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第49話 共闘

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 「エリティナ様!全員の避難が完了しました。
火傷をしている者はおりますが、軽傷です。」

 転んだ子供の治療を広場でしていたエリティナが、ススで汚れた顔を拭いながら、ほっとした表情を見せる。

「皆さんが無事でよかった。
ですが、刺されたと言う修道士の名前も安否も聞いていないのですが、その後どうなりましたか?」

「はっ!?直ぐに誰か向かわせます!」

「お願いします。」

 エリティナが、治療していた少女の足の包帯を巻き終えると、皆の集まっている場所へ連れて行くようにと側にいた修道女へと託す。

 この様な混乱で人が1人や2人、居なくなったとても気づきにくい。到着した騎士団の異様な少なさ、聞けば誘拐組織へのアジト突入と、教会の火事がほぼ同時だったという。
偶然にはできすぎている事態と言わざる負えない。
よりにもよって、我が神のいないタイミングで…。
己の不甲斐なさに思わず奥歯を噛み締めていると、見知った背中を見つける。
嫌な予感で胸がざわつき、慌ててその2人の元へと走り出した。



「はぁー、しんど!
消防車召喚できひんの?」

「そんな事できるわけないだろバカ狐」

 燃え盛る教会の炎、教会の火を消す事は不可能と早々に諦め、火の粉で家屋が燃えないように、住民達と手分けしてそこかしこに水を撒いているのだが、風が吹けば何処まで火の粉が飛んでいくかなど予想がつかない。
ため息をついていると「お前ら!!サボるな!!」と獣人の常連客であるレイが木桶を片手に、狐鈴に怒鳴る。

「煩い犬っころやなー、何でここにおんねん」

「狐と犬、同族嫌悪だな」

「あの炎でローストビーフ作ったろうかクソ牛」

あ〝ぁぁん?と喧嘩になりそうな2人を、ソラウが宥める

「この非常時に喧嘩するなよお二人さん!!
それにしても、騎士団の人数少なすぎやしないか?
教会が火事なのに、なんかあったのか?」

そう言いながらソラウが辺りを見回していると、ピンと尻尾を立てて一点を見つめる。
それに釣られるように3人も振り返れば、広場の方から修道服の裾を掴んで走ってくる修道女の姿が見える。

「そこの!お二人!
ゴコクさんとか申しましたわよね!青葉ちゃ…さんのお店の方!
青葉さんは!?青葉さんはどちらに!?」

 うわぁ…こんな時でも青葉の事、と神使2人が内心で呟くが、如何にも前回の常軌を逸した青葉への執着心とはまた別の様子に見えた。

「青葉なら店に残る様に伝えているし、もし火が回れば皆と逃げる様には伝えてある。」

ゴコクが走り寄ってきたエリティナに淡々とそう告げれば、

「直ぐに戻って下さい!!
あなた方は青葉さんの側で護衛を!胸騒ぎ…」

エリティナが言い終わらぬうちに、狐鈴の横に白い閃光が走ったと思った瞬間、ドシャッ!!と言う音を立てて、何かが落ちた。

「なんや!?はぁ!?リン!?と、誰やっけ?
って、青葉は!?青葉はどないしたんやリン!!!!!」

状況を一瞬で察した狐鈴が、動揺したように上擦った声を出し、ソフィリアの肩の上で震えているリンを見る。

「主人、ごめんなさい。
青葉はんが、この人間助けてって言うて、変わりに青葉はんが連れて行かれて、ごめんなさい…」

ゴコクの前に立っていたエリティナを避けて、ゴコクが鬼気迫る顔でソフィリアの防具の縁を掴み勢いよく引き寄せる。
落ちた痛みで呻いていたソフィリアが、うぐっ、と苦しげな声をあげる。

「言え、青葉は何処だ。
大方、お前を逃すために青葉が変わりに残ったんだろ。
式神が力を使うほどの非常事態だ。
何があった!!さっさと言え!!」

「おい止めろ!!」

レイが慌てて割って入り、ソラウと協力して羽交締めにしながらゴコクの手をソフィリアの防具から離させる。
倒れ込むソフィリアをエリティナがしゃがみ込み支える。

「くっ…不甲斐ない役立たずだと私が1番分かっている!!!
店の裏手を、スラムの方面へまっすぐ進んだ道沿いだ!!
早く行け!!ゲホッ…奴らは人攫いの組織、何者かが青葉を買うために依頼したと言っていた。
騎士団はその組織のアジトに突入しているはずだが、奴らの方が上手だった。
行け、今ならまだ間に合うかもしれない!!」

