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真冬の別荘 Gathering-Memory X

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 12月31日。
 7時に目が覚めて、リヴィングへ降りた。
 当然、響子と六花はまだ眠っている。
 ロボがついてきた。
 子どもたちが既に起きていて、テーブルで話し合っていた。
 亜紀ちゃんが何かをメモしながら話し合っているようだ。

 「「「「「おはようございます!」」」」」
 「おう、おはよう。早いな?」
 「「「「「はい!」」」」」

 「タカさん、すぐに朝食を用意します!」
 「まだいいよ。何やってんだ?」
 「はい、松茸をどうやって美味しく料理しようかと」
 「あ?」

 柳と双子がネットを検索しながら、松茸の調理法を探しているようだ。

 「なんだよ、頑張ってるじゃないか」
 「タカさん、昨夜は本当にすみませんでした! 響子ちゃんにも六花さんにも申し訳なくって」
 「そうだな」
 「だから今日は美味しいものを食べてもらおうって」

 俺は笑った。

 「お前らが頑張ると、ちょっと怖いんだよなぁ」
 「ちゃ、ちゃんとやりますから!」
 「まあ、好きなようにしろよ。あんまり凝ったものは作るなよな?」
 「「「「「はい!」」」」」

 夕飯はまたバーベキューの予定だ。
 松茸ご飯などはいいが、他に凝った料理にすると折角のバーベキューが楽しめない。
 双子がロボに肉を焼き、食べさせた。
 俺はコーヒーをもらう。
 子どもたちがどんなものを探したか見てみた。

 土瓶蒸しなどの定番のものばかりだ。
 中にはパスタと和えるものもあるが、美味そうではない。

 「俺の意見もちょっといいか?」
 「もちろんです!」

 亜紀ちゃんが異常に気を遣ってくる。

 「松茸ご飯と吸い物は頼む。松茸ご飯は白出汁でな。吸い物は豆腐を10ミリ角で、水菜も刻んで後で入れられるようにしてくれ」
 「はい!」
 「他には、松茸とピーマン、ニラとソーセージを一緒に炒めたものを。セージとパセリもな。味はしょうゆをベースにオイスターソースも……」

 亜紀ちゃんがメモしていく。

 「茶碗蒸しも頼む、松茸の他に銀杏と鯛の切り身もな」
 「はい!」
 「鯛は十分に臭みを取ってくれ」
 「わかりました!」
 「でも、量はあるんだから、あとはガンガン焼いて食べるのがいいと思うぞ?」
 「はい!」

 他にホイル焼きと、昨日試した各種揚げ物を指示した。
 多少俺が多く指示した感じだが、昨夜のこともあって子どもたちも俺に気を遣っているのが分かるからだ。
 俺が協力的にすることで、わだかまりを解消したい。

 子どもたちが朝食の準備に取り掛かる.
 うちは朝から凝らないので、今日は目玉焼きとサラダ、ゴボウの漬物だ。
 味噌汁はホウレンソウにするようだ。

 俺は洗面所に行き、響子と六花を起こす。

 「またパンツを脱がされたー!」
 「私もです!」
 「早く来い!」

 朝食の後、みんなで映画を観た。
 『ヴァイオレット・エバーガーデン 外伝』だ。
 響子が最近テレビ版を全部見て、最高に気に入っていた。
 うちの子どもたちは全員観ている。
 柳の一番好きなアニメになっていた。
 主人公のヴァイオレットが六花に似ていると言っていた。
 




 昼食はファルファッレのスープパスタだった。
 子どもたちが異常に響子に気を遣い、響子が喜んでいた。

 「響子ちゃん、今日のフリルのパジャマいいね!」
 「響子ちゃん、もうちょっと食べない?」
 「響子ちゃん、あとでマッサージしょうか?」
 「また響子ちゃんとオセロしたいなー!」

 若干やかましい。
 響子が話題になっているので、ロボが響子の近くに座った。
 自分も褒めて欲しいようだ。

 「ロボ、首輪が今日も素敵ね!」
 「にゃん!」

 喜んだ。

 昼食後に俺は響子と吹雪を寝かせ、六花とハマーで「訓練」に言った。

 「みんな気を遣ってますね」
 「当然だ。してはならんことをしたんだからな。許してもらっただけでもありがたいと思わないと」
 「まあまあ」

 六花が笑って俺の肩を撫でた。

 「でもトラも、山中さんの話をしてたじゃないですか」
 「あれはだなー」
 「優しいですね!」
 「まあな!」

 今日は河原まで行った。
 相変わらず誰もいない。
 俺たちはハマーの中でじっくりと「訓練」をした。
 六花をハマーの中で休ませ、俺は外に出て焚火を作った。
 持って来た鮭のホイル焼きを火に埋める。

 六花が服を着て出て来た。

 「あ! 何を作ってるんですか!」
 「ホイル焼きだ。ちょっと食べるだろう?」
 「はい!」

 六花が嬉しそうに笑った。
 頃合いを見て、俺が軍手を一つ渡し、左手に付けさせる。
 俺がホイルを開いて六花に渡した。
 鮭とマイタケとシメジ、ナスと銀杏とアスパラガスにレモン。

 「おいしそー!」

 俺は笑って自分の分を開いて食べた。
 周囲は雪が積もっていて寒い。
 焚火の前で身を寄せ合って食べた。

 「温かいですね!」
 「そうだな」

 六花が一口ずつ食べて美味しいと言った。

 「お前、吹雪が重い病気になったらどうする?」

 六花が俺を見て泣きそうな顔になった。

 「私は絶対に吹雪を助けます!」
 「そうだな。俺もそうする」

 六花はまだ泣きそうな顔だ。

 「絶対だ。必ず助ける。だからお前も信じろ」
 「はい!」

 俺は薪を追加した。
 しばらくして炎が少し大きくなる。

 「俺のお袋もそうだった。子どもの頃から何度も俺が死ぬと言われたが、絶対に信じなかった」
 「はい」
 「大学生の時も同じだ。東大の偉い医者たちが俺がもう長くないと言ったが、お袋だけは絶対に信じなかった」
 「はい!」

 俺は六花に話した。

 「俺がしばらくかかると思って、お袋は俺のマンションで寝泊まりしていたんだ」
 「そうですか」
 「山口の家には、しばらく帰れないと言っていたようだ。向こうでも心配してくれていたんだが、お袋は「大丈夫だ」と言っていた」
 「素晴らしい人ですね」
 「そうだよな! でもな、義姉の陽子さんだけが何かを察して来てくれたんだ」
 「そうなんですか」
 「それでな、病院で俺の本当の状態を知って慌てた。でもお袋は言った」
 「なんて?」

 「「高虎は子どもの頃から何度もこんなことがあった。でも必ず生き延びて治った」ってさ。「だから今度も絶対に大丈夫!」ってな」
 「すごい!」

 六花が感動していた。

 「そうだろう? お袋には頭が上がらないよ。神様が来て「もう死ぬ」と言われたって、それでも信じなかっただろうよ。そういう人だ」
 「私も絶対に信じます!」
 「そうだな。俺もだ」

 六花がニコニコ笑っていた。

 「それでな、この話には後日談があるんだ」
 「はい!」

 「俺のマンションにお袋と陽子さんが泊ってたわけだ。それで俺が回復して二人で喜んでな。俺が退院する前に掃除をしようとしたらしいんだよ」
 「はぁ」
 「俺はいつも整頓してるから、必要無かったんだけどよ。二人でだから徹底的にやろうとしたらしいんだ」
 「そうですか」
 「それでな。俺の石動コレクションが見つかった」
 「!」

 俺は笑った。

 「もうその当時で数百枚になっていたからなぁ。しかもド変態のものもあったしよ」
 「アハハハハハハ!」
 「俺が退院してマンションに入ったら、段ボールに詰めてあって。《これはできれば捨てなさい》ってお袋の字が」
 「ワハハハハハハ!」

 「まいったぜ」

 六花が大笑いしていた。

 「しばらく後でお袋に怒られてなぁ。当時は俺が奈津江のことでショックを受けてると思って何も言われなかったんだけどよ。お袋は真面目だからなぁ。忘れて無かった」
 「大丈夫だったんですか?」
 「大丈夫って言うか、まあ恥ずかしいだけよな。陽子さんは大笑いしてた」
 「アハハハハハハ!」

 お袋と陽子さんは、俺の代わりに奈津江の葬儀に出てくれていた。
 そのことも後で聞いた。
 俺は六花には話さない。
 明るく笑ってもらうために、この話をした。

 「いいお母さんだったんですね」
 「最高だ」
 「私もお会いしたかったなー」
 「そうだな。お袋は喜んでくれただろう」
 「そうですかね?」
 「当たり前だ! 六花の笑顔を見て嫌う奴なんかいねぇ!」
 「はい!」

 


 六花が輝く笑顔を見せてくれた。
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