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第50話 救出

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 薄らと意識が浮上する。冷たい……寒い……。
意識が浮上すると同時に、全身の感覚が戻ってくる。
冷たくて硬い石の床の上に寝ているようで、目の前には薄暗い部屋と灰色の石の床が広がっている。
なんとか起きあがろうとするが、両手と両足を縛られており身動きが取れない。

「イッ…」

 頭を殴られたせいか、後頭部に鋭い痛みが走る。
元の世界なら、真っ先に病院でCT検査ものだろう。
そんな事をぼーっと考える。良いのか悪いのか痛みのせいで意識がはっきりしてくる。
思い出されるのは、意識を失う直前の事……ソフィリアさんは無事に逃げられただろうか?
リンちゃんにも、ソフィリアさんにも悪いことをしてしまった。

 元の世界でも、この世界でも、悪事を働いたわけでもない。
ただただ普通の幸せを願って生きてきたのに、何故こんな目に遭わねばならないのだろうか?
まして、今回はいろんな人に迷惑をかけている。
きっと優しい人達のことだ、私の事を必死に探してくれるだろう。
人に迷惑をかけず、普通に生きたいと望む事すら私には罪な事なのだろうか?
人間風情が創造神に気安いと、他の神から怒りをかったのかもしれない…。

 私はこの先……これから自分の身に起こり得るだろう事を考えるだけで、ネガティブな考えに思考が染まっていく、それと同時に会いたいと、強く願うあの人の顔が頭をよぎる。

 恋愛なんかしない。するつもりもない。そう自分に言い聞かせて来たくせに、優しくされて、微笑まれて……勝手に好きになって、バカみたいだ私……。
親切にしてくれただけと、本当は分かってる。
私が勝手に勘違いしているだけ、けれど……心の中で思い続けるくらいなら許して欲しい。
できる事なら、最後にもう一度会いたかった。名前を呼んでほしかった。
想いなど告げたりはしないから………。

 とめどなく流れる涙が頬を伝う。泣いたとて、泣き顔を見られて困るような人は来はしない。
石に吸い込まれていく自分の涙、先程まで静まり返っていた朽ちた木の扉の外が騒がしくなる。
もしかしたら、ソフィリアさんが騎士団に知らせてくれたのかもしれない。

 助けを叫びたいけれど、冷えた身体と感覚のない手足、這いずることも叫ぶ事すらできない。
はぁ……と小さく息を吐く、再び遠ざかる意識の中で朽ちた扉が砕ける音と、もう一度会いたいと願ってやまないあの人の声が、私の名前を呼んでくれた気がした。

 その声だけで心が満たされて行く、冷え切った私の心を温めてくれるようなその温もりに、そっと目を閉じた。



後書と言う名のお知らせ
最終話は各キャラごとになります。
続けてレイ編をアップいたします。


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