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戦後処理
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数時間前。
四名の「アン・ノウン」襲撃者への攻撃が中断され、その後「アン・ノウン」からの攻撃も止まった。
「人道的処置」として、破壊され尽くした戦地に、ロックハート家から水と食糧、そして薬品の提供がなされた。
200キロ離れた場所で待機していた陸軍の検閲を受け、それらは「アン・ノウン」たちに運ばれた。
三人の「アン・ノウン」がそれらを食べ始め、1時間後には50キロあった肉が全て無くなっていた。
「アン・ノウン」たちは現在まで沈黙している。
この間に、陸軍が師団規模で集結し、空軍の態勢も整えて行った。
核ミサイルの準備も、複数個所で整っている。
しかし、それらが無効であることは分かっていた。
それとは別に、各地の州軍を中心に救援活動が開始された。
「アン・ノウン」たちに、敵対の意志が無いことを告げながら、西海岸の膨大な人間の輸送、救護にあたった。
西海岸の半分を覆った電光は、都市の機能を壊滅させたが、人的被害はほとんどなかった。
それでも数千人の規模で死傷者が出ていた。
しかし、「アン・ノウン」の攻撃が地表近くで展開された場合、都市ごと消滅しただろうことは明らかだった。
軍事基地の消失では、包囲した陸軍や出撃した空軍の兵士たちを含め、数万を超える死者が出ている。
その後の戦闘機や戦闘ヘリによる攻撃への反攻で、また多くの死者が出た。
今、ホワイトハウスでは政治と軍部のトップたちが招集され、未曽有の国難の対処の討議が開始された。
大統領・副大統領とその補佐官たち、国務長官、国防長官、内務長官などの政務のトップたち、それに統合参謀本部議長と、陸海空軍の参謀総長に海兵隊他の総司令官たちとCAI長官などの独立国務機関の長官たち、さらに、多くのオブザーバーが室内にいる。
そして民間からアルジャーノン・ロックハートと軍産複合体の民間代表者たち。
主な発言と討議は、大統領府の人間と軍部のトップ、CIA長官とNSA長官、そしてアルジャーノン・ロックハートだった。
「ミスター・ロックハート、あの「アン・ノウン」たちについてお話しいただけませんか?」
「お答え出来ません。ただ、今回のことは、私たちの大事な人間がアメリカ政府機関と軍部の一部により拉致、殺害され、そのことを私たちの友人が怒り、行なったことです。皆様の中には、友人の情報を持っている方もいらっしゃると思います。絶対に敵対してはならない人間と敵対してしまいました」
「一人の人間を殺されたから、こんな大規模な攻撃を!」
陸軍参謀総長が叫んだ。
「殺害された人間は、友人たちにとっても大切な人間でした。あなたは国防の立場から考えていらっしゃる。しかし、友人たちはそうではない。アメリカと敵対しようとも、関係ない。それは「人間」としての立場と考えます」
アルジャーノン・ロックハートは、静かに告げた。
「待ちたまえ、諸君。今は事の善悪を論じている場合ではない。現実に、アメリカは攻撃され、彼らに対抗する術を持たない。このまま全土を消失してもおかしくはない状況に追い込まれている。ミスター・ロックハートは、それを防ぐ手段を知っている。さあ、ここで我々に教えてもらえないか」
大統領が言った。
他の政府・軍部のトップたちも沈黙した。
「最も重要なことは、友人たちへ二度と敵対しないこと。攻撃はもちろん、調査なども絶対にしてはいけません。そして今回彼らが求める要求は、全面的に承諾すること」
「その要求とは?」
国務長官が聞いた。
「分かりません。しかし、アメリカの支配者になると言っても受け入れることです」
「それは!」
「では、このまま全土が灰になるだけです。友人たちの実力は既に見ての通りです。彼らには実行可能なのです」
「それでも……」
