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アメリカの降伏

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 D基地には囲いも無かった。
 俺たちは上空から敷地内へ降りる。
 
 途端に警報が鳴り響いた。

 幾つかの建物から、武装した兵士が飛び出して来る。
 亜紀ちゃんが「轟雷」を撃つと警報は止み、兵士たちも倒れ伏した。
 ルーが建物の扉を壁ごと吹っ飛ばす。
 俺たちは走って内部へ入った。

 「タカさん! 地下だよ!」

 ルーが叫んだ。
 前方のエレベーターが開く。
 8体の「ヴァーミリオン」が飛び出して来た。

 「「コキュートス」!」
 ルーが前方に撃ち込む。
 分子運動を止め、極低温を生み出す技だ。
 対「ヴァーミリオン」のために編み出した。
 「ヴァーミリオン」の動きが格段に鈍る。

 「「八葉」!」

 ハーが自分の周囲に八つの渦を生み出した。
 麗星の地下闘技場で撃とうとした技だ。
 紫の光が放たれ、8体の「ヴァーミリオン」に撃ち込まれた。
 瞬時に四散した。

 俺たちはエレベーターの扉ごと破壊し、口を開けたエレベーター穴に飛び込んだ。
 俺が上に向けて「虚震花」を撃ち、上方の建物を粉砕する。

 体感では、100メートルほど下った。

 「震花」で前方を破壊し、地下施設に入った。

 「レイの気配は!」
 「あっちだと思う。でもタカさん! レイの気配が薄いんだよ!」
 「どういうことだ?」
 「分からない! でも、眠ってるのとかとは違うからね!」

 分からないが、生きているのならばそれでいい。
 俺たちは全員が万一のために「Ω」の粉末と「オロチ」の皮を持っている。

 「止まれ!」

 突然、廊下のスピーカーから声が聞こえた。

 「イシガミだな!」
 「女を取り戻しに来た。すぐに解放しろ」
 「分かってる! 連れて行け!」
 「お前はこの基地内にいるのか?」
 「そうだ」

 スピーカーの男は、レイの部屋の位置を告げた。

 俺たちは長い廊下を進み、開いていた部屋へ入った。
 レイがベッドに座っていた。
 拳銃を持っていた。
 M29・44マグナム拳銃だ。

 「レイ!」

 レイが俺を見た。
 焦点を喪ったかのような、虚ろな瞳だった。
 駆け寄ろうとする子どもたちを手で制した。
 おかしい。

 「い、い、いし……が……み、さ…ん」
 「レイ! 何をされた!」
 「に……げ……て」
 「レイ!」

 俺は叫んでレイに近寄った。
 レイが俺に銃口を向け、撃った。
 俺の胸に銃弾が吸い込まれる。
 俺の胸の肉が弾けた。

 同時にレイは「虚震花」を放った。
 俺たちは「暗月花」で防ぐ。

 「レイ! しっかりしろ!」
 「だ……め……」

 レイは涙を零していた。
 全力で何かに逆らおうとしている。
 再び俺に銃口を向けた。

 「あ、い……して……まし……た」
 「レイ! 俺を撃て!」
 
 トリガーにかけたレイの指が吹き飛んだ。

 「お前ら! 薬を飲め!」

 俺は叫んだ。
 説明している暇はない。
 この後のことが、俺には痛い程分かっていた。
 後ろで子どもたちが動くのを感じる。

 「急げ! そして部屋から出ろ!」

 誰も動かない。
 レイが銃を落とした。
 右手の指から激しく血が滴っている。

 「部屋から出ろ!」
 「だってタカさん!」

 亜紀ちゃんが叫ぶ。

 「双子を連れて出ろ!」
 「レイはぁ!」
 「見るな! 魂が壊れる!」

 亜紀ちゃんが二人を抱えて出て行くのを感じた。
 
 「レイ!」
 
 レイはもう喋れないようだった。
 ただ俺を見て、微笑んでいた。
 僅かに口を動かした。














 レイの身体が爆発し、四散した。













 「ウォォォォォォーーーーーー!!!!」

 俺は絶叫した。

 「お前らぁ! よくもレイを!」

 俺の身体の周囲に、真っ赤な火柱が生じた。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「亜紀ちゃん!」
 「ダメ! 今はとにかく急いで上に!」
 
 亜紀は迷わず上に「ブリューナク」を最大出力で放った。
 一瞬で地上へ抜ける大穴が開く。
 双子を抱えて飛び上がった。

 「タカさんは!」
 「怒ってる! 私たちが知らないような怒り方!」
 「どうなるの?」
 「分からない! でも、この一帯はもうダメ。私たちも遠くへ離れておかないと」
 「タカさんを止めようよ!」
 「無理よ! だって!」
 「だって、なに!」
 
