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鏑木の銃 Ⅱ

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 久留守が甘酒を気に入ったようだ。
 こいつはどうも大人っぽいものを好む傾向がある。
 味噌田楽もニコニコして食べていた。

 「久留守、甘酒を気に入ったか?」
 「はい!」

 早乙女が驚いていた。

 「そうか、これまで飲ませたことは無かったな」
 「久留守は大人が好むようなものが好きなようだぞ?」
 「そうなのか!」
 「おい、ちゃんと見ててやれよ」
 「う、うん」

 一緒に食事をしてみれば分かる。
 子どもの舌ではないのかもしれない。

 「石神、実は相談があるんだ」
 「あんだよ?」
 「鏑木のことなんだが」
 「あ?」

 鏑木は「アドヴェロス」のハンターだ。
 銃器の扱いに天才的なセンスがある。
 そうか、鏑木の相談だったか。
 早乙女は一生懸命に言葉を探そうと考えているようだった。
 まあ、そういう奴だ。

 「どうもな。新宿のキャバレーに通ってて、そこの女の子に惚れ込んだらしいんだ」

 おい、そんな話なのかよ。

 「おい、そういう話は場所を変えろ」
 「あ、ああ!」

 うちの双子はともかく、怜花と久留守がいる。

 俺たちは話題を変えて皇紀の結婚式の話などをし、店を出た。
 怜花がくしゃみをし、俺がボンバージャケットの前を開けて怜花を抱きかかえた。
 怜花が嬉しがって俺に抱き着いた。

 「あったかーい!」
 「そうだろう?」
 「石神さん、ありがとう!」
 「いいよ、俺は怜花が大好きだしな!」
 「エヘヘヘヘヘ!」

 早乙女が微笑んでいた。
 怜花がボンバージャケットの内側で興奮し、姿勢を変えながらニコニコしていた。
 早乙女の家に着き、先ほどの話を聞くために俺は上に上げてもらった。
 「柱」たちが走って来るので、ちょっと気持ち悪かった。
 どうしてこいつらには慣れないんだろう。
 3階に上がり、雪野さんと挨拶した。
 雪野さんが大笑いした。
 怜花がボンバージャケットの胸元から顔だけ出している。

 「あったかそうね?」
 「うん! すごくあったかいよ!」
 「石神さん、すみません」
 「いいえ。俺も暖かかったですよ」
 「ウフフフ」

 雪野さんが早乙女に「もうちょっと厚着で出掛けてください」と頼んでいた。
 早乙女が謝っている。

 「石神、お昼を食べてってくれよ」
 「いいよ、話だけ聞いてすぐに帰るから」
 「そんなこと言わずにさ!」
 「ええ、石神さん、是非」
 「家でも用意してるからなー」
 
 ルーが俺に言った。

 「タカさん、今日はチキン南蛮だよ?」
 「うーん」
 「ちゃんととっといてもらうよ」
 「でもなー」

 はっきり言ってあまりチキン南蛮の気分ではなかった。

 「じゃあ、軽く蕎麦でも頂くか」
 「「うん!」」

 早乙女が雪野さんに蕎麦があるか聞いて、あると言われていた。
 かけ蕎麦を頼んだ。
 雪野さんが用意する間に、早乙女に話を聞くことにした。
 怜花と久留守を双子に頼んで、別な部屋へ移った。
 俺が廊下の壁の一部を押して、隠し部屋を出すと早乙女が何とも言えない顔をしていた。
 
 「こんなとこにも……」
 「おい、早く入れよ」
 「……」

 俺たちは6畳の小部屋のテーブルに付いた。
 隠し扉が自動で閉まり、早乙女が仏頂面で話し始めた。

 「鏑木がキャバ嬢に惚れたってことだな?」
 「あ、ああ、そうなんだけど、そこはあまり重要じゃないんだ」
 「おい! お前がキャバ嬢に惚れたって話をしたんだろうが!」
 「うん、ごめん。最初から話した方がいいかと思って」
 「この野郎!」

 まあ、こういう奴だった。
 必要なポイントを簡潔に話すスキルがねぇ。

 「キャバ嬢はいいんだな!」
 「あ、そっちもちょっと」
 「なんだよ!」

 早乙女が必死に話をまとめようと考えている。
 数分待たされた。

 「新宿のキャバクラで……」
 「おい、結局キャバ嬢の話なのかよ!」
 
 まあ、仕方ねぇ。

 「あのさ、新宿のキャバクラで、ウラ子って女の子が」
 「《トパレディ》か!」

 俺の店のナンバー2だ。
 体育会系の明るいノリで、多くの男を惹き付けている。

 「え?」
 「《トパーズレディ》だよ! そこの子だろ!」
 「いや、お店の名前は聞いてないんだ」
 「間違いねぇよ!」
 「石神は詳しいのか?」
 「うん、俺の店」
 「えぇ!」
 「《トパーズダンディ》はホストクラブな」
 「おい、お前そんな店を経営してたのか!」
 「成り行きだよ!」
 「あ! 前に雪野さんをホストクラブに誘ったな!」
 「《トパダン》な」
 「絶対やめろよな」
 「そこはもういいだろう!」

 話が進まねぇ。

 「それで鏑木がウラ子に夢中なんだな」
 「そうなんだ。石神、お前の店の子なら、なんとかならないか?」
 「何とかって、付き合わせろってことかよ?」
 「うん」
 「バカ! キャバ嬢にはまってたら、お前がすぐにやめさせろよ!」
 「あ!」
 「ウラ子は毎月何千万も稼いでんだぞ! 鏑木一人の女になるわけねぇだろう」
 「そうか!」
 「お前なぁー」

 まったく呆れる。
 まあ、鏑木は「アドヴェロス」のハンターだ。
 給料も結構もらっている。
 それを注ぎ込んでいるのだろう。
 
 「それで鏑木の本当の悩みは何なんだよ!」
 「あ、ああ。実はな、あ、石神って「崋山」って知ってるか?」
 「カザンって、銃の「崋山」のことか?」
 「知ってるのか!」
 「特別な銃を造る家系のことだよな?」
 「そうなんだ! やっぱり石神は頼りになるよ!」
 「いいから早く話せ!」

 早乙女が言うには、鏑木が「崋山」の銃を欲しがっているということだった。

 「もしも鏑木が「崋山」の銃を手に入れたら、もっと活躍できるって言うんだ」
 「まあ、あいつならそうだろうな」
 「そうしたらウラ子さんにもっと高いプレゼントをあげられるって」
 「そういう繋がりかよ!」

 アホな上司と部下だった。

 「あのなぁ。「崋山」は確かに優秀な銃を造っていたけどな。でももうあの一族は残ってねぇんだ」
 「え!」
 「妖魔に通用する銃を造っていたんだよ。でも、そのために「業」に狙われた。一族全員が殺されたらしい」
 「そうなのか!」
 「元々ごく少ない数しか造ってなかった。現存するものもだからほとんどねぇ。ああ、お前には話しておくけど、聖が2丁持ってる。物凄ぇ威力だ。俺も、あともう一丁知ってるだけだ」
 「そうかぁ」
 「「崋山」のことを知ってるだけでも大したもんだけどな。でも残念ながら、もう手には入らないだろうよ」
 「うん、分かった。鏑木は以前に「崋山」に製作を頼んでいたらしいんだけどな。そういう事情で手に入らなくなったのか」
 
 予想外の話を聞いた。

 「おい、鏑木は「崋山」に伝手があったのかよ!」
 「あ、ああ。あいつの家は代々銃士だったそうで……」
 「ああ!」

 俺も思いだした。
 確かに、吉原龍子のノートにそんなことが書いてあった。

 「そうか、「崋山」に依頼してたんだな」
 「でも、まだ完成してなかったんだな。残念だ」
 「しょうがねぇな」

 丁度ハーが呼びに来た。
 ハーはスムーズに壁の隠し扉を開き、早乙女がまた仏頂面になった。
 蕎麦が出来たらしい。
 かけ蕎麦と言ったのだが、やはり天ぷらがついていた。
 手数を掛けて申し訳ない。
 出汁の取り方も上手く、美味しい蕎麦だった。
 礼を言って、早乙女の家を辞した。





 家に帰り、チキン南蛮は俺の分も当然双子が食べた。
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