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帝国歴50年
兄弟
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「くそっ、あの魔女のせいでとんだ赤っ恥だ」
「魔女でなく賢女ですよバルドル殿下」
怒り心頭といった様子の第一皇子を、慰める女性の声。
「ヴィザールもヴィザールだ。よりによって聖女だと?
あの機械人形の何処に聖なる要素があると言うのだ、目が腐ってるのか」
「大荒れですね殿下」
「君は腹が立たないのか、ヨーグル。
聖女とは本来、君に贈られるべき称号だ」
バルドル殿下は、話し相手の女性にそう声をかける。
そう彼の怒りは個人的なものというより目の前の女性、ストロベリー大司教の長女で聖女候補であるヨーグルの名誉が毀損された事で向けられたものだ。
「まだワタクシは称号をもらうべき活躍をしておりませんから。
きっと妹の方が先に聖女になるのでしょうね……」
辺境の村で活躍した選帝侯ジュニアの一人、ショーコは大司教の次女、彼女の妹にあたる。
性格的にも妹の方が積極的に動くタイプであり、消極的な姉からすれば彼女の方が称号を得るに相応しいと考えていた。
「そんな悲しい事を言わないでくれ」
第一皇子は悲しげにそういう。
「俺はいずれ次期皇帝になる男だ。
その傍らには、聖女となった君がいてほしい」
「殿下……」
二人はお互いを見つめ合う。
「他人行儀だな、ここは俺たちしかいない。名前で呼んでくれ」
「ええ、愛してるわバル」
「俺もだよ、グル」
そしてその距離が近づいて……
ーーガシャン!
不意に部屋の入り口に鳴り響く金属音。
「おっと、お取り込み中でありましたか」
黄金に輝く、頭からつま先まで一切の隙間なく全身甲冑に身を包んだ男が、そこに直立していた。
「ああ、空気を読めギル」
眉間に青筋が浮き出るほど不機嫌な様子でバルドルが言う。
皇子を怒らせた金ピカ、ギルことギルバート・ゴールドはその見た目に違わず本人自身、そして所有する蒸騎も防御力が非常に高く無敵の盾役として大活躍する、ゲームではコアな人気を誇る典型的な脳筋キャラだ。
なお名前で分かる通り選帝侯ゴールド宮中伯の息子で、辺境の村で活躍したレイピア使い、リルの兄でもある。
「それでギル、何の用だ」
「あっはい、宰相閣下がお呼びであります!」
そう言って金ピカが敬礼すると、またガシャンと言う金属音が響いた。
「バルダザールが?」
バルドルの母は宰相の妹、つまりバルドルから見て宰相バルダザールはオジにあたる。
その宰相からの呼び出しであるが、あまり良い内容ではないのだろうと感じていた。
理由をつけて断ることも出来たが。
「分かった行こう」
「では、こちらであります!」
そう言ってバルドル殿下は、動く度にガシャガシャと音を立てる金ピカの案内で部屋を後にした。
「バル兄は怒り過ぎなんだよ、そう思わないかい?」
「そうですねえ」
一方、第二皇子ヴィザールは食事中。
厨房の向こうの料理人と会話していた。
「多分僕が聖女の名前を出したから、聖女候補と付き合ってるバル兄の逆鱗に触れたんだと思うけど」
「そうですねえ」
「まあ僕の魔女って名前も今考えればどうかと思ったし、正直ヴァーリの賢女って命名の方が的確だと思うけど……」
「そうですねえ」
「ベン……さっきから、そうですねえしか言ってないか?」
おうむ返しの様な文言に、ちょっと不機嫌な第二皇子。
「そうですかねえ?」
ベンと呼ばれた男は、ちょっとだけ返し言葉を変える。
「ベン、やっぱバカにしてる?」
「そうかもですねえ」
「あ゛?!」
このベンの発言には第二皇子もブチ切れ立ち上がる。が、
「……いやいや、ワタクシはヴィザール殿下を和ませようと思ってですね?」
そう釈明するベン。
彼はマクノーチ辺境伯の長男であり、先日のトール村襲撃で活躍した選帝侯ジュニアのトー・マクノーチの兄にあたる。
皇帝城では皇族相手に料理を振る舞い話し相手になることが多く、ゲームでは気さくなネタ担当の人気キャラだ。
「決して喧嘩を売ってるとか揶揄ってるとか、そう言う意図は決してなく、はい」
「……嘘くさいなあ」
と言いつつも、なぜかそれ以上憎めないのはベンの人柄か。
「ただですねえ、殿下」
「うん?」
「今回の一件、兄二人の不甲斐なさとそれをフォローした三男という構図は地味に大きいです。
何処かで挽回しないと」
「……そうだよなあ」
ヴィザール殿下はそう言って、溜息をついた。
現代日本では普通の女子高生だった私、市綱エリカは、目覚めたらゲーム世界の蒸騎、主人公機ロボのAIへ転生していた。
そして私は機械に介入して様子を見ると言う特殊能力を持っているので、第一第二皇子の今の様子を、部屋に置かれた蒸気駆動の空調機器、その制御AI経由で観察していたと言う訳だ。
そして皇子兄弟の謁見後の会話を聞く限り、思った以上に動きがあったようだ。
出来れば第一皇子バルドルとオジ宰相の会話も聞きたかったんだけど、そちらには介入出来る機器がなくて聞けずじまい、残念。
何より皇帝が皆に私の能力をバラしてしまったので、今後は盗聴対策もなされそうな気がする。
さて今の私だが皇帝末っ子のペグことマーガレット殿下と一緒にいる。
ちなみにヴァーリ殿下と母が同じ側室の子で、故に銀髪と褐色の肌が特徴の少女だ。
第一第二皇子は正妻の子なので、銀髪だが白肌である。
最初は私の見た目に恐々近いてきた彼女だったが、私が例のクマのゴーレムぬいぐるみの発案者と聞くと目を輝かせ、今ではすっかり仲良しになり車椅子の私にしがみついたり、
「そーれ、取ってこい!」
とばかりに円盤を投げて取って来させようとする。
あの私、犬か何かと間違われてます?
いや喜んで取って来ますけれども。
ちなみに少し離れた場所にヴァーリ殿下と婚約者のマグノリアもいる。
ペグ様が私と遊ぶのに気を使って距離を取っているようだけど、私はもっと殿下とお近づきになりたいのですがダメですか、そうですか。
「魔女でなく賢女ですよバルドル殿下」
怒り心頭といった様子の第一皇子を、慰める女性の声。
「ヴィザールもヴィザールだ。よりによって聖女だと?
あの機械人形の何処に聖なる要素があると言うのだ、目が腐ってるのか」
「大荒れですね殿下」
「君は腹が立たないのか、ヨーグル。
聖女とは本来、君に贈られるべき称号だ」
バルドル殿下は、話し相手の女性にそう声をかける。
そう彼の怒りは個人的なものというより目の前の女性、ストロベリー大司教の長女で聖女候補であるヨーグルの名誉が毀損された事で向けられたものだ。
「まだワタクシは称号をもらうべき活躍をしておりませんから。
きっと妹の方が先に聖女になるのでしょうね……」
辺境の村で活躍した選帝侯ジュニアの一人、ショーコは大司教の次女、彼女の妹にあたる。
性格的にも妹の方が積極的に動くタイプであり、消極的な姉からすれば彼女の方が称号を得るに相応しいと考えていた。
「そんな悲しい事を言わないでくれ」
第一皇子は悲しげにそういう。
「俺はいずれ次期皇帝になる男だ。
その傍らには、聖女となった君がいてほしい」
「殿下……」
二人はお互いを見つめ合う。
「他人行儀だな、ここは俺たちしかいない。名前で呼んでくれ」
「ええ、愛してるわバル」
「俺もだよ、グル」
そしてその距離が近づいて……
ーーガシャン!
