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春の宵

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「お久しぶりです」

そう言って頭を下げた斉は、急に背が伸びたように見えた。

今日は土曜日のため、制服ではなくチェックのシャツにデニムを合わせている。

しばらく見ない間に、別人のように爽やかな雰囲気になっていた。

すれ違う女性客も彼を目で追っている。

「こんにちは。あちらのお席へどうぞ」

斉は頷き、いつものカウンター席に腰を下ろすと、メニューを丹念に見つめて言った。

「ホットのカフェラテと、この『桜の園』ください」

「かしこまりました」

受け答えしながらも、桜は驚きを隠せなかった。

斉は今まで一度もケーキを注文したことはない。

桜の園は春限定の商品で、苺と生クリームのムースに、ラズベリーやブルーベリーを乗せた愛らしいケーキだった。

見た目は濃厚で甘ったるく見えるのだが、意外とあっさりしていてもたつきがなく、食べやすい仕上がりになっている。

売れ行きはよく、桜は手ごたえを感じていた。

その後、斉はいつものように参考書を開いて勉強していたが、閉店前の客がまばらな時間帯になると、桜を呼びとめて言った。

「店が終わった後、少しだけ時間もらえるかな」

「いいけど、どうしたの?」

「話があるんだ」

真剣な目で告げられ、桜は頷いた。

店の片づけの後、普段なら京介が作った夕飯を食べるのだが、桜は適当な理由をつけて抜け出した。

川沿いをしばらく遡って歩いた先に、小さな公園がある。

そこのベンチに腰かけて、宵闇の中、彼は星を見上げていた。
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