148 / 292
第2章
蒼井side ② 生徒会長の一日 その⑥ ~帰り道の公園で、二人を見つけて~
しおりを挟む
蒼井side ②
「そろそろいい時間だから帰ろうかな」
僕は暗くなった外を眺めてそう言った。
ゲームをしたあとは、他愛ない話をしながら二人と時間を過ごした。
途中。二人の母親に挨拶をして、夕飯に誘われたが、遠慮することにした。
たまに、やっかいになることはあるけど、今日は家に用意があるのを知っていた。
時刻は八時前。
門限に厳しくない家だけど、そろそろ帰った方が良いだろう。
明日は予算会議もある。
まかり間違っても、寝坊なんかしたら笑えない。
「そうだね。なんだか話をしてると時間が経つのが早いね」
と、琴音が名残惜しそうに呟く。
「まぁ、明日になればまた会えるよ」
「じゃあね、空。また明日」
「うん。お邪魔しました」
僕はそう言って立ち上がり、二人の部屋から出る。
「見送りは?」
「あはは。別にいいよ」
僕は階段を降りて玄関に向かう。
居間に居た二人の母親に挨拶をして、家を出た。
外に止めてあった自転車の鍵を外し、漕ぎ始める。
朝は春の陽気を感じる暖かさだったが、夜は少し肌寒い。
「もう少し、暖かい格好をしてくれば良かったかな?」
なんて事を考えながら自転車を漕いでいると、
「……あれ」
いつもはただ通り過ぎるだけの夜の公園。
そこのベンチに二人の人影が見える。
「……桐崎くんと藤崎さん」
僕は思わず自転車を止めてしまう。
そして、その事をすぐに後悔することになる。
公園の外から、二人の様子を覗き見る。
決して褒められるような行為ではなく、むしろ非難されるような悪行。
だが、僕は何故かその光景から目が離せなかった。
二人は何か楽しそうに話している。
胸がズキン……と痛くなる。
会話の内容までは聞き取れなかったが、楽しそうな雰囲気はつたわってくる。
……羨ましい。
そんな感情が産まれてくる。
そして、ふたりの会話が止む。
そして、目と目を合わせて少しだけ空気に緊張感が満ちていく。
キスをする。
そういう雰囲気だった。
何故、僕はこんなことをしているのだろうか……
胸が痛い……痛い……痛い……痛い……
身体が冷えていくのは、こんな格好をしているからだろうか、
心が冷えきっていく。
見たくも無いシーンのはずなのに、目が離せない。
そして、
ふたりは、
僕の見ている前で、
キスをした。
僕はなぜこんな場面を見てしまっているのだろうか……
ふらふらとおぼつかない足取りで僕は自転車に跨る。
そして、逃げるようにしてその場から立ち去った。
どうやって家に辿り着いたのか覚えていない。
だけど、僕は気が付いたら家に帰っていて、買った洋服は部屋の隅に放り投げ、ベッドの上で寝転んでいた。
お気に入りの服。彼が褒めてくれた服。それがシワになるのもいとわずに、僕はベッドでうつ伏せになり、枕に顔を埋める。
気が付けば時刻は二十三時を回っていた。
好きじゃない。
まだ、好きじゃない。
彼には彼女が居る。
そんな人を好きになるなんてありえない。
『……私たちの親友が、無謀な恋愛に身を投じないかどうか。それだけが心配だよ』
怜音の言葉が頭に過ぎる。
無謀な恋愛をするつもりなんかない。
『どこのだれともわからないような男の一番になるよりも、一番大好きなひとの二番目の方が、はるかに幸せでは無いですか?』
違う。違う。違う。
僕は……黒瀬さんとは……違う……っ!!