 「レイを喪ったのよ!」
 「「!!」」

 数秒で地上へ抜けた。
 上空には多くの戦闘機や戦闘ヘリ、そして周囲には戦車を含む地上部隊が集まっていた。
 襲撃を予測していたことが分かる。

 「バカな連中」

 亜紀は吐き捨てるように言った。
 亜紀は双子を抱えたまま、マッハ50で飛び去った。

 「タカさん……」

 亜紀は山脈の尾根に降り、基地の方角を見た。
 双子が亜紀の手を握りしめた。





 数秒後。
 地下から真っ赤な火柱が伸びて来た。

 次の瞬間、半径50キロが爆散し消失した。
 
 基地があった場所は深さ1キロも削られ、すり鉢状に巨大なクレーターのようなものが拡がっていた。

 


 クレーターの底で宙に浮いているものがあった。
 それは西方向へ飛び去った。




 「タカさんだよね!」
 ハーが叫んだ。

 「どこへ行ったの!」
 ルーも叫ぶ。

 「多分、エリア51。あそこも破壊するんだよ」

 「私たちも行こうよ!」
 「うん、そうだね」



 亜紀たちが到着して見たのは、数百キロに渡って抉られた地獄だった。
 その底に立つ石神を見つけた。

 「タカさん!」

 亜紀はピルケースから丸薬を取り出して、石神の口に入れた。

 「ダメだ、亜紀ちゃん」
 「タカさん!」
 「麗星も半端なものを寄越したもんだ。全然効かん」
 「タカさん!」

 石神は上空へ手を伸ばした。
 突如、上空に巨大な光の柱が産まれた。

 「ぐ、「グンニール」!」
 ルーが叫んだ。

 爆発的に拡がった光は、アメリカ西海岸の半分を覆った。
 巨大な電光が迸り、数千カ所で竜巻が生じた。
 幾つもの州を跨って拡がった光は、全ての電子機器を破壊し、多くの人間を昏倒させた。
 




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■  ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「おい! あいつらに逆らうな! アメリカが壊滅すっぞ!」

 聖が電話で叫んでいた。

 「あれでもまだ本気じゃない! 全土が消えちまうからな!」
 「わ、分かった。でも既に軍が動き出した」
 「バカヤロー! 本当に死にてぇのかぁ!」

 「すぐに止める! 大統領にも話す!」
 「急げぇ! あと何分もねぇぞ!」

 聖は電話を切り、部下たちを総動員し、あらゆる回線で軍を止めようと必死になった。

 「トラ、お前、また泣いてんだな」

 聖の呟きは、誰にも聞こえなかった。




 「大統領! すぐに攻撃を止めて下さい!」

 現ロックハート家当主のアルジャーノンが、ホワイトハウスに乗り込んでいた。

 「あの人が本気になれば、アメリカは数分で壊滅です!」
 「しかし、ミスター・ロックハート」

 大統領は困惑している。
 ロックハートの当主が急遽面会を求めて来たしばらく後に、突如アメリカ軍の基地が消滅した連絡が入った。
 そして、その数分後にもう一つの基地が破壊されたとの報が入った。

 ペンタゴンからの緊急連絡で、エアフォースワンへの搭乗が求められる。
 しかし、目の前のロックハートの当主は、具体的な情報を持っていた。

 「全面降伏です! いえ、もうこれ以上攻撃しなければ、恐らく彼も攻撃を止めます!」
 「それは信じられることなのか!」
 「はい!」

 こうしている間にも、スクランブル発進した戦闘機が次々に撃墜され、ミサイルもすべて破壊されているとの報告が届いている。
 核攻撃の許可を求められた。

 「核も無駄です! 撃墜され、アメリカのどこかが消失するだけです!」

 もはや、信じるしかなかった。
 NSAの高官から、軍の停止を求める連絡が来た。

 「分かった。全軍を止めよう。ミスター・ロックハートは、彼と交渉が出来るのかね?」
 「お任せ下さい!」




 アメリカは謎の勢力に敗退した。
 この日、世界中が、誰も想像すらしなかった強大な戦力を知った。
 しかし、それはまた、誰も正体を知ることもなかった。
 深く関わっていると目されたロックハート家も「セイントPMC」も、頑なに沈黙を守った。
 無理を通そうとすれば、また謎の勢力が黙ってはいないと言われた。




 未曽有の破壊と攻撃が、一人の男の涙なのだと知る者は少なかった。  
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