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更衣室に入ってそんなことを考えていると、唐突に由宇が口を開いた。
「なあ、聖」
棚に脱いだ服を手際よく放り込みながら、聖は首だけで由宇のほうを振り向いた。
「何?」
「さっきの、クラブの話なんだけどさ、」
と由宇は言いかけ、ふっとたじろぐように口ごもり、それから意を決したような表情で切り出した。
「お前、バスケ部に戻ってこいよ」
「はあ?」
目を丸くした聖に、由宇は畳みかけるようにして、
「怪我のことは分かってる。だけど、俺はお前に部にいてほしいんだ。上手く言えないけど……お前がいると、俺はもっと強くなれる気がするんだ。マネージャーとしてなら、お前にだって活躍の場が十分に残されていると思うしさ。だから、頼む。マネージャーとして、もう一度バスケ部に戻ってきてくれないか」
「何言ってるんだか」
聖は思わず微笑した。意識せずに笑えたのが随分久しぶりのように思えた。
昨日まではちゃんとできていたことなのに。あまりにも多くの出来事が、自分を変えてしまったのかもしれなかった。
乾ききった心に、由宇の真摯な思いは温かい雨のように染み込んだ。
一瞬、そこで見つめているヴァンの視線を忘れさせてくれるほどに。
更衣室を出て柔道場にぞろぞろと歩いていく道すがら、聖は問いかけた。
「もしかして今朝家に来たのも、その用で?」
「あ、いや、違う」
なぜか由宇は慌てて手を振った。頭をかいて照れ笑いを浮かべる。
そうすると、普段の彼よりぐっと子供らしく見えた。あどけないえくぼが二つ頬に浮かんでいる。
「お前が昨日、学校まで慌てて戻ってたからさ。転んで怪我でもしなかったかなと思って」
過保護な親みたいなことを言うな、と面白く思う反面、聖の脳裏に昨夜の鮮烈な悪夢が蘇り、ふっと表情が曇った。
由宇はそのわずかな変化を見逃さなかった。
「聖?」
「あのさ、由宇」
今度は聖が言いよどむ番だった。
由宇はうつむいた聖の両肩に手を置き、兄が弟を諭すような口調で優しく促した。
「どうした?」
「俺、本当は」
聖が真実を口走ろうとした寸前、ヴァンの声が冷水を浴びせかけた。
「却下だな」
(は?)
「そのバスケ部とやらに入部するのは却下だと言っている」
言い方も尊大ながら、内容も意味不明で激しくずれており、聖はどこからどう否定していいものか真剣に悩んだ。
「なあ、聖」
棚に脱いだ服を手際よく放り込みながら、聖は首だけで由宇のほうを振り向いた。
「何?」
「さっきの、クラブの話なんだけどさ、」
と由宇は言いかけ、ふっとたじろぐように口ごもり、それから意を決したような表情で切り出した。
「お前、バスケ部に戻ってこいよ」
「はあ?」
目を丸くした聖に、由宇は畳みかけるようにして、
「怪我のことは分かってる。だけど、俺はお前に部にいてほしいんだ。上手く言えないけど……お前がいると、俺はもっと強くなれる気がするんだ。マネージャーとしてなら、お前にだって活躍の場が十分に残されていると思うしさ。だから、頼む。マネージャーとして、もう一度バスケ部に戻ってきてくれないか」
「何言ってるんだか」
聖は思わず微笑した。意識せずに笑えたのが随分久しぶりのように思えた。
昨日まではちゃんとできていたことなのに。あまりにも多くの出来事が、自分を変えてしまったのかもしれなかった。
乾ききった心に、由宇の真摯な思いは温かい雨のように染み込んだ。
一瞬、そこで見つめているヴァンの視線を忘れさせてくれるほどに。
更衣室を出て柔道場にぞろぞろと歩いていく道すがら、聖は問いかけた。
「もしかして今朝家に来たのも、その用で?」
「あ、いや、違う」
なぜか由宇は慌てて手を振った。頭をかいて照れ笑いを浮かべる。
そうすると、普段の彼よりぐっと子供らしく見えた。あどけないえくぼが二つ頬に浮かんでいる。
「お前が昨日、学校まで慌てて戻ってたからさ。転んで怪我でもしなかったかなと思って」
過保護な親みたいなことを言うな、と面白く思う反面、聖の脳裏に昨夜の鮮烈な悪夢が蘇り、ふっと表情が曇った。
由宇はそのわずかな変化を見逃さなかった。
「聖?」
「あのさ、由宇」
今度は聖が言いよどむ番だった。
由宇はうつむいた聖の両肩に手を置き、兄が弟を諭すような口調で優しく促した。
「どうした?」
「俺、本当は」
聖が真実を口走ろうとした寸前、ヴァンの声が冷水を浴びせかけた。
「却下だな」
(は?)
「そのバスケ部とやらに入部するのは却下だと言っている」
言い方も尊大ながら、内容も意味不明で激しくずれており、聖はどこからどう否定していいものか真剣に悩んだ。
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