909 / 2,808
終戦
しおりを挟む
「タカさん……」
亜紀ちゃんがまた俺を呼んだ。
座っている俺を、背中から抱き締めて来る。
何度か、それを繰り返している。
俺の名を呼び、俺を抱き締めた。
それだけを繰り返した。
二つの軍事基地を消滅させ、大規模な米本土の破壊を行なった俺は、亜紀ちゃんの必死の制止によって、ようやく止まった。
しばらく続いた米軍機の攻撃も、ミサイル攻撃も、亜紀ちゃんと双子が全て撃破した。
その間、双子は核ミサイルの警戒を続けていた。
しかし、そこまでの攻撃はなく、やがて米軍も沈黙した。
亜紀ちゃんと双子から、また麗星の丸薬を飲まされた。
それは、俺の心の嵐を鎮め、俺に冷静な心を取り戻させた。
俺は静かに泣くことしか出来なくなった。
夜になった。
亜紀ちゃんは俺を抱き締め、ルーとハーが警戒を続けた。
三人とも、誰も帰ろうとは言わなかった。
ただ、俺の涙に付き合ってくれた。
俺たちに近づくヘリがあった。
CH53Dシースタリオンだ。
双子が構えたが、攻撃はしなかった。
波動で分かったのだろう。
シースタリオンは俺たちの200メートル先に着陸し、一人の男が近づいて来た。
「タイガー!」
俺は振り向いた。
ターナー少将だった。
大きな包みを持っていた。
「ここまでとはな。恐れ入った」
「悪いな、やっちまった」
俺は、そう返す余裕があった。
それは悲しいことだった。
「アメリカは完全降伏だ。これ以上は勘弁してくれるか?」
「これからホワイトハウスへ行く。それからアメリカ軍の全基地を破壊する」
「そうか。じゃあ、まずは飯を喰ってくれ。腹が減っては大変だろう」
大きな包みは、ハンバーガーだった。
40個ほど入っている。
「グアムで俺たちは出会った。あの日から俺はお前に惚れ込んでいる。そして俺とお前はこれを喰いながら再会した。あの日から、俺はお前と一緒の戦場で戦いたいと思っていた」
「そうか」
「タイガー。俺たちマリーンはお前と一緒に行く。先ほど、上の人間がホワイトハウスで絶交状を叩きつけて来た」
「アメリカを捨てるのか」
「そうだ。レイのことは知っている。あんなに善良な女をアメリカは食い物にした。絶対に許せん」
「レイを?」
「ああ。ロックハートの家で何度も会っている。そして昨年の海上輸送を直接頼みに来たのがレイだった」
「そうだったのか」
「自分が最も愛する人間の大切な荷物なんだと。自分も命懸けで守るから、手伝って欲しいのだと言っていた」
「そうか」
「レイは本当に命懸けで守ったな。本当にいい女だった。最高の女だった」
「そうだぁー!」
俺は叫んだ。
「レイをよくもぉー! 俺は絶対に許さん!」
「タカさん」
亜紀ちゃんがまた俺を抱き締めた。
「タイガー。お前がアメリカを滅ぼすと言うのなら、俺たちも手伝おう。俺も絶対に許さん」
「ターナー少将……」
「そこの三人のお嬢さんたちも同じだろう。レイと共に海上で戦ったのも、その三人なんだろう?」
亜紀ちゃんと双子が俺を見ていた。
まだ一緒にやるという目だった。
「攻撃が止んだな」
「ああ、全面降伏だ。お前はアメリカを好きなように出来る」
「分かったよ。アメリカにはまだ、レイのような奴がいるかもしれん。ロックハートの家もあるし、聖もいるしな」
「そうか」
「あんたやジェイたちの家族も。ああ、ニューヨークでは知り合いもいるな。ジャンニーニたちやエイミーもな」
「そうか」
「アラモでは俺をバカみたいに歓迎してくれた連中がいる。いい奴らだった。他にも、結構な人数がいるな」
「そうか」
俺は子どもたちにハンバーガーを喰えと言った。
俺も一緒に食べる。
「ヘリの中に、あと二袋ある。ああ、飲み物も」
亜紀ちゃんが取りに行った。
「ホワイトハウスはどんな様子だ?」
「アルが行ってる。タイガーへの攻撃を止めるように進言したのもアルだ」
「そうか」
「タイガーの要求をすべて飲むように言っている」
「何も無いよ。俺たちは喪っただけだ」
「アルは、アラスカの割譲を提案しているはずだ」
「アラスカ?」
「そこの二人のお嬢さんが、いつかアラスカを手に入れて、原住民を解放すると言っていたのだと聞いている」