明日は予算会議だと言うのに、僕はそれとは全く違う理由で、寝ることが出来なかった。
「そろそろいい時間だから帰ろうかな」
僕は暗くなった外を眺めてそう言った。
ゲームをしたあとは、他愛ない話をしながら二人と時間を過ごした。
途中。二人の母親に挨拶をして、夕飯に誘われたが、遠慮することにした。
たまに、やっかいになることはあるけど、今日は家に用意があるのを知っていた。
時刻は八時前。
門限に厳しくない家だけど、そろそろ帰った方が良いだろう。
明日は予算会議もある。
まかり間違っても、寝坊なんかしたら笑えない。
「そうだね。なんだか話をしてると時間が経つのが早いね」
と、琴音が名残惜しそうに呟く。
「まぁ、明日になればまた会えるよ」
「じゃあね、空。また明日」
「うん。お邪魔しました」
僕はそう言って立ち上がり、二人の部屋から出る。
「見送りは?」
「あはは。別にいいよ」
僕は階段を降りて玄関に向かう。
居間に居た二人の母親に挨拶をして、家を出た。
外に止めてあった自転車の鍵を外し、漕ぎ始める。
朝は春の陽気を感じる暖かさだったが、夜は少し肌寒い。
「もう少し、暖かい格好をしてくれば良かったかな?」
なんて事を考えながら自転車を漕いでいると、
「……あれ」
いつもはただ通り過ぎるだけの夜の公園。
そこのベンチに二人の人影が見える。
「……桐崎くんと藤崎さん」
僕は思わず自転車を止めてしまう。
そして、その事をすぐに後悔することになる。
公園の外から、二人の様子を覗き見る。
決して褒められるような行為ではなく、むしろ非難されるような悪行。
だが、僕は何故かその光景から目が離せなかった。
二人は何か楽しそうに話している。
胸がズキン……と痛くなる。
会話の内容までは聞き取れなかったが、楽しそうな雰囲気はつたわってくる。
……羨ましい。
そんな感情が産まれてくる。
そして、ふたりの会話が止む。
そして、目と目を合わせて少しだけ空気に緊張感が満ちていく。
キスをする。
そういう雰囲気だった。
何故、僕はこんなことをしているのだろうか……
胸が痛い……痛い……痛い……痛い……
身体が冷えていくのは、こんな格好をしているからだろうか、
心が冷えきっていく。
見たくも無いシーンのはずなのに、目が離せない。
そして、
ふたりは、
僕の見ている前で、
キスをした。
僕はなぜこんな場面を見てしまっているのだろうか……
ふらふらとおぼつかない足取りで僕は自転車に跨る。
そして、逃げるようにしてその場から立ち去った。
どうやって家に辿り着いたのか覚えていない。
だけど、僕は気が付いたら家に帰っていて、買った洋服は部屋の隅に放り投げ、ベッドの上で寝転んでいた。
お気に入りの服。彼が褒めてくれた服。それがシワになるのもいとわずに、僕はベッドでうつ伏せになり、枕に顔を埋める。
気が付けば時刻は二十三時を回っていた。
好きじゃない。
まだ、好きじゃない。
彼には彼女が居る。
そんな人を好きになるなんてありえない。
『……私たちの親友が、無謀な恋愛に身を投じないかどうか。それだけが心配だよ』
怜音の言葉が頭に過ぎる。
無謀な恋愛をするつもりなんかない。
『どこのだれともわからないような男の一番になるよりも、一番大好きなひとの二番目の方が、はるかに幸せでは無いですか?』
違う。違う。違う。
僕は……黒瀬さんとは……違う……っ!!
明日は予算会議だと言うのに、僕はそれとは全く違う理由で、寝ることが出来なかった。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説

十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。
味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。
十分以上に勝算がある。と思っていたが、
「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」
と完膚なきまでに振られた俺。
失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。
彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。
そして、
「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」
と、告白をされ、抱きしめられる。
突然の出来事に困惑する俺。
そんな俺を追撃するように、
「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」
「………………凛音、なんでここに」
その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。


腹ぺこお嬢様の飯使い ~隣の部屋のお嬢様にご飯を振舞ったら懐かれた件~
味のないお茶
恋愛
「お腹が空きました。何か食べさせてください」
春休みの最終日。俺、海野凛太郎(うみのりんたろう)の部屋に同年代くらいの一人の女が腹を空かせてやって来た。
そいつの名前は美凪優花(みなぎゆうか)
今日。マンションの隣の部屋に母親と一緒に引っ越して来た奴だった。
「なんで初対面の人間に飯を振る舞わなきゃなんねぇんだよ?」
そう言う俺に、
「先程お母さんに言ったそうですね。『何か困り事があったら言ってください。隣人同士、助け合いで行きましょう』と」
と笑顔で言い返して来た。
「まさか、その言葉を言って数時間でこんな事になるとは思いもしなかったわ……」
「ふふーん。こんな美少女にご飯を振る舞えるのです。光栄に思ってくださ……」
パタン
俺は玄関の扉を閉めた。
すると直ぐに
バンバンバン!!!!
と扉を叩く音
『ごめんなさい!!嘘です!!お腹ぺこぺこなんです!!助けてください!!隣人さん!!』
そんな声が扉を突きぬけて聞こえて来る。
はぁ……勘弁してくれよ……
近所の人に誤解されるだろ……
俺はため息をつきながら玄関を開ける。
そう。これが俺と彼女のファーストコンタクト。
腹ぺこお嬢様の飯使いになった瞬間だった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる