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第14章 羨望
第207話 詮索
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「そうか。俺も前にドーファン先生から、その試作品を貰ったよ。……それに命を助けられたしな」
かつてアティアスがセリーナに刺されたとき、その宝石のお陰で、エミリスは回復に足る魔力を得られた。
それがなければ、死んでいたのは間違いない。
その刺した本人――セリーナはすぐ目の前にいるのだが、その場にはいなかったため、直接見てはいなかった。
「魔法石と違って、魔導士にしか意味がないけど、そのぶん危険性も少ないからな。……魔法石は危険すぎた」
トリックスがそう呟くと、アティアスも同意する。
「確かにな。以前、魔法石をいくつも同時に使って、すごく強力な魔法になったことがあった。あれは……本当に危険だよ」
「そのことなんだけどな。……実はな、今の魔法石ひとつでも、それと同じことができるんだよ」
トリックスの話に、アティアスたちは驚きを隠せなかった。
「それは……どういうやり方なんだ?」
「タネは簡単さ。そもそもひとつの魔法石には、ひとつの魔法を一度しか込められない。だから、今まで別々の魔法石を使わないといけなかった」
「ああ、そう聞いているよ」
「だが、例えば10回分の魔法を10個の石へと別々に込める。そこまではこれまでと同じだけど……。それをな、もう一度まとめて別の魔法石に移し替えるんだ。そうすると、1個で10個分の魔力入った魔法石の出来上がりだ。……準備が面倒だけどな」
そう語るトリックスの話を聞くに、何かを隠そうとするような雰囲気は感じられなかった。
「そんなことができるのか……。その話、ここの魔導士はみんな知ってるのか?」
「いいや、それは更に危険だからな。兄貴にも伏せてるよ。……ただ、誰でも思いつく可能性はあると思うが」
「そうなのか。ただ、どちらにしても、その魔法石そのものを持ってなければ、使い道はないか……」
「ああ。だから管理が大事なんだよ」
トリックスは椅子の背に深く背中を預け、頭の後ろで両手を組んだ。
そして、しばらく考え込む様子を見せたあと、口を開いた。
「なぁ……。アティアスがここに来たのは、俺たちを疑ってるからだろ?」
「……!」
アティアスたち3人の中で、エミリスだけは表情を変えなかった。
しかし、アティアスとウィルセアはわずかに顔に出てしまう。
「やっぱりな。……いや、いいんだ。疑われるのも理解できる。夏に街で起こった爆発事件の話も聞いてる。アティアスがその場にいたことも、魔法石が使われた可能性が高いってこともな。さっきのダリアン侯爵の話もそうだ。どこからか魔法石が出回るとしたら、真っ先に俺たちが疑われるのは当然だからな」
「兄さん……」
「まぁ、信じてくれとしか言いようがないが、俺は魔法石をそんなことのために使いたくはないよ。あれは攻めるものじゃなくて、攻められないように使うべきものだからな」
トリックスはまっすぐアティアスの目を見た。
その目が嘘をついているようには見えなくて、アティアスは小さく頷く。
「そうか、わかったよ。すまない。……それはそうと、最後にひとつだけ教えてくれ」
「ああ、構わないが……」
「この城の裏の倉庫に、新しく雇ったって魔導士が居るだろう? その男について教えて欲しいんだ」
アティアスがカノーザのことを切り出すと、トリックスは思い出したように「ああ……」と頷いた。
「確か……流しの魔導士って言ってたな。魔力もかなりあるし、動物を意のままに操れるって聞いて、何か役に立つかと思って雇ったんだ」
「実はさっきその男に会ってきたんだ。……俺は以前その男に会ったことがあったからな」
その話を聞いて、トリックスは訝しむような目を見せた。
「以前会ったことがある……ってのは? 確か、王都の方から来たと聞いていたんだが……」
アティアスはセリーナをちらっと観察しつつ、ゆっくりと口を開く。
「……以前会ったのは、昨年テンセズで、だ。テンセズが攻められたとき、マッキンゼ側の部隊を指揮していたファモス殿のすぐ横にいた。それを覚えている」
「なんだと……! ファモス殿の……? 本当か⁉︎」
トリックスは寝耳に水だったようで、驚きの声を上げた。
ファモスはセリーナの父親であり、当然よく知っていたからだ。
「ええ、間違いないです。……顔だけなら似ている、という場合もありますけど、私は魔力の特徴で判別できますから、間違えることはあり得ません」
「……そうか。――もしかして、セリーナは知っていたのか……?」
エミリスの話に頷いたトリックスは、セリーナの方に顔を向けた。
戸惑うような表情をしていたセリーナだったが、ぽつりぽつりと話し始める。
「……ええ、知っていました。あの男……カノーザは、かつて父の腹心のような立場でした。昔、魔獣や獣を意のままに操って戦力にしようと。そういう研究にずっと取り組んでいて、その成果で取り立てられたはずです。……直接の関係はありませんけど、私も顔を合わせたことがあります」
「そうなのか……」
「……彼が有能なのは事実です。ただ……それをあなたに伝えるべきなのか悩んで……言わなかったのです」
セリーナの話を聞いて、トリックスは頭を抱えて首を振った。
「……わかった。それはまぁ良いだろう。……アティアス、その男のことについて聞いたのは何か理由があるな?」
改めてアティアスに向き合って、トリックスは尋ねる。
