所持。薬漬け)・・・276名
・魔術師《キャスター》(ファイア・ボール詠唱可)・・・568 名
・重騎兵《キャバリー》(大型ランス装備・戦馬騎乗)・・・680名
・竜騎兵《ドラグナー》(投擲槍装備・ワイバーン騎乗)・・・368名
・性奴隷《セクスレイヴ》(外すと爆発する首輪付き)・・・868名
・衛生兵《メディック》(ポーション所持)・・・13名
・記録兵《レコーダー》(ペンと紙所持)・・・・36名
=================
一国を余裕で落とせるだけの
明らかな過剰戦力。
しかも皇女が率いる軍勢は
明らかに正規の軍ではない。
奴隷兵や身体改造を施された狂戦士。
いずれもこの世界においても
禁忌の存在である。
「明らかに正規の軍じゃないな……
あいつら国でも落とすつもりか?」
サトシは一人だだっ広い平原に立つ。
サトシがここで一人立っているのは、
意地を張っているからではない。
逆である。この数の敵を相手に、
いざ戦闘になった際に村の住人や
子供たちを守りながら戦う事が
あまりに困難か理解した上での
判断である。
サトシは目の前の5千の軍勢
相手に交戦の意志なし、
対話を求めると意志表示をする
青旗を掲げる。
「あんたがこのちんけな
村の長かしらあ?」
この紅い甲冑をまとった女は、
この大軍勢の指揮をとる
第二皇女ミーゴである。
「ああ。俺がこの村の長だ」
「第一皇女フレイヤ、
ここにいるんでしょ?
おとなしく差し出せば
あんたのちっぽけな村には
手出しをしないでいてあげるわぁ?」
「無駄足だったな。この村には
第一皇女殿下はきていない」
「あらぁ。隠しても無駄ですわぁ?
フレイヤがここに居るのは
バレバレなんですわぁ」
(おかしい……。何故、奴は
第一皇女がこの村に居る
と確信している。ハッタリか?)
「随分と不思議そうな顔を
しているわねぇ。理由は簡単よ。
フレイヤが身につけている指輪。
あれに事前に細工をさせてもらったの。
あの指輪から定期的にフレイヤの
位置を送らせるようにしていたのよ」
「……っ!」
「だからぁ、フレイヤがここに居るのは
隠せないわあ……。第二皇女である
私相手に偽証をした時点で、死罪は
免れないのだけどぉ、せめて苦しんで
殺されたくなければ、とっとと
フレイヤを寄越すがいいわぁ」
「――断る」
「へえ……。そう。面白いわぁ。
連れてきたこの有象無象の雑兵共の
兵站《食糧等》を維持するのも大変だったのよ。
あなた達の村がどこまでヤレルのかは
分からないけどぉ。適度に間引いて
くれるとむしろ助かるわぁ……。
逆らった事を今頃後悔しても遅くってよ?」
サトシは深呼吸して
大声で応える。
「そっくりその言葉をお返しするぜ。
この村を攻めた事を後悔する
のはお前だ。――クソビッチ」
「フン……。言ったわね。
ならば戦争よ。――剣奴隷、
あの村を蹂躙せよ」
第二皇女のミーゴが叫ぶ。
2000を超える剣奴隷の
軍勢が歩みを進める。
剣奴隷の頬はコケ、全身から
汚物の臭いを放っている。
その姿はまるで生ける屍。
剣奴隷という名ではあるが、
剣を持たずに代わりにクワ
のような身近な獲物を持つ
ものがほとんどだ。
剣を持っているものも
刃が欠けたナマクラである。
(もし、この数を通したら
村が飲まれる。まずは足止めだ)
「"広域《スケール》" "広域《スケール》" "沼地《スワム》"」
サトシが地面に触れると、
地面は銀色に光り輝く。
そしてあたり一面は沼地と化す。
土属性スキルによる超広範囲の沼地化。
剣奴隷たちは村へ向けて
一直線に進軍してきた
剣奴隷達がぬかるみに足を
とらわれ、歩みを止める。
(これで、陸路からの
侵入は防げるか?!)
第二皇女ミーゴは、
沼地に足をとられている
剣奴隷たちを一瞥すると
剣を振り上げ、
他の部隊に指示をする。
「弓兵。剣奴隷たちを射殺せ。
奴らの死骸を足場とする」
沼地にはまった剣奴隷たちの
頭上に弓兵達が放った矢が
突き刺さる。
頭上を襲う矢の豪雨から
逃げ出そうとした剣奴隷達は首輪に
仕掛けられた爆発して死亡。
(自軍の兵を使い捨てに?!)
