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37 真夜中の訪問者①

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「今日は疲れただろう……おやすみ。ブランシュ」

 部屋まで送ってくれたアーロンは、頬に軽くキスをしてから去って行った。

 そう言えば、私たち二人は結婚していると言うのに、唇のキスもまだして居ないし……初夜だって、まだ……。

 先ほど、アーロンが初めての夜を匂わせるようなことを言い、それを聞いた私は、正直に言えば浮かれてしまっていた。

 アーロンは私のことを、真実愛してくれて……彼が望んでくれて、こうして彼の妻になれたのだとそう思えたから。

 誰かから愛されることなんて、私にはないのかもしれないと心のどこかで恐れていた。

 幸せになりたいけれど、何か頑張ろうとすると駄目になり、どうせ無駄だと思ってしまいそうになっていた。

 けれど、アーロンは私の元に帰ってきてくれたし、妻として大事に思っていることは間違いない。

 帰宅はかなり、遅くなってしまった。もう早朝に近い時間で、お付きのメイドたちも傍近くに控えてはいない。

 けれど、アーロンと私が帰宅したことが知れれば、ドレスや湯浴みの準備に出てきてくれるはずだ。

 彼女たちをわざわざ私が呼び出すこともないだろうと、何気なく後ろを振り返った。

「……姉上」

 信じられないことにすぐ傍に、アーロンに追い出されたはずの義弟ヒルデガードの姿があった。

「っ……え!? ヒルデガード。どうして……貴方がここに居るの?」

 信じられなかった。

だって、彼は部屋にある荷物ごと追い出されて、アーロンに「もう二度と、顔を見せるな」と、告げられていたもの。

「義姉上。この青いドレスも、とても良く似合われていますね。美しい貴女に良く似合っていますよ」

 アーロンが帰って来る前のような、いやらしい目付き、私が慌てて身を引こうとしたら、壁際にまで追い詰められた。

 身動きできない体勢の私の剥き出しになった首筋辺りに手を当てて、ヒルデガードはにやにやと嫌な笑いを浮かべていた。

 気持ち悪い。嫌だ……けれど、私がここで大声をあげれば、首を絞められるような……そんな気がしていた。

 今はこうしてお行儀良くしているけれど、豹変したヒルデガードが、どれだけ乱暴な真似をする男性なのかを知っている。

 だから、ここで安心することなど出来るはずがなかった。

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