「ご安心ください、国務長官殿。友人はそのような要求はしないはずです。復讐は終わった、と私は考えています。しかし、けじめに関しては非常に厳しい人間です。しかるべき要求はあるかと」
「ミスター・ロックハート、具体的にはどのような要求になると考えているのですか?」
「先ほども申し上げた通り、分かりません。しかし曖昧ではありますが、アラスカの割譲などはあり得る話かと」
「そんなことを吞まなければならないのか」
国務長官が嘆息した。
「はい。恐らく表向きはアラスカ全土の土地の売却になるかと。我々は決してそれを邪魔だてせずに、むしろ協力しながら友好的に明け渡すことです。そうすれば、アメリカが敵対勢力に敗北したことは表には出ません」
「分かった。我々は敗戦国だ。受け入れるしかないだろう」
大統領が宣言した。
「それから、今回はNSAと陸軍の一部が引き起こしたことです」
アルジャーノン・ロックハートは全員の顔を見回して言った。
「「ヴァーミリオン」特殊実験部隊。そこが友人と敵対し、私たちと友人の大切な人間を拉致殺害した。既に現地での人間たちは報復されていますが、まだ関りのあった人間が残っている」
「その人間たちを差し出せと!」
「いえ、我々で粛清するのです。さもなければ、友人の怒りがまた再燃することもあるかと」
「承諾した。必ず実行しよう」
大統領がまた宣言した。
「大統領閣下、一つ重大なお話をします」
「何かね、ミスター・ロックハート」
「友人は、ある男、組織と敵対しています」
「それは?」
「「KARUMA HANAOKA」。恐らく今後、世界規模で脅威となる存在です」
「誰か知っているか?」
大統領が室内の人間たちに問う。
海兵隊総司令官が挙手した。
「一部ではありますが、海上で巨大な生物兵器を使った記録があります。その一部はハワイでの海軍基地にも戦闘記録と共に保存されております。海兵隊も同様です。そして限定的な規模ですが、今回「アン・ノウン」たちが使った技に似たものの記録もあります。海兵隊の一部では「アン・ノウン」たちを信奉する者もおります」
「大統領! 友人たちへの詮索は!」
アルジャーノン・ロックハートが言った。
「分かっています。海兵隊総司令官、我々はその記録を見ることは出来るか?」
「はい、一部ではありますが」
「君は国防を担う人間だろう!」
国防長官が叫んだ。
「はい。それで我々はアメリカから離れる決意をいたしました」
「バカなことを!」
「自国民を秘密裏に攫い、さらには非人道的なことをした上で殺す。そんな国に誓う忠誠は持ち合わせません」
「黙れ! 自分の立場を考えたまえ!」
「非常に可憐な女性だったと聞いています。美しく、優しく、知性があり、明るい。我々が誇るべきアメリカの女性でした。何の罪もないその女性が非道な殺され方をした。それをやったのは、アメリカの中枢だ!」
海兵隊総司令官は叫んだ。
「我々は、「アン・ノウン」たちに降ります。もちろん、希望を募ってです。しかし、ほとんどの者が希望するでしょう」
激高する国防長官を、大統領が制した。
「「アン・ノウン」たちは、これから強大な世界の敵と戦います。我々は、その戦いに身を投じたく考えております」
「それは結果的にアメリカの国益にもなるのかね?」
「はい、大統領閣下! 私はそう信じます」
「分かった。ところで、ロックハート財閥もアメリカを離れるおつもりか?」
大統領がアルジャーノン・ロックハートへ言った。
「いいえ。私たちはアメリカの国民です。これまで通りの活動をいたします。それが友人の望みでもあります。ただし、もちろんのこと、友人は友人です。私たちは友人との友情を今後も育んで参ります」
「分かりました。それもまた、アメリカの国益となるでしょう。それでは諸君! 戦後処理を始めよう!」
大半の者が部屋を去り、大統領を中心にまた話し合いが始まった。
相手が主権国家ではないため、多くの実務上の問題もあったが、実質的に敗退したアメリカ国家は超法規的措置を適用せざるを得なかった。