サトシも冒険者のときに何度か
修羅場をくぐったことがあるものの
いずれも相手は魔獣であった。
クエストで盗賊などを殺傷する
ことはあるものの殺しのプロではない。
「歩兵隊! 剣奴隷たちが作った
"足場"を踏みしめ前へ進め!」
ぬかるみにはまっている
剣奴隷達を足場にして
歩兵達が村へ歩みを進める。
(くっ……。こいつらをまるごと
土の中に引きずりこむことは可能だ。
だが、それでは虐殺だ)
後ろには守るべき村。
そして、前方には数千を
超える兵が歩みを進める。
(クソ……。やるしかないのか)
サトシは、村を守るために
一つの決断をしようとする。
「フッ。さすがの豪傑サトシも
人族相手との戦いには
不慣れと見える」
「……魔王ユミル?」
「そう、人族の天敵であり
魔族の王、魔王ユミル。
その我が助成しよう」
「すまない。……この状況で
無理を言うつもりはない
だが……っ」
サトシが言葉を言い切る
前に魔王ユミルは応える。
「心得た。我も虐殺は趣味
ではないのでな。
フッ……。思えば人族との
争いも随分と久しぶりよ」
ユミルは第二皇女ミーゴに
向かって宣言する。
「我は、人族の天敵、魔族の王ユミル
愚かな貴様にも、我の恐ろしさは
理解ができるだろう?」
「フン。魔王ユミル。知っているわぁ。
その面構え本物の魔王ねぇ。
こんな辺境まで逃げ延びていたとは
堕ちたわねぇ。王が死んだ
今となっては伝承に従って勇者に
魔王を討伐させるなんっていう
まどろっこしいことをさせる必要もない。
ここでついでに殺してあげるわぁ」
「フン。吠えたな――人間。
今のは我の最終警告だったのだがな。
ならばこの戦いを持って、
我の――魔王の恐ろしさを知るがいい!」
第二皇女ミーゴにそう
宣言するやいなや
魔王は両腕を頭上に掲げ
詠唱を開始する。
「猛き竜の咆哮よ喰らえ 大地も海も空さえも!」
魔王が詠唱を遂げると、
夜の帳に覆われ。
超巨大な六芒星の魔法陣が
中空に展開される。
その魔法陣の規模はユンヤン
兄弟がサトシに放った
『終焉萌す日蝕』の10倍。
超規模の究極魔法である。
魔法陣からまるで
竜の咆哮のように激しい
音が響き渡り、無数の
稲光が歩兵達に降り注ぐ。
「フッ……。殺傷せずに戦う
というのはかくも難しいものよな。
我も、随分と甘くなったものだ」
数千を超える目標物に向かって
放たれた超広範囲攻撃魔法。
皇女が仕掛けた兵のうちの
3分の一は超規模魔法に
よって戦闘不能に追い込まれた。
サトシは第二皇女のミーゴを
睨み、叫ぶ。
「これでわかっただろ!
こちら側には貴様の軍勢と
戦うのに十分な兵力がある。
今すぐ、兵を引けっ!!」
兵の3割の喪失は地球の定義に
あてはめるのであれば
『全滅』を意味する。
即時の撤退か、白旗を
あげるそれが常識である。
だが、――ここは異世界である。
地球の常識などは通用しない。
「フン。もとより代わりの効く
使い捨ての雑兵共だわぁ。
兵たちを維持するコストを
考えたらむしろ間引いてくれた
あなた達に感謝したいくらいよ」
皇女護衛兵《インペリアルガード》の一人が、
第二皇女ミーゴに進言する。
「謹啓、謹んで申し上げるっ!
我軍の損害は甚大、三割以上が
戦闘不能。これ以上この戦線を
維持するのは困難也やっ!
更に魔王の出現は完全な想定外。
一旦兵を引き、戦線を整え
再度進軍すべきと申し上げる」
――ザシュッ
第二皇女ミーゴは無言で剣を振るう。
地面に忠臣の首がゴロリと転がる。
皇女の部隊はシンと静まり返る。
「何を怯えている……っ!!!
ここに来るまでに費やした
時間、兵站、労力、金、
それらを考えれば、いまここで
退く選択などありえぬと知れっ!」
(クソッ……。ガチャで10万
突っ込んで引くに引けなく
なった時の俺みたいな
台詞をいいやがってっ!!)
第二皇女ミーゴが血塗れの
剣をまるで指揮棒のように
振るい指示を出す。
「狂戦士部隊を檻から放てッ!」
鉄の檻の中に収監されていた
狂戦士が檻から解き放たれる。
何らかの身体強化が施されて
いるのか狂戦士達の体は
全員2メートルを超え、
全身が筋肉で覆われ、
その表皮を覆う血管が
ミミズのようにのたうち回っている。
「GARAAAAAAH!!」
狂戦士たちが
奇声をあげながら村に
向かって波のように襲いかかる。
「パパ。ここは僕に任せて」
「ユドラ! お前は危険だから
家でママといっしょに
居ろっていっただろう!
これは遊びじゃないんだ!」
サトシが初めて子供に
向かって激昂する。
「ママを守りたいのはパパだけじゃない。
僕は村もママもセフィも守るっ!」
サトシが次の言葉をかける前に
ユドラはダッと駆ける。
ユドラと狂戦士の身長差は
1メートルを超える。
体重に至っては100キロ差。
小学生3年生の男子がアメフト
選手に挑むが如き無謀。
――だが、ユドラは
ただの子供ではない。
ユドルは両手のひらを
パンッとあわせる。
すると手のひらから
木剣が出現。
「ユドラ、無理はするなよ」
「もちろんだよパパ」
そう言うや否やぬかるんだ
沼地をものともせず
まるで整備された道の
ように駆ける。
目の前には2メートル
大の巨腕の狂戦士が一人。
「GARAAAAAAH!!!」
狂戦士は巨大な鉄の棍棒を
振るうもユドルはこれを
余裕をもって軽々と回避する。
「虚空残滅閃《シームレス・ブレイズ》ッ!」
上下左右から同時に
四つの斬撃が繰り出され、
最後の刺突はミゾオチに突き刺さる。
どれも狙った急所に直撃。
これが木剣でなければ確実に
即死の攻撃である。
「GRAAAAAAHHH!!!」
狂戦士が雄叫びをあげる。
左右の両肩、両足の
太ももの骨を完璧に粉砕。
そして最後の腹部への刺突
により内臓も損傷。
虚空残滅閃《シームレス・ブレイズ》
一撃目が当たれば残りの
四連撃は自動的に当たる
――回避不能の五連撃。
「……えっ?!」
狂戦士は肩の骨を砕かれ、
機能しなくなったその自分の
腕をまるでムチのように横薙ぎに振るう。
「"土壁"《ウオール》」
狂戦士の巨腕がユドラに届く前に
サトシが"土壁"《ウオール》で攻撃を防ぐ。
「パパ……」
「ユドラ。本当に冒険者を目指したい
のであれば、いかなる相手に
対しても決して油断をするな。
何が起こるか分からないそれが戦場だ」
「分かったよパパ。
僕も……本気を出すよ」
ユドラは両足底から大地のマナを
吸い上げ、身体能力超強化を
付与する。
「活殺地獄踏《ヘブンリー・アーツ》」
ユドラが両足で地面を踏みしめると
ユドラの周りが薄緑色に光る。
前方から駆けてくる8体の
狂戦士を木の根でが絡みとり、
狂戦士たちの体を完全に拘束する。
「天界極光閃《シームレス・ヘル》っ!」
ユドラは腰を落とし、
剣を右肩に置き構える。
柄の先端が敵を見据える
ような形になる。
そして木剣に緑色の
オーラが灯る。
次の刹那――。
ユドラが木剣を袈裟斬りに
振るうと、獅子の咆哮が
大気を震わせる。
木剣から放たれた
無数の斬撃が狂戦士達の全身の
関節部位のみを徹底的に破壊する。
先程の過ちから学び、
いかにすれば人間が完全に
物理的に動けなるかという
ことを計算にいれた上での
斬撃である。
「GIRYYYIIII………」
木の根で体を完全に拘束し、
相手の自由を奪った状態で
一方的に斬撃によって殴打する、
活殺地獄踏《ヘブンリー・アーツ》・破砕天極閃《シームレス・ヘル》
「――――」
ユドラは気を緩めずに残心。
確実に狂戦士たちが動けなくなり、
意識を失ったのを確認するのであった。
====================
・第二皇女ミーゴ(皇位継承権2位)・・1名
・第三皇女クゥズ(皇位継承権3位)・・1名
・第四皇女カッス(皇位継承権4位)・・1名
・皇女護衛兵《インペリアルガード》(伝説級武具所持《レジェンダリーアイテムホルダー》)・・11名(-1名)
・狂戦士《バーサーカー》(前頭葉切除)・・49名(-9名)
・弓兵《アーチャー》・・・478名
・剣奴隷《スレイヴァー》(爆発する首輪)・・・0 名(-2378名)
・歩兵《ソルジャー》(剣と軽装)・・・0名(-1380名)
・炸裂兵《ボマー》 (全身に爆薬。薬漬け)・・・276名
・魔術師《キャスター》(ファイア・ボール詠唱可)・・・568 名
・重騎兵《キャバリー》(大型ランス装備・戦馬騎乗)・・・680名
・竜騎兵《ドラグナー》(投擲槍装備・ワイバーン騎乗)・・・568名
・性奴隷《セクスレイヴ》(外すと爆発する首輪付き)・・・868名
・衛生兵《メディック》(ポーション所持)・・・13名
・記録兵《レコーダー》(ペンと紙所持)・・・・36名
※カッコ内人数は戦闘不能数または死亡者数
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