「「あ!」」
双子が叫んだ。
以前に別荘で俺と聖のアラスカの話をした時に、確かにそんなことを言っていた。
「娘のキョウコが話していたと聞いた。お前たちならばやるかもしれないと」
「そうか。ここは響子とレイの祖国だよな」
「それと、最も重要なことだが、タイガーたちの生活を守ることだ。この攻撃は他国が知ることになるだろうが、我々はタイガーたちのことは何とか隠すようにする」
「そうか、ありがとうな」
「「カルマ」のことも話している。恐らく、対外的にはこの攻撃が「カルマ」の軍勢だというように発表されるだろう」
「そうか、ざまぁかんかんだな」
ルーとハーが俺にハンバーガーを寄越した。
俺は受け取り、頭を撫でてお前らも喰えと言った。
詳しい話はまた後日とし、俺たちはニューヨークのロックハート家に戻った。
庭に下り立った俺たちを、静江さんが迎えた。
俺たちは土下座をし、詫びた。
「レイは最高の恋をしました」
静江さんのその言葉に、俺たちはまた泣いた。
亜紀ちゃんがまた俺を呼んだ。
座っている俺を、背中から抱き締めて来る。
何度か、それを繰り返している。
俺の名を呼び、俺を抱き締めた。
それだけを繰り返した。
二つの軍事基地を消滅させ、大規模な米本土の破壊を行なった俺は、亜紀ちゃんの必死の制止によって、ようやく止まった。
しばらく続いた米軍機の攻撃も、ミサイル攻撃も、亜紀ちゃんと双子が全て撃破した。
その間、双子は核ミサイルの警戒を続けていた。
しかし、そこまでの攻撃はなく、やがて米軍も沈黙した。
亜紀ちゃんと双子から、また麗星の丸薬を飲まされた。
それは、俺の心の嵐を鎮め、俺に冷静な心を取り戻させた。
俺は静かに泣くことしか出来なくなった。
夜になった。
亜紀ちゃんは俺を抱き締め、ルーとハーが警戒を続けた。
三人とも、誰も帰ろうとは言わなかった。
ただ、俺の涙に付き合ってくれた。
俺たちに近づくヘリがあった。
CH53Dシースタリオンだ。
双子が構えたが、攻撃はしなかった。
波動で分かったのだろう。
シースタリオンは俺たちの200メートル先に着陸し、一人の男が近づいて来た。
「タイガー!」
俺は振り向いた。
ターナー少将だった。
大きな包みを持っていた。
「ここまでとはな。恐れ入った」
「悪いな、やっちまった」
俺は、そう返す余裕があった。
それは悲しいことだった。
「アメリカは完全降伏だ。これ以上は勘弁してくれるか?」
「これからホワイトハウスへ行く。それからアメリカ軍の全基地を破壊する」
「そうか。じゃあ、まずは飯を喰ってくれ。腹が減っては大変だろう」
大きな包みは、ハンバーガーだった。
40個ほど入っている。
「グアムで俺たちは出会った。あの日から俺はお前に惚れ込んでいる。そして俺とお前はこれを喰いながら再会した。あの日から、俺はお前と一緒の戦場で戦いたいと思っていた」
「そうか」
「タイガー。俺たちマリーンはお前と一緒に行く。先ほど、上の人間がホワイトハウスで絶交状を叩きつけて来た」
「アメリカを捨てるのか」
「そうだ。レイのことは知っている。あんなに善良な女をアメリカは食い物にした。絶対に許せん」
「レイを?」
「ああ。ロックハートの家で何度も会っている。そして昨年の海上輸送を直接頼みに来たのがレイだった」
「そうだったのか」
「自分が最も愛する人間の大切な荷物なんだと。自分も命懸けで守るから、手伝って欲しいのだと言っていた」
「そうか」
「レイは本当に命懸けで守ったな。本当にいい女だった。最高の女だった」
「そうだぁー!」
俺は叫んだ。
「レイをよくもぉー! 俺は絶対に許さん!」
「タカさん」
亜紀ちゃんがまた俺を抱き締めた。
「タイガー。お前がアメリカを滅ぼすと言うのなら、俺たちも手伝おう。俺も絶対に許さん」
「ターナー少将……」
「そこの三人のお嬢さんたちも同じだろう。レイと共に海上で戦ったのも、その三人なんだろう?」
亜紀ちゃんと双子が俺を見ていた。
まだ一緒にやるという目だった。
「攻撃が止んだな」
「ああ、全面降伏だ。お前はアメリカを好きなように出来る」
