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真冬の別荘 Gathering-Memory Ⅸ

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 「あれ? それはどうしたの?」
 「ああ、田舎の親戚が送ってくれたんですよ」
 「でも、美亜さんのご両親も親戚も亡くなられてるって」
 「何人かまだいるんです。最近連絡が取れて。結構お金持ちなんですって!」
 「そうなんだ」

 山中は奥さんの話をそのまま信じた。
 美亜さんを疑うことなど、山中の中には1ミリも存在しない。

 その後、度々親戚からだと様々な食材が届いた。
 肉のブロック、刺身の柵、多くの野菜や果物、ビールの時もあった。
 山中の好きなキリンラガーだった。
 山中は奥さんが勧める通り、ちゃんとした弁当を持つようになった。
 奥さんが「食材が使えないと傷んでしまうので」と言うと、山中は笑って頼んだ。

 しかし、しょっちゅう届く頂き物に、流石の山中も考えた。

 「いくらお金持ちと言ってもなぁ。こうしょっちゅう頂いていては申し訳ない」
 「いいんですよ。本当に会えなくなったと思っていたのに連絡がついて、向こうも喜んでくれているんです」
 「でもなぁ」
 「私がちゃんとお返しをしてますから」
 「そうなの?」
 「はい。まあ、頂いた分には及びませんけど」
 「そうか。でもいずれちゃんとお返ししたいね」
 「はい!」

 


 双子が暴れるようになり、俺が山中に頼まれてお宅に行くようになった。
 その度に俺は食材を大目に買って行き、そっと奥さんに渡していた。
 山中は気付かなかった。
 ただ、すき焼きのいい肉などを持って行くと、感謝と共に恐縮された。

 「俺がいい肉を喰いたいんだよ!」
 「そうか」

 俺は山中が許容できる限界を分かっていた。
 奥さんに渡す分は秘密だった。
 俺が行くと、亜紀ちゃんや皇紀も喜んでくれた。
 みんなで美味いものをたらふく食べた。
 子どもたちが喜ぶことで、山中も何とか俺への遠慮を解いてくれていたと思う。

 俺も知らなかったことだが、奥さんは俺が送った食材を詳細に記録していた。
 多分、いつか俺に返そうと思っていたのだろう。
 
 双子があまりにも暴れるので、ついに奥さんが倒れた。
 その後も寝込むことも何度かあった。

 その時、山中が奥さんが記録していたノートを見つけてしまった。
 俺から送られたものだと記されていた。



 翌日、凄い剣幕で俺の第一外科部まで来た。
 流石に同僚の前で怒鳴ることは無く、俺を連れ出した。
 外の駐車場で山中が俺の胸倉を掴み、奥さんのノートを突き付けた。

 「石神! これは一体なんだ!」

 開いたノートの記載を見て、俺はすぐに事情を察した。

 「山中」

 いきなり殴られた。

 「お前! 俺に同情したってかぁ!」
 「そうだよ」
 「石神!」

 俺から手を離し、山中はボロボロと涙を流した。

 「お前にこんなことをされたくなかった!」
 「おい、山中」
 「お前に同情なんかされたくない! 俺とお前は……」

 「親友だろ?」
 「だったらなんでこんなことを!」

 山中が泣きながら俺を見ていた。

 「親友だからじゃないか。お前が困っていたら、俺は何でもするって」
 「石神! ふざけるな!」
 
 山中がまた怒り出した。
 自分が白米だけしか食べないことは、山中にとっては何のこともなかった。
 でも、親友の俺から世話になるなんてことは、許せなかった。
 山中の気持ちはよく分かる。
 でも、俺にも言い分はあった。

 「おい、山中。俺が学生時代に死に掛けた時に、お前、何をしたんだよ?」
 「!」

 山中が驚いていた。
 俺が知らないはずのことだったからだ。

 「悪いな。御堂を問い詰めて吐かせた。お前、あの時死に掛けたよな?」
 「石神……」
 「お前よ、俺は親友のお前がしてくれたことを忘れたことは無いぞ! お前は俺が困っていたら命まで捨てようとしやがった! じゃあ、俺がどうするかなんて、当たり前だろう! 違うか山中!」
 「石神……」
 「命だぞ? 金なんて全然大したことじゃねぇ。お前が困ってたら、金だろうが命だろうが何だろうが! 俺はお前のために使うぞ!」
 「石神!」