ソフィリアが言い終えないうちに、ゴコクと狐鈴が走り出す。

「まっ、待てお前ら!!!」

それを追うように、レイも走り出して行った。


「クソッ!!!」

自身の拳を何度も地面位叩きつけるソフィリアの手を、そっとエリティナが止める。

「騎士よ、貴方が憎むべきは貴方自身ではない。
誘拐組織の者達です。
……申し訳ありません、この騎士の方の手当てをお願いします。」

そう言って、ソラウの方を見るエリティナの顔は穏やかに見えたが、その目には憎しみが灯っているようで思わずソラウの尻尾がブワリと逆立ち、何度も頷いてエリティナからソフィリアを受け取ると

「後はお願いします。」

そう言い残すと、3人の後を追う様にエリティナも走り去っていった。




 「待てや!ゴコク!!お前、探す当てなんかあらへんやろ!
何ヶ月も捕まらへん連中が、そんなモタモタ通りで青葉担いでるわけないやろ!」

「煩い」

「リン!匂いかなんかで辿れへんの?
野郎の1人や2人、匂いのキツそうな奴おったんちゃう?」

「やってみる…」

狐鈴の肩に乗っているリンが上半身を伸ばして、鼻をヒクヒクとさせていると

「主人、前から沢山誰か来る。」

「おいクソ牛!聞けや!!ゴコク止まらんかい!」

「聞こえてる」

そう言うと、滑るようにブレーキをかけて止まる。
程なくして、その正面の道からドカドカッと言う馬の蹄の音が響き渡る。

「今頃ご登場かいな…」

ゴコクと並ぶ様に狐鈴も止まると、正面から現れたのは50名以上の騎士団、その先頭は言わずもがなだろう。

「ちょっ…お前ら走るの早すぎる。」

ゼェーハァー言いながら追いついてきたレイが、膝に手をついて肩で息をしている。

「何故、君達がこんなところに居る。」

 先頭の馬から降りた騎士の1人が、馬の手綱を引いてこちらへと歩み寄る。
後ろの騎士達に先に行くように促すと、5名ほど残して他の一団は広場の方へと馬を走らせていった。
その騎士がヘルムを取れば、現れたのは見知った顔のハイルだった。

「お前ら騎士共がしくじったせで青葉が攫われた。
力を貸せ騎士、青葉を助けに行く」

ゴコクの言葉を聞いた瞬間、ハイルの口からギリリと言う歯を食いしばる様な音が響く

「青葉さんが攫われただと…あの穢らわしい外道共が青葉さんに触れたと言う事実だけでも許し難い…」

「こいつホンマ、ヤバい奴やな…」

「ぜぇーはぁー、そんな事より!早く青葉ちゃんを見つけないと!」

レイの言葉に、ハッと我に返ったハイルがゴコクの目を見据える。

「手を貸そう。いや、借りるのはこちらのほうか…。
奴らの潜伏場所の目星がようやく着いた。
我々が突入した倉庫はもぬけの空だったが、奴らが居るのは地上ではない。旧区画の地下水路だ。
騎士団を分散し地下水路の出入り口は封鎖するため向かわせた。
あとは内部に入るだけだが、中は入り組んでいるし地下には組織の連中だけでなく、お尋ね者も多いと聞く、無事では戻れないかもしれないが、それでも行くのか?」

「後から出てきて主人公面すんなや、顔だけ野郎!
行くに決まっとるやろ!」

「当たり前だ。行くに決まってる」

「おっ、俺も行くからな!!」

「私もご一緒いたします」

突然聞こえた4人目の返事に思わず皆が振り返る。

 そこに居たのは、ニコニコと微笑みつつも一ミリも目が笑っていない聖女エリティナが立っていた。
その目を見た全員がブルリと身震いし、殺伐としていた場に沈黙が流れたのだった。

「ラスボス激怒やん…」

狐鈴の呟きに同意するように、馬の嘶いた声が響いたのだった。



 





あとがき、と言う名のお知らせ

日頃よりご愛読をいただきまして、誠にありがとうございます。
後書が次回予告になりつつありますが、来週の更新につきまして
来週は、50話(最終共通パート)+レイ編の2話をアップいたします。
各キャラ、1話完結となります。

それでは、残すところ数話ではございますが、引き続きよろしくお願いいたします。
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