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5章 みんなとお別れするまでの、つかの間のお休み

74話 やってきたリリさん

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僕はるるさんにひっつかれている。

「ふーっ……」
「るるさん、どうどう」
「ふしゃーっ」
「猫みたいなことしないでください」

まぁ確かに独占欲高めなのは猫っぽいけどね、るるさん。

でも僕「野良猫ハルちゃん」とか呼ばれてたし、属性被っちゃうよ?

そんな彼女を落ち着かせるには、とにかく体重を預けて好きにさせること。

でも今はそれだけじゃちょっと難しいっぽい。

だって。

「え、ええと……ご都合が悪いようでしたら日を……」
「るるのことは気にしないでください……ただの焼きもちですから」
「焼きもちじゃないもん!」
「るる、さすがにほぼ初対面で失礼だぞ……?」

いや焼きもちじゃん……えみさんの言う通りだよ?

「リリさん……でよろしいのでしょうか」

まじめな九島さんがさりげなく軌道修正。

僕がかわいがられすぎようとするといつも助けてくれるから、九島さん好き。

「はい。 事情がありまして、できたら愛称のこの名前で」
「……失礼ですが、配信で最初はリリーさんと」
「ああ、それですか」

今日やって来たリリさんは、この前とは違ってちゃんと翻訳機使ってるからみんなと会話できてる。

……前は僕が翻訳したからちょっとさびしいかも。

「ハル様が」
「はい?」
「ハル様が、最初にそう呼んでくださったので」
「はぁ」

そういや最初リリーさんとかなんとか言ってたっけ。

呼び慣れちゃったるるさんって言うのに引きずられちゃったのかな?

「僕、今からでもリリーさんって」
「リリでお願いします、ハル様」
「あ、はい」

自分の名前を間違えられたのに、むしろぐいっと来るリリさん。
この子もなんか不思議だよね。

「こほん。 それで、彼女……リリさんですが」

るるさんとリリさんをほっとくと何も進まなさそうだからって、いつも通りに仕切ってくれる九島さん。

今日もきっちり揃えたポニテが映えてるね。

「私の上司から電話がありまして……彼女は、ハルさんにお礼がしたいと」

「いや、だから僕は別に」
「そういう訳にも参りません」
「ですから」

「私の立場が立場ですから……私の感情を抜きにしても、しないわけには行かないのです」

「……もしかして、ハルにも本名を明かせないということは、有名な方と言うことで良いのだろうか……ああいえ、良いのでしょうか」

「友人とは砕けた会話をしますから普段通りで構いませんよ、クレセ」
「あー!! 確かに私の名前は単語だけで言えばクレセントになるが! ここは日本で今は日本語出力してもらっているから三日月がありがたいかな!!」
「あ、ごめんなさいごめんなさい! 大変失礼してしまいましたことよ!! えみ・三日月様ですね!!」

「うむ! 私が三日月だ!!」
「三日月様!!」
「うむ! 三日月様だ!!」

「?」

「どうしたんだろ、えみちゃん」

なんか急に焦ってるえみさんとリリさん。

あれ?
2人とも知り合い?

