富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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ただ、そこに座ってくれ

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 5月に入ってすぐに、俺と紅は南米ブラジルの首都ブラジリアに飛んだ。
 ブラジリアは完全な人工都市で、密林に囲まれる高原に大規模な予算を投入して建設された。
 近未来的なデザインの建物が多く、また都市自体も飛行機を模して作られている。
 沿岸部にあった大都市リオデジャネイロやサンパウロと内陸部の所得格差を解消するという名目で、半ば強硬的に作られた。 
 そのことで、ブラジルは経済破綻を来したとも言われている。
 そうまでして作られた都市ではあったが、はっきり言って失敗だった。
 国の中枢はブラジリアに移転されたが、自動車を移動手段の主流に据えていたため、市民生活は非常に不便だ。
 自動車の自家保有率は非常に低い国だった。
 これまで大都市で活動していた企業も、ほとんどブラジリアに本社移転をしていない。
 他の都市から遠いために、住民は不便な生活を強いられている。
 また、近郊の衛星都市はスラム化し、ブラジルの犯罪組織の温床にもなっていた。

 俺と紅が来たのも、そうした犯罪組織が「業」と接触して軍事施設を作ろうとしているという情報を得たためだ。
 情報は与党の政治家からのものであり、ということは政治の中枢に「業」が食い込んでいることを示していた。
 俺たちはアラスカから直接「タイガーファング」の輸送タイプに乗り、高機動装甲車「ファブニール」と共に乗り込んだ。
 垂直離着陸が出来る「タイガーファング」は滑走路を必要としない。
 ブラジリアから少し離れた場所に俺たちは着陸し、「ファブニール」を降ろした。

 「じゃあ羽入さん、紅さん。御武運を!」
 「ああ、世話になった。君たちも気を付けて帰ってくれ」

 青嵐と紫嵐に挨拶し、俺と紅は出発した。

 「まずはブラジリアでカナイ大統領と会わなければな」
 「ああ、情報が少なすぎる。衛星画像で位置は判明しているが、どんな施設なのかまるで分かっていない」
 「ヤバい戦力だったら、アメリカから「セイントPMC」が来てくれるそうだけどな。時間がどれだけかかるかな」
 「ジェヴォーダンの施設にしては小さい。恐らくバイオノイドか」
 「紅、決めつけるな」
 「ああ、悪かった」

 半ば密入国のような手段だったが、一応は政府に承認を得てはいる。
 ブラジル大統領トリスタン・カナイの通行許可証も受けている。
 「虎」の軍の防衛システムの貸与の用意があると申し出て、その視察に俺たちが来たことになっている。
 まあ、「業」の施設を発見し、破壊することになればご破算になる話だが。
 ブラジルと「虎」の軍が共闘するには、まだまだ乗り越えなければならない壁が幾つもある。
 最大のものはブラジルの腐敗だ。
 政治も官庁も幾つもの派閥に分かれ、それらが互いに虎視眈々と相手の破滅を狙っている。
 また市民側も犯罪組織が巨大化しており、サンパウロの警察署が白昼堂々とマフィアの攻撃を受けたりする。
 それらの問題の解決は、現段階では程遠い夢のような話とも言える。
 石神さんはブラジルや他の南米都市が「業」に併呑されることを危惧していた。
 恐らく、南米の豊富な資源が「業」に流れつつあることも察知していた。
 俺と紅は、その前哨戦とも言える任務に就いたことになる。
 厳しい任務ではあったが、俺も紅もとっくに覚悟は出来ている。




 ハイウェイを走っていると、ガソリンスタンドや簡易レストランが所々に見られた。
 そして小さな町もあった。
 今は紅が運転している。

 「羽入、少し眠っておけ」
 「大丈夫だ。今は少し緊張しておいた方がいいだろう」
 「そうか」

 紅は相変わらず俺の心配ばかりする。
 特に任務中は俺に何もさせない勢いで来る。

 「任務中はこの「ファブニール」の中で寝てくれ」
 「ああ」
 「シャワーが無いが我慢しろ」
 「分かってるよ」
 「私が身体を拭いてやる」
 「いいよ!」

 絶対にヘンな気分になる。
 石神さんが紅に新たに備えてくれた《機能》は最高だった。
 ただ、紅の「感度」が強くて、俺が蓮花さんにもうちょっと抑えて欲しいと話した。
 しかし、紅がこのままでいいと強硬に主張した。
 常に冷静な紅が乱れ狂う程だったのだが、本人はそれがいいと言うのだ。
 そう言われては俺も感度を落とせとは言えなかった。
 蓮花さんに笑われた。

 「いきなり施設で戦闘になるかもしれんぞ」
 「ああ。紅も十分な装備があるんだろう?」
 「そうだ。拠点防衛のバハムートと、今回は「スズメバチ」も用意している。1000基だがな」
 「妖魔が出なけりゃ十分だな」
 「クイーンも一体いるから、妖魔が出た場合は「オロチストライク」に換装するからな」
 「分かった」

 二人で今回の作戦について話をする。
 内容は頭に入っているが、こうやって話すことで不足に気付いたり、後の作戦行動が柔軟になることもある。
 要は具体的にイメージを動かすことで、更に理解を深めるということだ。
 暗記作業はそのままでは役立たないことが多い。
 話し合ったり誰かに教えることで、自分の中でしっかりと根を張って行動に結びついて行く。
 対話が必要なのだ。