不意に部屋の入り口に鳴り響く金属音。
「おっと、お取り込み中でありましたか」
黄金に輝く、頭からつま先まで一切の隙間なく全身甲冑に身を包んだ男が、そこに直立していた。
「ああ、空気を読めギル」
眉間に青筋が浮き出るほど不機嫌な様子でバルドルが言う。
皇子を怒らせた金ピカ、ギルことギルバート・ゴールドはその見た目に違わず本人自身、そして所有する蒸騎も防御力が非常に高く無敵の盾役として大活躍する、ゲームではコアな人気を誇る典型的な脳筋キャラだ。
なお名前で分かる通り選帝侯ゴールド宮中伯の息子で、辺境の村で活躍したレイピア使い、リルの兄でもある。
「それでギル、何の用だ」
「あっはい、宰相閣下がお呼びであります!」
そう言って金ピカが敬礼すると、またガシャンと言う金属音が響いた。
「バルダザールが?」
バルドルの母は宰相の妹、つまりバルドルから見て宰相バルダザールはオジにあたる。
その宰相からの呼び出しであるが、あまり良い内容ではないのだろうと感じていた。
理由をつけて断ることも出来たが。
「分かった行こう」
「では、こちらであります!」
そう言ってバルドル殿下は、動く度にガシャガシャと音を立てる金ピカの案内で部屋を後にした。
「バル兄は怒り過ぎなんだよ、そう思わないかい?」
「そうですねえ」
一方、第二皇子ヴィザールは食事中。
厨房の向こうの料理人と会話していた。
「多分僕が聖女の名前を出したから、聖女候補と付き合ってるバル兄の逆鱗に触れたんだと思うけど」
「そうですねえ」
「まあ僕の魔女って名前も今考えればどうかと思ったし、正直ヴァーリの賢女って命名の方が的確だと思うけど……」
「そうですねえ」
「ベン……さっきから、そうですねえしか言ってないか?」
おうむ返しの様な文言に、ちょっと不機嫌な第二皇子。
「そうですかねえ?」
ベンと呼ばれた男は、ちょっとだけ返し言葉を変える。
「ベン、やっぱバカにしてる?」
「そうかもですねえ」
「あ゛?!」
このベンの発言には第二皇子もブチ切れ立ち上がる。が、
「……いやいや、ワタクシはヴィザール殿下を和ませようと思ってですね?」
そう釈明するベン。
彼はマクノーチ辺境伯の長男であり、先日のトール村襲撃で活躍した選帝侯ジュニアのトー・マクノーチの兄にあたる。
皇帝城では皇族相手に料理を振る舞い話し相手になることが多く、ゲームでは気さくなネタ担当の人気キャラだ。
「決して喧嘩を売ってるとか揶揄ってるとか、そう言う意図は決してなく、はい」
「……嘘くさいなあ」
と言いつつも、なぜかそれ以上憎めないのはベンの人柄か。
「ただですねえ、殿下」
「うん?」
「今回の一件、兄二人の不甲斐なさとそれをフォローした三男という構図は地味に大きいです。
何処かで挽回しないと」
「……そうだよなあ」
ヴィザール殿下はそう言って、溜息をついた。
現代日本では普通の女子高生だった私、市綱エリカは、目覚めたらゲーム世界の蒸騎、主人公機ロボのAIへ転生していた。
そして私は機械に介入して様子を見ると言う特殊能力を持っているので、第一第二皇子の今の様子を、部屋に置かれた蒸気駆動の空調機器、その制御AI経由で観察していたと言う訳だ。
そして皇子兄弟の謁見後の会話を聞く限り、思った以上に動きがあったようだ。
出来れば第一皇子バルドルとオジ宰相の会話も聞きたかったんだけど、そちらには介入出来る機器がなくて聞けずじまい、残念。
何より皇帝が皆に私の能力をバラしてしまったので、今後は盗聴対策もなされそうな気がする。
さて今の私だが皇帝末っ子のペグことマーガレット殿下と一緒にいる。
ちなみにヴァーリ殿下と母が同じ側室の子で、故に銀髪と褐色の肌が特徴の少女だ。
第一第二皇子は正妻の子なので、銀髪だが白肌である。
最初は私の見た目に恐々近いてきた彼女だったが、私が例のクマのゴーレムぬいぐるみの発案者と聞くと目を輝かせ、今ではすっかり仲良しになり車椅子の私にしがみついたり、
「そーれ、取ってこい!」
とばかりに円盤を投げて取って来させようとする。
あの私、犬か何かと間違われてます?
いや喜んで取って来ますけれども。
ちなみに少し離れた場所にヴァーリ殿下と婚約者のマグノリアもいる。
ペグ様が私と遊ぶのに気を使って距離を取っているようだけど、私はもっと殿下とお近づきになりたいのですがダメですか、そうですか。
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