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レイ編 

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 キッチンの窓から柔らかい朝日が差し込む、ちょうど食パンが焼けたところで、パタパタと足音が背後から近づいてくると、ポフっと私の腰に小さな身体が抱きついてくる。

「ママおはよー!」

 黒髪に黒い耳、そして愛らしい黒いフサフサのしっぽが忙しなくフリフリと振られており、とってもご機嫌です!と、言わんばかりだ。

「おはよう、カズハ」

 6歳の長女カズハは目に入れても痛くないほど可愛いくて、しっかり者のお姉さんだ。
しかし、私としてはしっかりし過ぎるのは、昔の自分を見ているようで心苦しくもある。
カズハにはもっと甘えて欲しいんだけどな…そんな事を思いながら、カズハの頭を撫でていると廊下から、ペタペタと言う足音と何かをズルズル引きずっている音が響く

「ママぁー、お腹減った」

 父親譲りの茶色い髪の少年が、目を擦りつつお気に入りのウサギ柄の毛布を引きずりながら、キッチンへと入ってくる。カズハと違って耳も尻尾もないが、父親譲りの分かりやすい素直な子である。

「おはよー、ライ
今ご飯できるから、毛布は部屋に置いて来なさい。」

そう言うと、カズハがライに近寄り

「もー、ライは4歳になったんだよ!お兄ちゃんでしょー!いっつも毛布引きずって歩いて、お姉ちゃんが毛布置いて来てあげるから、ライは顔洗ってきて」

「あーい…むにゃ…」

「あっ、カズハ!
ついでに、ルーイとパパを起こしてくれる?」

「はーい!あっ、パパ!おはよー」

「おはよーカズハ、カズハは1人で起きれて偉いなー」

「えへへー、あっ、パパ!顔洗ってからじゃないとキッチン入っちゃダメだよ」

「あっ、ハイっ…すみません…」

 娘に出禁を食らった可哀想な夫の元へ、次男である2歳のルーイを引き取りに向かう。
ルーイの頭にも可愛らしい茶色い耳と、お尻には尻尾がついている。
どんな寝方をしていたのか、髪もそうだが尻尾まで寝癖がついて毛がうねっている。
それを見て、寝癖の付き方がレイさんと一緒で笑ってしまう。

「おはよー青葉ちゃん、ルーイ頼むよ」

「おはようございますレイさん、はーい。」

 まだ半分寝ている様で船を漕いでいるルーイを受け取ると同時に、チュッと口の端におはようのキスをしてくるレイさん、新婚時代こそ照れていたが今ではもうそれが当たり前、ないと落ち着かないくらいだ。

ふふふっと、私が笑えば

どうしたの?と、首を返しげるレイさんに、偶には!と、私からレイさんの口の端にチュッとキスをすれば、呆然と立ち尽くす夫に思わず笑ってしまう。

 結婚して7年にもなるのに、我ながら何とも初々しい事だと思ってしまう。
フリーズ状態から復活したレイさんが

「青葉ちゃぁーん!!!もう一回!!!」

「うわぁ!ちょっとレイさん!」

「あぁ、ごめん!お腹大丈夫!?」

レイさんに急に抱きつかれて、抱っこしていたルーイと重たい自分のお腹でバランスを崩しそうになるのを、レイさんが慌てて支える。

「コラァ!!パパ!!!ママは妊婦さんなんだから!!
それと娘の前でイチャイチャ禁止!!」

「すっ、スミマセン…」

またも娘に怒られ、耳がしょんぼり後ろへ倒れるレイさんを見てまた笑ってしまう。

 7年前のあの日、意識を手放しかけた私の名前を叫ぶ様に呼びながら部屋に駆け込んできたレイさん、その顔は涙でぐしゃぐしゃで、私を抱きしめながら子供みたいに「青葉ちゃん死なないでぇーー!」と、号泣していて、物語ならカッコよくヒロインを助けにくる場面なのに…と、ふふふっと、笑いなが「死んでませんよ」と、呟く様に笑いながら答えたら、再び号泣してしまい駆け込んできたエリティナ様に殴られるまでそのままだったのは今思い出しても、ふふッと笑ってしまう。

