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38 真夜中の訪問者②
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「兄さんは怖くて、乱暴者で嫌でしょう? 幼い頃から、感情を制御出来ず、気性が荒い人なんです。貴女には、俺の方がお似合いですよ」
確かにアーロンは怒りの感情を発露させた時には、とても怖かった。
けれど、感情的になってしまうことはあっても、私のことを大事に思ってくれている気持ちは伝わってきた。
煽情的なドレスを着ていたり、手に怪我をしていたから誰にされたと怒っていたり……それは、私のことを好きで居てくれるからだ。
「嫌です。大声を出しますよ……この邸の中に居てはならないと言うことを、貴方自身が一番に知っていることなのではないですか?」
キーブルグ侯爵家を勘当されて追い出され、不在時に勝手をして兄の怒りを買って荷物ごと叩き出されたのだ。
それを、今都合よく忘れたなんて、言わせない。
「まあ、聞いてください……兄が義姉上と、結婚した理由を知りたくないですか?」
「え……?」
確かにアーロンは私を見たこともないはずなのに、縁談を申し込んだ。それを一番に不思議に思っていたのは、私自身なのだ。
……どうして、アーロンは会った事もない私と、結婚したがったの?
ヒルデガードはそんな私の心を読んだかのように優しく微笑み、彼らしくない柔らかい口調で耳元で囁いた。
「貴女と結婚することが、キーブルグ侯爵家を継ぐ条件に含まれています。嫡男の兄さんは、それを忠実にこなしています……あんなわからずやの暴君よりも、俺の方が義姉上に優しく出来ます」
ーーああ……やっぱり、私を愛して求めてくれる人なんて居ないんだ。
その時、扉が開いて何故か入ってきたアーロンが、私に迫るヒルデガードを見つけ大声を出した。
「おい!! ヒルデガード! お前……何をしている!!」
アーロンが怒りの表情を見せこちらに迫ってきているというのに、ヒルデガードはおかしいくらい冷静な態度で、私にもう一度囁いた。
「義姉上。どうか、考えてみてください。きっと俺の方が良いと思うでしょう。地位のために義姉上を求めるような男より、貴女自身を愛する俺の方が……」
ヒルデガードは言い終わると、サッと身を翻して窓から飛び降りて去って行った。
ここは、高さのある二階なのに……ヒルデガードはアーロンの弟なのだから、元々の身体能力が高いのかもしれない。
「もう我慢ならない……血の繋がった肉親であろうが、容赦しない。殺す。クウェンティン。あれを始末しろ」
アーロンは窓から飛び降り走って逃げていくヒルデガードを見下ろし、彼に続いて私の部屋へと入って来たクウェンティンに命令した。
「かしこまりました。殺し方はいかがなさいますか」
「任せる」
私はそんな主従の殺伐としたやりとりを、いつものように止めることもせず、黙ったままで呆然として見ていることしか出来なかった。
確かにアーロンは怒りの感情を発露させた時には、とても怖かった。
けれど、感情的になってしまうことはあっても、私のことを大事に思ってくれている気持ちは伝わってきた。
煽情的なドレスを着ていたり、手に怪我をしていたから誰にされたと怒っていたり……それは、私のことを好きで居てくれるからだ。
「嫌です。大声を出しますよ……この邸の中に居てはならないと言うことを、貴方自身が一番に知っていることなのではないですか?」
キーブルグ侯爵家を勘当されて追い出され、不在時に勝手をして兄の怒りを買って荷物ごと叩き出されたのだ。
それを、今都合よく忘れたなんて、言わせない。
「まあ、聞いてください……兄が義姉上と、結婚した理由を知りたくないですか?」
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確かにアーロンは私を見たこともないはずなのに、縁談を申し込んだ。それを一番に不思議に思っていたのは、私自身なのだ。
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「貴女と結婚することが、キーブルグ侯爵家を継ぐ条件に含まれています。嫡男の兄さんは、それを忠実にこなしています……あんなわからずやの暴君よりも、俺の方が義姉上に優しく出来ます」
ーーああ……やっぱり、私を愛して求めてくれる人なんて居ないんだ。
その時、扉が開いて何故か入ってきたアーロンが、私に迫るヒルデガードを見つけ大声を出した。
「おい!! ヒルデガード! お前……何をしている!!」
アーロンが怒りの表情を見せこちらに迫ってきているというのに、ヒルデガードはおかしいくらい冷静な態度で、私にもう一度囁いた。
「義姉上。どうか、考えてみてください。きっと俺の方が良いと思うでしょう。地位のために義姉上を求めるような男より、貴女自身を愛する俺の方が……」
ヒルデガードは言い終わると、サッと身を翻して窓から飛び降りて去って行った。
ここは、高さのある二階なのに……ヒルデガードはアーロンの弟なのだから、元々の身体能力が高いのかもしれない。
「もう我慢ならない……血の繋がった肉親であろうが、容赦しない。殺す。クウェンティン。あれを始末しろ」
アーロンは窓から飛び降り走って逃げていくヒルデガードを見下ろし、彼に続いて私の部屋へと入って来たクウェンティンに命令した。
「かしこまりました。殺し方はいかがなさいますか」
「任せる」
私はそんな主従の殺伐としたやりとりを、いつものように止めることもせず、黙ったままで呆然として見ていることしか出来なかった。
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