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終戦

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 「タカさん……」

 亜紀ちゃんがまた俺を呼んだ。
 座っている俺を、背中から抱き締めて来る。
 何度か、それを繰り返している。
 俺の名を呼び、俺を抱き締めた。
 それだけを繰り返した。

 二つの軍事基地を消滅させ、大規模な米本土の破壊を行なった俺は、亜紀ちゃんの必死の制止によって、ようやく止まった。
 しばらく続いた米軍機の攻撃も、ミサイル攻撃も、亜紀ちゃんと双子が全て撃破した。
 その間、双子は核ミサイルの警戒を続けていた。
 しかし、そこまでの攻撃はなく、やがて米軍も沈黙した。

 亜紀ちゃんと双子から、また麗星の丸薬を飲まされた。
 それは、俺の心の嵐を鎮め、俺に冷静な心を取り戻させた。
 俺は静かに泣くことしか出来なくなった。




 夜になった。
 亜紀ちゃんは俺を抱き締め、ルーとハーが警戒を続けた。
 三人とも、誰も帰ろうとは言わなかった。
 ただ、俺の涙に付き合ってくれた。
 



 俺たちに近づくヘリがあった。
 CH53Dシースタリオンだ。
 双子が構えたが、攻撃はしなかった。
 波動で分かったのだろう。
 シースタリオンは俺たちの200メートル先に着陸し、一人の男が近づいて来た。


 「タイガー!」

 俺は振り向いた。
 ターナー少将だった。
 大きな包みを持っていた。

 「ここまでとはな。恐れ入った」
 「悪いな、やっちまった」

 俺は、そう返す余裕があった。
 それは悲しいことだった。

 「アメリカは完全降伏だ。これ以上は勘弁してくれるか?」
 「これからホワイトハウスへ行く。それからアメリカ軍の全基地を破壊する」
 「そうか。じゃあ、まずは飯を喰ってくれ。腹が減っては大変だろう」

 大きな包みは、ハンバーガーだった。
 40個ほど入っている。

 「グアムで俺たちは出会った。あの日から俺はお前に惚れ込んでいる。そして俺とお前はこれを喰いながら再会した。あの日から、俺はお前と一緒の戦場で戦いたいと思っていた」
 「そうか」
 「タイガー。俺たちマリーンはお前と一緒に行く。先ほど、上の人間がホワイトハウスで絶交状を叩きつけて来た」
 「アメリカを捨てるのか」
 「そうだ。レイのことは知っている。あんなに善良な女をアメリカは食い物にした。絶対に許せん」
 「レイを?」

 「ああ。ロックハートの家で何度も会っている。そして昨年の海上輸送を直接頼みに来たのがレイだった」
 「そうだったのか」
 「自分が最も愛する人間の大切な荷物なんだと。自分も命懸けで守るから、手伝って欲しいのだと言っていた」
 「そうか」
 「レイは本当に命懸けで守ったな。本当にいい女だった。最高の女だった」




 「そうだぁー!」

 俺は叫んだ。

 「レイをよくもぉー! 俺は絶対に許さん!」
 「タカさん」

 亜紀ちゃんがまた俺を抱き締めた。

 「タイガー。お前がアメリカを滅ぼすと言うのなら、俺たちも手伝おう。俺も絶対に許さん」
 「ターナー少将……」
 「そこの三人のお嬢さんたちも同じだろう。レイと共に海上で戦ったのも、その三人なんだろう?」

 亜紀ちゃんと双子が俺を見ていた。
 まだ一緒にやるという目だった。




 「攻撃が止んだな」
 「ああ、全面降伏だ。お前はアメリカを好きなように出来る」
 「分かったよ。アメリカにはまだ、レイのような奴がいるかもしれん。ロックハートの家もあるし、聖もいるしな」
 「そうか」
 「あんたやジェイたちの家族も。ああ、ニューヨークでは知り合いもいるな。ジャンニーニたちやエイミーもな」
 「そうか」
 「アラモでは俺をバカみたいに歓迎してくれた連中がいる。いい奴らだった。他にも、結構な人数がいるな」
 「そうか」

 俺は子どもたちにハンバーガーを喰えと言った。
 俺も一緒に食べる。

 「ヘリの中に、あと二袋ある。ああ、飲み物も」

 亜紀ちゃんが取りに行った。

 「ホワイトハウスはどんな様子だ?」
 「アルが行ってる。タイガーへの攻撃を止めるように進言したのもアルだ」
 「そうか」
 「タイガーの要求をすべて飲むように言っている」
 「何も無いよ。俺たちは喪っただけだ」
 「アルは、アラスカの割譲を提案しているはずだ」
 「アラスカ?」

 「そこの二人のお嬢さんが、いつかアラスカを手に入れて、原住民を解放すると言っていたのだと聞いている」
 「「あ!」」

 双子が叫んだ。
 以前に別荘で俺と聖のアラスカの話をした時に、確かにそんなことを言っていた。

 「娘のキョウコが話していたと聞いた。お前たちならばやるかもしれないと」
 「そうか。ここは響子とレイの祖国だよな」
 「それと、最も重要なことだが、タイガーたちの生活を守ることだ。この攻撃は他国が知ることになるだろうが、我々はタイガーたちのことは何とか隠すようにする」
 「そうか、ありがとうな」
 「「カルマ」のことも話している。恐らく、対外的にはこの攻撃が「カルマ」の軍勢だというように発表されるだろう」
 「そうか、ざまぁかんかんだな」
 
 ルーとハーが俺にハンバーガーを寄越した。
 俺は受け取り、頭を撫でてお前らも喰えと言った。


 詳しい話はまた後日とし、俺たちはニューヨークのロックハート家に戻った。
 庭に下り立った俺たちを、静江さんが迎えた。
 俺たちは土下座をし、詫びた。




 
 「レイは最高の恋をしました」





 静江さんのその言葉に、俺たちはまた泣いた。 
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