守護霊は吸血鬼❤

凪子

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「俺は……怖くて、どうしようもなく怖くて。足を踏み出すことができなかった。あいつはそんな役立たずな俺の代わりに、あの連中を蹴散らしてくれた。そうじゃなかったらって考えると……今でも震えが止まらないんだ」

故意にではなく、聖は震えていた。

自分が傷つけられていたらという恐怖にではなく、目の前で親友がいたぶられ叫び声を上げるのを、ただ無力に眺めていることしかできない、地獄のような時間があと少しでも長かったらという恐怖に。

それこそが聖が最も恐れ、巨大な怪物の影のように怯えるものだった。

瞬きもせずじっと聖を見つめながら話に聞き入っていた由宇は、やがて静かに口を開いた。

「それであいつは?俺を助けることと引き換えに、お前に何を要求したんだ?」

さりげなく隠していたことを鋭く言い当てられて、聖は激しく狼狽した。

真実を貫く瞳がこちらを見つめている。

聖は力なく目を伏せた。

「それは」

「どうせまた、お前の血を好きなだけ飲んだんだろう。違うか?」

聖は口ごもり答えることができなかったが、その後ろめたい表情が事実を雄弁に物語っていた。

由宇は全てを見て取ると、いまいましげに嘆息した。

「ふざけやがって。何て汚い奴だ。人の弱みにつけこんで逆らえなくさせるなんて」

「でも、それでもあのとき、あいつがいなきゃ俺たちは」

「俺はそんな外道に助けられるくらいなら、あそこでくたばってたほうが全然ましだったさ」

と、由宇は乱暴な口調でうそぶいた。

やさぐれた投げやりな物言いに、聖はたまらない気分にさせられた。

「俺がもっと強かったら、もっと早く由宇のこと助けられたのに……情けなくて、本当にごめん」

うつむくと、涙で声が曇った。

由宇は驚き慌てたように、

「何言ってるんだよ。お前のせいなんかじゃないよ。俺だって、あの状況じゃ尻込みしちまうよ。そんなことより、お前が無事で本当によかった」

由宇が本当に心の底からそう思って述べているのが分かるだけに、聖は居たたまれなくなった。

罪悪感がじりじりと心を灼く。

(由宇には、足のことは言わないでおこう)

ヴァンはもう完治したというふうなことを言っていたが、正確なところは医者の診察を受けてみなければ分からない。

中途半端に希望を抱いて不確かな仮説に期待するのは、由宇にとっても自分にとってもリスクが大きすぎる。

「とにかく、俺はあいつに大きな借りがあるんだ。あいつを消してしまったら、それは二度と返せなくなる。多分、俺はそれが嫌なんだと思う」

(そうだよな。それ以外に理由なんて見当たらないし)

半ば自分に言い聞かせるように、聖は言った。

「借りって。だって取引の対価として血をやったんだろう?それなら貸し借りゼロじゃんか。むしろマイナスだよ。お前が気に病む必要なんかないって」

力説する由宇の反応はもっともだったが、聖は素直に肯定することができず、曖昧な微笑でごまかした。

「……なるほどね」

病室を出てすぐの扉の前で、腕組みをして壁にもたれかかっていた遥は、酷薄な笑みを浮かべて呟く。

漏れ聞こえる二人の会話に注意深く耳を澄ませながら、瞳を鋭くさせる。

「麗しい二人の友情を裂く漆黒の悪魔か。……面白いものが見られそうだ」

不穏な気配をまとった彼は、ほのかな狂気を滲ませて笑う。

それから、廊下に足音を響かせて悠然と歩き出した。

――だけどね、聖君。君は大きな勘違いをしているんだよ。

遥は心の中で聖に呼びかける。

自分にこのうえなく忠実で、思うがままに操ることのできる人形の幻を思い描いて。

やがて端正な相貌が喜びを浮かべ、凄絶な笑みを描く。

「果たして真実を知ったとき、それでも君は彼を選ぶことができるかな?」




















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