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帝国歴52年

合同演習

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 現代日本では普通の女子高生だった私、市綱いちずなエリカは、目覚めたらゲーム世界の蒸騎スチームナイト、主人公機ロボのAIへ転生……するはずだった。
 今は何故か主人公以外の所有物の機体になってるけど。

 ただ、私の大きな目的はこのゲーム世界の第三皇子ヴァーリ殿下の闇堕ち阻止だ。
 で彼をダークサイドに落とした黒幕の疑いのある選帝侯の一人、海賊伯。

 その息子の所有機になったのは正直好都合ではある。調査が捗るからね?

 ただうーん、所有者のジーンにしろ母のアキにしろ、海賊伯シーキャット親子は吃驚するほど裏がない。
 思うままに生き、笑い、清々しいまでに真っ直ぐな性格で、とても策を弄する人種に見えない。

 となると疑うべきは大司教か、しかし接触しようにもツテがないしなあと思っていたら。


……合同演習?

「ああモンステラ、今度五つの選帝侯の蒸騎が集まって共同の軍事演習をするらしい」

 何故このタイミングで?
 いや他の選帝侯も来るのは、色々探れて好都合だけど。

 ちなみに今回の発起人というか誰の発案でそんな話に?

「んー、言い出しっぺで言えば方伯様かなあ。
 大概最年長の、あそこのじーさんの呼びかけで集まってるし」

 方伯。それは爵位持ちの中でも特別な地位にいて自由な行動が許される。
 またこの世界のAIを考案した天才技師イーヴァルディ子爵の寄親じょうしでもあり、戦や宴の開始などで声をあげる乾杯役の献酌けんしゃく侍従長と言う役職も持っている。

 うむ、正直今までノーマークであったが、逆に何か策を巡らすのには適任な気もしてきたぞ良く考えたら。


 かくして選帝侯の合同演習は、海賊伯の本拠地であるシーキャット領の都ボージョレインで開かれた。

 五つの選帝侯の蒸騎が揃い踏みで、
 シーキャット海賊伯のヤシロマルを筆頭に、
 マクノーチ辺境伯のウィステァリア、
 ストロベリー大司教のタル=トー、
 ゴールド宮中伯のミリオンダラー、
 そしてドッチ方伯のロストチャイルド。

 蒸騎が五体も並ぶと壮観だが、若干の大小と塗装、細かな装備を除けばほぼ同一機体と思われる程に互いの姿は似ていた。

「ここ五十年、蒸騎製造の技術にさほど大きな進化はないからな」

 と、等身大ボティの私に話しかけてくる一人の老人。

「だから、どうしても似通った物が出来上がってしまう」

 ええと、失礼ですがドッチ方伯様でしょうか?

「おっと、名乗りもせずに失礼した。
 どうも初めて会った気がしなくてな」

 そう言うとガハハと豪快に笑う老人ことドッチ方伯。んー、思ったより気さくな人かな?

 
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