同席を続けたアルジャーノン・ロックハートの「助言」を受け入れつつ、アメリカ国家は戦後処理を進めた。
四名の「アン・ノウン」襲撃者への攻撃が中断され、その後「アン・ノウン」からの攻撃も止まった。
「人道的処置」として、破壊され尽くした戦地に、ロックハート家から水と食糧、そして薬品の提供がなされた。
200キロ離れた場所で待機していた陸軍の検閲を受け、それらは「アン・ノウン」たちに運ばれた。
三人の「アン・ノウン」がそれらを食べ始め、1時間後には50キロあった肉が全て無くなっていた。
「アン・ノウン」たちは現在まで沈黙している。
この間に、陸軍が師団規模で集結し、空軍の態勢も整えて行った。
核ミサイルの準備も、複数個所で整っている。
しかし、それらが無効であることは分かっていた。
それとは別に、各地の州軍を中心に救援活動が開始された。
「アン・ノウン」たちに、敵対の意志が無いことを告げながら、西海岸の膨大な人間の輸送、救護にあたった。
西海岸の半分を覆った電光は、都市の機能を壊滅させたが、人的被害はほとんどなかった。
それでも数千人の規模で死傷者が出ていた。
しかし、「アン・ノウン」の攻撃が地表近くで展開された場合、都市ごと消滅しただろうことは明らかだった。
軍事基地の消失では、包囲した陸軍や出撃した空軍の兵士たちを含め、数万を超える死者が出ている。
その後の戦闘機や戦闘ヘリによる攻撃への反攻で、また多くの死者が出た。
今、ホワイトハウスでは政治と軍部のトップたちが招集され、未曽有の国難の対処の討議が開始された。
大統領・副大統領とその補佐官たち、国務長官、国防長官、内務長官などの政務のトップたち、それに統合参謀本部議長と、陸海空軍の参謀総長に海兵隊他の総司令官たちとCAI長官などの独立国務機関の長官たち、さらに、多くのオブザーバーが室内にいる。
そして民間からアルジャーノン・ロックハートと軍産複合体の民間代表者たち。
主な発言と討議は、大統領府の人間と軍部のトップ、CIA長官とNSA長官、そしてアルジャーノン・ロックハートだった。
「ミスター・ロックハート、あの「アン・ノウン」たちについてお話しいただけませんか?」
「お答え出来ません。ただ、今回のことは、私たちの大事な人間がアメリカ政府機関と軍部の一部により拉致、殺害され、そのことを私たちの友人が怒り、行なったことです。皆様の中には、友人の情報を持っている方もいらっしゃると思います。絶対に敵対してはならない人間と敵対してしまいました」
「一人の人間を殺されたから、こんな大規模な攻撃を!」
陸軍参謀総長が叫んだ。
「殺害された人間は、友人たちにとっても大切な人間でした。あなたは国防の立場から考えていらっしゃる。しかし、友人たちはそうではない。アメリカと敵対しようとも、関係ない。それは「人間」としての立場と考えます」
アルジャーノン・ロックハートは、静かに告げた。
「待ちたまえ、諸君。今は事の善悪を論じている場合ではない。現実に、アメリカは攻撃され、彼らに対抗する術を持たない。このまま全土を消失してもおかしくはない状況に追い込まれている。ミスター・ロックハートは、それを防ぐ手段を知っている。さあ、ここで我々に教えてもらえないか」
大統領が言った。
他の政府・軍部のトップたちも沈黙した。
「最も重要なことは、友人たちへ二度と敵対しないこと。攻撃はもちろん、調査なども絶対にしてはいけません。そして今回彼らが求める要求は、全面的に承諾すること」
「その要求とは?」
国務長官が聞いた。
「分かりません。しかし、アメリカの支配者になると言っても受け入れることです」
「それは!」
「では、このまま全土が灰になるだけです。友人たちの実力は既に見ての通りです。彼らには実行可能なのです」
「それでも……」
「ご安心ください、国務長官殿。友人はそのような要求はしないはずです。復讐は終わった、と私は考えています。しかし、けじめに関しては非常に厳しい人間です。しかるべき要求はあるかと」
