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「ひーじりちゃん♪」
渡り廊下の途中で、先輩らしき臙脂色のネクタイをしている人物に声をかけられる。
一年は深緑、二年は臙脂、三年は紺のネクタイが指定されていた。
相手の学年がひと目で分かるので便利ではあるのだが、面倒がって自分の学年と違う色のネクタイを着用する迷惑な生徒もおり、逆に混乱を招くことも多かった。
「どなたでしたっけ?」
聖は青白い顔を軽くしかめ、醒めた目で面倒そうに言った。
不遜な態度に、隣にいた由宇が軽くたしなめる。
「こら、聖。先輩だぞ」
「もうー聖ちゃんってばお茶目さんねえ。この間正式に自己紹介したばっかりだっていうのに」
と、その明るい色の長髪を後ろで束ねた少年は言っておほほと笑い、しなを作ってみせた。
仕草はまるっきり乙女のそれである。
「新聞部部長の新藤玲二よ。先週、あなたを部員になってくれるようお誘いした話だけど、その後考えてくれた?」
由宇がぎょっとしたように目をむいた隣で、聖はようやく合点がいって「ああ」と気のない風の相づちを打った。
「聖、お前、新聞部に入るのか?」
由宇の不安に揺れた瞳がじっと見つめてくる。
聖は軽く首を左右に振って答えた。
「入らない。その話はお断りしたはずですよ、先輩」
最後のほうは玲二に向けて言った言葉だった。
玲二は可愛らしく唇を尖らせ、上目使いで見つめてくる。これを男子高校生が違和感なくやっているのだから恐れ入る。
「やん。そんなこと言わないでえ~。聖君が入ってくれれば、部員のやる気倍増よう。コラムを掲載してもらえば、きっとうちの部の目玉になると思うの。タイトルはもう決まってるのよ。
『楠木聖、十七歳。美しすぎる少年の憂鬱』」
横でぶっとヴァンが遠慮なく噴き出す音がして、聖は頬を染めてヴァンを睨みつけた。
空中を意味もなく凝視している聖の様子に、由宇は小さく顔をしかめる。
「とにかく、お断りします。由宇、行くぞ」
「あん、待ってよ聖ちゃーん!」
手を伸ばしかけた瞬間、玲二が突然何もないところですっ転んでひっくり返る。
腰をしたたかに打ちつけたらしく、尻もちをついたまま声を上げた。
「痛ったあーい!もう。何いまの?誰か私を突き飛ばしたでしょう?」
そう言って由宇を睨みつけるが、聖の隣に立っていた彼が玲二の背後に回ることは物理的に不可能だった。
聖には全てが見えており、だからこそもどかしくて仕方なかった。
(悪ふざけもいい加減にしろよ。そんなふうに人目を引いて何が楽しいんだよ)
聖が心中で罵ると、ヴァンは玲二を侮蔑を込めた目つきで一瞥し、ふんと息を吐いた。
「悪ふざけだと?笑わせてくれるな。これは警告だ。くねくねした変態が、これ以上媚びた目つきで俺の所有物に近づくな、とな」
(先輩だってお前にだけは言われたくねえだろ。人のこと所有物だとか契約とか言って、モノ扱いしておいて)
「聖ちゃん!私は諦めないわよ。必ずあなたを手に入れてみせるわ。必ず!!」
甲高い声が追いかけてきたが、聖は見向きもせずに歩き続けた。
どうも自分は変な奴に付きまとわれる星の下に産まれついたらしい。
それにしたって、昨日からは災難続きだ。変な吸血鬼には血を吸われるわ、変な先輩に絡まれるわ。
一度祓ってもらったほうがいいのかもしれない。
渡り廊下の途中で、先輩らしき臙脂色のネクタイをしている人物に声をかけられる。
一年は深緑、二年は臙脂、三年は紺のネクタイが指定されていた。
相手の学年がひと目で分かるので便利ではあるのだが、面倒がって自分の学年と違う色のネクタイを着用する迷惑な生徒もおり、逆に混乱を招くことも多かった。
「どなたでしたっけ?」
聖は青白い顔を軽くしかめ、醒めた目で面倒そうに言った。
不遜な態度に、隣にいた由宇が軽くたしなめる。
「こら、聖。先輩だぞ」
「もうー聖ちゃんってばお茶目さんねえ。この間正式に自己紹介したばっかりだっていうのに」
と、その明るい色の長髪を後ろで束ねた少年は言っておほほと笑い、しなを作ってみせた。
仕草はまるっきり乙女のそれである。
「新聞部部長の新藤玲二よ。先週、あなたを部員になってくれるようお誘いした話だけど、その後考えてくれた?」
由宇がぎょっとしたように目をむいた隣で、聖はようやく合点がいって「ああ」と気のない風の相づちを打った。
「聖、お前、新聞部に入るのか?」
由宇の不安に揺れた瞳がじっと見つめてくる。
聖は軽く首を左右に振って答えた。
「入らない。その話はお断りしたはずですよ、先輩」
最後のほうは玲二に向けて言った言葉だった。
玲二は可愛らしく唇を尖らせ、上目使いで見つめてくる。これを男子高校生が違和感なくやっているのだから恐れ入る。
「やん。そんなこと言わないでえ~。聖君が入ってくれれば、部員のやる気倍増よう。コラムを掲載してもらえば、きっとうちの部の目玉になると思うの。タイトルはもう決まってるのよ。
『楠木聖、十七歳。美しすぎる少年の憂鬱』」
横でぶっとヴァンが遠慮なく噴き出す音がして、聖は頬を染めてヴァンを睨みつけた。
空中を意味もなく凝視している聖の様子に、由宇は小さく顔をしかめる。
「とにかく、お断りします。由宇、行くぞ」
「あん、待ってよ聖ちゃーん!」
手を伸ばしかけた瞬間、玲二が突然何もないところですっ転んでひっくり返る。
腰をしたたかに打ちつけたらしく、尻もちをついたまま声を上げた。
「痛ったあーい!もう。何いまの?誰か私を突き飛ばしたでしょう?」
そう言って由宇を睨みつけるが、聖の隣に立っていた彼が玲二の背後に回ることは物理的に不可能だった。
聖には全てが見えており、だからこそもどかしくて仕方なかった。
(悪ふざけもいい加減にしろよ。そんなふうに人目を引いて何が楽しいんだよ)
聖が心中で罵ると、ヴァンは玲二を侮蔑を込めた目つきで一瞥し、ふんと息を吐いた。
「悪ふざけだと?笑わせてくれるな。これは警告だ。くねくねした変態が、これ以上媚びた目つきで俺の所有物に近づくな、とな」
(先輩だってお前にだけは言われたくねえだろ。人のこと所有物だとか契約とか言って、モノ扱いしておいて)
「聖ちゃん!私は諦めないわよ。必ずあなたを手に入れてみせるわ。必ず!!」
甲高い声が追いかけてきたが、聖は見向きもせずに歩き続けた。
どうも自分は変な奴に付きまとわれる星の下に産まれついたらしい。
それにしたって、昨日からは災難続きだ。変な吸血鬼には血を吸われるわ、変な先輩に絡まれるわ。
一度祓ってもらったほうがいいのかもしれない。
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