「そ、そちらはるる・深谷様とちほ・九島様!」
「……るるちゃんで良いよ」
「私もちほ……いえ、九島で結構です」

なんか普通の女の子たちな打ち解け方とはちょっと違うけども、なんかあるっぽいリリさんってことでさらっと流そっと。

「僕は……えっと、九島さん」
「彼女は……詳細は伏せますが、特別協力者という立ち位置です」

「じゃあ、僕の」
「ご本名はハルミ・ソヤ様……で、合っていたでしょうか」
「あ、はい。 知ってるなら楽ですね」

銀色の長い髪の毛をかき上げながらちらちら見てくるリリさん。

……あー、この反応。

僕のこと、中身は男だって知らされて、それでなんか気まずそうにしてたのかな。

けど、男って知られてると楽でいいよね。

配信とかはともかく、こうして近いと……ほら、視点的にいろいろ見えちゃったりして困るし。

僕のこと女の子って思われてるとガードゆるゆるだから困るんだよね……るるさんは僕のこと知ってても全裸で乱入してくるけどさ。

「……なんで教えたの」
「ひっ!?」
「ハルちゃんのこと」
「る、るる」

「ねぇ、なんで」
「るるさんステイです」
「……私、えみちゃんじゃないよ」

まーたるるさんがお気にを取られそうになってる声してる。
君、独占欲ちょっと強くない?

「……私が日本の協会の方から要請を受けたのです」
「きょうかい……」

「……私も途中から聞かされたがな。 ハルには話していたらしいが、彼女のレベルはとんでもなく高い」
「25ほどあります。 ダンジョンが出現した時から潜っていましたので」

ほー。

そういやダンジョンが初めてポップしたのは10年前だから……この子が何歳かのときってこと?

ずいぶんスパルタなお家だね。

「……それってハルちゃんとどっちが……あっ」

「いえ、『その件』も存じていますから構いませんよ」
「……そこまで……うん、そっか」

僕の頭に乗っけられてるるるさんの両手……多分お胸も乗ってるはずだけど観測できない……へ、押し付けるようにぐりぐりしてなだめたからか、だんだん落ち着いてきたるるさん。

目をつぶって頭をこすこすしてあげると大体おとなしくなるって知ってるからこその技だ。

今の僕は首輪と鈴を付けられた猫の気分。

「尊っ! ……こほん」
「体、もう大丈夫ですか?」
「え、ええ……」

また一瞬なんか叫んでふらついてたから座った方が良いと思うなぁ。
この子、失神するとき毎回叫ぶんだよね……なんでだろ。

でも今日のリリさん、裾の長いワンピースだから座るのも大変そう。
銀色の髪の毛に白と銀のワンピースとか完全に真っ白だね。

「……それ、ハルちゃんにとって必要なことなんだね」
「そういうことらしいな」

「ええ。 彼女は、次のダンジョン――500階層という、通常なら資材や人員の調整で1ヶ月2ヶ月は余裕を持って準備を整えるべき場所。 しかも期日指定、最大人数指定、さらには……その、の、ノーネーム様の……」

「ぶふっ……いや済まない、つい……」
「声に出すと笑っちゃうよね、ノーネーム様って」
「no name……ああ、あの現象の……」

コメントしてた人たちも、まさか悪ノリが正式な名前になるとは思わないよね。

こういうところは今どきって感じ。
でも呪い様よりはなんか良い感じ。

「……それの機嫌次第でいくらでも不測の事態が起きかねません。 ですから、世界有数の実力者である彼女に協力を要請したのだそうです」

「ここまで注目されてしまっているからな、ハル関係は。 国内どころか海外まで」
「先週の配信、一瞬ではありましたけど同接で世界上位にランクインしていましたものね……」

「え、そんなに見られてたんですか」
「はい。 ……確かこのサイトに……」

呪い様もといノーネーム様とやらが書き換えたらしい配信タイトルが、英語ばっかりのランキングに燦然と輝いている。

なんか不思議な感じ。

「はぇー」

「ぐっ……」
「尊っ……」

「なんかえみちゃんが増えたみたい」
「で、ですね……」





「でもなんで僕のことまで?」

「これから攻略が終わるまでのあいだ、の、ノーネーム……様が何をしてきても良いようにと、彼女もそばにいての警護が望ましいと上司が」

「……リリちゃん、これからずっと……」
「確かにな! これからの準備期間とダンジョン攻略が終わるまでには3週間もかかるからな! ふとしたことでバレてしまって気まずくなるよりは最初からと言うことか! 賢明な判断だと思うぞ!!」
「えみさんうるさいです」

まだうなってるるるさんを九島さんが引き剥がしてくれたけども、まだるるさんはリリさんのこと警戒中。

あ、これ新入りの猫に嫉妬する飼い猫だ。
つまり僕たちはみんな猫。

「けど、護衛なんて」
「……要りませんか……?」
「や、リリさんに迷惑かけられませんし」

というかこれ以上女の子増えちゃったら大変ってのもある。
主に僕がかわいがられるって言う意味で。

この子たち、僕のこと男って知っても平気でおっぱい押し付けたり乗せたりしてくるんだけど……?

