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58 懐かしい顔③
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結局昨夜帰宅したジョサイアは、深夜遅くの帰宅だったみたいだけど、今朝は朝食も一緒に食べることが出来た。
なんでも、先方がこれで良いからと指定した提出するはずだった正式な書類に不備があったらしく、彼が責任者だったから帰らざるを得なかったらしい。
だから、オフィーリア様はジョサイアの担当であることを知りつつ、それをしたのなら本当にすごい女性だと思う。
オフィーリア様への贈り物は、昨日私も手持ち無沙汰ですぐに早馬に載せて送った。彼女が今滞在している港町シュラハトは、馬車で行っても三時間ほどで到着出来るし、単騎の馬が駆ければすぐに帰ってくるだろうと思ったからだ。
けれど、オフィーリア様は私へのお礼の手紙をすぐに書いて今朝早馬で送り返してくれた。
私も驚いたけど彼女の手紙の中身を読めば、その理由は知れた。
彼女の恋人である大富豪の彼が、私が商品化して売り出そうとしている精油を気に入り、私が販路を必要としているなら協力しても良いと言ってくれたそうなのだ。
船団を持っている大富豪にそんなことを言って貰えるなんて……まるで、羽根でも生えて空でも飛んでしまいそうだった。
だって、商人としての彼のジャッジは、正確なはずだ。利にさとく売れる商品に鼻が利かなければならない。
でなければ、あれだけの大富豪になんて、なれるはずがない。
もし、彼に認められたのなら、成功は約束されたようなものだもの。
何種類かサンプルを用意していると書いていたら、出来たら少量でも良いからと持ってきて欲しいと言ってくれた。
私が農園にまで足を運べば、今は果汁を酒の原料として使うために大樽に入れて、出荷の準備で大忙しな様子だった。
「……忙しいみたいね。こちらのサンプルを持って帰るわ」
「レニエラ様! お相手出来ず、すみません。ここ一週間ほどのことですので」
私は謝るカルムに、首を横に振った。
「気にしなくて良いわ。私が勝手に来ただけだもの。私の事業が上手くいけば、カルムたちにも良い暮らしをさせてあげられるわ。上手くいくように、祈ってて!」
彼ら一家をドラジェ伯爵家から引き抜いたのは、この私だ。事業家になるのなら、誰かの一生を背負うことになる。
私は一度覚悟を決めたのだから、ジョサイアのように頼りになる夫の後ろ盾を得られたことを良いように考えて、前に進まなければ。
「僕は事業が成功すると良いとは思っています! 僕たちが良い暮らしも出来ることもそうですが、レニエラ様がご自身への自信を取り戻せれば良いと思います」
「……ありがとう」
そうだ。ショーンにあんな風に婚約破棄されてから、落ち込んでしまった私は自分に何度も何度も言い聞かせねばならなかった。
……私は一人でも、大丈夫って。
これからはジョサイアと夫婦として二人で歩いていくことになるけど、私だって一人で立つことが出来れば、よりしっかりとした足取りで歩むことが出来るはず。
カルムに手を振って、馬車に向かって歩こうとした時に、信じられない人を見かけて私は絶句した。
「ショーン……そこで、何をしているの?」
自分でも思ったよりも、心の中は平坦だった。
随分と懐かしい顔だった。
この私だって、そうだけど……彼は私と再会を懐かしみたいだけではなさそう。
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