ずっと傍にいる

こうやさい

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この手では出来なくとも

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 それは懐かしい病だった。
 一番最初に彼女の命を奪った代物だ。
 なのに治療法を僕は未だ知らなかった。
 助かる見込みは恐らくない。

 また旅の途中だった。
 まるで繰り返しているようだった。
 けれど彼女は愛を乞わなかった。

 実の父親だと思い込むだけでここまで信頼できるのかと、むしろ呆然としてしまった。

 以前、病だった彼女にどれだけ負担をかけていたのかと思うと、今更だが申し訳なくて居たたまれない。
 そして今も申し訳なくて居たたまれない。

 ふと思いつく。
 殺して楽にしてやるというのは物語の悪人の定番の台詞だが、結局助からない病ならばそうするのはあるいは正しいのではないか?
 他の人ならばそれでも長く生きたほうがと葛藤するところなのだが、彼女の場合は死んだら若返る。生まれ変わるといっていい。
 そうはいっても記憶をまともに引き継ぐわけでも、成長した身体のままでいられるわけでもないのだが、苦しみ続けるよりはいいのではなかろうか?

 彼女は目を閉じ、苦しそうに息をしている。
 たとえばその首を絞めたなら、締め終わったのなら、それで彼女の今の辛さは終わる。

 けれども首に近づけた手の指は動かなかった。

 彼女が死んだら若返りやり直すようになったのは恐らく僕が原因だろう。
 僕の理由の分からない不老不死の能力の影響だろう。
 なので分からない以上、何の拍子で前例が崩れるか分からない。

 最初の時、僕は彼女にずっと一緒にいると誓ったのではなく、いて欲しいと願わなかっただろうか?
 願ったせいでそうなったのなら今回も同じことを繰り返すだろう。
 けれど覚えていないだけで何かをやっていたとしたら?
 それが何かの儀式のようになっていたとしたら?
 彼女を殺すという行為を、要らなくなったからだと解釈して、二度と繰り返さなくなったら?

 何も分からなければ何も動けない。

 ふと、彼女が潤んだ目を開いた。
 既に力は入らないだろうのに、首の横にある僕の片手を持って、自分の頬に触れされる。
 不思議とずいぶんと冷たい。
 そうして彼女は微笑い……今生最後の息を吐いた。

 あれは父親に対する態度だっただろうか?
 そう考えたのは彼女が赤子になっておくるみに包んだ後だった。
 けれどそれを確かめるすべはない。
 分かったのは僕は彼女をまだ手放せないという何も変わらない事実だけだった。
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