「ほらほら、彼方、早く顔を洗ってきてください。
今日はお弁当持って、ピクニックに行く日なんですから!」

「でへへぇ、青葉ちゃんに彼方って言われると、なんか照れちゃうなー」

デレデレしているレイさんに、まったくーっと困っていると、すかさずカズハの追撃が入る。

「いーからさっさと行って!!
パパのせいでピクニックに行く時間遅くなったら、嫌いになるか「それは嫌!!パパを嫌いにならないでカズハ!!!」」

そう言い残すと、ドタドタと走って洗面所に向かう夫を見て、カズハとヤレヤレと首を振る。

「ありがとうカズハ、今日はカズハの大好きな唐揚げをたくさんお弁当に入れておくからね!」

「やったぁー!!ママの唐揚げ大好き!!
あっ!プリンも!!」

「そうねー、保冷バッグに入れればお昼までは保つかな?」

未だにうたた寝しているルーイを子供用の椅子に座らせると、ホットタオルでその顔を拭う。

「やった!プリン!プリン!」

プリンを連呼しながら、テーブルに皿を並べていくカズハを笑いながら見ていれば

「プリン!?朝からプリン食べていいの!?」

顔を洗って戻ってきたライが、目を爛々と輝かせながらキッチンに入ってくる。

「違うよー、ピクニックに行ってから食べるの!」

「なーんだ」

 一瞬でテンションの下がるライだが、椅子によじ登り冷蔵庫を開けると、ジャムとバターを取り出してテーブルに並べていく、カズハお姉さんの躾の賜物である。





 広がる青空と草原、レジャーシートが風にそよいで時々カサカサと音を立てる。
少し離れた場所で、カズハとライがルーイと鬼ごっこでもしているように様にボールを手に持って走り回っている。

「どんなルールなんだか…」

横に座っていたレイさんが、子供達を眺めて苦笑いしている。

「ふふっ、ルール不明ですね」

「ねぇ、青葉ちゃん…俺さ……青葉ちゃんの事、ちゃんと幸せにできてるかな?」

「えっ?」

突然のレイさんの言葉に、思わずその横顔を見れば不安そうな顔をして子供達を見つめている。

「時々思うんだ……。
青葉ちゃんが俺を選んでくれて、カズハが産まれて子供達に囲まれてさ、毎日が幸せすぎて、俺ばっかり幸せになってて、幸せにしてもらってるの俺の方で、俺は青葉ちゃんの事幸せにできてるのかなって……」

 そう言いながら、だんだんとレイさんの耳が自信なさげに倒れていき、こちらを向いたレイさんは伺うようにこちらを不安げな目で見つめる。
そんな不安げなレイさんには非常に申し訳ないと思いつつ、思わず

「ふっ…ブハッ…アハハハハハ!」

「ちょっ!!!なんで笑うの青葉ちゃん!!!」

「いやだって…ふふっ、もう4人目の子供がお腹にいるのにっ!」

「だっ!!ちょっ!!不安とか言いながら、ちゃっかりヤル事ヤッてるのに今更って事!?
そそそそれとこれとは…別じゃないけど、本能的なーあぁーえぇー…うぐっ、あぁぁぁぁ!!
すみません!ごめんなさいぃぃぃぃぃ!!!」

「ふふふっ、私はちゃんと幸せですよ!
あの時、レイさんが助けに来てくれる直前まで、レイさんにもう一度会いたい。
また、名前を呼んで貰えたらって思ってたんです。
嬉しかったんですよ、レイさんが助けに来てくれて…。
もう2度と恋愛なんてしない!たった1人で生きて行く!と思っていたこの国で、優しい夫と、可愛い可愛い子供にも恵まれて、私は世界一幸せ者です!」

「青葉ちゃん…」

へにゃりと倒れた耳だったが、今度は歓喜で尻尾がパタパタと左右に揺れ動く、そんな可愛らしい夫に微笑めば

「俺!これからも青葉ちゃんを守るからね!絶対絶対、幸せにするからね!」

「はい!私もレイさんが笑っていられるように、ずっと側で支えますね」

 そう言って、お互いがフフッと笑い合うと、どちらともなく顔を寄せ、再び互いの幸せを願って誓いの口付けをする。
すぐに離そうとした唇を、レイさんがそっと私の顔に手を添えてそれを制する。
その心地よさに身を委ねようと、互いの口付けの角度を変えようとしたところ

「い〝っ!!!!?」

と言う声と共に、レイさんがドサリと横へと倒れ込んだ。

「レッ、レイさん!?」

バウンドしたボウルがレジャーシートに転がり、直ぐに状況を察する。

「子供の前でイチャイチャするなーーー!!!」
「「するなぁぁぁぁーー!!」」

「おーまーえーらー!!!!もう許さん!!!
チューくらい良いだろうがァァァァァ!!!」


「「「よくなーーい!!」」」

うぉぉぉぉぉぉ!!とボールを持って、子供に向かって走って行くレイさんに、子供達がキャーキャー言いながら逃げ回る。

それを笑いながら眺めていると、ポコりとお腹が蹴られる。

「そうだねー、次は一緒にお外で遊ぼうねー」

ふふふっと、笑いながらお腹を撫でて平原を駆け回る夫と子供達を笑いながら眺めるのだった。



レイ編 完





あとがき

平素よりご愛読をいただきまして、誠にありがとうございます。
各キャラ分岐後に恋愛パートもう2、3話書けばよかった……腹八分目感……。
って、言い訳はこれくらいにしまして!!
来週はゴコク編のアップとなります。
それでは引き続き、お付き合いの程よろしくお願いいたします。
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