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鏑木の銃

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 皇紀と風花の結婚式を終え、久しぶりに家に帰って来た。
 公表というわけでもないが、一応世界的に石神高虎が「虎」の軍の最高司令官であることは知られた。
 国内ではまだ伏せられてはいるが、いずれそう遠くない時期に公表するつもりだ。
 本格的に「業」との戦いが始まる。

 今は戦力を再構築し、今後は「業」の《ハイヴ》攻略をしていくつもりだった。
 最近は停滞しているように見えるが、《ハイヴ》は全世界的に展開している。
 こちらの軍事基地を構築していくと同時に《ハイヴ》攻略を進めていく。
 恐らく「業」はあの《ニルヴァーナ》を使うに違いない。
 俺たちが《ハイヴ》攻略によって「業」の戦力を削ぐと共に、《ニルヴァーナ》への対処も進めていく。
 そういう戦いが始まって行くのだ。

 12月第三週の土曜日。
 俺は家でのんびりとしていた。
 皇紀は風花の家にいる。
 これからもちょくちょく帰って来るだろうが、やはり何となく寂しい。
 双子を散歩に誘った。

 「なんだか久しぶりだね!」
 「そうだな!」

 まあ、先月も行ったが。
 でも、確かに蓮花研究所の方が忙しく、イサの事件もあったりで、確かに以前ほど出掛けてはいない。
 三人で手を繋いで歩いた。

 「お前らも来年は高校生だよな」
 「「うん!」」
 「亜紀ちゃんの通ってた高校だよな」
 「そうだよ!」
 「亜紀ちゃんが道を付けてくれたしね!」
 「ワハハハハハハハハ!」

 亜紀ちゃんが成績優秀で、東大医学部にトップの成績で入学した。
 そういう亜紀ちゃんだからこそ、学校での「自由度」を押し広げ、随分と好き勝手に出来るようになった。
 俺から多額の寄付も入れている。
 特に学食の設備に回されて、充実した設備と人員が整えられたようだ。
 また校舎などの修繕や設備も豪華になった。
 それだけの金を渡している。
 亜紀ちゃんの卒業後なので、高校の方も大変に感謝していた。
 双子が入学するにあたり、別に成績方面で手心を加えてもらう必要もない。
 双子の成績は高校にも伝わっていて、亜紀ちゃんと同じく非常に優秀であることも分かっている。
 ついでに言えば、双子の「人生研究会」の連中も受験し、その子らも同じく優秀であることも分かっている。
 むしろ、高校の方で今期の入学を心待ちしているということだ。
 まあ、こいつらが受験を落ちることがまずない。
 
 「磯良も入る予定だよな」
 「うん、知ってる。楽しみだよ」
 「あいつが高校に入ったらうちに招待するからな」
 「うん。でも、どうしてその前だと不味いの?」

 ルーが聞いて来る。

 「一応な、あいつには他の道も選べるようにしたかったんだ」
 「他の道?」
 「「業」と戦うことのない道だよ。あいつを育てた堂前の家では、磯良にそういう道を望んでいた」
 「あー、なるほど」
 「堂前の二人の娘のどちらかと結婚させて、堂前の家を継いで欲しいってな。継がなくても、磯良に自分の幸福の道を歩んで欲しいんだ」
 「ヤクザかぁー」
 「まあ、今はそうだけど、もうヤクザとは言えないまっとうな商売をしているよ。吉住連合も全体が変わったしな」
 「ヤクザ、いなくなったよね」
 「まだまだいるよ。でかい組が変わっただけでな。小さな組は今も多い」
 「でも、ほとんどがタカさんについたよね?」
 「まあな。「虎」の軍に編入してるけどな」
 
 歩きながら話し、いつもの公園のベンチに来た。
 ルーが自動販売機へ買いに行く。

 「タカさん、誰も無しえなかった全国制覇をしたよね!」
 「ばかやろー! 世界制覇だぁ!」
 「ワハハハハハハハハ!」

 別に全然興味ねぇんだが。
 ルーが俺に缶コーヒーを持って来た。
 自分とハーはダイドーの「さつまいもミルク」だ。
 最近の双子の大好物になっている。

 「おい、皇紀がいなくなって寂しいか?」

 二人が顔を見合わせて笑った。

 「タカさん、やっぱりそれが心配だったんだ」
 「え?」
 「タカさんって、ちょっと私たちに気を遣い過ぎだよ」
 「ほんとうに! いつも大丈夫かって考えててさ!」
 「おい」
 「タカさん、自分の方こそいつも大変じゃん!」
 「イサさんのこと、タカさん大丈夫なの?」
 「おい、何言って……」
 「私たちだって心配してるんだからね!」
 「あ、ああ。悪かったな」

 双子が両脇から俺に抱き着いて来た。

 「「タカさーん!」」
 「おう、あったかいな!」
 「「エヘヘヘヘヘヘ」」

 皇紀のことは大丈夫そうだ。
 もちろん寂しいこともあるのだろうが、ちゃんと納得して皇紀と風花のことを思っているのだろう。

 




 「あ!」

 ハーが遠くを見て言った。

 「早乙女さんだー」
 「怜花ちゃんと久留守ちゃんもいるよ」
 「なんだ?」

 早乙女が怜花の手を引いて、久留守を抱いて歩いていた。
 俺たちに気付く。

 「石神ぃー!」
 
 嬉しそうに手を振って近づいて来た。

 「よう、散歩か?」
 「うん。お前もか」
 「まあな」
 「会えてよかったー」
 
 俺は立ち上がって言った。
 
 「じゃあ、そろそろ行くな」
 「おい、ゆっくりしろよ!」
 「いや、もうコーヒー飲み終わったし」

 ルーとハーが急いで「さつまいもミルク」を飲み干した。
 
 「じゃあな」
 「おい、ちょっと待てって」
 「あんだよ?」
 「たまにはゆっくり話をしよう」
 「やだよ。寒いじゃんか」

 見ると怜花と久留守が本当に寒そうだ。
 薄着ではないのだが、熱を作る筋肉がまだまだ少ない。

 「おい、おでんを摘みに行くか」
 「ああ、いいな!」
 「「やったー!」」

 近くの定食屋へ行った。
 みんなで甘酒とみそ田楽を頼む。
 俺がおでんを幾つか頼んだ。
 怜花と久留守は田楽を半分ずつにしてもらう。

 「こないだの皇紀君の結婚式は凄かったなぁ」
 「まあな。ああ、お前にも気を遣わせてしまったな」
 「なんのこともないよ。雪野さんと、10億円包もうかと相談してたんだ」
 「ワハハハハハハハハ!」
 
 あぶねぇ。

 「俺、詩の朗読とかやらされるかもって思ってた」
 「あ? ああ!」
 
 考えてもみなかった。
 
 「ほら、俺の詩って、深夜放送でも人気じゃない」
 「まあ、そうだな」

 視聴率はいい。
 だが、それは詩の良さではなく、よく分からない感じがウケているだけだ。

 「石神、俺もちょっとギターが出来るんだ」
 「へぇ」
 「雪野さんに、時々聴かせてる」
 「そうなんだ」
 「今度、一緒にやるか?」
 「いや、いいよ」

 やるわけねぇだろう。

 「石神、今日はノリが悪いな」
 「そうか?」
 「ちょっとヘンだぞ」

 そりゃお前だ。
 なんだか分からんが、早乙女が俺に話したいことがあるのは分かった。
 こいつの話題の振り方は本当にヘタクソだ。
 まあ、聴いてやろうか。
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