ずっと傍にいる

こうやさい

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それでも手を伸ばされているうちは

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 感情面はおいておいても僕が罪人として捕まるというのはやっかい事しかない。
 罪人扱いそのものが既にやっかいといえばそうなのだが、罪人扱いの末にどうされるかを考えると目も当てられない。
 ここの住人だったならば追放という罰も選択肢にはいるかもしれないが、旅人相手では意味がない。それでもいいからやっかい払いをと考えてくれるんだろうか?
 彼女を奪われるのは充分辛いが、それが罰になるとは向こうは思わない。人さらいから攫われた人を取り戻しただけだ。
 だとすれば閉じ込めるか、殺されるか、痛めつけられるか、強制労働か……その辺りだろう。
 閉じ込められるのと強制労働は……短期間ならまだいい。
 けれど痛めつけてもほぼ影響がなかったり、殺そうとしても死ななかったり、何年経っても容姿が変わらない事がばれたりすればどうなるだろう?
 人さらいは化け物だったという結論になるのも業腹だが、自分たちのものだと無理矢理奪っておきながら、彼女も化け物扱いしだするのでなかろうか?

 その時彼女がもし彼らに騙されていたらどれだけ傷つくだろう。
 幼い頃は攫われており親と暮らせなかったと思い込まされ。
 再会した親とぎこちなくも関係を築き、やっと心を開いたところで、今度は突き放される。
 気味悪がられただけで、それ以上が恐くて村を離れた僕には、その辛さは耐えられると思えない。

 ……逃げるだけならこの状況でも可能だろう。それくらいの魔法は使える自負はある。
 ただそれに彼女を連れて行くとなるとどうなるだろう?
 出来るか出来ないかで言うならば出来る。
 だがそうすると、前提を無視されてしまえば、僕が皆の前で女の子を改めて攫ったということになる。
 何も知らない小芝居に騙された人が彼女を取り戻すために僕を探し始めないだろうか?
 指名手配の張り紙が貼られたり、それを見た人が記憶に残したりしたらどうなるだろうか?
 捕まるか捕まらないかの問題ならまだいい。
 けれど描かれた似顔絵と容姿が変わらない事に気づかれたら?
 どれだけ上手くとも絵だし、それだけで断言はされないだろう。
 それでも気にとめる人が増えれば面倒も増える。いずれは風化するにしろそれまで動きづらくなる。
 描かれた紙が下手に残るなら更に長引く可能性もある。

 僕一人ならその間山にでも籠もってもいい。それなりの期間籠もった経験は既にあるわけだし。
 けれどそれに彼女を巻き込む?
 引き取ろうとした人が言うように、旅をしているだけでも負担をかけているのは分かる。
 結果的に隔離したような状態で育ててしまったこともある。
 あれがいいことだったとはそれでも思っていない。

 逆に置いていったなら?
 無関係の人の前で感動の再会をやったのだ。仮に自称母親が意図的にしろ結果的にしろ彼女がある程度一人で生きられる前に捨てたとしても、誰かが母親を説得するなり面倒を見るなりくれるかもしれない。
 そこまで他人に構えないほど荒れてしまったならもう行方なんて気にしないだろうから、その時に迎えに来ればいい。
 彼女が残りさえすれば、僕が逃げたとしてもそこまで探しはしないだろうし。
 彼女がまっとうに育てられる可能性があって、僕への追求がそれでも緩くなる。
 後々に響くことも少ない。
 ならばそうした方がいい。頭ではそう結論が出る。

 けれど。

「お父さんっ」

 彼女から手を伸ばしている以上、離すことはあり得ない。

 音と光で脅しと目くらましをかける。
 風で僕の周りの押さえつけていた人たちを押しのける。
 彼女に駆け寄り、音の時点で目を瞑っていた彼女を、自称母親のひるんで緩んだ腕の中から抱き上げる。

「お父さんっ」
 こんな時なのに、こんな時だからかもしれないが、目を開けた彼女が嬉しそうに微笑う。

 そして彼らが我に返る一瞬前にそこから逃げ出した。
 ……自慢出来ることではないが、逃げ隠れは得意な方だ。
 そう成らざるを得なかった。


 ……幸い、指名手配はされなかったか、まだ追いついていない。
 僕たちはいつもより遠くに向かっていた。
 普段は彼女といるときは若返る前の住処を離れるとき以外そこまで急がない。
 辛いだろうのに、彼女は不満を漏らさない。漏らさなすぎて、むしろ体調を崩していても言わないのではないかとより注意深く見てなければいけない。もうあんなことはくり返したくはない。
 だがまだ立ち止まるには不安が残る。
 判断を誤っただろうか?


 それでも、目が合うと、彼女は笑顔を見せる。、
 そんなに父親として慕ってくれているのに、好きな相手が見つかればそちらに行くのだなと、ごく自然なことなのに、ふと切なくなった。

 ……どうかしている。
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