「分かったよ。アメリカにはまだ、レイのような奴がいるかもしれん。ロックハートの家もあるし、聖もいるしな」
「そうか」
「あんたやジェイたちの家族も。ああ、ニューヨークでは知り合いもいるな。ジャンニーニたちやエイミーもな」
「そうか」
「アラモでは俺をバカみたいに歓迎してくれた連中がいる。いい奴らだった。他にも、結構な人数がいるな」
「そうか」
俺は子どもたちにハンバーガーを喰えと言った。
俺も一緒に食べる。
「ヘリの中に、あと二袋ある。ああ、飲み物も」
亜紀ちゃんが取りに行った。
「ホワイトハウスはどんな様子だ?」
「アルが行ってる。タイガーへの攻撃を止めるように進言したのもアルだ」
「そうか」
「タイガーの要求をすべて飲むように言っている」
「何も無いよ。俺たちは喪っただけだ」
「アルは、アラスカの割譲を提案しているはずだ」
「アラスカ?」
「そこの二人のお嬢さんが、いつかアラスカを手に入れて、原住民を解放すると言っていたのだと聞いている」
「「あ!」」
双子が叫んだ。
以前に別荘で俺と聖のアラスカの話をした時に、確かにそんなことを言っていた。
「娘のキョウコが話していたと聞いた。お前たちならばやるかもしれないと」
「そうか。ここは響子とレイの祖国だよな」
「それと、最も重要なことだが、タイガーたちの生活を守ることだ。この攻撃は他国が知ることになるだろうが、我々はタイガーたちのことは何とか隠すようにする」
「そうか、ありがとうな」
「「カルマ」のことも話している。恐らく、対外的にはこの攻撃が「カルマ」の軍勢だというように発表されるだろう」
「そうか、ざまぁかんかんだな」
ルーとハーが俺にハンバーガーを寄越した。
俺は受け取り、頭を撫でてお前らも喰えと言った。
詳しい話はまた後日とし、俺たちはニューヨークのロックハート家に戻った。
庭に下り立った俺たちを、静江さんが迎えた。
俺たちは土下座をし、詫びた。
「レイは最高の恋をしました」
静江さんのその言葉に、俺たちはまた泣いた。
2
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、
ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、
私のおにいちゃんは↓
泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。
ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」
俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。
何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。
わかることと言えばただひとつ。
それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。
毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。
そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。
これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン歯科医の日常
moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。
親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。
イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。
しかし彼には裏の顔が…
歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。
※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる