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第23話『超極大魔法』
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「そんなっ……。私の自慢の狂戦士
たちがあんな子供一人に押されている。
そんなことってありえないの。
そうよ……ありえないこと、なのよ」
第一皇女自慢の数に物を言わせた
兵力である剣奴隷《スレイヴァー》、歩兵《ソルジャー》、狂戦士《バーサーカー》たちが
次々にたった三人の人間に壊滅に
追い込まれ、あまりの光景に
言葉を失う第一皇女。
集団戦争において基本的には
"戦闘力=兵力数の二乗"
この計算に当てはめるのであれば
単純な現状の戦力差は以下の通り。
サトシ:9
皇女軍:25,000,000
その戦力差は280万倍。
ただこの計算式が通じるのは
"同じレベルの人間相手の戦争"
の場合に限る。
人ではなく相手が戦車や
戦闘機なら話が別であろう。
第二皇女の問題は大局的な
戦略によるものではない、
戦術によるものだ。
単純に相手の規格外の個別戦力を
見落としていたからにほかならない。
魔王の存在も、サトシの存在も
知らない彼女には計算できようはずもない。
ようするに第二皇女は戦闘機相手に
竹槍で戦う愚を犯しているに等しかった。
それを否応なしに自覚させられる。
「くっ……。こんな事が……」
そんな第二皇女を嘲笑する声、
第三皇女クゥズ。
「きゃははっ。ミーゴさんご自慢の
地上部隊は壊滅ですかぁ?
だいたい今日び数に物言わせて
接近戦で戦う戦法なんてセンスが
無いんじゃないですかぁ?
んじゃ。第三皇女クーちゃん
の出番ですわねぇ」
戦場の指揮は第二皇女ミーゴから
第三皇女クゥズに変わる。
「きゃははっ。魔術師隊。魔王と
村長とクソガキを避けてあの村に向け
ファイヤー・ボールを飛ばしなさい。
面倒なあの土壁に防がれないように
あえて狙いを絞らずバラバラに射ってねぇ」
第三皇女クゥズは、
自身の目の前の敵を無視し、
超長距離射程から一方的に
殺害対象第一皇女フレイヤの
居る拠点を魔法による
じゅうたん爆撃する。
個体としての戦力が
段違いの相手に対して
勝負を挑まず強制的に
防衛戦を強いる卑劣な戦略。
戦争ではない。目的達成に
のみ特化した虐殺。
「きーっひっひひひ。
第二皇女のゴミ女はやたら
生け捕りにこだわってたけどぉ。
ぶっちゃ生け捕りにする必要なんて
ないじゃんねぇ?
だってさぁ、失踪扱いで半年も
すれば自動的に死亡扱いなんだからぁ。
クーちゃん面倒くさいの嫌い。
村ごと焼き討ちです。皆殺しにして」
数百の魔術師が放った
ファイヤー・ボールが放物線を
描き村に向けて高速で飛翔する。
「クソがぁあああああっ!!!!!!
"広域《スケール》" "広域《スケール》" "土壁《ウオール》"」
魔王にもユドラにも村全体を
守るだけの超広範囲を守れる
魔法もスキルも有しない。
それが可能なのはサトシだけだ。
ファイヤー・ボールを防ぐために
即席の城壁、土壁を展開。
ファイアー・ボールを全弾を防ぎ切る。
「きゃははっ! なかなかやるじゃない。
それじゃあ、弓兵たちはあの土壁を作る
目障りな男を射殺してちょーだい!
あと、魔術師はファイアー・ボールを
マナ切れになるまで連続詠唱ねぇ~!」
数千という弓の雨が降り注ぐ。
だが、村にファイアー・ボールが
当たるのを防ぐために土壁《ウオール》のスキル
を自分の前に展開する事ができない。
まるで豪雨のように矢が降り注ぐなか、
ファイアーボールの第二射を防ぐために
自身の前に土壁を展開せずに、
第二射を耐えられるように更に土壁《ウオール》を強化する。
魔王とユドラは防御魔法を持たず、
更には第一皇女が奥の手として
解き放った狂戦士の相手をしている
ため、サトシへの助成ができない。
サトシは自分自身に守りを
割くことができずにサトシの
全身を矢が貫く。
その姿はまるで、
ハリネズミのようであった。
「きゃはははははははっ!
脳筋なゴミ女が苦戦していた相手もぉ。
クーちゃんにかかれば、
ざっとこんなものなのかしら?」
(………………)
サトシの中にこみ上げるものは
悪寒と激痛。何度も死線を
潜り抜けてきた元冒険者としての勘が
死の予兆を告げる。
今、自身の全身を貫く矢による傷が
助かるようなものではないことを。
(死ぬのか)
サトシがそう理解した瞬間。
自然とと心は穏やかになった。
ひさしく忘れていた感覚。
(……ならば)
サトシは死を悟った。今サトシが
抱いているのは生への未練ではない。
どうせ死ぬのならその生命を
最後まで燃やし尽くし、妻を、
娘と息子を、そして――愛した村を
守りきらなければという、
ただ現実的な使命感だけだった。
「……"土壁《ウオール》"」
付与《エンチャント》を
使わない単純なスキルの行使。
魂をかけたスキル行使。
「きひっ!? 一体っ、
なっ……なん、ですの?」
まるで激しい地震が置きた
かのように地面が揺れる。
そして村を取り囲むように
巨大な堅牢な城壁のような
壁が築かれる。
「……重騎兵《キャバリー。全騎突撃、
あの死にぞこないに
トドメをさしなさいっ!!
首を持ち返ったものには
皇女の名に置いて爵位を与える」
全身を矢で貫かれたサトシの
首を持ち返らんと我も我もと
重騎兵《キャバリー》が押し寄せる。
その数は700にものぼる
重騎兵《キャバリー》の波を
一度に蹴散らす。
「サトシよ。見事であった。
魔族の王として人族の矜持、
しかと我が双眸《そうぼう》に焼き付けた」
魔王ユミルは迫りくる
重騎兵《キャバリー》の波からサトシの前に立つ。
それは路線に落ちた人間を救うために
電車の前に立つかのような自殺行為。
第三皇女クゥズは魔術師部隊に
新たなる命令を与える。
「きっひっひひひ。情にほだされる間抜けな魔王。
一石二鳥のチャンスねっ!
ファイアー・ボールの詠唱を一時中止。
重騎兵《キャバリー》達に防御魔法を展開するのよ!
間抜けな魔王もあの土の男も一緒に
轢き殺してあげなさいっ!!!」
魔術師部隊が重騎兵《キャバリー》に対して
多重の防御魔法をかける。
ただでさえ堅牢な重騎兵《キャバリー》を
更に魔法により強化する。
「大義があろうが無かろうが
我が友を傷つけれれば、
怒りもしよう、涙もしよう、
我は強欲なる故に魔王。
一度得たものを一つたりとも
見捨てるつもりはない。
人としての矜持を捨てた
貴様らにもはや容赦はない。
――ただ力にて捻り潰す!」
吼えるユミルの瞳の奥に、
サトシは昏《くら》き炎が灯るのをを見た。
彼の奥にずっとあった猛き炎。
彼はその感情がなんであるかを
理解している。どうすれば、それが
自分に更なる力をもたらすのかを。
まるで魔王ユミルの苛烈な咆哮に
応えるかのように、魔力の渦が
がうねりをあげるて目の前に収束。
魔王としての本能の解放。
ユミルは力のすべてを
練りながら、その力が解き
放たれるのを待っている。
目の前には強大な魔法陣が紡がれる。
「終末の業火」
魔王としての荘厳さすら
漂わせていたこれまでとは
毛色の違う荒削りで単純な魔法。
膨大なマナを消費して放つ
単純な暴力。
重騎兵《キャバリー》は騎馬の上で大盾を構え、
魔術師は更にマジックシールドを重ねがけする。
魔王と一介の魔術師とでは魔力量の差が
あるとはいえ、数百人単位で
詠唱する防御魔法が脆弱なはずがない。
弓兵と魔術師はすべての魔力を
防御に回し、まるで城塞のように
堅固さだけを突き詰める。
ユミルは眼下に展開される
巨大な物理盾と魔法盾を
眼下に見下ろす。
「堕ちよ太陽」
魔法陣が目もくらむほどの
輝きを帯びた。単なる光ではない。
昏き炎。魔法陣それ自体が、
黒炎と化し狂おしくうねり渦を巻く。
激情に駆られた竜のごとく、
轟然と疾駆し。
最前線の重騎兵《キャバリー》に激突。
重騎兵が巨大な大盾を受ける。
多重の魔力壁に覆われた大盾。
魔王の業火を受け止める。
だがまるでひとつの生命と化した
昏き炎の竜は止まらない。
まるで大盾も魔力壁も知ったことかと
熾烈に暴れ、歩みを阻む無粋な
壁を噛み砕きにかかつた。
何層にも覆われた防御壁が
昏き炎の竜の牙によって
砕かれ、更にはその下の
物理盾も蹂躙する。
「きひっ……? きひひひひ。
嘘、あの数の……クーちゃん
自慢の重騎兵《キャバリー》が全滅?!
そんなの、あり得ない。
あれらは捨て駒じゃない。
鍛えられたエリートなの?
そんなことって認められない!」
完全に折れかけた第三皇女クゥズは
重騎兵《キャバリー》を倒すために
全魔力を喪失した魔王の姿をみて
即座に頭を切り替える。
「きゃはっ。でもでもでもお。
重騎兵《キャバリー》の尊い犠牲のおかげで
あの厄介な魔王もサトシとかいう男も
ほとんど死に体かしらぁ?」
あと残されたのはユドラ一人。
いかな近接戦の天才といえども
軍隊相手ではは分が悪すぎる。
「きーっひっひひひひひ。
魔術師部隊、ファイアー・ボール
でたらめに撃ちまくるのよ。
あのやっかいな土壁さえ超えられれば
どこに当てたって構わない。
狙わなくても一向に構わないわぁ。
でたらめにうちまくりなさい!」
魔術師部隊は
上空に両手ををかざし
赤色の魔法陣を展開する。
「きひっ?――どうしたの?
とっとと撃ちなさいよぅ?」
「謹啓、謹んで申し上げる。
魔術師部隊長より伝令有り。
何らかの魔術干渉《ジャミング》によって
ファイアー・ボールを放つ事が
できないとのこと!」
「きひっ……言い訳は聞いたげないっ!
なんとかして撃たせなさい!!」
第三皇女のクゥズは側近にそう命じる。
それを受け、側近は魔術師に
死を覚悟してでもファイアー・ボールを
詠唱するように指示を出す。
全身を矢に貫かれ意識を失った
サトシの前に一人の少女が現れる。
サトシの娘、セフィである。
「パパのおかげで村は守られたよ。
あとはセフィにまかせて
少し休んでいてね」
セフィはサトシの肩に手を置き
魔力を込める。応急処置の治癒魔法。
魔術師の部隊が魔法を使えなく
なったのはセフィが放った超強力な
魔術妨害《ジャミング》によるものである。
セフィが認識阻害の魔法を解除して
姿をあらわしたのはこれから行う
智属性《ダアト》の演算に必要な
全ての集中力を行使するため。
「詠唱術式解析 接続先世界樹
参照先火術書 現象置換――完了
即時発動――起動
対象――術式行使者
因果応報――天罰覿面」
ミミの"智属性《ダアト》"のスキルの発動。
敵の使用する魔術式の分析と改竄。
この世界での魔術は
物理的に可能な現象を
その過程を省略し結果のみ
発言させる、ひらたく言えば、
ショートカットコマンドである。
セフィはその魔術の大本となった
原典のコマンドの魔術理論を
完璧に理解し魔術の神秘のヴェールを
強制的に剥がし物理現象に還元させる。
――つまり。
「うぎゃぁあああああ!!!
なんだぁああああ!!!!
体が燃えるうぅうう!!!
あついぃいいいいいい!!」
ファイアー・ボールを
放とうとした魔術師部隊の
全身が燃え盛る。
セフィによって術式が
改竄されたことによって
行き場のなくなったマナの暴発。
「はひっ……。はひひっ……。
クーちゃん……意味分かんない。
一体、何が起こっているの?」
第三皇女クゥズのサトシや魔王を狙う
のではなく村を狙って攻撃するという
戦略自体はたしかに有効であった。
ただ、星のめぐり合わせが悪かったのだ。
====================
・第二皇女ミーゴ(皇位継承権2位)・・1名
・第三皇女クゥズ(皇位継承権3位)・・1名
・第四皇女カッス(皇位継承権4位)・・1名
・皇女護衛兵《インペリアルガード》(伝説級武具所持《レジェンダリーアイテムホルダー》)・・11名(-1名)
・狂戦士《バーサーカー》(前頭葉切除)・・0名(-58名)
・弓兵《アーチャー》・・・478名
・剣奴隷《スレイヴァー》(爆発する首輪)・・・0 名(-2378名)
・歩兵《ソルジャー》(剣と軽装)・・・0名(-1380名)
・炸裂兵《ボマー》 (全身に爆薬。薬漬け)・・・276名
・魔術師《キャスター》(ファイア・ボール詠唱可)・・・0 名 (-568名)
・重騎兵《キャバリー》(大型ランス装備・戦馬騎乗)・・・0名(-680名)
・竜騎兵《ドラグナー》(投擲槍装備・ワイバーン騎乗)・・・568名
・性奴隷《セクスレイヴ》(外すと爆発する首輪付き)・・・868名
・衛生兵《メディック》(ポーション所持)・・・13名
・記録兵《レコーダー》(ペンと紙所持)・・・・36名
※カッコ内人数は戦闘不能数または死亡者数
たちがあんな子供一人に押されている。
そんなことってありえないの。
そうよ……ありえないこと、なのよ」
第一皇女自慢の数に物を言わせた
兵力である剣奴隷《スレイヴァー》、歩兵《ソルジャー》、狂戦士《バーサーカー》たちが
次々にたった三人の人間に壊滅に
追い込まれ、あまりの光景に
言葉を失う第一皇女。
集団戦争において基本的には
"戦闘力=兵力数の二乗"
この計算に当てはめるのであれば
単純な現状の戦力差は以下の通り。
サトシ:9
皇女軍:25,000,000
その戦力差は280万倍。
ただこの計算式が通じるのは
"同じレベルの人間相手の戦争"
の場合に限る。
人ではなく相手が戦車や
戦闘機なら話が別であろう。
第二皇女の問題は大局的な
戦略によるものではない、
戦術によるものだ。
単純に相手の規格外の個別戦力を
見落としていたからにほかならない。
魔王の存在も、サトシの存在も
知らない彼女には計算できようはずもない。
ようするに第二皇女は戦闘機相手に
竹槍で戦う愚を犯しているに等しかった。
それを否応なしに自覚させられる。
「くっ……。こんな事が……」
そんな第二皇女を嘲笑する声、
第三皇女クゥズ。
「きゃははっ。ミーゴさんご自慢の
地上部隊は壊滅ですかぁ?
だいたい今日び数に物言わせて
接近戦で戦う戦法なんてセンスが
無いんじゃないですかぁ?
んじゃ。第三皇女クーちゃん
の出番ですわねぇ」
戦場の指揮は第二皇女ミーゴから
第三皇女クゥズに変わる。
「きゃははっ。魔術師隊。魔王と
村長とクソガキを避けてあの村に向け
ファイヤー・ボールを飛ばしなさい。
面倒なあの土壁に防がれないように
あえて狙いを絞らずバラバラに射ってねぇ」
第三皇女クゥズは、
自身の目の前の敵を無視し、
超長距離射程から一方的に
殺害対象第一皇女フレイヤの
居る拠点を魔法による
じゅうたん爆撃する。
個体としての戦力が
段違いの相手に対して
勝負を挑まず強制的に
防衛戦を強いる卑劣な戦略。
戦争ではない。目的達成に
のみ特化した虐殺。
「きーっひっひひひ。
第二皇女のゴミ女はやたら
生け捕りにこだわってたけどぉ。
ぶっちゃ生け捕りにする必要なんて
ないじゃんねぇ?
だってさぁ、失踪扱いで半年も
すれば自動的に死亡扱いなんだからぁ。
クーちゃん面倒くさいの嫌い。
村ごと焼き討ちです。皆殺しにして」
数百の魔術師が放った
ファイヤー・ボールが放物線を
描き村に向けて高速で飛翔する。
「クソがぁあああああっ!!!!!!
"広域《スケール》" "広域《スケール》" "土壁《ウオール》"」
魔王にもユドラにも村全体を
守るだけの超広範囲を守れる
魔法もスキルも有しない。
それが可能なのはサトシだけだ。
ファイヤー・ボールを防ぐために
即席の城壁、土壁を展開。
ファイアー・ボールを全弾を防ぎ切る。
「きゃははっ! なかなかやるじゃない。
それじゃあ、弓兵たちはあの土壁を作る
目障りな男を射殺してちょーだい!
あと、魔術師はファイアー・ボールを
マナ切れになるまで連続詠唱ねぇ~!」
数千という弓の雨が降り注ぐ。
だが、村にファイアー・ボールが
当たるのを防ぐために土壁《ウオール》のスキル
を自分の前に展開する事ができない。
まるで豪雨のように矢が降り注ぐなか、
ファイアーボールの第二射を防ぐために
自身の前に土壁を展開せずに、
第二射を耐えられるように更に土壁《ウオール》を強化する。
魔王とユドラは防御魔法を持たず、
更には第一皇女が奥の手として
解き放った狂戦士の相手をしている
ため、サトシへの助成ができない。
サトシは自分自身に守りを
割くことができずにサトシの
全身を矢が貫く。
その姿はまるで、
ハリネズミのようであった。
「きゃはははははははっ!
脳筋なゴミ女が苦戦していた相手もぉ。
クーちゃんにかかれば、
ざっとこんなものなのかしら?」
(………………)
サトシの中にこみ上げるものは
悪寒と激痛。何度も死線を
潜り抜けてきた元冒険者としての勘が
死の予兆を告げる。
今、自身の全身を貫く矢による傷が
助かるようなものではないことを。
(死ぬのか)
サトシがそう理解した瞬間。
自然とと心は穏やかになった。
ひさしく忘れていた感覚。
(……ならば)
サトシは死を悟った。今サトシが
抱いているのは生への未練ではない。
どうせ死ぬのならその生命を
最後まで燃やし尽くし、妻を、
娘と息子を、そして――愛した村を
守りきらなければという、
ただ現実的な使命感だけだった。
「……"土壁《ウオール》"」
付与《エンチャント》を
使わない単純なスキルの行使。
魂をかけたスキル行使。
「きひっ!? 一体っ、
なっ……なん、ですの?」
まるで激しい地震が置きた
かのように地面が揺れる。
そして村を取り囲むように
巨大な堅牢な城壁のような
壁が築かれる。
「……重騎兵《キャバリー。全騎突撃、
あの死にぞこないに
トドメをさしなさいっ!!
首を持ち返ったものには
皇女の名に置いて爵位を与える」
全身を矢で貫かれたサトシの
首を持ち返らんと我も我もと
重騎兵《キャバリー》が押し寄せる。
その数は700にものぼる
重騎兵《キャバリー》の波を
一度に蹴散らす。
「サトシよ。見事であった。
魔族の王として人族の矜持、
しかと我が双眸《そうぼう》に焼き付けた」
魔王ユミルは迫りくる
重騎兵《キャバリー》の波からサトシの前に立つ。
それは路線に落ちた人間を救うために
電車の前に立つかのような自殺行為。
第三皇女クゥズは魔術師部隊に
新たなる命令を与える。
「きっひっひひひ。情にほだされる間抜けな魔王。
一石二鳥のチャンスねっ!
ファイアー・ボールの詠唱を一時中止。
重騎兵《キャバリー》達に防御魔法を展開するのよ!
間抜けな魔王もあの土の男も一緒に
轢き殺してあげなさいっ!!!」
魔術師部隊が重騎兵《キャバリー》に対して
多重の防御魔法をかける。
ただでさえ堅牢な重騎兵《キャバリー》を
更に魔法により強化する。
「大義があろうが無かろうが
我が友を傷つけれれば、
怒りもしよう、涙もしよう、
我は強欲なる故に魔王。
一度得たものを一つたりとも
見捨てるつもりはない。
人としての矜持を捨てた
貴様らにもはや容赦はない。
――ただ力にて捻り潰す!」
吼えるユミルの瞳の奥に、
サトシは昏《くら》き炎が灯るのをを見た。
彼の奥にずっとあった猛き炎。
彼はその感情がなんであるかを
理解している。どうすれば、それが
自分に更なる力をもたらすのかを。
まるで魔王ユミルの苛烈な咆哮に
応えるかのように、魔力の渦が
がうねりをあげるて目の前に収束。
魔王としての本能の解放。
ユミルは力のすべてを
練りながら、その力が解き
放たれるのを待っている。
目の前には強大な魔法陣が紡がれる。
「終末の業火」
魔王としての荘厳さすら
漂わせていたこれまでとは
毛色の違う荒削りで単純な魔法。
膨大なマナを消費して放つ
単純な暴力。
重騎兵《キャバリー》は騎馬の上で大盾を構え、
魔術師は更にマジックシールドを重ねがけする。
魔王と一介の魔術師とでは魔力量の差が
あるとはいえ、数百人単位で
詠唱する防御魔法が脆弱なはずがない。
弓兵と魔術師はすべての魔力を
防御に回し、まるで城塞のように
堅固さだけを突き詰める。
ユミルは眼下に展開される
巨大な物理盾と魔法盾を
眼下に見下ろす。
「堕ちよ太陽」
魔法陣が目もくらむほどの
輝きを帯びた。単なる光ではない。
昏き炎。魔法陣それ自体が、
黒炎と化し狂おしくうねり渦を巻く。
激情に駆られた竜のごとく、
轟然と疾駆し。
最前線の重騎兵《キャバリー》に激突。
重騎兵が巨大な大盾を受ける。
多重の魔力壁に覆われた大盾。
魔王の業火を受け止める。
だがまるでひとつの生命と化した
昏き炎の竜は止まらない。
まるで大盾も魔力壁も知ったことかと
熾烈に暴れ、歩みを阻む無粋な
壁を噛み砕きにかかつた。
何層にも覆われた防御壁が
昏き炎の竜の牙によって
砕かれ、更にはその下の
物理盾も蹂躙する。
「きひっ……? きひひひひ。
嘘、あの数の……クーちゃん
自慢の重騎兵《キャバリー》が全滅?!
そんなの、あり得ない。
あれらは捨て駒じゃない。
鍛えられたエリートなの?
そんなことって認められない!」
完全に折れかけた第三皇女クゥズは
重騎兵《キャバリー》を倒すために
全魔力を喪失した魔王の姿をみて
即座に頭を切り替える。
「きゃはっ。でもでもでもお。
重騎兵《キャバリー》の尊い犠牲のおかげで
あの厄介な魔王もサトシとかいう男も
ほとんど死に体かしらぁ?」
あと残されたのはユドラ一人。
いかな近接戦の天才といえども
軍隊相手ではは分が悪すぎる。
「きーっひっひひひひひ。
魔術師部隊、ファイアー・ボール
でたらめに撃ちまくるのよ。
あのやっかいな土壁さえ超えられれば
どこに当てたって構わない。
狙わなくても一向に構わないわぁ。
でたらめにうちまくりなさい!」
魔術師部隊は
上空に両手ををかざし
赤色の魔法陣を展開する。
「きひっ?――どうしたの?
とっとと撃ちなさいよぅ?」
「謹啓、謹んで申し上げる。
魔術師部隊長より伝令有り。
何らかの魔術干渉《ジャミング》によって
ファイアー・ボールを放つ事が
できないとのこと!」
「きひっ……言い訳は聞いたげないっ!
なんとかして撃たせなさい!!」
第三皇女のクゥズは側近にそう命じる。
それを受け、側近は魔術師に
死を覚悟してでもファイアー・ボールを
詠唱するように指示を出す。
全身を矢に貫かれ意識を失った
サトシの前に一人の少女が現れる。
サトシの娘、セフィである。
「パパのおかげで村は守られたよ。
あとはセフィにまかせて
少し休んでいてね」
セフィはサトシの肩に手を置き
魔力を込める。応急処置の治癒魔法。
魔術師の部隊が魔法を使えなく
なったのはセフィが放った超強力な
魔術妨害《ジャミング》によるものである。
セフィが認識阻害の魔法を解除して
姿をあらわしたのはこれから行う
智属性《ダアト》の演算に必要な
全ての集中力を行使するため。
「詠唱術式解析 接続先世界樹
参照先火術書 現象置換――完了
即時発動――起動
対象――術式行使者
因果応報――天罰覿面」
ミミの"智属性《ダアト》"のスキルの発動。
敵の使用する魔術式の分析と改竄。
この世界での魔術は
物理的に可能な現象を
その過程を省略し結果のみ
発言させる、ひらたく言えば、
ショートカットコマンドである。
セフィはその魔術の大本となった
原典のコマンドの魔術理論を
完璧に理解し魔術の神秘のヴェールを
強制的に剥がし物理現象に還元させる。
――つまり。
「うぎゃぁあああああ!!!
なんだぁああああ!!!!
体が燃えるうぅうう!!!
あついぃいいいいいい!!」
ファイアー・ボールを
放とうとした魔術師部隊の
全身が燃え盛る。
セフィによって術式が
改竄されたことによって
行き場のなくなったマナの暴発。
「はひっ……。はひひっ……。
クーちゃん……意味分かんない。
一体、何が起こっているの?」
第三皇女クゥズのサトシや魔王を狙う
のではなく村を狙って攻撃するという
戦略自体はたしかに有効であった。
ただ、星のめぐり合わせが悪かったのだ。
====================
・第二皇女ミーゴ(皇位継承権2位)・・1名
・第三皇女クゥズ(皇位継承権3位)・・1名
・第四皇女カッス(皇位継承権4位)・・1名
・皇女護衛兵《インペリアルガード》(伝説級武具所持《レジェンダリーアイテムホルダー》)・・11名(-1名)
・狂戦士《バーサーカー》(前頭葉切除)・・0名(-58名)
・弓兵《アーチャー》・・・478名
・剣奴隷《スレイヴァー》(爆発する首輪)・・・0 名(-2378名)
・歩兵《ソルジャー》(剣と軽装)・・・0名(-1380名)
・炸裂兵《ボマー》 (全身に爆薬。薬漬け)・・・276名
・魔術師《キャスター》(ファイア・ボール詠唱可)・・・0 名 (-568名)
・重騎兵《キャバリー》(大型ランス装備・戦馬騎乗)・・・0名(-680名)
・竜騎兵《ドラグナー》(投擲槍装備・ワイバーン騎乗)・・・568名
・性奴隷《セクスレイヴ》(外すと爆発する首輪付き)・・・868名
・衛生兵《メディック》(ポーション所持)・・・13名
・記録兵《レコーダー》(ペンと紙所持)・・・・36名
※カッコ内人数は戦闘不能数または死亡者数
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その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

少し冷めた村人少年の冒険記
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これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
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