上 下
58 / 78

58 懐かしい顔③

しおりを挟む


◇◆◇


 結局昨夜帰宅したジョサイアは、深夜遅くの帰宅だったみたいだけど、今朝は朝食も一緒に食べることが出来た。

 なんでも、先方がこれで良いからと指定した提出するはずだった正式な書類に不備があったらしく、彼が責任者だったから帰らざるを得なかったらしい。

 だから、オフィーリア様はジョサイアの担当であることを知りつつ、それをしたのなら本当にすごい女性だと思う。

 オフィーリア様への贈り物は、昨日私も手持ち無沙汰ですぐに早馬に載せて送った。彼女が今滞在している港町シュラハトは、馬車で行っても三時間ほどで到着出来るし、単騎の馬が駆ければすぐに帰ってくるだろうと思ったからだ。

 けれど、オフィーリア様は私へのお礼の手紙をすぐに書いて今朝早馬で送り返してくれた。

 私も驚いたけど彼女の手紙の中身を読めば、その理由は知れた。

 彼女の恋人である大富豪の彼が、私が商品化して売り出そうとしている精油を気に入り、私が販路を必要としているなら協力しても良いと言ってくれたそうなのだ。

 船団を持っている大富豪にそんなことを言って貰えるなんて……まるで、羽根でも生えて空でも飛んでしまいそうだった。

 だって、商人としての彼のジャッジは、正確なはずだ。利にさとく売れる商品に鼻が利かなければならない。

 でなければ、あれだけの大富豪になんて、なれるはずがない。

 もし、彼に認められたのなら、成功は約束されたようなものだもの。

 何種類かサンプルを用意していると書いていたら、出来たら少量でも良いからと持ってきて欲しいと言ってくれた。

 私が農園にまで足を運べば、今は果汁を酒の原料として使うために大樽に入れて、出荷の準備で大忙しな様子だった。

「……忙しいみたいね。こちらのサンプルを持って帰るわ」

「レニエラ様! お相手出来ず、すみません。ここ一週間ほどのことですので」

 私は謝るカルムに、首を横に振った。

「気にしなくて良いわ。私が勝手に来ただけだもの。私の事業が上手くいけば、カルムたちにも良い暮らしをさせてあげられるわ。上手くいくように、祈ってて!」

 彼ら一家をドラジェ伯爵家から引き抜いたのは、この私だ。事業家になるのなら、誰かの一生を背負うことになる。

 私は一度覚悟を決めたのだから、ジョサイアのように頼りになる夫の後ろ盾を得られたことを良いように考えて、前に進まなければ。

「僕は事業が成功すると良いとは思っています! 僕たちが良い暮らしも出来ることもそうですが、レニエラ様がご自身への自信を取り戻せれば良いと思います」

「……ありがとう」

 そうだ。ショーンにあんな風に婚約破棄されてから、落ち込んでしまった私は自分に何度も何度も言い聞かせねばならなかった。

 ……私は一人でも、大丈夫って。

 これからはジョサイアと夫婦として二人で歩いていくことになるけど、私だって一人で立つことが出来れば、よりしっかりとした足取りで歩むことが出来るはず。

 カルムに手を振って、馬車に向かって歩こうとした時に、信じられない人を見かけて私は絶句した。

「ショーン……そこで、何をしているの?」

 自分でも思ったよりも、心の中は平坦だった。

 随分と懐かしい顔だった。

 この私だって、そうだけど……彼は私と再会を懐かしみたいだけではなさそう。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

政略結婚の相手に見向きもされません

矢野りと
恋愛
人族の王女と獣人国の国王の政略結婚。 政略結婚と割り切って嫁いできた王女と番と結婚する夢を捨てられない国王はもちろん上手くいくはずもない。 国王は番に巡り合ったら結婚出来るように、王女との婚姻の前に後宮を復活させてしまう。 だが悲しみに暮れる弱い王女はどこにもいなかった! 人族の王女は今日も逞しく獣人国で生きていきます!

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

水川サキ
恋愛
「僕には他に愛する人がいるんだ。だから、君を愛することはできない」 伯爵令嬢アリアは政略結婚で結ばれた侯爵に1年だけでいいから妻のふりをしてほしいと頼まれる。 そのあいだ、何でも好きなものを与えてくれるし、いくらでも贅沢していいと言う。 アリアは喜んでその条件を受け入れる。 たった1年だけど、美味しいものを食べて素敵なドレスや宝石を身につけて、いっぱい楽しいことしちゃおっ! などと気楽に考えていたのに、なぜか侯爵さまが夜の生活を求めてきて……。 いやいや、あなた私のこと好きじゃないですよね? ふりですよね? ふり!! なぜか侯爵さまが離してくれません。 ※設定ゆるゆるご都合主義

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

処理中です...