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パレボレのアルバイト Ⅱ

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 3時に「カタ研」の集会が始まった。
 俺が顔を出したので、みんなが喜んでくれる。
 俺は土産に買って来た銀座菊廼舎の和菓子や揚げ饅頭を渡した。
 みんな大喜びで拡げて行く。
 
 「ほら、パレボレ! 好きなのを選びなよ!」
 「はい、亜紀さん!」

 パレボレもバイトを終えて来ている。
 いつになく亜紀ちゃんが優しいので喜んでいた。
 双子が少し遅れて到着する。
 俺が買って来た和菓子に喜んだ。

 「カタ研」では現在パワードスーツの研究をしている。
 以前にロシアの軍事基地を急襲した際に、双子が見たからだ。
 二人が興味を持って提案し、受け入れられた。
 「花岡」を使う俺たちにはあまりメリットは無いが、こういう技術は思わぬ副産物を生み出したり、また新たな利用法も出て来る可能性が高い。
 「花岡」戦士以外であれば、結構有用な技術になるかもしれない。
 現段階では皇紀も入っていないし、蓮花たちも関わってはいない。
 完全に「カタ研」のみの開発だ。
 双子が主導し、設計を行なっているが、分担して様々なことをしている。
 俺にも毎回報告が回るが、意外と面白いことになっていた。
 今は50センチ程の模型が出来ている。
 
 「人工筋肉を使うと柔軟さは増すけど、結構大型になっちゃうかな」
 「アクチュエータだと簡単だけど、どうしても動きが限定的で大まかになるよね?」
 
 どちらの機構にするかで悩んでいるようだった。

 「タカさん、どう思いますか?」
 「ハイブリッドはどうだ?」
 「「!」」
 「スゴイよ!」
 「流石はタカさんだー!」

 ルーが叫んでハーと素早くスケッチを始めた。
 双子のやり方だろうが、絵に描きながら思考を進めていくようだ。
 二人の高速思考が始まった。

 「どんどん浮かんで来る!」
 「タカさん! ありがとう!」
 
 夢中になっているので、俺たちは一旦休憩にした。
 
 「パレボレはどのくらいアルバイトをしているんだ?」

 俺が聞いてみた。

 「はい。あのお店には朝の8時から夜の10時まで。学校での授業や「カタ研」がある時には途中で抜けさせていただいています」
 「休みは?」
 「お店が毎週月曜日が定休です」
 「じゃあ土日は目一杯か」
 「はい」
 「大変じゃないのか?」
 「平気ですよ!」

 亜紀ちゃんも驚いていた。
 そんなに本格的にやっているとは思わなかっただろう。

 「パレボレ、もう少し減らせよ」
 「大丈夫ですって! 他にも新聞配達やなんかもやってますし」
 「「なんだと!」」

 亜紀ちゃんと二人で叫んだ。
 他のメンバーはよく分からないでこっちを見ている。
 亜紀ちゃんがパレボレのアルバイトの話だと説明した。

 「新聞配達は朝が早いだろう?」
 「はい。広告を挟んだりするので、大体3時ですかね?」
 「おい、お前寝てないのかよ!」
 「4時間は毎日」
 「少ねぇよ!」

 「でも、朝刊だけですし」
 「お前なぁー」

 亜紀ちゃんと顔を見合わせた。
 他のメンバーも心配そうな顔をしている。

 「4時間睡眠じゃ身体を壊すぞ」
 「ああ、自分はずっとそんな感じですし」
 「ほんとかよ」
 「はい!」

 まあ、何もしてない連中だった。
 でも、本当に大丈夫だろうか。

 「パレボレ、さっき新聞配達やなんかって言ってたよな?」
 
 亜紀ちゃんが聞いた。

 「はい」
 「もしかして、他にもあんの?」
 「はい。不定期ですが、いい収入になるアルバイトがありまして」
 「なんだ?」
 「自分もよくは分からないんですが、カードを受け取ってATMでお金を引き出す仕事です」
 「「出し子かよ!」」

 亜紀ちゃんと叫んだ。

 「1回で1万円もくれるんですよ!」
 「少ねぇよ!」

 二人でそのバイトは犯罪だから関わるなと言った。
 後で桜に連絡して探らせよう。

 「でも、どこかへ封筒を運ぶだけでまた1万円もくれるんですよ?」
 「「……」」

 運び屋もやってたか。 
 まあ、対価の価値観が無い奴なのでしょうがない。

 「あ!」

 パレボレが自分のスマホのバイブが鳴ったので俺たちに断って電話に出た。
 部屋の隅に移動する。
 俺は亜紀ちゃんに行けと言った。

 「亜紀さん、今話してた方から仕事の連絡が」
 「貸せ!」

 亜紀ちゃんが電話を奪った。

 「私、パレボレの彼女なんですけどー」
 「はい! 私もいいアルバイトを探してましてー」
 「はい、分かりましたー」

 電話を切った。

 「タカさん、6時に渋谷のハチ公前です」
 「しょうがねぇ」

 今日はのんびりするつもりだったが、ヤボ用が出来た。




 「カタ研」の集会が終わり、俺たちは渋谷へ向かった。
 亜紀ちゃんとアヴェンタドールで向かい、柳と双子、それにパレボレが柳のアルファードで一緒に向かう。
 千万組の持ちビルに車を入れて、亜紀ちゃんとパレボレの二人で歩かせる。
 俺たちは離れて付いて行った。
 千万組の野方という男と数人も一緒についてきた。