今どきの子ってこんな感じなの……?
性に奔放なの……?

「命の恩人。 そのために3週間を捧げるのはおかしなことでしょうか」
「いえ、リリさん、レベル的には」

「私にとって、あのオーバーケルベロスは家族にそっくりな存在……たとえ餓えようとも攻撃はできませんでした。 逃げるにしても攻撃せねばならず、かと言って隠れ続ける水と食料には限りがありましたし」

あー、ペットの犬に似てたって言ってたもんね。

「それに私たちとしてもありがたいんだ、ハル。 その……だな。 ……彼女には多くの……伝手があるようで」
「ええ、私も上司から聞きました。 なんでも彼女の国の警備会社から来ている人員も派遣してもらえるということで助かるのだと」

なんかたたみかける感じでえみさんが、それに思い出したって感じで九島さんが。

「元々日本へはビジネスでも来ていましたから、そのための人員や資材がそのまま使えるのをお話ししまして、こちらのダンジョン協会様に……と」
「ほぇー」
「尊っ……こほん」

「……少なくとも、だ。 ハルの500階層攻略が終わるまでは助けを借りたい。 そう、上が判断したみたいなんだ」
「そうですか。 よく分からないですけど、えみさんたちがそう言うなら」

正直いらないと思うけどなー。

でも僕のことでいろんな人に迷惑かけちゃってるんだし、リリさんくらいはいいかなって気がしてきた。

配信で迷惑かけちゃったし。

や、助けたのは僕だけども、そのあとの底なしの穴にダイブさせた恐怖は僕に取り憑いてるノーネーム様のせいだしさ。

「ハル様」
「でもやっぱり僕は……なんでしょうリリさん」

「こちら、母国から持って来ました、実家のワインなのですが」
「え」
「もしよろしければ、部屋の前で待機しています者がセレクションをあと8本ほど持っています」

ワイン。
アルコール。
おさけ。

「ええと、リリさん……ハルさんは医学的に6歳の肉体で」
「あら、私の国ではどの家庭でも親に勧められて多少は嗜みますよ? もちろん量は少なめですが」

そうだよね、僕の体、この子と同じ種族もとい人種だもんね。
アルコールへの耐性はみんなよりあるんだもんね。

「しかしだな、ハルはやはり」
「そこまでされたら仕方ないですね、リリさん。 えみさんと九島さんが言ったみたいに必要ならぜひお願いしますリリさん。 あとそのラベル見せてもらって良いですかリリさん」
「承りました♥」

九島さんとえみさんが必死になって止めようとしてきたから断固として流れを変える。

ラベルとか見たら……えっと、15年ものとかじゃん?
こんな手土産あったらもう期間限定で居てもらうしかないじゃん。

ほら、めんどくさいダンジョンなんでしょ?
臨時加入とかあってもいいじゃん?

「……ハルちゃん……」
「るるさん、大人はお酒が無いと生きて行けないんです」
「しかしハルさんは、今は子供」
「男が女になったストレスは大変なものなんです」
「いや、ハル、この前は平気だと」
「良く思い返してみたら結構平気じゃなかったので」

「ハル様? こちらのグラスもいかがですか?」
「グラスまで差し出されたら断るのは失礼ですよね」

リリさん=お酒。
お酒=リリさん。

なんとしてでもこの子に居てもらって、持って来たワインを飲み尽くさないといけないんだ。
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