 山中が大泣きした。

 「このバカ! なんで食い物に困ってるって俺に言わないんだぁ!」
 
 山中が涙を拭いながら俺を見た。

 「いや、別にそこまで困ってはないんだ」
 「ウソつけ! お前、前に米だけの弁当を喰ってただろう!」
 「あ、あれは……」
 「お前の奥さんも、亜紀ちゃんたちも、俺には大事な人間なんだ! 美味い物を喰わせるくらい、俺にやらせてくれよ! なあ、頼むからさ!」
 「石神!」
 「俺、お前が死に掛けたって聞いて、どんな気持ちだったと思うよ? 堪らなかったぜ。御堂が絶対にお前には話すなって言うからこれまで何も言わなかったけどよ! でもお前の心に俺がどれほど感謝してると思うんだよ!」
 「石神……」
 
 山中の肩に手を乗せた。

 「頼むよ、山中。しばらくのことだ。俺に援助させてくれ」
 「石神!」

 山中はまた大泣きした。
 俺は背中をさすって「しっかりしろ」と言った。




 山中たちの死後、俺は二人が子どもたちに遺した貯金通帳を見た。
 山中が奥さんに黙って小遣いを貯めた通帳も見つけた。
 そして、もう一つ、あの日山中が俺に見せた奥さんの記録したノートと一緒になっていた通帳を見つけた。
 俺に返すつもりで、二人で貯めていたものだろう。
 ノートだけもらい、通帳は全部亜紀ちゃんに渡した。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 階段の下で、叫ぶ声と呻き声が聞こえた。
 亜紀ちゃんが走って来て、他の子どもたちも後から走って来た。

 「タカさーん!」
 「お前らは来るんじゃねぇ!」
 「タカさーん!」

 亜紀ちゃんが俺に抱き着き、皇紀と双子も抱き着いて来た。
 柳は抱き着くところがなくなり、亜紀ちゃんの背中に抱き着いた。

 「ばかやろう!」
 「「「「タカさーん!」」」」
 「石神さん!」

 「お前ら! カレー臭ぇんだよ!」

 六花と響子が笑った。

 「タカさん! 本当にごめんなさい!」
 「カレーは全部お前らの腹の中だろう!」
 「出しますから!」
 「出すんじゃねぇ!」

 六花が大笑いした。
 気を遣ってのことだろう。

 「でも! 本当に出したい!」
 「だからやめろ!」

 早く風呂に入って来いと言った。
 みんな泣きながらまた俺に謝り、下へ降りて行った。
 響子と六花を先に眠らせた。

 「タカトラ、良かったね!」
 「何も良くねぇ!」

 響子がニコニコして降りて行った。
 六花は吹雪に「お父さんは最高ですよー」と言いながら降りた。
 ロボも一緒に行く。

 照明を消して一人で飲んでいた。
 子どもたちが上がって来た。

 「何しに来やがった!」
 「いえ」

 子どもたちがうつむいて立っていた。

 「そこに立ってられると不気味で気持ち悪いんだよ! なんか持って来て座れ!」
 「「「「「はい!」」」」」

 少しして、みんなで飲み物を持って来た。

 「タカさん……」
 「……」

 亜紀ちゃんが俺を見ている。

 「あの通帳は、そういうものだったんですね」
 「俺の子どもに盗み聞きする奴はいねぇ」
 「は、はい!」

 子どもたちが黙って飲み物を飲んでいる。
 亜紀ちゃんと柳はバドワイザーで、皇紀と双子は梅酒だ。

 「独り言だけどな」

 みんな黙って聞いている。

 「山中と奥さんは最高の二人だった。俺の援助なんかこれっぽっちも欲しくは無かった。俺が散々頼み込んでやらせてもらったことだ。だから援助でもなんでもねぇ」
 「「「「「……」」」」」

 「山中の家族が俺の宝だった。それだけのことだ」
 「タカさん……」

 「お前らが俺を食い潰すのは全然構わない。だけどな、それはお前らも一緒に飢えて死ぬってことだ」
 「「「「「はい!」」」」」
 「俺たちは家族だ。だから飢えるのも美味い物を喰うのも一緒だ! 分かったか!」
 「「「「「はい! すみませんでした!」」」」」
 
 「特に今回は響子と六花が来てるんだ。俺が誘った人間だ。お前らはあいつらを喜ばせなければならん!」
 「「「「「はい!」」」」」
 「だから怒った。分かったな!」
 「「「「「はい!」」」」」
 「じゃあ、明日俺たちは帰るからな」
 「「「「タカさん!」」」」
 「石神さん!」

 子どもたちがまた俺に抱き着いて来た。

 「うるせぇな!」
 「タカさん! 思い止まって下さい!」
 「なんだよ!」
 「私たちでタカさんと響子ちゃん、六花さんを満足させますから!」
 「フン!」

 「「「「「お願いします!」」」」」

 耳元ででかい声で言われた。
 耳が痛い。

 「じゃあ、つまらなかったら帰るからな!」
 「「「「「はい!」」」」」




 さて、六花とちょっと「訓練」するかー!




 六花はスヤスヤと寝ていた。
 取り敢えず、二人のパンツを脱がした。
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