 「うちらのシマで勝手なことをしやがって」

 話は通っていないようだ。
 まあ、千万組は今や千万グループとして、非合法活動からは離れている。
 しかし、縄張りの中で好き勝手にすることは許していなかった。

 「渋谷や新宿は旨味の多い街ですからね」
 「組に関わらない連中も多いだろうな」
 「はい」

 ハチ公前でパレボレに接近する男がいた。
 黒いスーツ姿の30前後の男だった。
 髪を茶に染めている。
 亜紀ちゃんの綺麗さに驚いている。
 面倒なので、俺たちはすぐに近づいた。

 「おい、お前どこのもんだ?」

 野方が男に聞いた。

 「お前、何よ?」
 「千万だ」
 「!」
 「一緒に来い」
 「……」

 終わった。
 
 「腹減ったな」
 「そうですねー」
 「「銀河宮殿」にでも行くか!」
 「最高です!」

 柳と双子も喜んだ。

 「パレボレも来いよ」
 「え!」
 「早速ドレッシングの礼が出来るな!」
 「自分もいいんですか!」
 「もちろんだ」

 みんなで新宿へ移動した。
 新宿の千万組のビルに車を入れる。
 便利になったものだ。

 「銀河宮殿」で食事をしていると、野方から電話が来た。

 「どうやらフィリピンにいる連中が司令塔のようです」
 「場所を聞いとけ」
 「もう分かってます」

 野方が滞在しているホテルの名を告げた。

 「丁度皇紀が行ってるんだ。あいつにやらせるよ」
 「宜しくお願いします。ああ、どうか真岡も使ってやってください」
 「いやー、結構物騒な護衛たちがいてな。多分数分で終わっちまうよ」
 「はぁ」

 ルーシーとハーマイオニーが瞬殺するだろう。
 電話を切って、パレボレに話した。

 「今回は俺たちがすぐに気付いたから良かったけどな。悪い連中に関わっていたんだぞ」
 「そうなんですか! ご迷惑をお掛けしました!」
 「こんなもんは何でもねぇけどよ。お前に何かあったら大変だよ」
 「石神さん……」

 亜紀ちゃんがパレボレの頭を小突いて肉を喰えと言った。
 焼肉の中で亜紀ちゃんが他人に気遣うのは相当なことだ。
 パレボレを心配しているのだろう。
 それでも子どもたちは夢中で喰うので、俺が闇バイトのことを説明してやった。

 「普通はな、お前の住所や家族構成なんかを掴まれて、抜け出せなくなるんだよ」
 「そうなんですか!」
 「身分証とか見せただろ?」
 「はい。学生証でしたが」
 「これまで何か脅されたりしなかったか?」
 「そういえば家族のことをやたらと聞かれましたね」
 「それで?」
 「遠い場所にいると言うと、殴られました」
 「そうなのかよ!」
 「まあ、亜紀さんのパンチには遠く及びませんから」
 「そうか」

 亜紀ちゃんがパレボレの皿に肉を乗せた。
 みんなが驚いて硬直した。
 どんな罠かと思っている。

 「喰え」
 「はい!」

 パレボレが嬉しそうに食べた。
 他の子どもたちが拍手をし、亜紀ちゃんが恥ずかしがった。
 いや、本当は普通のことだからな。
 喰いながらパレボレのアルバイトの話をした。

 「あのカレー屋はいいけど、他のバイトはもう辞めろよ」
 「そうですか。分かりました」
 「寝るのはまあお前の好きでいいけど、バイトじゃなく勉強でもしろよ」
 「はい」
 「他にはアルバイトはしてないな?」
 「はい。ああ、植物を預かって育ててます!」
 「植物?」
 「はい。部屋の中で。結構増えましたよ?」
 「そうなのか」
 
 花屋のバイトか?

 「あ、記録を送っているので写真があります」

 パレボレがスマホの画像を見せた。

 「!」
 「タカさん?」
 
 俺は小声で大麻だと言った。

 「ゲェ!」

 



 みんなでパレボレのマンションへ行き、大麻を回収した。
 柳のアルファードに積んで帰った。
 また柳が「ごめんね」と繰り返し呟いた。
 家に戻ってから、パレボレの連絡先から双子が量子コンピューターを使って相手の場所を突き止めた。
 野方に言って、潰させた。

 大麻は佐藤家に捨てた。

 「あいつ、騙されやすいにも程があるだろう」
 「なんなんですかね?」

 後日、パレボレの交流関係を徹底的に調べた。
 テレフォンアポインター(オレオレ詐欺)、洗剤販売(ネズミ講)、絵画販売(イルカの奴)、小麦粉小売り(シャブ)、時計販売(ロレックス似)、等々。
 亜紀ちゃんとよく無事だったと感心した。

 パレボレの貯金が2000万円を超えていた。

 がんばったなー。
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