「ミスター・ロックハート、具体的にはどのような要求になると考えているのですか?」
「先ほども申し上げた通り、分かりません。しかし曖昧ではありますが、アラスカの割譲などはあり得る話かと」
「そんなことを吞まなければならないのか」
国務長官が嘆息した。
「はい。恐らく表向きはアラスカ全土の土地の売却になるかと。我々は決してそれを邪魔だてせずに、むしろ協力しながら友好的に明け渡すことです。そうすれば、アメリカが敵対勢力に敗北したことは表には出ません」
「分かった。我々は敗戦国だ。受け入れるしかないだろう」
大統領が宣言した。
「それから、今回はNSAと陸軍の一部が引き起こしたことです」
アルジャーノン・ロックハートは全員の顔を見回して言った。
「「ヴァーミリオン」特殊実験部隊。そこが友人と敵対し、私たちと友人の大切な人間を拉致殺害した。既に現地での人間たちは報復されていますが、まだ関りのあった人間が残っている」
「その人間たちを差し出せと!」
「いえ、我々で粛清するのです。さもなければ、友人の怒りがまた再燃することもあるかと」
「承諾した。必ず実行しよう」
大統領がまた宣言した。
「大統領閣下、一つ重大なお話をします」
「何かね、ミスター・ロックハート」
「友人は、ある男、組織と敵対しています」
「それは?」
「「KARUMA HANAOKA」。恐らく今後、世界規模で脅威となる存在です」
「誰か知っているか?」
大統領が室内の人間たちに問う。
海兵隊総司令官が挙手した。
「一部ではありますが、海上で巨大な生物兵器を使った記録があります。その一部はハワイでの海軍基地にも戦闘記録と共に保存されております。海兵隊も同様です。そして限定的な規模ですが、今回「アン・ノウン」たちが使った技に似たものの記録もあります。海兵隊の一部では「アン・ノウン」たちを信奉する者もおります」
「大統領! 友人たちへの詮索は!」
アルジャーノン・ロックハートが言った。
「分かっています。海兵隊総司令官、我々はその記録を見ることは出来るか?」
「はい、一部ではありますが」
「君は国防を担う人間だろう!」
国防長官が叫んだ。
「はい。それで我々はアメリカから離れる決意をいたしました」
「バカなことを!」
「自国民を秘密裏に攫い、さらには非人道的なことをした上で殺す。そんな国に誓う忠誠は持ち合わせません」
「黙れ! 自分の立場を考えたまえ!」
「非常に可憐な女性だったと聞いています。美しく、優しく、知性があり、明るい。我々が誇るべきアメリカの女性でした。何の罪もないその女性が非道な殺され方をした。それをやったのは、アメリカの中枢だ!」
海兵隊総司令官は叫んだ。
「我々は、「アン・ノウン」たちに降ります。もちろん、希望を募ってです。しかし、ほとんどの者が希望するでしょう」
激高する国防長官を、大統領が制した。
「「アン・ノウン」たちは、これから強大な世界の敵と戦います。我々は、その戦いに身を投じたく考えております」
「それは結果的にアメリカの国益にもなるのかね?」
「はい、大統領閣下! 私はそう信じます」
「分かった。ところで、ロックハート財閥もアメリカを離れるおつもりか?」
大統領がアルジャーノン・ロックハートへ言った。
「いいえ。私たちはアメリカの国民です。これまで通りの活動をいたします。それが友人の望みでもあります。ただし、もちろんのこと、友人は友人です。私たちは友人との友情を今後も育んで参ります」
「分かりました。それもまた、アメリカの国益となるでしょう。それでは諸君! 戦後処理を始めよう!」
大半の者が部屋を去り、大統領を中心にまた話し合いが始まった。
相手が主権国家ではないため、多くの実務上の問題もあったが、実質的に敗退したアメリカ国家は超法規的措置を適用せざるを得なかった。
同席を続けたアルジャーノン・ロックハートの「助言」を受け入れつつ、アメリカ国家は戦後処理を進めた。
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