ずっと傍にいる

こうやさい

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あったかもしれない幸せと

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 彼女が僕を「お父さん」と呼ぶようになってから人買いに間違われることは表向きなくなったが、やはり父娘おやこというには似ていないのだろう。

「この子がわたしの拐われた娘ですっ」

 僕が身元のはっきりしない旅人なのを差し引いても、いきなりそう叫ばれたからといって、即座に取り押さえられてしまうのだから。
 もっとも、仮に彼女が拐われた娘だったとしても、一緒にいたというだけでこの扱いなのだから、恐らく何かしら手が回っている。

「お父さん、お父さんっ」
 半泣きになりながらこちらに駆け寄って来ようとする彼女を、叫んだ女性がしゃがみ込んで抱き締める。……拘束していると知らなければ感動の再会に見えなくもない。
 近くにいるどういう立ち位置か分からない男は、僕が脅して「お父さん」と呼ばせていることにしたいらしい。
 嘘を重ねるということは全員が関係者というわけではないのだろう。

 当たり前だが、彼女が拐われた子供だなんて事実はない。
 確かに一番最初の時ははっきりは分からないが、今の彼女は赤子の時から手元にいるし、その前は自称母親より年上なのだから。


 過去にも彼女を引き取りたいと言った人はいる。
 小さい子供を抱えての旅は難しいだろうという親切心からなのでいい人だったが、圧しが強かった。
 彼女は泣いて僕から離れたがらなかったし、そうでなくとも当時は命と対になっている魔道具の使用歴が浅く、どこまで出来るかがあまり分かっていなかったので、下手に離れたくはなかった。
 どのみち数年の差だろうが、結婚して離れた場合離婚や引っ越しの可能性はあるが、一部職業と事情を除き旅をし続ける人は少ない。旅をする人も生涯旅をしていたいとはあまり思っていないようだ。なので結婚をすれば離婚や引っ越しをしてもその辺りで落ち着く可能性が高いと考えられるが、結婚に関しては意外な場所に縁が出来る可能性があると……思うのは経験のせいだろうか?
 とにかくその時はそれでも圧を跳ね返せずに、結局僕も一緒に、その村で数年お世話になった。
 その時彼女は幼なじみとなったそこの息子と結婚したので、結局その人の義娘となった訳だが。

 それ以外にも男が女の子を連れて旅をするというのが、父娘だとしてもよほど危なっかしく見えるのか、複数回そんな話を持ちかけられたことはある。
 誰も子供を引き取らないどころか、自分の娘すら売ろうとした人すらいた時から考えると余裕があるのだなと思う。
 いろいろな意味で遠くに来たな。

 けれど今回はさすがにそんな問題ではないだろう。
 あれだろうか? 先日彼女を引き取りたいとしつこく言ってきた男。
 少女偏愛者なのかと思っていたが、もしかしたら攫われた子供に仕立て上げて謝礼でも貰うつもりだったのかもしれない。身代わりを近くから調達するのはばれやすいし、外部から見知らぬ子供が来ることはまれだろう。
 けれどつけいる隙がないほど断ったので、今度は偽りの情報を金に換えたのだろう。
 役人は事情を知らないと仮定しても、そこで煽っている男がいるのだからそこそこ大金が動くのかもしれない。

 ならば自称母親は騙されているだけだろうか?
 そんな簡単にと言いたくなるが、すがれる物ならなんにでもすがりたいのだろう。もしかしたら少し狂っているのかもしれない。
 だとすれば同情はするが、彼女が望まない以上彼女を娘にしてやるつもりはない。
 それに本当は娘ではないと気づくことがあれば自称母親も不幸だろう。
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