「ああ……。実は、魔法石を仕込まれた犬に、昨日襲われてな。それも、普通の魔導士が出せる程度の魔法の威力じゃなかったんだ……」
かつてアティアスがセリーナに刺されたとき、その宝石のお陰で、エミリスは回復に足る魔力を得られた。
それがなければ、死んでいたのは間違いない。
その刺した本人――セリーナはすぐ目の前にいるのだが、その場にはいなかったため、直接見てはいなかった。
「魔法石と違って、魔導士にしか意味がないけど、そのぶん危険性も少ないからな。……魔法石は危険すぎた」
トリックスがそう呟くと、アティアスも同意する。
「確かにな。以前、魔法石をいくつも同時に使って、すごく強力な魔法になったことがあった。あれは……本当に危険だよ」
「そのことなんだけどな。……実はな、今の魔法石ひとつでも、それと同じことができるんだよ」
トリックスの話に、アティアスたちは驚きを隠せなかった。
「それは……どういうやり方なんだ?」
「タネは簡単さ。そもそもひとつの魔法石には、ひとつの魔法を一度しか込められない。だから、今まで別々の魔法石を使わないといけなかった」
「ああ、そう聞いているよ」
「だが、例えば10回分の魔法を10個の石へと別々に込める。そこまではこれまでと同じだけど……。それをな、もう一度まとめて別の魔法石に移し替えるんだ。そうすると、1個で10個分の魔力入った魔法石の出来上がりだ。……準備が面倒だけどな」
そう語るトリックスの話を聞くに、何かを隠そうとするような雰囲気は感じられなかった。
「そんなことができるのか……。その話、ここの魔導士はみんな知ってるのか?」
「いいや、それは更に危険だからな。兄貴にも伏せてるよ。……ただ、誰でも思いつく可能性はあると思うが」
「そうなのか。ただ、どちらにしても、その魔法石そのものを持ってなければ、使い道はないか……」
「ああ。だから管理が大事なんだよ」
トリックスは椅子の背に深く背中を預け、頭の後ろで両手を組んだ。
そして、しばらく考え込む様子を見せたあと、口を開いた。
「なぁ……。アティアスがここに来たのは、俺たちを疑ってるからだろ?」
「……!」
アティアスたち3人の中で、エミリスだけは表情を変えなかった。
しかし、アティアスとウィルセアはわずかに顔に出てしまう。
「やっぱりな。……いや、いいんだ。疑われるのも理解できる。夏に街で起こった爆発事件の話も聞いてる。アティアスがその場にいたことも、魔法石が使われた可能性が高いってこともな。さっきのダリアン侯爵の話もそうだ。どこからか魔法石が出回るとしたら、真っ先に俺たちが疑われるのは当然だからな」
「兄さん……」
「まぁ、信じてくれとしか言いようがないが、俺は魔法石をそんなことのために使いたくはないよ。あれは攻めるものじゃなくて、攻められないように使うべきものだからな」
トリックスはまっすぐアティアスの目を見た。
その目が嘘をついているようには見えなくて、アティアスは小さく頷く。
「そうか、わかったよ。すまない。……それはそうと、最後にひとつだけ教えてくれ」
「ああ、構わないが……」
「この城の裏の倉庫に、新しく雇ったって魔導士が居るだろう? その男について教えて欲しいんだ」
アティアスがカノーザのことを切り出すと、トリックスは思い出したように「ああ……」と頷いた。
「確か……流しの魔導士って言ってたな。魔力もかなりあるし、動物を意のままに操れるって聞いて、何か役に立つかと思って雇ったんだ」
「実はさっきその男に会ってきたんだ。……俺は以前その男に会ったことがあったからな」
その話を聞いて、トリックスは訝しむような目を見せた。
「以前会ったことがある……ってのは? 確か、王都の方から来たと聞いていたんだが……」
アティアスはセリーナをちらっと観察しつつ、ゆっくりと口を開く。
「……以前会ったのは、昨年テンセズで、だ。テンセズが攻められたとき、マッキンゼ側の部隊を指揮していたファモス殿のすぐ横にいた。それを覚えている」
「なんだと……! ファモス殿の……? 本当か⁉︎」
トリックスは寝耳に水だったようで、驚きの声を上げた。
ファモスはセリーナの父親であり、当然よく知っていたからだ。
「ええ、間違いないです。……顔だけなら似ている、という場合もありますけど、私は魔力の特徴で判別できますから、間違えることはあり得ません」
「……そうか。――もしかして、セリーナは知っていたのか……?」
エミリスの話に頷いたトリックスは、セリーナの方に顔を向けた。
戸惑うような表情をしていたセリーナだったが、ぽつりぽつりと話し始める。
「……ええ、知っていました。あの男……カノーザは、かつて父の腹心のような立場でした。昔、魔獣や獣を意のままに操って戦力にしようと。そういう研究にずっと取り組んでいて、その成果で取り立てられたはずです。……直接の関係はありませんけど、私も顔を合わせたことがあります」
「そうなのか……」
「……彼が有能なのは事実です。ただ……それをあなたに伝えるべきなのか悩んで……言わなかったのです」
セリーナの話を聞いて、トリックスは頭を抱えて首を振った。
「……わかった。それはまぁ良いだろう。……アティアス、その男のことについて聞いたのは何か理由があるな?」
改めてアティアスに向き合って、トリックスは尋ねる。
「ああ……。実は、魔法石を仕込まれた犬に、昨日襲われてな。それも、普通の魔導士が出せる程度の魔法の威力じゃなかったんだ……」
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