上 下
14 / 26
帝国歴50年

謁見

しおりを挟む
 現代日本では普通の女子高生だった私、市綱いちずなエリカは、目覚めたらゲーム世界の蒸騎スチームナイト、主人公機ロボのAIへ転生していた。

 先日豪商フォクシーと会話した中で、そういえばヴァーリ殿下を救うとか言っておきながら肝心の皇帝一族の事をあまり知らないなあと痛感した。
 まあ見るだけなら皇帝の末っ子のマーガレット殿下経由で色々皇帝城内を散策しているが、家族との関係性とかになると実は今一つよく分かっていない。
 ヴァーリ殿下が闇堕ちする要因に、多分その辺も関係してくるんだろうけどゲーム内では殿下以外の皇族関係者の影が薄くほぼ印象に残っていない。

 かと言って気軽に出向いて行って、挨拶という訳にもいかんからなあ。
 そもそも会いに行く肉体がないし、仮に用意出来ても会ってくれるのかどうか……

「肉体なら用意できますわよ」
「あと会いたいなら、会えるぞ?」

 と言う声に振り向く・・・・と、そこにはヴァーリ殿下と許嫁マグノリアの二人の姿が。
 実は私は只今、イーヴァルディ技師と先日試した妖精端末のテスト中。
 妖精の肉体があるので、当然声に振り向く事も出来る……と、それはさておき。

「それとも、その妖精の姿で皇帝陛下と会います?
 アティシ的には、その方が歓迎されると思いますけど」
「それは無理だよマギー。
 この妖精はまだ有線でしか動かせないから研究室限定だ」

 とアティシ許嫁に答える我輩技師。
 つまり妖精姿は小さすぎるし未完成でこの場を動けない、かと言ってゴーレムの姿ではゴツすぎる。

「ですので、先ほども申し上げました通りアティシの方で、既に別の肉体の用意がございますわ」

 自信満々に言うアティシ許嫁。
 ちょっと私には想像がつかないけど、条件を満たす自慢の肉体が存在するらしい。


ーーこんな格好ゆえ、無礼をお許しください皇帝陛下。

「構わん、事情は聞いている」

 謁見の間、一段高い位置で椅子に座ってそう口を開く帝国の一番偉い人。
 彼こそ帝国の3代目皇帝陛下、ヴォーダン・チャールズ・ハヴァマール。
 その傍らに三人の皇子が並んで立っており、親子共々輝く銀の髪が特徴だ。

「ふむ、急拵えと聞いたがなかなかの別嬪ではないか」

 と皇帝陛下が、私の姿に感想を述べる。
 そう、アティシ許嫁の自信作だけあって、私の新しい身体はなかなかの美人さんに仕上がった。

 まず下半身は木彫り人形で車椅子での移動。最初から動かさない事を前提に作られていて、一流の職人による逸品だ。
 なお先程の私の「無礼」と言う台詞も、これが理由だ。
 下半身が動かない為、本来皇族を前にした際に行う片膝をついて頭を下げる挨拶が出来ない。

 メインになるのは上半身で、こちらも下半身同様基本は木製。関節部分だけ金属の歯車が組み込まれ、帝国版インターネット「ロープ」経由で私のAIと連動して動かせる様になっている。

 首から上は目と耳の感覚機関が私のAIと連動、剥き出しのセンサーを隠すため顔の上半分に白い仮面を被せてあり、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。
 そしてウィッグであるが髪もある。それもアティシ許嫁の趣味で彼女とお揃いの赤みの強い色かつサラサラの長髪である。

 まあ要するに必要最低限の機能を残し、それでいて見た目重視に仕上がっているこの身体は、私個人もすごく気に入っている。

「実はそなたに、会ったらまず言いたいことがあったのだ。
 今までの件は不問にしてやるから、有用な貴族の情報をワシに寄越せ」

 ……はい?

「マグノリアを問い詰めたら白状したぞ。
 お前はゴーレムを介して、帝都内を見聞きが出来るそうだな」

 ……あら、ついにバレましたか。
 畏まりました、今後はわたくしを陛下の間諜としてお使い下さいませ。

「随分と肝が据わっておるのだな、もっと動揺するかと思ったが」

 今さっき不問にするとお話しされてましたからね。
 そもそもAIを罰するなど消去して処刑ぐらいしか方法がありませんが、それは陛下も望まれますまい。

「当然だ、そんな事をすれば帝国の大きな損失、そなたにはもっと活躍して貰わねば困る」

 勿体ないお言葉にございます。

「逆に人ではない故、褒美も与えにくいがの。
 村を救った件とマーガレットへの贈り物が商品化して広まった件、それだけだけでも大きな功績だと思っているが」

 まあ私の場合、土地やお金や勲章を貰っても……ああ、それでしたら。

「何か希望があるか?」

 先日「魔法使い」様にお会いしました。
 わたくしも、出来ればああいう称号的な物を頂けたりすると嬉しいかなー、と。

「ふむ……バルドル、ヴィザール、何か良い案はあるか?」

 そう言って皇帝は、第一皇子バルドルと第二皇子ヴィザールに声をかける。

「魔法使いと似た様な称号でしたら、魔女とか?」

 と第一皇子バルドル。

「兄上、その響きは悪い印象を感じます。ここは聖女で」

 と第二皇子ヴィザール。

「流石に聖女は美化が過ぎるぞヴィザール。
 本来は大司教の長女が今後そう呼ばれるべきで、それを差し置いての呼称は良くない」
「でも魔女は無いでしょう」

「……むむむ」
「……ぐぬぬ」

 あらら、軽くお願いしたつもりが揉め事を招いてしまった。

「やめぬか、ふたりとも。
 ではヴァーリ、お前はどうだ?」

 困った皇帝が、第三皇子に声をかける。

「そうですね、彼女は色々な知識を持っています。
 ですから賢者、もしくは賢女というのは如何でしょう」

 ああそれ良い!流石私の最推……えー、コホン。

 賢女、素敵な呼び名ですね。
 気に入りました。

「ではモンステラ・イーヴァルディに対し、帝国が賢女の称号を送る事をここに宣言する!」

 こうして私は最推し発案の称号を皇帝から賜る事になったのだった。
 
 しかしこの短い謁見でも色々見えてきたな、ヴァーリの兄にあたる皇子達の不仲とか。
 と言うか推しが有能すぎて、逆に兄の方が先に闇堕ちしそうな件について。
しおりを挟む

処理中です...