 「まずはトリスタン・カナイに会うことだ。彼からもっと情報を得られればいいけどな」
 「そうだな」

 話していると、「ファブニール」の警報が鳴った。
 その前に紅がもう気付いていた。

 「ロックオンされた」
 「航空機か?」
 「アパッチ・ロングボウだ。ヘルファイアだろうな」

 ヘルファイアは実戦の堅実さに定評がある対戦車ミサイルだ。

 「どうする?」
 「もちろん先制攻撃だ」

 紅が言うと、「ファブニール」のルーフの一部が開いた。
 コンソールに2基の「スズメバチ」が飛び出して行ったことが表示される。
 マッハ3で巡行し、俺たちに向かっていたアパッチ・ロングボウを破壊して戻った。
 僅か2分だった。

 「羽入、現場へ行くか?」
 「いや、関わらない方がいいだろう。どうせ軍のものだ。俺たちがやったと思われると面倒だ」
 「そうだな」

 恐らく生存者もいない。
 敵には俺たちが撃墜したことは悟られるだろうが、どのような攻撃かまでは分からないはずだ。

 「軍を抱き込んでいるか」
 「予想通りだな」
 
 まあ、紅の装備であればブラジルの全軍が出動しても対応出来る。
 だが、まだ「虎」の軍と本気で敵対しようとは考えないはずだ。
 一部の「業」に抱き込まれた連中が動いているだけだろう。

 攻撃されたことで、紅が一層の索敵に専念する。
 俺が運転を代わった。

 「すまない」
 「お前の能力が頼りだ。頼むぞ」
 「任せろ」

 「ファブニール」に搭載したウラール型の霊素レーダーも稼働する。
 通常戦力ならば幾らでも撃退出来るが、妖魔は注意が必要だ。
 車両搭載のレーダーなので、半径30キロまでしか観測出来ない。
 
 「レーダーは常にオンにしておく」
 「お前は大丈夫か?」
 「心配するな」
 
 霊素レーダーは情報処理の密度が高く、紅ですら負担になるはずだったが、紅は今後の生還の割合を高めるためにやると言っているのだ。
 まあ、今回は「ファブニール」に搭載された量子コンピューターが大半の処理を担ってはくれる。
 石神さんがこの車両と使うように言ってくれて助かる。

 「ああ、この先でアンブッシュ(待ち伏せ)だ」
 「規模は?」
 「一個小隊50名程だな」
 「武装は分かるか?」
 「RPGとスティンガー(携行ミサイル)が4門。あとはM2重機関銃2門だ。他はアサルトライフルだな」
 
 俺は車を停めた。

 「また「スズメバチ」でやれるか?」
 「その方がいいか」
 「ああ、接敵する前に片付けよう」
 「よし」

 今度は3基の「スズメバチ」を出撃させた。
 1分で帰投する。

 「どうにも面倒だな」
 「私たちの戦力を理解していないのだろうな」
 「でも俺たちがブラジリアに向かう日時は把握している」
 「恐らく「業」からの直接の指示ではないのだろう」
 「だから戦力の情報が無いということか」
 「ああ。装甲車で向かっていることは把握したのだろうから、それを潰せる戦力を回して来た。でもそこまでの連中だ」
 「「業」の支配は受けていても、仲間とは認められていないということだな」
 「そうだ。だから拠点は「業」の軍自身が守っているんだろうよ」
 
 俺たちは予測で話している。
 だからお互いに決めつけてはいない。
 
 二人で話しながらまたハイウェイを走った。
 もう辺りはサバンナで、低木と草地が点在している光景に変わっている。
 ハイウェイでは何度か他の車両とすれ違っている。
 だが、それほど交通は多くない。
 もしかしたら、封鎖が一部であるのかもしれない。
 ブラジリアに近くなり、その予想が当たっていたことに気付いた。
 ハイウエイで一斉検問をしており、とんでもない渋滞が出来ていた。
 紅が降りて、カナイ大統領の通行許可証と招待状を兵士に見せた。

 「一応積み荷を見せて下さい」
 「そこに書いてある。この車両は機密の塊だ。だから誰にも見せられない」
 「それは受け入れられません。我々の検閲を得なければここから先には通せません」

 紅が言った。

 「構わない。我々と戦闘をするということでいいな?」
 「なんですって?」
 「先ほど攻撃ヘリと一個小隊の軍と交戦した。これは重大なことだ。我々に通告もなく攻撃して来たのだからな」
 「なんですって!」
 「ここでも同じことならば、我々のやることも同じだ」
 「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 兵士が上官と思しき人間の所へ走って行った。
 それほど時間を掛けずに戻って来る。

 「大変失礼しました、どうぞお通り下さい!」
 「いいのか?」
 「はい! ようこそブラジルへ!」

 随分と短い時間で確認したものだ。
 多分、軍の一部の暴走を上層部でも掴んでいたのだろう。
 兵士たちが敬礼したまま俺たちを見送っていた。
 腐敗した国は、力を示してでしか服従させられない。

 

 

 俺と紅はブラジリアの大統領府プラナルト宮殿に向かった。
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